動画配信サービスにコンテンツ無料提供の動き
新型コロナウイルスへの危機感に伴い、3月から学校が休校になり、生徒たちが自宅待機になりました。そして4月に入り、全国に自粛要請が出されました。
そんな中、自宅待機支援として動画サービス各社はコンテンツを一部無料公開しています。そこで大手3サービスのAmazonプライムビデオ、hulu、Netflixに注目し、実際にどれくらい利用されていたのか市場分析ツール「eMark+(イーマークプラス)」で調べてみました。
まずはAmazonプライム、Hulu、Netflixの3サービスが自宅待機支援のためにそれぞれどのような取り組みを行っているのか確認していきましょう。
■Amazonプライム
Amazonの動画配信サービス「Amazonプライムビデオ」では、期間限定で「キッズ向けコンテンツ」を無料公開しています。2020年4月23日現在、終了時期は未定とされています。
■hulu
huluは3月6日から3月31日までの間、100以上の番組を無料公開していました(参考:https://japanese.engadget.com/jp-2020-03-06-hulu-100-3-31.html)。
また、在宅支援と銘打ち、2020年4月8日からは5月10日まではより多くのコンテンツを無料配信しています。アニメ、キッズ、知育番組など学校閉鎖中の児童向けと思われるコンテンツや、一般向けの料理番組やエクササイズなど、2500以上のコンテンツが対象となっています。
■Netflix
Netflixも上記2社と同様、教育系コンテンツを10点無料公開しています。しかし、自社のプラットフォームではなくYouTubeの公式チャンネル上での公開としたところが異なっています。
(参考:https://techable.jp/archives/122088)
動画配信3サービスの過去2年のアプリユーザー数は
各社の自宅待機支援の取り組みを確認したところで、Amazonプライムビデオ、hulu、Netflixの3サービスのアプリユーザー数の過去2年間の推移を調べてみましょう。
過去2年間の比較の結果、3社とも2020年3月にユーザー数が最大となっています。また、3社とも2020年1月から2月にかけてはユーザー数が減少しているため、自宅待機支援の取り組みの影響があったと言えるのではないでしょうか。
また、この3サービスで比較すると、huluとNetflixのアプリユーザー数が拮抗しているのに対し、Amazonプライムビデオの利用者数が他の2サービスよりもおよそ4、5倍と、頭ひとつ抜けて多いことがわかります。
Amazonプライムは子供あり層、Huluは女性が増加
次にユーザー属性に基づいて前月(2020年2月)と比較した際の各サービスの特色を見ていきましょう。
■Amazonプライムビデオ
教育コンテンツを解放したAmazonプライムビデオについて、注目すべきユーザー属性はあるか確認していきましょう。
Amazonプライムビデオのアプリユーザー数の子供の有無による推移の比較(2020年2月〜3月)
対象デバイス:PC&スマートフォン
Amazonプライムビデオの子供の有無によるユーザー数を2020年2月と3月で比較すると、子供ありのユーザー数(グラフの赤線)の方が増えていることがわかります。教育系コンテンツが解放されたことで、子供のいる家庭においてより多くユーザーが増えたと考えられるのではないでしょうか。
Amazonプライム・ビデオの独走ぶりが明らかに~急速に浸透する動画サブスクの最新事情(1) | [マナミナ]まなべるみんなのデータマーケティング・マガジン
https://manamina.valuesccg.com/articles/686音楽、自転車、車、家具やテレビにブランドバッグ、居酒屋やコーヒー、ラーメンまで、あっという間に生活へ入り込んだサブスクリプション(サブスク)モデル。なかでもサブスクの先駆者といっていい動画アプリのユーザーは、右肩上がりで増加中です。コンテンツ視聴がお茶の間のテレビからパーソナルでモバイル対応のスマホやタブレットへシフトするなか、動画サブスク市場はどう変化しているのでしょう。市場調査ツール「eMark+」のユーザーログから探ります。
■hulu
次にhuluについてユーザー属性による比較をしてみましょう。
