セグメンテーション=市場の細分化とニーズごとのグループ化
マーケティングにおけるセグメンテーションとは、市場を特定の属性を持ったユーザーで細分化することを指します。その目的は、ユーザーのニーズが多様化している中で、それぞれのユーザーに対しての最適なマーケティングを行うこと、です。年齢や性別、居住地、出身地、そして趣味といった、特定の属性に市場を細分化、グループ化していきます。
高齢者向けスマホと10代向けスマホでは異なるコミュニケーションが必要なように、セグメンテーションすることで、より適切なマーケティング施策が可能になります。
■STP分析とは
STP分析などのフレームワークを使えば、集めるべき情報や市場や自社の客観的な立ち位置を漏れなく効率的に分析できます。
STP分析は3C分析などと並ぶマーケティングの基礎的なフレームワークで、Segmentation・Targeting・Positioning(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の頭文字を取ったもの。アメリカの経営学者でマーケティングの権威フィリップ・コトラーが提唱しました。
Segmentation(セグメンテーション)
市場の細分化やニーズごとのグループ化する代表的な要素として以下の4要素があります。
1.ジオグラフィック変数(地理的変数)
2.デモグラフィック変数(人口動態変数)
3.サイコグラフィック変数(心理的変数)
4.行動変数
各変数の詳細は次段落以降で詳しく解説します。
Targeting(ターゲティング)
セグメンテーションによって細分化した市場のなかで、どこを目標にするかを決めます。そのための指標として以下の「6R」が用いられます。
・市場規模(Realistic Scale)
絞り込んだ市場が小さすぎないか。利益を上げるのに十分な市場規模が必要です。
・市場の成長性(Rate of Growth)
今後成長するまだ小さな市場では、将来大きな利益を挙げられる可能性があります。
・顧客の優先順位と波及効果(Rank & Ripple Effect)
・到達可能性(Reach)
顧客に商品やサービスを届けられるか。東京の飲食店が大阪に対してマーケティングする効果は薄いでしょう。
・競合状況(Rival)
ライバルが既に大きなシェアを得ている場合、その市場は魅力的とは言えません。
・測定可能性(Response)
顧客に対する施策の効果が計測できるか。計測できれば施策を改善できます。
Positioning(ポジショニング)
対象となる市場において、自社が同業他社に対して優位になる地位=ポジションの確立を検討します。優位に立つには、価格や品質など他社に勝てる要素が必要です。
また、あらかじめ競争優位なポイントを把握した上で参入すれば、効率的なマーケティングが可能です。
セグメンテーションの基本的な分類例
上の段落で軽く紹介しましたが、セグメンテーションに際しては4つの基本的な分類例が存在します。「ジオグラフィック変数(地理的変数)」や「デモグラフィック変数(人口動態変数)」を用いてのセグメンテーションはB to Cマーケティングで用いられているものです。
しかし、消費者ニーズの多様化、インターネットの普及といった昨今の状況を鑑みると「サイコグラフィック変数(心理的変数)」や「行動変数」といった、ユーザー・顧客の個人的なニーズを重視した分類が重視される傾向があります。
■ジオグラフィック変数(地理的変数)
国、地域市町村、気候などで市場を分類します。売れ筋商品が地域や地理的要因によって異なるため、ジオグラフィック変数を考慮した商品選定によって、売れ残りのリスク低減といった効果を期待できます。
国が違えば売れ筋が異なる、ということは当たり前に聞こえるかもしれませんが、「日本」「中国」「台湾」各国単位で見るか、「東アジア」で画一にマーケティングするかで、売上は異なってきます。もし東アジア市場が小さければ、各国に支店を設けたりマーケティング施策を変えることが、非効率な場合もあるでしょう。
■デモグラフィック変数(人口動態変数)
年齢、性別、職業、所得、学歴、ライフステージ等の客観的な基準によって市場を分類するもので、セグメンテーションではもっとも利用される分類方法です。
