スピーカー紹介
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社
ビューティ・パーソナルケア事業部 ビューティブランドマネジメント部 主幹
井上 貴美子氏
株式会社ヴァリューズ
データマーケティング局 コンサルティングG
マネジャー/マーケティングコンサルタント/プランナー
高岡 風太
プロジェクト背景:なぜパナソニックがインナーケアに参入したか
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 井上 貴美子氏(以下、井上):当社は88年にわたり、ヘアケア、フェイスケア、ボディケアといった「アウターケア」領域で美容家電を展開してまいりました。
しかし、お客様からは「トラブルが起きる前に予防したい」「内側からのケアもしたい」といった「インナーケア」や「パーソナライズケア」への要望が多く寄せられるようになりました。
そこで今回、私たちが培ってきた生体計測技術や小型薄型化技術を活かし、新たなインナーケアサービスを開発するに至りました。アウターだけでなく、インナーも含めたトータルビューティを提案していきたいと考えています。
松下電工時代から続く思想である「内健外美(内側の健康と外側の美しさはつながっている)」を支えるテクノロジー
顧客理解の2段階モデル:開発(価値づくり)フェーズ
株式会社ヴァリューズ 高岡 風太(以下、高岡):では、まず開発フェーズのキーポイントについてお話しいただけますか。
井上:開発にあたりリサーチをしてみると、女性の8割以上がホルモンバランスの変動による不調に悩んでいることがわかりました。しかし多くの方は、自己流で対処するなどしており、病院に行くハードルが高いと感じているようでした。
そこで私たちは、自分の状態を客観的に理解し、正しく対処できるようになるための新たな価値を提供できるのでは、と考えました。
専門家によると、女性の体調に影響を与えるのは「ホルモンバランス」と「睡眠」だそうです。そのうえで、女性の体調管理には「月経リズム」と「睡眠状態」の両方をチェックすることが重要だとわかりました。この2つを計測し、分析・予測・アドバイスを行うサービスとして開発したのが、月経ナビゲーションサービス「RizMo(リズモ)」です。
体調ナビゲーションシステム「RizMo」
井上:新規事業であるRizMoのサービス開発で重視したのは、お客様に実際に使っていただき、フィードバックを元に改善を繰り返すことです。
試作品を作っては、実際にお客様に使っていただき、課題を抽出しました。アンケートやインタビューなどの主観データだけでなく、機器のログデータといった客観データも分析し、ひたすら試作と改善を繰り返しました。
こうした活動を経て、サービスを使う「リアルな一人」の顧客像が鮮明にイメージできるまで、顧客理解を深めていったのです。
顧客理解の2段階モデル:伝達(マーケティング)フェーズ
高岡:開発フェーズで顧客理解は深まりましたが、サービスの価値をどう届けるかという「伝達」フェーズでは、新たな課題があったそうですね。
井上:はい。価値づくりフェーズでわかったのは、お客様の「悩み」や「ニーズ」、そして「理想の状態(ゴール)」でした。
しかし、悩みからゴールに至るまでの「実際の情報収集行動」は全くわかっていませんでした。マーケティングを行うには、悩みから理想の状態を繋ぐ顧客行動を理解する必要があったのです。
高岡:そこで我々ヴァリューズが、消費者調査でご支援させていただきました。私たちが持つ消費者のWeb行動履歴データとアンケートを組み合わせ、コアターゲットの実際の行動を分析し、価値を届けるためのコミュニケーション戦略を深化させました。
伝達フェーズにおける顧客理解プロセス
調査の結果わかったのが、多くの人が悩んでいるにもかかわらず、情報収集を諦めて短期的な解決策(鎮痛薬など)に走り、根本的な生活改善にはなかなか意識が向かない、という実態です。
両社による試行錯誤が成功の鍵
高岡:この課題を乗り越えるため、私たちはさまざまな分析の切り口についてご提案しました。いわゆるアスキング型の調査では、想定している切り口でしか分析できません。しかしヴァリューズでは、柔軟性の高いログ分析が可能なため、切り口の試行錯誤や検討ができ、打開策を見つけられたと思います。
私たちはパナソニックさんと何度もディスカッションを重ねました。アンケートとログで調査結果に乖離があった際にどう解釈するのか、カテゴリに入る前に行動が終了している人とどう接点をとるかなど、一緒に考えましたね。井上さんは、このような進め方ができた要因について、どうお考えですか?
井上:弊社とヴァリューズさんの双方で顧客像を共有していたからこそ、試行錯誤しながら進められたと思います。
マーケティング課題を乗り越えるためのKSF(Key Success Factor、重要成功要因)
価値づくりフェーズで「長期的に体質改善したい」というニーズを持つお客様がいることを理解できていたので、その人にどうやったらたどり着けるのかを逆算して考えることができました。
まとめ:一体的アプローチの重要性
高岡:今回のプロジェクトからいえるのは、価値づくり(開発)から伝達(マーケティング)までの一体的なアプローチの重要性です。
価値づくりの段階では「どんな悩みを抱えている人が欲しいと思っているか」を、伝達段階では「その人が悩んだ時にどんな行動をするか」を、一つのターゲット像として共有しながら進めていくことが重要です。
価値づくりから伝達まで、一体的なアプローチの重要性
井上:今回は新規事業であり、従来の美容家電のマーケティングノウハウが必ずしも通用しないという認識がありました。だからこそ、サービスを作り上げるにあたって理解したお客様に対して、どう届けるかを一貫して考えることの重要性が、これまで以上に高かったのだと思います。
高岡:本日は貴重なお話をありがとうございました。





2026年4月に入社予定の大学4年生です。法学部法律学科で、主に環境法について学んでいます。
趣味は旅行と日本舞踊です。