教育コンテンツにしぼって無料化に踏み切ったAmazonプライムビデオでは子供の有無が影響していましたが、huluではどうでしょうか。
2020年2月から3月にかけてのhuluのアプリユーザー数の子供の有無による推移の比較
対象デバイスはスマートフォン
上のグラフの通り、子供の有無による差は大きくないようです。huluでは教育コンテンツではなく、日本テレビ系列のドラマを無料化しています。コンテンツの性質の違いによる差と言えそうです。
一方huluにおいては、性別によってユーザー増加数に違いが表れていました。
2020年2月から3月にかけてのhuluのアプリユーザー数の性別による推移の比較
対象デバイスはスマートフォン
上のグラフのように、男性ユーザーが13万人ほどしか増えていないのに対し、女性ユーザーは42万人ほど増えています。
考えられる主な原因として、
1.公開されたコンテンツが特に女性からの支持を集めた
2.家で過ごす時間の長い専業主婦の母数が多い
などが想定されます。
ただ、eMark+でさらに調べていくと、以下のグラフのように既婚か未婚かはユーザー増加数にほとんど関わりがなかったことがわかりました。したがって、専業主婦あるいは専業主夫の数はあまり重要ではないようです。
2020年2月から3月にかけてのhuluのアプリユーザー数の未既婚による推移の比較
対象デバイスはスマートフォン
最後にNetflixに関しては、特にユーザー属性による増加数の差が認められませんでした。
Netflixのユーザー増加数は他の2社と異なり、大きく跳ねあがっているわけではありません。無料でコンテンツを公開していますが、YouTubeという別のプラットフォーム上においてであり、アプリのユーザー数が通常よりも大きく増える要因はないと思われます。したがって、ユーザー属性による差も大きくは出ていないのだと言えるでしょう。
まとめ
本記事では動画配信3サービスのコンテンツ無料公開施策の効果をアプリユーザー数から検討しました。各サービスの今後の展望をまとめます。
Amazonプライムビデオは引き続き子供向けの教育コンテンツを公開しています。今月2020年4月以降もユーザー数は増えていくのではないでしょうか。
huluにおいては2020年4月8日から原則的に5月10日まで、無料公開コンテンツを拡充し、2500点以上の作品が視聴できるようになっています。これらはアニメ、教育などの子供向けのコンテンツだけでなく、料理番組やエクササイズ番組など自宅待機者の間で一般的に重宝される内容をフィーチャーした番組も含んでいます。今後はより多くのユーザーを取り込み、ユーザー数は上がっていくかもしれません。
Netflixに関しては、現状では特にユーザー数増加に直接関わる取り組みはなされていません。ただし、Youtube上に無料公開したコンテンツで質の良さをアピールすることができれば、そこから興味をもったユーザーが利用を開始するということは考え得ます。また、Netflixに限らず、今回のように社会のために奉仕する姿勢を見せることは、CSRの観点からも重要です。ユーザーの社会貢献に対する意識が向上している中、長い目で見てもユーザー数獲得に結び付くでしょう。
本記事の調査は、ヴァリューズのインターネット行動ログ分析ツール「eMark+」を用いて調査を行いましたが、2020年10月に新ツール「Dockpit(ドックピット)」がリリースされました。本記事では示さなかった各アプリの年齢・年収別といったデモグラ属性も、Dockpitに登録すれば無料で確認することができます。まだ登録されていない方は、この機会にぜひ確かめてみてはいかがでしょうか。
ネット行動分析サービスを提供する株式会社ヴァリューズは、全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報を用いたマーケティング分析サービス「eMark+」を使用し、2018年4月〜2020年3月のネット行動ログデータを分析しました。
※ユーザー数はヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測。
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ウィーン大学への留学を経て京都大学文学部卒業。
外資系大手ITコンサルティング会社に勤務後、フリーランスライターに転向。