デジタルネイティブ世代向けのテレビCM「KINTO」「ほけんの窓口」を検索データから調査

デジタルネイティブ世代向けのテレビCM「KINTO」「ほけんの窓口」を検索データから調査

現代の若者は、幼少期からインターネットに慣れ親しんできたデジタルネイティブ世代と呼ばれ、テレビ離れが進んでいると言われています。テレビを持たないという選択が支持を得てきている中で、若年層をターゲットにしたテレビCMは効果が期待できないと言われますが、実際のところどうなのでしょうか。今回は、若者向けテレビCMを2つ取り上げ、ブランドサイトへの流入との相関関係を調査することで、若者向けのテレビCM施策の効果を紐解いていきます。


若者向けテレビCMを調査

デジタルネイティブ世代は2000年以降に成人を迎えた世代のことで、1980年から1995年の間に生まれた「ミレニアル世代」と1996年から2015年の間に生まれた「Z世代」に区分されます。若者といっても割と幅広い年代が属していることになります。

今回の調査では特に20代向けと思われるテレビCMを選び、新CM公開月とそれ以前との20代のブランドサイトユーザー数を比較することで、CMを見てサイトに至った20代がどれだけいるのかを推定し、CMの効果を測ります。

またサイト検索時に、CMに関するキーワードと掛け合わせて検索されているのかについても調べていきます。データについてはヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」を使って調査します。

調査対象CMは、
①車のサブスクリプションサービスを展開する「KINTO
②知識ゼロでもプロと相談しながら最適な保険に出会える「ほけんの窓口
の2つです。
では次章から、それぞれのCMについて詳しく見ていきましょう。

若手俳優陣のフリートークが魅力のKINTO

月々コミコミ定額でトヨタの新車に乗れるサブスクリプションサービスを展開する「KINTO」は、2020年4月から俳優の菅田将暉さん(27)、二階堂ふみさん(26)、矢本悠馬さん(30)が出演する新TVCM「買うよりお得、らしい。」シリーズの放映を開始しました。(※年齢は公開時点)

それではまず、KINTO公式サイトの20代ユーザー数の推移を、全体と比較しながら見てみましょう。矢印が公開月を指しています。

Dockpitより集計。対象期間:2019年11月~2020年4月、対象デバイス:PC&SP

上グラフは全体のユーザー数の推移を表しています。CMが公開された2020年4月にはむしろユーザーが減少しています。では20代に絞るとどうでしょう。

Dockpitより集計。対象期間:2019年11月~2020年4月、対象デバイス:PC&SP

20代のユーザーは4月になって急増しています。全体の利用者は減っていることから、ここで20代の割合がぐっと増えたことがわかります。4月というタイミングから、新年度の影響もあるのかもしれません。

次に直近1年間に「KINTO」と検索した人のワードネットワークを見てみると、「CM」「CM-菅田将暉」「CM-女優」といった検索が多くされていました。これは20代に絞った調査結果ではありませんが、ユーザー全体の傾向としてCMを見てブランド名を検索している人が一定数存在することがわかります。

Dockpitより集計。対象期間:2019年12月~2020年11月、対象デバイス:PC&SP

KINTOが20代を引きつけることに成功した要因とは何でしょうか。

このCMでは、ほぼ台本なしの状態で、3人が自由に会話やドライブを楽しむというスタイルで、「クルマってぶっちゃけどう?」「クルマは買うもの?借りるもの?」「若者はなんでクルマ離れするの?」「クルマ買うのってめんどくさい?」というテーマカードに沿って話が進められます。二階堂さんは車のヘビーユーザーである一方、矢本さんは免許未取得であり、それぞれの立場から意見していくのが特徴です。

「家を買うのか借りるのか、と同じように、車を所有するように借りるのがサブスクだ」と、会話の中でわかりやすくシステムの説明もされています。

「買うかKINTOか」を10回言えるか、という思いつきのゲームや、「買うの?買わないの?キントにするの?キントなの?」という即興の掛け合いなど、わいわいと談笑する中に、耳に残るフレーズが組み込まれています。

一方で、車購入時の手続きの煩わしさや若者特有の保険料の高さ、維持費などから「クルマの方が若者から離れているのでは?」という意見や、「忙しくて実物を見に行けず購入に至らない人もいるのかも」という見解も。

このように、ターゲット層である車離れの進む若者と年が近く親近感の湧きやすい3人が、若者が車に対して思うことを正直に代弁しているので、リアルであり共感の得やすい内容となっています。ドキュメンタリー的なゆるいテンポ感が従来のCMに比べて新鮮に感じられる点も、注意を引きやすいポイントになっていると思われます。若者がサブスクの仕組みについて理解を深めながら、新しい選択肢について考えるきっかけを与えるCMであり、3人の著名芸能人を起用していることも話題性を呼ぶ要因となっているようです。

作中の演出が光る「ほけんの窓口」

40社以上の保険会社の商品を扱う代理店である「ほけんの窓口」は、2019年1月からタレントの指原莉乃さんを起用した新CMの放映を開始しました。現時点では4つのCMが制作されており、2019年1月、3月、9月、2020年1月にそれぞれ放映開始しています。

