2026年10~12月のマナミナでは、「AI前提の組織で人材価値を高めるリサーチキャリア」を連載解説します。
まず10月本稿「目標設定編」では、リサーチ従事者の業務目標と成り得る評価観点を説明します。
調査の仕事は案件対応量と品質対技能が高く評価されてきました(典型的な専門職の評価システム)。
一方で、AIが社会に浸透してきた中で評価対象となる物事には変化が生じています。
※本稿は菅原さんが2025年4月に公開されたnote記事「リサーチャーの評価をどのように決めるか?」の内容をベースに、発展著しいAI環境下での働き方への影響部分を加筆して再構成した内容を掲載しています。
はじめに
リサーチ担当者の評価をどのように決めるか?——
これはかなりの難題です。調査会社であれば運用パフォーマンスが一定の成果基準になりますが、事業会社では同じ基準を当てはめずらく、機能部門ならまだしも事業部門だとなおさらです。
もともとリサーチは業務の従事者や適格者が少なく、どの企業でも組織化が難しいこともあり、職種に合った評価制度設計をあまり見聞きしません。結果的に配属部門との結びつきの強さによって評価システムが決まってくるのが実情です。
現在、リサーチャーを配属できる事業会社は少ないものの、専任かどうかにかかわらず、リサーチの業務比率が高い担当者をどのように評価すると良いのかという課題があります。AIの登場によって目標設定の難易度はさらに増しています。
以下ではリサーチャーにとっての実績の作りやすさと、マネジメントにとっての管理のしやすさという、双方の観点から適切な指標を選定しました。
評価軸① 案件の対応数実績(アンケート実施件数、インタビュー実施人数、データ分析の対応件数)
「案件の対応数実績」は、リサーチ業務の基本的な評価項目です。アンケート実施件数、インタビュー実施人数、データ分析の対応件数などの指標がこれに該当します。
この評価軸の優れた面は、当人の対応量や経験値をファクトベースで物語るところです。転職活動時もわかりやすい実績として広く通じます。実査はチームの全員が持つことから、新人からベテランまで適用できることも使いやすい点です。
この評価軸の難しい面は、案件の難易度や重要度が考慮されないところです。もちろん仕事量に対する期待役割はどの組織にもありますが、事業会社だと(ミドル以上は)「実査のプロ」の需要は低いので評価観点を足す必要があります。
AIによる影響を考慮すると、AIデスクリサーチやAIインタビューのようなタイプの調査手法の比率が高まると実施件数は下がります。また依頼主がAIで調べごとを完結させる比率が高まるとそもそも仕事へのアサイン自体が無くなります。
評価軸② インサイトの共有(ユーザー理像の定義、提言と方針決定)
「インサイトの共有」は、調査結果のデータ(発話や数値)から担当者が観察や洞察により導き出した示唆や提言です。当人の個人技の高さを示します。
この評価軸の優れた面は、事業や施策の方向性を確立・変革したりする定性的な活動成果が評価されるところです。そこまで大がかりな成果でなくても、成熟度が低い組織ではユーザー理解それ自体が新鮮な情報として歓迎されます。
この評価軸の難しい面は、高度な分析や提案が当たり前だと見なされるところです。実際にはインサイトの発掘や共有そのものが業務としてはかなり高度なのですが、それが5段階評価のうち「3」(普通)に位置づけられたりします。
AIによる影響を考慮すると、プロジェクト側が高速サイクルに移行する状況に対して、真のインサイトを追い求めるには時間を要するため、R&D(研究開発)に近い時間軸に対するリスペクトを得られないと評価は得づらくなります。
評価軸③ 施策や改善の提案(提案数と提案採否、改善数と実行成果)
「施策や改善の提案」は、調査結果を経て担当者が出す提案数や改善数です。もちろん単純なカウントだけでなく提案の採否や実行の成果を含みます。
この評価軸の優れた面は、調査の実行と実務の推進の両方で活動が評価対象になることです。所属部門との同一性が高い役割設定になっているほど活躍の機会は広がります。プロダクトデザイナーが行うUI/UXリサーチは好例です。
この評価軸の難しい面は、仕事への誤解が少ない一方で業務に広がりが無いことです。組織としては歯車となってくれる人材ほど使い勝手が良いのですが、意識的に領域や手法を広げていかないとずっとメンバー階級で終わります。
AIによる影響を考慮しても、引き続き評価を受けられる項目です。AI時代にはとりわけWhy(問い・方針)が重要と言われていますが、高速サイクルの業務プロセスではHow(出口・施策)の実行・実装も評価対象になります。
評価軸④ ファシリテーション(課題整理、合意形成、活用支援)
「ファシリテーション」は、話し合いによる課題整理・合意形成・活用支援など、プロジェクトをコミュニケーションマネジメントでリードする動きです。
この評価軸の優れた面は、プロジェクトの「運営」貢献を明らかにできることです。リサーチの仕事は否応にも実査と報告に注目が集まりますが、やはりファシリテーションが機能することで業務品質全体が引き上がっていきます。
この評価軸の難しい面は、アドオン的なスキルとして見なされ専門性が認識されづらいことです。デザイン思考では標準的な考え方である、「答えは私たち(あなた)」の中にあります、という原則も通じないことがしばしばです。
AIによる影響を考慮すると、かなりレバレッジの効く評価項目です。AIの出力結果に対してマネジメントやプロジェクトが選択・判断を次々と迫られるなか、(知識的な専門性エビデンスを訴求する「資格の保持」と比べても)目に見える助けとなるからです。
評価軸⑤ 戦略や構想の構築(事業方針・中期計画・新規事業の牽引、大型プロジェクトの推進)
「戦略や構想の構築」は、事業方針・中期計画・新規事業など、組織活動を横串で捉える戦略領域に対する貢献です。いわゆる社内コンサルの役割です。
この評価軸の優れた面は、解決を求められる課題のレベルが高い分、必然的に定量・定性ともに意味がある活動と認識されやすく、調査の規模感的にも成果が出やすくなることです。仕事ぶりも役員陣から直接評価を受けられます。
この評価軸の難しい面は、組織の人事評価制度の中に普通はリサーチがコアスキルの上位職級は存在しないため、他の専門職よりもプロジェクトマネジメントの実行責任比率が高く、実質、マネジメントのような職責を負うことです。
AIによる影響を考慮すると、こちらもレバレッジの効く評価項目です。サービスやシステムにAIを組み込む際には高度な要件定義と評価検証スキルを必要とします。リサーチによって事業と開発の両面を動かすことができるとプレゼンスは爆上がりします。






株式会社アイスリーデザイン
chapter UI/UXデザイングループ スペシャリスト
菅原大介
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、日系最大手のマーケティングリサーチ会社で月次500問以上を運用する定量調査のディレクター業務を経験。総合ECサイト・アプリを運営する大手事業会社でデジタルプロダクトの戦略企画を担当したのち、現在は株式会社アイスリーデザインでUI/UXデザインの支援・研究に携わる。
デザインリサーチとマーケティングリサーチのトレンドをウォッチするニュースレター「リサーチハック101」を個人で発行するほか、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして活動や記事の監修も行っている。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)、『リサーチからはじめる仮説ドリブン・マーケティング』(WAVE出版)
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