ギルティ消費 ~背徳グルメの流行

ギルティ消費 ~背徳グルメの流行

「ギルティ消費」は、罪悪感を抱きつつも自分へのご褒美やストレス解消のために「背徳グルメ」を楽しむ消費行動で、近年のトレンドとして注目されています。背景には健康志向や物価高による節約疲れ・情報疲労があり、その反動として「小さな解放感」を求める傾向が高まっていると言えそうです。現代人が心の平穏を保つセルフケアとしても広がりを見せている「ギルティ消費」について、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が解説します。


豊臣縛り

念願かない姫路城へ行ってきました。NHK大河ドラマ「豊臣兄弟」の重要な舞台で中国大返しの拠点ともなった歴史的建造物です。姫路城は江戸時代以前に建設され現在まで保存された12天守(国宝5城・重要文化財7城)のひとつであり、1993年にユネスコの世界文化遺産に登録され、その美しさに白鷺城の別名もある平山城です。
また、戦禍をまぬがれた「不戦・不焼の城」としても知られ、明治維新後の廃城の危機や太平洋戦争時の空襲など何度ものピンチを乗り越えてきました。
怪談で有名な播州皿屋敷の井戸や石垣の一部は近隣の古墳から運んだものもあるなど行かなければ知り得なかったことが数多くありました。

なかなか行くチャンスが巡って来なかったのですが、マナミナでの連載100回を記念にと突然思いつき、少々発奮しました。折角なので日頃のご褒美として、ランチは日常の健康志向を脱却し、友人から勧められた生姜醤油で味わう姫路おでん、お好み焼のようなどろ焼、地魚のお寿司など姫路らしいグルメに思う存分舌鼓を打ちました。

その後、「豊臣兄弟」の縁もあり、豊臣秀吉が好んだという有馬温泉に姫路経由で恥ずかしながら初めて宿泊しました。有馬温泉は日本書紀にも記述が残り、道後・白浜と並ぶ日本三古泉のひとつであり、古くから人々に愛されてきた名泉です。
何といっても温泉を発展させた功労者は秀吉であり、たびたび湯治に訪れていただけで無く、戦禍や地震でダメージを受けた有馬の復興に尽力したようです。なるほど有馬温泉には秀吉に因んだ名所が数多く残っていました。温泉街はノスタルジックで有馬川沿いをそぞろ歩きして懐かしみました。

姫路城

ギルティ消費

健康や節約のため本来は控えるべき高カロリー・高糖質・高脂質などに罪悪感を抱きながらも、自分へのご褒美やストレス解消として、あえて「背徳グルメ」を楽しむ消費行動が「ギルティ消費」です。「有罪の」や「罪深い」、「悪いことをして後ろめたい気持ち」といった意味を表す言葉であるギルティ(guilty)。最近ではカジュアルでも「つい食べ過ぎてギルティ」などと使われています。

「ギルティ消費」は近年注目される消費トレンドであり、支持を集める背景には新型コロナウイルス禍以降に強まった健康志向や、ここのところの物価高による節約疲れ、溢れる情報の取捨選択による情報疲れなどが当てはまります。
これらの反動として、「たまには欲望を開放したい」とか「今日だけは自分を許したい」といった小さな解放感を求める傾向が見受けられます。
日常的に自分を律している人ほど、「ギルティ消費」にはまりやすく、その広がりは現代人が心の平穏を保とうとするセルフケアであり、自分なりの合理的なバランスのとり方ともいえます。

「ご褒美消費」は旅行やファッションなど幅広い分野に及ぶのに対して、「ギルティ消費」はあくまでも「食」であり、「ご褒美消費」が頑張っている自分をねぎらうために行うことが多いのに対して、「ギルティ消費」は普段は抑えている欲望を自分だけに特別に許すことから罪悪感を伴います。

背徳グルメ

身体や健康に良くなさそうと分かっていても、あえて罪悪感を持ちながらも食べてしまう料理や食べ方を指す言葉が「背徳グルメ」です。高カロリー、大盛り、ニンニクたっぷり、こってりなどが連想出来ます。
代表的な例としては、チーズ満載のハンバーガーやピザなど高カロリーのジャンクフード、炭水化物+炭水化物(ラーメン+ライスなど)系、ガッツリ系の肉料理、生クリームやバターをこれでもかと使ったスイーツ、揚げ物てんこ盛りの弁当などであり、「背徳」とは道徳や良心に反することを意味します。

SNSの普及により、SNS映えする「悪魔的」「やり過ぎ」といった見た目が拡散されることで、注目を集めトレンドを後押している感があります。
英語でも「ギルティフード(guilty food)」と呼ばれ、欧米でも「背徳グルメ」は嗜好されています。週一回とか金額など頻度や量をコントロールしながら、翌日以降の食事や運動で調整するといった自分なりのルールを決め、健康面でのリスクを抑えれば、「背徳グルメ」を愉しむことは必ずしも罪悪ではありません。
我慢するか暴走するかの二択に陥らず、計画的なご褒美として取り入れることが肝心です。もちろん、食べ過ぎには注意する必要はありますが。

ギルティ消費

ギルティ消費の今後

「悪いとは分かっていても今日ぐらいいいかな」といった自己肯定感が背景にある「ギルティ消費」の認知度はまだ必ずしも高くはありませんが、実際に行動している消費者はかなりの数に上ると予想出来ます。手頃で少額で確実に満足を得られる手軽な楽しみとして若者を中心に支持されています。

現代人は健康やダイエットで『正しい』選択を求められ続けていて、AIの普及はその傾向を強めているといっても過言ではありません。そのため、ストレスを抱える現代人は増加する一方です。
現代の消費者は自分を許すための言い訳を求めていて、ストレス発散や精神的な安定など、自分を納得させる理由が見つかれば財布のひもは緩みやすいと考えられます。

そこで、様々な企業がこの消費トレンドに注目し、マーケティング活動においても「罪悪感を前提にしてもそれでも選びたくなる商品」、「あえて自分を甘やかすご褒美体験」などをイメージとした商品・サービスを設計し、パッケージやコピーで欲望の開放を肯定する戦略を立案・実施し始めています。
高カロリーや濃厚さ、ボリューム感を前面に出し、「背徳」や「やみつき」、「限定品」などのコピーで日常からの小さな逸脱を求める世界観を提供しています。

企業は「ギルティ消費」と相性の良いSNSや口コミを駆使し、「その気持ち、分かるよ」など、消費者の共感を集めることに注力しています。ショート動画やライブ配信で「背徳グルメ」を実際に見せ、インフルエンサーや一般ユーザーからの「やっちゃった報告」を拡散することで「みんなやっているからオーケー」という空気を生み出す手法を取り入れるなど、多様な販売戦略を進めています。

先行する企業の成功を見ながら、今後も多くの企業が追随すると予想され、「ギルティ消費」は新たな消費行動として定着するのは火を見るより明らかです。同時に現代人のささやかな幸せを生み出すトレンドとして認知される日も遠くないと思われます。

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この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

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