桜島大噴火
災害は忘れた頃にやって来る、何度と無く聞かされたことわざであり、子や孫の代に向けて先人達の苦難を伝承しています。災害列島といわれるように自然災害が多い日本。地震や津波、台風、火山の噴火、山火事、冷害など数え切れない程、様々な災害が身の回りに起こっています。
母方の祖母から子供の頃によく聞いた話に、鹿児島県桜島の大正大噴火があります。20世紀以降、日本で起きた火山噴火の中で噴出物量では最大であり、噴火中に起きた桜島地震では多数の死者行方不明者を出し、噴火前は島であった桜島は大正大噴火による溶岩流出によって大隅半島と陸続きになりました。
酷い地震が続く中で、祖母は自宅の天井に身体がくっついているような体感の物凄い揺れに遭遇したと、身振り手振りで何度も教えてくれました。
大正大噴火に伴う降灰は広範囲に及び、桜島ではほぼ全域にわたり20㎝以上の降灰に覆われ、厚いところでは2mを超え、腹五社神社の黒神埋没鳥居は火山灰などによって埋もれた鳥居として有名です。
大噴火の前には有感地震も多発したのと、過去の安永噴火の言い伝えもあり、島民は噴火を恐れて大挙離島したようですが、鹿児島県測候所が桜島に危険は無いとの回答から、測候所を信じて避難を行わず被害を受けた住民も多かったようです。
生前の祖母から様々な昔話を聞きましたが、最も強く印象に残っているのはこの桜島大正大噴火です。今でも祖母のジェスチャーが目に浮かびます。
正常性バイアス
人は目前に危険が迫ってくるまで、「自分は大丈夫」「今は非常事態では無い」などと過小評価して対処しません。危険を無視することで心のバランスを保とうとします。その結果、逃げ遅れてしまうことになります。
このように、災害時によく認められる認知バイアス(思い込みによる判断の偏り)の一種が「正常性バイアス」です。「日常性バイアス」「恒常性バイアス」「正常化の偏見」とも呼ばれます。
台風25号の被害も記憶に新しいですが、今年8月関東地方では記録的な大雨が降り、気象庁は千葉県内の22市町に「レベル5大雨特別警報」を発表しました。道路の冠水が相次ぎ、1万5000台以上の車両が水没の被災を被りました。
冠水路への侵入はエンジン停止のリスクもありますが、「行けそう」と安易に考えて侵入したケースも見受けられました。このように考える傾向は新型コロナ禍でも見られました。
リスクマネジメントの観点からは、未知のリスクはオーバー気味に見積もるのが原則で、医療上のマネジメントでも同様です。しかし、世界にも日本にも「コロナはただの風邪」「世間は騒ぎ過ぎ」と決めつけ、自宅に籠る人々を嘲笑する人達が一定数認められました。これも、自身の心の安定を求める「正常性バイアス」と考えられます。
災害や事故では初動の遅れが致命傷となる場合も多く、自分は大丈夫という感覚そのものがバイアスかもしれないと日頃から自覚する必要があります。また、警報や避難指示が出たら、周囲に流されず訓練通り早めの行動や正確な情報収集に努めるべきです。
ロードキル(轢死)
路上に突然飛び出した野生動物と車が衝突し死ねせてしまう「ロードキル(轢死)」が後を絶ちません。日本の発生件数は年間で12万件を数えます。ただ、事故で死ななかった場合は「ロードキル」としてカウントされないため、野生動物と車の衝突事故はさらに多いと予想されます。
発生状況ではタヌキやキツネ、犬、猫などの中型動物が半分を占め、シカやクマ、イノシシなどの大型動物も一定数えます。大型動物と衝突した場合はドライバーの死傷事故にもつながりかねず、回避のための環境整備が求められています。
また、衝突事故による車両の修理費も高額でドライバーの経済的負担も多大となります。
全国の観光地はインバウンド観光客を含めて地元住民以外のドライバーも増えていて、国土交通省は多発地点をデータベース化して公開を始めるなど、対策を急いでいます。
日本損害保険協会北海道支部によると、エゾシカの繁殖期の10-11月に起きた衝突事故による保険金支払い件数は、2024年に1229件と過去最高を記録、支払い金額は前年同時期比12%増の7億5559万円でした。
保険による備えも重要ですが、野生動物との衝突事故で車両が破損した場合は単独の物損事故として扱われ、自賠責保険の対象とはならないようです。大手の損害保険が提供する車両保険は適用されるケースも多いようですが確認が必要です。
正常性バイアスと企業
正常性バイアスは関わる人数が多い程、陥りやすい傾向があります。個人がその状況をおかしいと判断しても、集団レベルになると正常なこととして意味づけされるために、正常性バイアスに対して抵抗するのは困難になります。
似たような認知バイアスに同調性バイアスがあります。正常性バイアスが非常時のみの誤った判断を下しやすいのに対して、同調性バイアスは常時でも誤った判断を下す可能性がある点に違いがあります。
政治的陰謀論などに惑わされない人でも医学的デマは信じる場合も多く、IQが高い人程自分の見解と矛盾する情報は無視し、自説にこだわる傾向があるという研究結果も存在します。確かに正常性バイアスの傾向が強い人も一定数存在しています。
当然、このような傾向を持つ従業員も含まれる組織である企業の正常性バイアスが働くリスクについて考察してみます。
①ルールを順守しない風潮。特に安全性については小さなルール違反も見逃さないことが重大事故を防ぎます。
②人事評価。従業員に対して、人事評価の担当者による主観が入り「自分の評価は正確だ」と認知すると従業員の不満を高めることにつながります。
③成長の妨げ。「今までのまま進めれば大丈夫」という意識や過信を捨て、小さな改善点を見過ごさない仕組みや工夫で企業や従業員の成長を導きます。
さらに、正常性バイアスによる悪影響を防ぐためには、①行動指針の作成、②公正な評価が出来る制度の構築、③全社で日常から「なぜ?」と考える習慣を持ち反復することなどが挙げられます。
正常性バイアスは、心の安定を保ちながら生活し働くために必要なメカニズムです。しかし、正確にその働きと危険性を理解しないと企業にとって脅威となり得ます。正常性バイアスの理解を深め、危機意識を継続させることこそ、いざという時に企業を守る術となるのです。






株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。