働く意義
働く意義とは何なのか?
仕事を続けていると職場で意味の無いと思える仕事が溢れていることに気付きます。形式的な会議が多過ぎたり、過剰な確認だけに集まる会議だったり、会議にそぐわない参加者が呼ばれて出席していたり、呆れるぐらい長い時間続く会議に束縛されるなど、有意義で意味のある会議自体数える程のような気がします。
他にも職場では全く達成不可能な無理のある目標を立てられたり、上司が思いつきだけの指示を与える頻度が高かったり、やってる感だけの作られた仕事を与えられたり、責任が重く決して報われることの無い仕事を不本意に押し付けられたりと無理無体な環境に直面します。
無意味な仕事が多ければ多い程、不毛な忙しさが生み出され、無駄な作業を量産することに繋がり時間を拘束され、長時間労働の源泉になります。特に若手の頃は「何事も経験」という名目の元に雑用を押し付けられがちです。それこそ、無意味な仕事は働き手の意欲をそぎ、組織を蝕むやっかいな存在です。
本来その人の役割や専門性から外れていたり、価値創出に結びつきにくい業務で、本人が自分の仕事では無いと感じるタスクを経営学では「不適正タスク」と命名しています。「不適正タスク」によるストレスの増大やモチベーションの低下、組織への不信感、生産性の低下など様々な悪影響が指摘されています。働き方改革が叫ばれる現在、働き手には仕事の意義を問い直す姿勢も欠かせません。
ブルシット・ジョブ(bullshit job)
2018年に米国で出版された文化人類学者デヴィッド・グレーバー氏の著作「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」が話題となりました。無駄で無意味な仕事が現代社会に増殖する現状と背景を分析し、日本でも働き手の共感を呼びました。
ブルシット(bullshit)とは「牛糞」。「でたらめ」とか「たわごと」を指す俗語です。ただ、ブルシット・ジョブとは主観に基づく概念であり、第三者が「無意味で不必要」な仕事と評価しても、仕事を行う本人が意義を感じていれば、ブルシット・ジョブには該当しません。
日本では本来の定義とは異なる理解が広まっているようです。デヴィッド・グレーバー氏はブルシット・ジョブを以下の5つに分類しました。
① 取り巻き(Flunkies)。上司や組織の権威を象徴するだけに存在する仕事。
② 脅し屋(Goons)。他社との競争、あるいは自社内の対立を前提として生まれる仕事。
③尻ぬぐい(Duct-tapers)。組織の根本的な問題や欠陥を一時的にごまかすだけの仕事。
➃書類穴埋め人(Box-tickers)。形式的な手続きや報告書作成に終始する仕事。
⑤タスクマスター(Taskmasters)。他人にブルシット・ジョブを押し付ける仕事。
ブルシット・ジョブが蔓延る理由は、管理者が権威や地位を維持するため、あるいは部下からの過小評価を避けるために無意味な仕事を次々と与えてしまう構造があります。不必要な役職や部署が設置されるのも理由のひとつです。
業務の効率化をはかる上にも、社員一人ひとりの組織への貢献度を可視化する仕組みの導入が急がれます。
マインドフルネス
効率化とデジタル化が加速する現代。仕事にも手軽さとタイパを求めるのが当然です。しかし、効率化が進み疲弊しやすいからこそ、目的達成への最短距離を選択するのでは無く、あえて手間のかかる方法や手段を踏むことは、無駄や迂回とは異なり、心身を調律し余白を創り出す営みです。
「ゆっくり」「丁寧」「のんびり」など、非日常的な行為は時間を忘れさせます。懐古趣味やレトロ感を超越した心理的安定・価値は、非効率な行いからしか生まれて来ないのかもしれません。
旧式の機器の利用は無制限で即時的なデジタル機器とは異なり、不確実性を内在して時間差を生み出し、手作業の貴さや不便さを改めて確認出来ます。
思考の雑念を鎮める意識から「マインドフルネス」は生まれます。その効果は脳科学にも検証されていて、米国の心理学者らは感情の警報機能を持つ偏桃体の反応低下や理性の司令塔といわれる前頭前野の制御機能の強化を認めています。うつ病の再発防止や不安障害などストレス関連障害の治療でも「マインドフルネス」の有効性は確認されています。
ひと手間かけることは好みに留まらず、自らの感覚や注意のあり方を見直し、結果として「マインドフルネス」の向上に寄与します。働き方を見直し、ウエルビーイングを高める工夫ともいえます。
意味の無い仕事が職場の全てでは決してなく、その担務を永遠に続ける訳ではありませんし、割り切りも大切。まずは心に余裕を持つ必要があります。
不適正タスクへの対処
過去の選択や出来事の積み重ねが現在と将来の選択肢を強く縛り、必ずしも最も効果的で合理的な状態に到達出来無くなる性質を「経路依存症」と呼びます。殆どの人がこの「経路依存症」であり、職場で過去に誰か上司や先輩が決め、続けてきたやり方や仕組みを無批判に受け入れがちです。
これは無意味な仕事を増殖させている原因のひとつと考えられます。前任者から業務を引き継ぐ際には安易に前例を踏襲せず、現状に適応する方策が他に無いか検討し、無駄を省く意識が肝要です。
他にもペーパーレス化の遅れや人手不足、日本独特の根回しや擦り合わせなど枚挙の暇が無い程、無意味な仕事を増やす要因が考えられます。不適正タスクの考え方の中心にある理論に「Stress as Offense to Self(SOS理論)」があります。不適正タスクは働き手の自己イメージを脅かし、ストレスの原因になるというものです。
さらに、働き手の怒りを高めて最終的にはバーンアウトに繋がり、仕事への熱意を失い身も心も疲れ果ててしまうのです。これにより、働き手のエンゲージメントを低下させ、離職の要因になります。
不特定タスクへの対処として、まずは組織レベルでの取り組みが必要です。組織内の役割や責任を明確にし、意思決定の過程を透明化することで発生を防げます。また、定期的に業務の棚卸しを行い、働き手の本来の業務と付随する業務を整理することは役割の明確化に役に立ちます。意味が無いように思えても大切な意味が隠されている仕事もあり、誰のための何が目的かを職場で再確認する必要もあります。
不適正タスク問題は働き手のウエルビーイングと組織の生産性に深く関連し、AI活用も含めたこれからの職場づくりにおいて避けることの出来無い重要なテーマなのです。






株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。