では20代ユーザー数の推移を見ていきましょう。矢印が公開月を指しています。

Dockpitより集計。対象期間:2018年10月~2020年2月、対象デバイス:PC&SP

4つのCMのうち2019年3月と2020年1月に公開されたタイミングで、ユーザー数の伸びが見られます。

「ほけんの窓口」と検索した全ユーザーのワードネットワークは以下です。CMに出演されている指原さんをはじめ、後述の「猫」についても併せて検索されています。

Dockpitより集計。対象期間:2019年1月~2020年11月、対象デバイス:PC&SP

ほけんの窓口のCMは、「モヤモヤモンモンモヤモヤ~♪」という頭に残りやすいテーマソングをベースにした歌で構成されています。保険を決めないといけないのに掃除を始めてしまう、難しいことを考えると眠くなってくる、というような現実逃避系女子を指原さんが演じ、共感に繋がっているようです。20代・代表の指原さんが自宅でだらだらしている、というリアルなゆるさが若者の親近感を高めていると考えられます。

打ち合わせで「コアコンピタンス」という知らない横文字を前にして、こっそりスマホで検索する、という4つ目のCMを目にしたことがある方は多いのではないでしょうか。同じように保険について知らないことだらけでも、ほけんの窓口ならプロが1から教えてくれる、という安心感が強調されるエピソードでした。

20代は社会人になって間もなく、自分で保険を選んで加入しなければならないタイミングです。「それ、サクッと聞きに行った方が早くない?」というメッセージは、シンプルながらも現代の若者のニーズを捉えたものとなっているのではないでしょうか。

さらに特徴的なこととして、公式サイトの中で、CMの作中に登場する猫や小物の紹介を通して話題性作りに繋げようとしている点が挙げられます。

このように、難しいイメージをもたれがちな保険を、若い世代に少しでも取っつきやすいものとして受け取ってもらえるような工夫が伺えます。

耳に残るフレーズで共感を誘うCMは効果アリの可能性

テレビ離れが進むと言われるデジタルネイティブ世代。以前よりテレビCMを通してこの世代に訴求するのが困難になっている傾向は確かに存在すると思われますが、今回取り上げた2つのCMは親近感や共感を誘い、ターゲット層である若者にリーチするのに成功している事例でした。

その世代を代表するような著名な芸能人を起用することはもちろん、彼らの着飾らない姿が見える新鮮さやリアリティ、記憶に残りやすいフレーズやメロディ、小物による演出など、工夫次第でターゲットの関心を引くことができているとわかります。

好きなドラマや、好きな芸能人が出演するバラエティ番組をリアルタイムで見るためにテレビをつける人もいれば、「テレビを見る」という明確な目的はないけれど、何となく習慣で、または静寂を埋めるためにテレビをつけて聞き流している、という人もいるでしょう。後者の人々にとっては、耳につくフレーズやメロディは効果的であると考えられます。

一方で、調査のなかでは明確な効果が見られなかったCMも存在しました。その理由としては、宣伝文句を単純に列挙している(価格や商品の強みなど)、有名人を起用しているが出演者の年齢層が広すぎる、もしくは凝ったストーリー性や目を引くビジュアル、キャッチーなフレーズがあるものの、逆に何の商品をどの層に対して売り出そうとしているのか分かりづらい、といった点が考えられます。

また、同じストーリー軸で頻繁に新CMを出すことで、視聴者のリーチ率は上がるものの、逆にあまりに日常に溶け込んでしまい、新規性に欠けるケースもあると考えられます。「お、コレなんだろう」という好奇心を刺激し、「こういう選択肢もあるのか」という納得まで持ってくる一連の流れを作ることが成功要因と言えそうです。

デジタルネイティブの親の世代は「テレビっ子」と呼ばれていた世代にあたるので、そんな家庭で育った人々の中には、「テレビをつける」という行動自体が習慣化されている層も存在するでしょう。今回のCMのように、構成によってはデジタルネイティブの心を掴むことができているので、このような若者が現代も一定数いるということになります。従って、「デジタルネイティブ世代にはテレビCMは効果がない」とは言い切れない、むしろアプローチ次第でリーチは可能である、と結論づけられます。

親近感や共感性について触れてきましたが、SNSを主な情報収集源とするデジタルネイティブにとっては、共感できると同時に、自分でも手が届くようなリアリティのあるインフルエンサーの存在が購買活動にも大きく影響していると考えられます。そのため、これらのポイントをおさえた「KINTO」と「ほけんの窓口」CMは若者の認知獲得に寄与しているのではないでしょうか。

本調査が、皆様のお役に立ちますと幸いです。

【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2018年10月〜2020年11月の検索流入データ
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC&SP

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この記事のライター

大阪大学でポルトガル語とブラジル社会学を、カナダのビクトリア大学でビジネスを学び、2021年に新卒でヴァリューズに入社。データアナリストを経て、現在はマナミナのコンテンツマーケティングと自社の海外PRを担当しています。

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