SuicaとPASMOとは
今や多くの人の通勤・通学など、生活に欠かせないものになりつつある交通系ICカード。最近ではスマートフォンに交通系ICカードを取り込んで利用する人も増えているほか、スマートウォッチで改札を通る人々もちらほら目にするようになりました。
JR東日本が発行するSuicaを筆頭に、様々な交通系ICカードが発行されています。交通系ICカードの中でも、とりわけ人口が集中する首都圏でよく耳にするのは、SuicaとPASMOではないでしょうか。今回は、首都圏の多くの人々が日々利用する交通系ICカードSuicaとPASMOについて、モバイルアプリユーザー数やその機能、ポイント経済圏などを比較します。
■Suicaとは
JR東日本公式サイト内のSuica紹介ページの画面キャプチャ
Suicaは、鉄道、バス、お買い物などで利用できるICカードです。2001年11月にJR東日本によってサービスが開始されました。
2006年1月には携帯電話でSuicaを利用できる「モバイルSuica」のサービスも開始されました。現在はスマートフォンの普及に伴いAndroid端末やApple PayでもモバイルSuicaのサービスを利用できます。
■PASMOとは
PASMO公式サイトの画面キャプチャ
PASMOは、「きっぷやお財布代わりにいつでも使える」ICカードです。2007年3月に株式会社パスモによってサービスが開始されました。PASMOのサービス開始と同時に、首都圏ICカード相互利用サービスも始まりました。
そして、2020年にはAndroid端末向けとApple Payの「モバイルPASMO」が利用できるようになりました。現在は、各社の交通系ICカードが使える「全国相互利用エリア」に加え、28の鉄道事業者と73のバス事業者の路線内で利用できます(筆者数え、2025年2月時点)。
■SuicaとPASMOは全国の交通機関・お店で使える
SuicaとPASMOは、日本国内の電車やバスなどの交通機関のきっぷとして利用することができます。また、交通系ICカードでの支払いに対応しているお店での買い物にも利用することができます。紛失時には、所定の手続きの上で再発行してもらうことができ、一枚のICカードの券面を書き換えて様々な用途で利用することもできます。
SuicaとPASMOのユーザー数の違い
SuicaとPASMOの違いを知るために、まずはそれぞれのモバイルアプリユーザー数を見ていきましょう。なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツールDockpitを用います。
以下の図を見ると、Suicaアプリユーザー数は月間500万〜700万の間を推移しているのに対し、PASMOユーザー数は月間100万〜200万ユーザーの間を推移しています。
また、Suicaアプリ月間ユーザー数は緩やかな増減を繰り返す中で、2024年3月に大きく増え、直近2年間で最多の月間ユーザー数を記録しています。一方で、PASMOアプリ月間ユーザー数は2024年4月まで増加傾向にあり、その後はほぼ横ばいの推移となっています。

モバイルSuicaアプリ(青色)・PASMOアプリ(オレンジ色)のアプリ月間ユーザー数推移
調査期間:2023年1月〜2024年12月
デバイス:スマートフォン
2つのアプリの月間ユーザー数を比較すると、SuicaアプリはPASMOアプリの約4倍以上の月間ユーザー数を有していることがわかります。SuicaはJR東日本の交通系ICカードであるため、首都圏に加えて東北までの幅広い地域で発行・利用されています。そのため、首都圏を主とするPASMOよりも利用者が多いと考えられます。
また、Suicaアプリが2024年3月に月間ユーザー数を大きく伸ばしている背景のひとつとして、JREポイントが行ったキャンペーンが考えられます。
2024年2月中旬から3月末にかけて「またやるよ!Suicaで累計30,000円お買いものするとJRE POINT 30,000円相当が当たる!キャンペーン」が開催されました。JREポイントサービスに登録したSuicaをお買いもの・食事の支払いに3万円以上利用することで1000名にJREポイント3万円分が当たるキャンペーンです。
対象期間に一度JREポイントが貯まるお店で利用する必要がありますが、当選人数や当選ポイントが大きいことからSuicaユーザーの注目を集めたと考えられます。
参考:https://www.jrepoint.jp/campaign/B240124001/
■Suicaの発行枚数はPASMOの2倍以上
SuicaとPASMOそれぞれの発行枚数についても見ていきましょう。JR東日本の新卒採用サイトによると、Suicaは約9,200万枚発行されています。また、PASMOは2021年4月に流通枚数が4,000万枚を突破しました。PASMOの現在の発行枚数については正確な数値が分かりませんが、先ほどの発行枚数で比較するとSuicaはPASMOの2倍以上となり、Suicaのユーザー数が圧倒的に多いことがわかります。
