京野菜
社会人生活をスタートした街が京都。それまでは関西方面には殆ど縁が無く、京都へも高校2年生の修学旅行と中学生時代の家族旅行と、訪問したのはわずか2回でした。大阪も神戸も奈良も同じようなものです。
京都に住むとちょっとした驚きが続きました。バスに乗ると必ず見受けられるドア付近にある「指詰め注意」のステッカー、毎日のように続く年中行事、夏は暑くて冬は寒いなどはっきりわかる四季、溢れるばかりの名所旧跡や寺社仏閣、関西弁といっても京都、大阪、神戸など場所により微妙に違いがある点など気づきの連続でした。
食をとってみても、きつねうどんやたぬきうどんなどの具材は関東とは異なったものであるとか、関東に比べて味が全体的に薄味だとか、とんかつよりビフかつすなわち関西は牛肉文化なのだと、当時の京都での食生活を楽しみながら少しずつ慣れ親しんだのを思い出します。
母方が鹿児島出身ということもあり、桜島だいこんや安納紅(安納いも)、白丸なすなど、東京では手に入れにくい鹿児島独自の野菜があることはよく知っていましたが、京都独自で様々な京野菜が存在することも食生活の上での発見のひとつです。加茂なす、九条ねぎ、京壬生菜、聖護院だいこん、堀川ごぼう、えびいも、京たけのこ、京水菜など種類も豊富です。
京野菜には、全国から野菜も宮廷や社寺への献上品として集まり、豊かな水源や肥沃な土壌を活かした高い栽培技術による品種改良により、伝統野菜及びブランド産品として確固たる地位を築いてきた食の歴史があるのです。
地域ブランド
地域ブランドとは、地域を主に経済的側面から捉えた際、消費者が認識する様々な地域に関するイメージの総称です。地域ブランディングは特定の地域が持つ独自の特徴や魅力を通じて、その地域のイメージや知名度を高めることで、経済や社会の活性化を目指す取り組みです。消費者のその地域に対する評価とも考えられ、地域の持つ無形資産とも捉えられます。
特定の地域で産出される野菜や果物、魚介類、肉などの生鮮特産品、あるいは特産の素材を活かして製造される加工食品や酒類、菓子類、温泉地や避暑地などで提供されるサービスのように地域ブランドは幅の広い概念です。
地域名と商品・サービス名が結合した典型的なブランド名の例として、夕張メロン(北海道夕張市)、鬼怒川温泉(栃木県日光市)、なると金時(徳島県鳴門市)他数多く存在しています。松坂牛や庄内豚、越前ガニ、甲州ワインなど地理的範囲が広いブランド、あるいは牛タンといえば宮城県仙台市が連想されるように地域名を含まないブランドも見受けられます。
商品・サービスでも、銀座は日本一高級な商業エリアで名立たる夜の社交場で娯楽の街でもあるように様々な価値を提供している地域ブランドであり、軽井沢といえば日本における避暑地の王様として誰もが憧れるリゾート地ブランドです。
地域創生を目指す日本において地域ブランドの活性化は重要な政策であり、商標保護と振興の2つの事業を重点的に行う必要があります。
GI(Geographical Indication)産品
地場産品の価値を知的財産として確立し、ブランド力を高める動きが広がっています。
2015年に「地理的表示(GI)保護制度」が始まり、国内で登録された農水産物は2025年8月で167件となりました。
この制度は地域ならではの自然的、人文的、社会的な要因の中で育まれてきた品質、社会的評価等の特性を有する産品の名称を地域の知的財産として保護する制度です。
生産する団体が産地などの基準を定めて申請し、登録されると「GIマーク」を付けて販売出来ます。GI産品の独自性が販売を促して販売量が倍増したケースもあります。不正表示や模倣品を国が取り締まれば、海外での競争力も強まります。
都道府県別の登録数では熊本県が最多で、北海道、岩手県、鹿児島県が続き、2025年3月に新たに登録されたGI産品には十勝和牛(北海道)、京加茂なす(京都府)、会津地鶏(福島県)、枕崎鰹節(鹿児島県)などがあります。
政府はアメリカの高関税という逆風も吹きますが、農産品の輸出を2030年までに5兆円に増やす目標があり、農産物の知的財産は適正な価格で売るための武器になります。また、農産物は食文化と一緒に輸出する必要性があり、インバウンド客にGI産品に触れて貰うのはいいチャンスです。
まだまだ、日本ではGIの認知度が低く、登録に必要とする書類作成を支援する施策も求められています。
振興への取り組み
情報過多の現在、消費者は本物嗜好であり、ストーリー性を好みます。地域ブランドはそのニーズに応えることが可能な存在です。地域ブランドを成功させるためには様々な主体との連携が求められます。
また、不足がちな人材や資源を補うために地域内外の企業や団体、個人の協力・共創が不可欠であり、地域住民の参加はブランド振興の決め手になります。地域住民へその意義やメリットの理解を深めるためのイベントやワークショップの開催は有効な手段であり、積極的に参加を促すことが大切です。
これまでに見過ごされてきた地域の様々な資源をブランドに置き換えるためには、歴史や文化、生活、食などから価値をあぶり出して新たな魅力を発掘し、再構築しなければなりません。さらに、地域独自の取り組みを行い、他の地域との差別化を図ることが肝要です。
地域ブランディングは地域の自然環境や文化遺産の保護にもつながり、文化の継承や地域の雇用を促進します。これにより、地域社会の活性化や持続可能性の両立も期待出来ます。将来的にはブランド拡張を促し、特産品で代表される商品・サービスだけでなく、地域全体の価値観やアイデンティティを表現する存在へと姿を変えるかもしれません。
これからは消費者や地域内外の多様な主体がブランド形成に参加する「共創型ブランド」が増えると予想されます。その地域のファンとなりコミュニティを形成したり、異なる地域ブランドとの連携により新たな価値を生み出したり、外部の人材が価値創造に貢献するなどユニークなアプローチが期待出来ます。
地域ブランドは地域に暮らす人々の多様性を尊重し、それぞれが活躍する場を提供すると同時に地産地消や多文化共生、ウエルビーイングなどを実現させます。地域ブランドの振興は地方創生の原動力となり、地域に自信を呼び起こすはずです。






株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。