たとえば、女性アパレルの場合、年代・ライフスタイル(働いている、専業主婦など)によって宣伝方法は大きく異なります。そのため、デモグラフィック変数によるセグメンテーションが必要になります。
M1層、F1層などマスマーケティングで使われる分類は、このデモグラフィック変数に相当します。
■サイコグラフィック変数(心理的変数)
ライフスタイルやパーソナリティ、志向や価値観など心理的な部分を中心にした分類です。顧客の心理にフォーカスしたセグメンテーションになるので、成功時の効果は高くなる傾向にあります。しかし、ターゲット数を把握しづらくなるため、ほかの変数と組み合わせた活用が一般的です。
■行動変数
商品に対する反応(購買状況、ベネフィット、ロイヤルテイ)などによる分類です。新規顧客とリピート顧客で商品の紹介方法を変えるといった施策に使えるほか、会員カードがあればそこから来店履歴や過去の購入履歴をデータ化し、セグメンテーションに活用できます。
たとえば、購入にいたらなかった顧客にDMを送ったり、得意客向けのセールを設定するなどの方法が考えられます。
■セグメンテーションの決め方の例
変数の紹介に続いて、セグメンテーションを行う例を紹介します。
まず、上記基準のうち、2つ以上の基準を選択します。たとえば、人口動態変数(デモグラフィック変数)から職業(例:サラリーマンOL、専業主婦主夫)、社会的心理的変数(サイコグラフィック変数)から、ライフスタイルの中のランチの方法(例:内食・弁当派、外食派)の基準を設定します。

次に、設定した基準で4象限を作ります。

最後に各セグメンテーションにネーミングをしてみましょう。

セグメンテーションのルール
セグメンテーションを行う際に、注意しなければならないのは、やみくもに市場を細分化していてはキリがない点です。セグメンテーションで守るべき原則の4Rをご紹介します。
■Rank(優先順位)
どのセグメントを優先するのかを見極めるのがポイントです。自社の強みをより活かせるセグメンテーションを優先し、そこからターゲティングにつなげるのが基本となります。
■Realistic(規模の有効性)
その市場は売上や利益をあげられる規模があるかどうかを改めて確認します。そのセグメントの規模が利益を上げるには不十分で採算が合わなければ、その市場は魅力的ではないと判断し、ターゲティングすべきではありません。
■Reach(到達可能性)
実際に商品やサービスを提供したり、広告を届けられるかどうかも確認します。どんなに素晴らしい、ニーズに合致した商品やサービスでも、物理的な理由などで提供できなかったりその価値を理解・認知してもらえなければ利益は得られません。
仮にこれまで未経験だった海外に販路を拡大したい、という場合は言葉や文化の壁を乗り越えるための方法やそれに対応する予算分配なども検討しなくてはなりません。
■Response(測定可能性)
実際に市場規模や境界線が測定できるかどうかがポイントです。たとえば、心理的変数で「運動が大好き」という分類で区分しようとしても、「大好き」がどの程度なのか、運動はどんな運動なのかなど境界線を引いたり市場を測定するのが難しいもの。
そこで「週に1回は運動している」など客観的に分かりやすく明確に切り分けられる基準の設定が必要です。
セグメンテーションを活用している事例
セグメンテーションの実例を3つご紹介します。
■1.リクルート社「受験サプリ(現スタディサプリ)」のセグメンテーション事例
リクルート社は市場調査を行った結果、全国ベースで見ると、大学進学を希望する高校生のうち、実際に予備校に通う人は3割程度に過ぎない実態を明らかにしました。そこで、予備校に通うことのできない地方の受験事情に着目し、次のセグメンテーションを実施しました。
地理的変数(ジオグラフィック変数) | 地方 |
---|---|
人口動態変数(デモグラフィック変数) | 【ライフテージ】大学受験を控える高校生 |
社会的心理的変数(サイコグラフィック変数) | 【志向】高度な受験指導を求めている |
リクルート社は、上記のセグメンテーションを行い、良質な有名講師による講義をWebを通して低価格で提供し、大都市部中心の従来型の大手予備校ではカバーしきれていないかった大学受験者の課題を解決しました。