参考:
https://www.jreast.co.jp/recruit/new-graduate/special/businessfield/it-suica-services.html
https://www.pasmo.co.jp/
SuicaとPASMOの機能の違いは
次に、SuicaとPASMOの機能の違いについて詳しく見ていきます。SuicaとPASMOの大きな違いとしては、利用エリアと定期券のふたつが挙げられます。
■利用エリア
SuicaとPASMOは、日本国内における交通系ICカード相互利用サービスのエリア内において、電車やバスなどの交通機関のきっぷとして利用することができます。ただし、各エリアをまたがった利用は一部を除いて不可能です。
その上で、それぞれのカードに利用エリアが存在します。以下の図がSuicaとPASMOの利用可能エリアです。
項目 | Suica | PASMO |
共通して利用できるエリア (相互利用エリア) | 北海道エリア 東海エリア 西日本エリア 九州エリア 沖縄エリア | 北海道エリア 東海エリア 西日本エリア 九州エリア 沖縄エリア |
各サービスの利用可能エリア | 首都圏エリア 仙台エリア 新潟エリア 青森エリア 盛岡エリア 秋田エリア | 首都圏エリア |
SuicaとPASMOの利用可能エリア(筆者作成)
参考:
前述の通り、SuicaとPASMOは「交通系ICカード全国相互利用サービス」によって、北海道から沖縄まで、多くの電車・バスで利用可能です。
その他、各サービスの利用可能エリアについては、PASMOは首都圏エリア、Suicaは首都圏エリアに加え、東北エリアや新潟エリアでも利用が可能です。各サービスの利用可能エリアでは、登録してあるポイントサービスのポイントを貯めることができます。ポイントサービスについては、後ほど詳しく説明します。
■定期券
SuicaとPASMOは定期券として使うこともできますが、利用エリアや路線が異なるため、定期券にも違いがあります。
SuicaはJR東日本が発行しているため、Suica定期券もJR東日本が発行することになります。一方で、PASMO定期券は様々な交通事業者によって発行されています。様々な鉄道事業者とバス事業者の交通系ICカードとして利用されているため、乗車する路線に応じて発行者が変わります。
Suicaを中心に拡大するJREポイント経済圏
続いて、SuicaとPASMOのポイント経済圏についても見ていきましょう。
Google PlayストアのJREポイントアプリ紹介画面の画面キャプチャ
Suicaの利用によって貯められる主なポイントは、「JREポイント」です。JREポイントサービスは、JR東日本によって運営されています。Suicaは、JREポイントサービスにWebサイト上から登録できます。
JREポイントの公式サイトによると、鉄道の利用、JREポイント加盟店でのお買いもの、ビューカードの利用、JRE BANKの利用など、様々なポイントの貯め方が存在します。また、貯まったJREポイントは、SuicaへのチャージやJREポイント加盟店でのお買いものでの利用、鉄道の利用など様々な用途で使用できます。
2024年10月時点で、JREポイントが「貯まる」「使える」お店は以下です。
JREポイントが「貯まる」「使える」お店(2024年10月現在)
駅構内や駅ビルだけでなく、スーパーマーケットや書店などでもポイントが貯められます。
ここで、モバイルSuicaアプリユーザーが関心を持つアプリを見てみましょう。

モバイルSuicaアプリユーザーの関心アプリ上位10項目(リーチ差優先)
調査期間:2024年1月〜2024年12月(直近1年間)
デバイス:スマートフォン
1位には「JRE POINTアプリ」がランクインしており、モバイルSuicaアプリユーザーがJREポイントアプリに寄せる関心の高さがうかがえます。
それ以降には、「Googleウォレット」をはじめとして、「楽天ペイ」や「楽天Edy」、「電子マネーnanaco」などのキャッシュレス決済用アプリが多くランクインしています。アプリカテゴリに着目すると、上位10項目のうち、半数を占めるアプリが「ショッピング」に分類されています。
Suicaで貯められるポイントがJREポイントのみであることで、モバイルSuicaユーザーの一定数の人々がJREポイントに関心を持っていそうです。また、楽天市場をはじめとする楽天経済圏のアプリへの関心が高いことから、楽天経済圏に属する人もある程度存在しそうです。
■PASMOは交通事業者のポイントサービス構築に利用されている?
