動画サブスク市場は全体に拡大傾向もAmazonが独走
主要動画アプリの月間ユーザーログからは、Amazon Prime Videoの独走ぶりが明らかで、2019年10月には800万人をうかがう勢い。松本人志さんの「HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル」や、「バチェラー・ジャパン」などの日本オリジナル作品が充実する一方、人気映画作品の配信も以前より早くなったといいます。
Amazon Prime Videoほどではないものの、右肩上がりで増えているのが、Yahoo! Japanの動画サービスGYAO!。サバイバルオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN」やTBSラジオの人気番組「木梨の会」と連動した「木梨の貝」など、こちらも日本ならではの独自コンテンツが充実しています。
図表 1 主要動画アプリのユーザー数及び国内テレビ販売台数
2019年9月に親会社が運営する日テレオンデマンドを引き継いだHulu、民放が駆逐されるのではと警戒された2015年9月の日本市場進出から5年目を迎えたNetflixは、Amazon Prime VideoやGYAO!ほどの存在感はありませんでした。
海外の作品には両サービスとも定評があり、Netflix「全裸監督」、Hulu「ミス・シャーロック」「代償」や日テレ人気番組「あなたの番です」連動番組「扉の向こう」といった日本オリジナル作品が話題になってはいるのですが、いまのところ2強との差が劇的に縮まる気配はなさそうです。
価格競争力がシェアに直結?
2強の競争優位性は、なんといっても価格力。GYAO!はほとんどのコンテンツが無料です。Amazon Prime Videoは月額500円ないし年間4,900円のAmazonプライム会費がかかりますが、Amazonで一定以上買い物をするプライム会員ならすでに送料無料や即日配送といった特典のために会費を払っていますから、心理的にはほぼ無料といっていいでしょう。
これらに対しNetflixは864円から、Huluは1,026円の月額料金がかかるので、見たいと思わせるキラーコンテンツが欠かせません。
図表 2 主要動画配信アプリ
伝送速度が現在の10倍になる5Gサービスの2020年本格展開を睨み、携帯キャリアとの提携も進んでいます。Netflixは2018年5月からau(KDDI)ユーザー向けに視聴料と通信プランの定額セット[auデータMAXプラン Netflixパック]を提供してきました。NTTドコモも2019年11月、新料金プランに1年分のAmazonプライム会費をバンドルした「ドコモのプランについてくるAmazonプライム」をリリースしています。
ソフトバンクグループのGYAO!は多くのコンテンツが無料で利用できるためか、あるいは2015年日本上陸時から業務提携してきたNetflixへの配慮なのか、あまり派手なプロモーションは行っていません。有料の期限付きレンタルサービス「GYAO!ストア」を利用すると、PayPayポイントがもらえるしくみがあります。
開拓の余地はどこに? テレビからネットへのシフトは鮮明
ユーザーの可処分時間を競うビジネスにおいてそもそも市場環境はというと、テレビからネットへのシフトが鮮明で、動画サブスクにとっては追い風です。
通勤電車での動画視聴は当たり前の光景になり、総務省の調査によると、特に40代は38分、10代と30代は30分、20代は25分ほどネット利用時間が増えました。30代以下はその分テレビのリアルタイム視聴が減っていますが、40代と50代はテレビ視聴時間もネット利用時間も増えました。働き方改革で時間に余裕ができたのでしょうか。
図表 3 主なメディアの平均利用時間(平日)
【出典】総務省情報通信政策研究所
「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」より
ネット利用時間を除くと30代以下はメディア接触時間そのものが減っていて、ラジオや新聞にはほとんど触れていません。『いま、スポーツマーケティングが熱い!| 第2回 序章 スポーツビジネスのデジタル・トランスフォーメーション(2)』でもとりあげましたが、自分の嗜好に合ったコンテンツだけにロックされやすいデジタルネイティブ世代の傾向と考えられ、サブスクとの親和性が高そうです。
いま、スポーツマーケティングが熱い!| 第2回 序章 スポーツビジネスのデジタル・トランスフォーメーション(2)
https://manamina.valuesccg.com/articles/473第1回では、マーケティング4PのProductとPriceの観点からスポーツビジネスのデジタル・トランスフォーメーション(DX)を概観してみました。第2回は、4Pの残る2つ、PlaceとPromotionにフォーカスします。
ユーザー行動の変化は、産業に与えるインパクトも小さくありません。
国内テレビ市場は、縮小傾向が鮮明です。4Kテレビは増税後も比較的好調といいますが、2020年東京オリンピック・パラリンピックへ向けて回復は見込めるのでしょうか。直近2年だとテレビの販売台数は冬のボーナスを手にする12月に増加傾向(図表 1)なので、今月の商戦が気になるところです。
図表 4 薄型テレビの販売台数と平均単価
(経済産業省生産動態統計調査より)
幅広い年代が使うGYAO!、他のアプリはデジタルネイティブが過半
主要動画アプリユーザーの属性を調べてみました。GYAO!を除く主要動画アプリユーザーは、いずれも20代ユーザーが最多で、30代までの若年層が50-60%に上ります。特にNetflixは35.3%を20代が占めていて、auやソフトバンクが対応する通信料金としての支払い形態の成果かもしれません。
40代が27.2%を占めるものの、50代以上が39.6%と比較的幅広い年代層に使われているのがGYAO!です。テレビ番組の見逃し配信、そしてマスからパーソナルへと広告モデルの変化はあるにせよ、同じ「無料コンテンツ」という強みから、テレビユーザーとの親和性が高いのかもしれません。
図表 5 主要動画アプリのユーザー属性(年代別)
集計期間:2017年11月-2019年10月
総務省調査でも、オンデマンド配信サービスやデジタルコンテンツの購入経験は20代が最多でした。年代と反比例して利用経験が減る傾向なので、若いユーザーほどネット上のサブスクやコンテンツ購入に抵抗がないということなのでしょう。
図表 6 過去1年間にインターネットで利用した機能・サービスと目的・用途
総務省「平成30年通信利用動向調査」より
男女別だと、GYAO!とHuluで女性比率が高く、Amazon Prime Videoは男性が60.5%と女性ユーザーの1.5倍にのぼりました。一般に財布の紐のかたい女性が無料のGYAO!に人気が集まるのは理解しやすいとして、Huluは女性ファンの心をつかむコンテンツが充実しているのかもしれません。
図表 7 主要動画アプリのユーザー属性(男女別)
集計期間:2017年11月-2019年10月
次回は、ユーザー属性別の利用状況と関連アプリの併用状況から、今後の展望を探ってみます。
調査概要
ネット行動ログとユーザー属性情報を用いたマーケティング分析サービス「eMark+」を使用し、2017年11月~2019年10月のネット行動ログデータを分析しました。
※アプリユーザー数は、Androidスマートフォンでの起動を集計し、株式会社ヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測。
※アプリ名、カテゴリはGooglePlayのアプリカテゴリに準拠。
※メール、Google Chrome、Googleマップ、Gmailなどプリインストールアプリは除く。
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法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。
CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している。