■2.江崎グリコ社「オフィスグリコ」のセグメンテーション事例
富山の薬売り事業的なモデルとして有名なオフィスグリコ。江崎グリコ社は、市場調査を通して、ある市場が未開拓であることに着目し、次のセグメンテーションを実施しました。
地理的変数(ジオグラフィック変数) | オフィス街 |
---|---|
人口動態変数(デモグラフィック変数) | 【ライフテージ】ビジネスマン |
社会的心理的変数(サイコグラフィック変数) | 【志向】対面ではお菓子を買いたくない(コンビニでお菓子は買わない) |
江崎グリコ社は、オフィスにお菓子ボックスを設置して集金するスタイルを確立しました。コンビニまで買いに行く時間が無いほど忙しい、または対面でお菓子を買う気恥ずかしさから、お菓子は食べたいけれども食べられなかった男性が買い手の市場を開拓しました。
■3.「俺のイタリアン」のセグメンテーション事例
一流のシェフが作る料理を手軽な価格で提供し、一躍大ブームを博した「俺のイタリアン」。俺のイタリアンのセグメンテーションは以下の通りです。
人口動態変数(デモグラフィック変数) | 中間所得層 |
---|---|
社会的心理的変数(サイコグラフィック変数) | 美味しい料理を手軽に食べたい |
俺のイタリアンは「一流のシェフが作る料理はドレスコードがあり着席しながらかしこまった雰囲気の中で食べる高価なもの」という概念を覆し、回転率の高い立食形式で一流シェフの料理をリーズナブルな価格で提供するスタイルを作り出しました。
気軽に一流のシェフの料理を楽しめるスタイルは、今まで高級イタリアンには行かなかった、もしくは特別な日だけのものだった多くの人々に、日常的に行くレストランとして受け入れられました。
その後、同セグメントでフレンチ、焼き肉、割烹など分野を変えながら、次々と“俺の〇〇”を世に送り出し人気を博しています。
3社の事例をご紹介しました。いずれも4Rの基準を満たす独自のセグメンテーションを実施したことで、新しい市場を開拓し、競合他社と差別化した優位なマーケティングミックスを展開しています。
セグメンテーションをどのように活かすか?
セグメンテーションにてターゲットを絞り込めると、出稿するにふさわしい広告媒体を決められます。オンライン広告(Google AdWordsなど)であればターゲットをさらに絞り込めます。また、SNS(FacebookやInstagram)での広告展開も視野に入ります。
広告出稿は金銭的な面での負担があるので、これを抑えたいという場合はブログ、Youtubeといった媒体でユーザーにとって価値ある内容のコンテンツを発信して集客するといった方法もあります。
なお、上記の方法を使いづらいBtoBビジネスでも集客の中心である展示会の選定にあたって、今まで以上に最適な展示会選びが可能になります。
まとめ
STP分析のうち、S=セグメンテーションの具体的な方法とポイント、事例をご紹介しました。自社の商品やサービスの強みを活かし、有利に事業を展開できるようなセグメンテーションを行いましょう。
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自社にとって優位なマーケティング戦略を練るうえで欠かせないフレームワークSTP分析。今回STPのうちのT=ターゲティングについて、ターゲットとする市場や顧客を選定する具体的な方法やポイント、事例をご紹介します。
STP分析に関するFAQ
■STP分析とは?
STP分析は、市場をS=セグメンテーション(市場細分化)、T=ターゲティング、P=ポジショニングするマーケティング理論です。詳しくは、記事本文をご確認ください。
■「セグメンテーション」とは?
「セグメンテーション」とは、消費者や顧客を類型化、分類して市場を細分化することです。具体的な方法は、記事本文をご確認ください。
■セグメンテーションの基準となる「4R」とは?
セグメンテーションの基準となる要素として、「Rank(優先順位)」「Realistic(規模の有効性)」「Reach(到達可能性)」「Response(測定可能性)」の4Rが挙げられます。詳しくは、記事本文をご確認ください。
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