PASMOの利用によって貯められるポイントには様々な種類があります。PASMOを利用する交通事業者が様々であることから、ポイントサービスもそれぞれの事業者ごとに異なります。
以下は、モバイルPASMO公式サイトに掲載された各交通事業者のポイントサービスです。
ポイントサービス事業者 | ポイントサービス名 | URL |
小田急電鉄 | 小田急ポイントサービス | |
京王電鉄 | 京王トレインポイント | |
京王パスポートクラブ | 京王ポイントサービス | |
京浜急行電鉄 | 京急プレミアポイント | |
京成電鉄 | 京成グループポイント | |
相模鉄道 | Vポイント | |
西武ホールディングス | SEIBU Smile POINT | |
東急 | TOKYU POINT | |
東京メトロ | メトロポイントクラブ | |
東京メトロ | メトロポイント | |
東京都交通局 | ToKoPo | |
東武カードビジネス | TOBU POINT | |
横浜市交通局 | Vポイント | ー |
各鉄道・バス事業者のポイントサービス(モバイルPASMO公式サイトより)
交通事業者ごとに独自のポイントサービスが存在していることがわかります。各ポイントサービスごとにPASMOの登録方法も異なり、アプリのみで登録できるサービスもあれば、ネット上での登録をした上で該当交通事業者の券売機でさらに登録をする必要のあるサービスも存在します。
筆者は現在モバイルPASMOユーザーですが、東京メトロが運営するポイントサービス「メトロポイント」以外のポイントサービスは利用したことがありませんでした。PASMOユーザーは登録できるポイントサービスが豊富ですが、その中からよく利用する交通事業者のサービスを1つまたは2つ選んで活用している人が多いのかもしれません。
メトポ公式サイトの画面キャプチャ
続いて、PASMOアプリユーザーが関心を持つアプリについても見ていきましょう。

PASMOアプリユーザーの関心アプリ上位10項目(リーチ差優先)
調査期間:2024年1月〜2024年12月(直近1年間)
デバイス:スマートフォン
3位に「モバイルSuica」がランクインしており、PASMOアプリユーザーはモバイルSuicaアプリにも関心を寄せていることがわかります。アプリカテゴリに着目すると、上位10項目のうち、5つのアプリが「ファイナンス」に分類されています。
Suicaと比較すると、PASMOのポイントサービスは数が多く、一つ一つがそこまで大きな規模ではないため、PASMOに紐付けられたポイントサービスアプリは上位にランクインしていないのかもしれません。
PASMOのポイントサービスは各事業者ごとに異なるため、「PASMOを取り巻くポイント経済圏」というよりは、「各交通事業者のポイントサービス経済圏の構築にPASMOが利用されている」と考えられます。また、ポイントサービスごとに登録方法やポイント加算条件なども異なるため、普段利用する路線のポイントサービス以外に登録するハードルが少し高いと感じる人もいそうです。
また、モバイルPASMOユーザーの多くがモバイルSuicaに高い関心を持っていることから、モバイルPASMOとSuicaを併用しているユーザーも一定数存在しそうです。
SuicaとPASMOの併用って?
