本屋
沢山の本に囲まれる生活に憧れますが、全国的に本屋(書店)の数は減っています。
一般社団法人日本出版インフラセンター(JPO)によると、2025年度末時点で全国の書店数は1万店を割ったようです。1980年代後半がピークで2000年代初頭には2万店超あったとされることから25年程で半減しました。
下北沢駅周辺にも少し前までは幾つかの小規模店が営業していたのですが、やはり同じ期間内に劇的に減少し、今や2店を数える程です。それも本だけでは無く、文房具や日用品など他の様々な商品が本と同じように販売されています。
よくよく考えれば、まだ本屋が自宅の近くにあるのはいい方で多くの自治体では書店ゼロの地域が増加しています。特に地方圏での減少は顕著です。本屋の減少には電子書籍やネット通販、読書離れなど様々な要因が考えられますが、中小の書店がその影響を大きく受けて経営が困難になり、次々と閉店しています。
読書好きな私の場合、一日一回は本屋に立ち寄り、様々な本や雑誌を手に取り、眺めたり読んだりすることが習慣であり、趣味?ともいえます。行く度に本や雑誌を購入する訳ではありませんが、本屋の存在はメンパ(メンタルパフォーマンス)を高めるためにも大切な場所です。結局、最近は新宿の紀伊國屋書店へ行く機会が増え、新宿の雑踏を親しむようになってきました。
メンパとは
2000年代に入り、費用対効果を表現する指標として、「コスパ(コストフォーマンス)」が世間に定着し始めました。さらに、時間対効果を表す「タイパ(タイムパフォーマンス)」が急速に普及し、幅広く浸透しました。
その後も危機管理の観点から「リスパ(リスクパフォーマンス)」や、空間効率を示す「スぺパ(スペースパフォーマンス)」など様々な観点から新しい指標が生まれています。
最近、特に注目されているのが「メンパ(メンタルパフォーマンス)」です。メンパとは、心のパフォーマンスを意味し、心のコンディションを整えて仕事や生活での成果を最大化しようとする考え方です。単なるメンタルの不調を予防するだけでは無く、それぞれ個人の心の能力を引き出すという志向があります。
コスパが少ない費用で最大の成果を目指し、タイパが短時間で効率よく成果を上げる、のに対してメンパは心の消耗を抑えてより高い成果につなげることです。コスパやタイパを追求するあまり逆に心が消耗する人が増えているのは皮肉な事実です。
巷に情報が溢れ、正確な情報かどうかの判断が困難で決断するにも疲れが生じていますし、ネット社会は他人の評価に晒されやすい環境を作り出し、心が削られる状態を日常化しています。AIの急速な普及やSNS疲れ、家庭の悩みなど過剰な精神的負荷から感情のコントロールが難しくなっています。
メンパとは居心地の良さを優先することであり、休息や睡眠の十分な取得は不可欠です。
つまるところ、AIやSNSの利便性の裏に潜む「過度な利用」という新たな脅威から自分の心を守ろうとする意識の高まりからメンパは重要視されています。
木陰の効用
気候変動で年々夏の暑さが厳しくなっています。街中や公園、道路で暑さからひとときの居心地の良さを求めるべく木陰で少々寛ぎたくなります。
東京23区では街中の木陰は減少し続け、東京大学の調べによると、木の枝葉が地面を覆う面積の割合(樹冠被覆率)は2013年の9.2%から2022年は7.3%に低下し、10年で木陰が12平方キロも消滅しました。国内街路樹はピークから50万本減り、枝葉の広がりが少ない品種へと植え替えが進んでいます。
樹冠被覆率で比較すると、ニューヨーク23.4%(2021年)やパリ17.6%(2025年)のような大都市でも東京を上回っています。街路樹の減少もさることながら、住宅地や道路での減少も目立ちます。高齢社会の進展で多死社会が到来し、地価や家賃の高騰から相続した土地を細分化して売ったり、集合住宅を建てたりするケースが多く、庭木も切り倒されています。街路樹で人気なのはハナミズキで、この30年間に3倍に増加しましたが、成長しても木陰が少ないのが現状です。
海外の主要都市は夏の猛暑対策として、樹木を活かす街づくりを進めています。樹木は気温を抑えるだけで無く、水を貯えることで防災にも役立ち、より良い景観を形成することは都市の価値向上を導きます。同時にそこに住む住民のメンパにも与える影響は大きいはずです。気温の上昇を抑える木陰の拡大はこれからの街づくりに必須で、日本も気候変動に適応した街づくりへ見直す転機を迎えています。
消費とメンパ
厚生労働省の調べでは、国内の99.7%を占める中小企業でメンタルの不調を訴える若手社員がここ10年で3倍増加していて、背伸びをやめて自分自身の心地よさを優先した「無理しない」価値観がもたらす消費行動が広がっています。
メンパを重視する消費者は多すぎる選択肢を好んでいません(心理学の「選択的麻痺」)。今までの豊富なバリエーションを強みとしてきた企業の商品・サービスの提供が好まれていないのです。つまり、消費者に「選ばせ無いこと」自体が付加価値となっています。
「脱タイパ」の動きも盛んです。タイパ重視の風潮から、その反動として一見非効率なアナログ的あるいはリアルな感覚や体験が再評価されています。単に時間を節約するよりも、豊かな感情を味わうといった心の満足度の向上を最優先したトレンドです。効率だけでは無い「心の充足」がこれからの消費に与える影響は大きいと考えられます。
また、メンパを重視する消費者は失敗を恐れる心理が強く働いています。購入しても満足出来なければ返品を可能とする充実した保証が効果的です。失敗しても大丈夫という安心感が消費者の背中を後押しするのです。
さらに、実際の店舗や対面での接客においても、「押し売り」や「急がされる」といったメンタルを削るような販売方法はメンパの時代には好まれません。消費者のペースに寄り添った居心地の良さを提供できる空間や設備を備えた店舗が求められます。
ただ、メンパを意識しすぎるあまり、商品・サービスの選択肢を減らし過ぎると、企業の新しい試みや挑戦が減り、機会損失につながる恐れがあります。過剰な最適化に注意しつつ、心の負荷を適度に軽くするバランス感覚がメンパに関する消費行動に適応する鍵となります。






株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。