ここで、SuicaとPASMOを併用しているユーザーについても見ていきます。以下の図は、モバイルSuicaアプリユーザーのPASMOアプリ併用状況です。PASMOアプリを併用しているのは約10%ほどであることがわかります。

モバイルSuicaアプリユーザーから見たPASMOアプリ併用状況
調査期間:2023年1月〜2024年12月
デバイス:スマートフォン
以下の図は、PASMOアプリユーザーのモバイルSuicaアプリ併用状況です。モバイルSuicaアプリを併用しているのは約35%ほどであることが読み取れます。

PASMOアプリユーザーから見たモバイルSuicaアプリの併用状況
調査期間:2023年1月〜2024年12月
デバイス:スマートフォン
■Suicaアプリは観光・出張目的でも使われているか
PASMOアプリユーザーの約35%がモバイルSuicaアプリを併用している理由のひとつとして、グリーン車・おトクなきっぷの予約ができ、新幹線の予約もしやすくなっていることが考えられます。
モバイルSuicaアプリでは、普通列車グリーン車(東海道線や横須賀線、総武線快速、湘南新宿ライン、上野東京ライン、宇都宮線、高崎線、常磐線等)を紙のグリーン券よりも260円安く予約することができます。また、車内改札が不要で券売機に並ぶ必要もありません。
参考:https://www.jreast.co.jp/suica/use/green/
モバイルSuicaでは、おトクなきっぷとして「都区内パス」「東京フリーきっぷ」「ヨコハマ・みなとみらいパス」「のんびりホリデーSuicaパス」「モノレール&都区内パス」を購入することができます。いずれも首都圏の公共交通機関を一日お得に利用できるため、観光やビジネス等で有用です。
参考:https://www.jreast.co.jp/suica/ic_otoku/
JR東日本の新幹線やJR東海の新幹線の予約サイトへの移行もアプリ内からできるため、旅行やビジネスで新幹線を利用する際に利用している人も多いでしょう。
■ポイ活ユーザーは併用している可能性も
また、PASMOアプリユーザーがモバイルSuicaアプリを併用する他の理由として、JREポイントの普及も考えられます。
JREポイントを貯められるエリアは、PASMOの利用エリアをほとんどカバーしています。普段は通勤や通学でPASMOを利用している人でも、休日等で出かける際にJR東日本の路線を利用することもあるでしょう。その際に、交通や駅構内のお買いものでSuicaを利用してJREポイントを獲得しようとする人は一定数いるのではないでしょうか。モバイルSuicaは、カード型のSuicaよりも交通機関利用時のポイント還元率が高くなっていることも魅力のひとつです。
特に、モバイル版のSuica、PASMOはスマホ上で簡単に切り替えることができるため、モバイルPASMOとモバイルSuicaを併用することへのハードルが比較的低そうです。筆者がモバイルSuicaとモバイルPASMOを併用し始めたきっかけは、両方の交通系ICカードのポイントサービスで還元を受けるためでした。
まとめ
今回は、首都圏の交通系ICカードであるSuicaとPASMOについて共通点や相違点を調査・分析しました。
モバイルアプリの月間ユーザー数や発行枚数から、Suicaユーザーが圧倒的に多いことがわかりました。PASMOユーザーも緩やかな増加傾向にあり、首都圏で交通系ICカードがさらに普及しつつあることがうかがえます。
SuicaとPASMOはそれぞれ共通する機能が多いです。しかし、利用エリアや定期券については発行する交通事業者が異なるために違いが生まれています。
また、それぞれのポイントサービスについても、大きく異なります。SuicaはJR東日本が運営するJREポイントに一本化されているのに対し、PASMOは様々な交通事業者ごとにポイントサービスが存在します。加えて、SuicaのJREポイントサービスへの登録はWeb上で完了する一方、PASMOはポイントサービスごとに登録方法が異なります。
モバイルPASMOユーザーの約35%がモバイルSuicaを併用している背景として、グリーン券やおトクなきっぷの予約ができることや、JREポイントの普及が考えられます。ポイントサービスが一本化されていてわかりやすく、JR東日本の路線を利用するだけでポイントが貯まるため、PASMOと使い分ける人も一定数存在しそうです。
首都圏では様々な路線が利用でき、移動に公共交通機関を使う人が多いからこそ、交通を少しでもお得に利用したいと考える人も多いのかもしれません。そのような人々を顧客として引き込むには、やはりポイントサービスの充実が必要になりそうです。
JR東日本は幅広いエリアの路線を有していることや、銀行などの新事業への取り組みを強みとして、Suicaを中心としたJREポイント経済圏を発達させつつあります。PASMOは現在交通事業者ごとにポイントサービスが異なります。しかし、JREポイントのように、各交通事業者の垣根を超えた共通のポイントサービスが誕生すると、PASMOを取り巻くポイント経済圏がより発達し、PASMO利用者のさらなる増加につながるかもしれません。
2025年4月に入社予定の大学4年生。大学ではジャーナリズムのゼミに所属。言葉に触れることが好き。音楽を聴くのも演奏するのも大好き。よりよい文章を綴れるよう日々精進中。