1.リサーチリポジトリとは
■●全体像イメージ
■●概要
リサーチリポジトリとは、組織内で扱うリサーチデータのライブラリのことです。具体的には、Notion、Confluence、Googleドライブなどのデータベース構造を持つツールを使ってリサーチデータを管理・共有していく仕組みを指します。
データベース・Wikiツールが持つ総覧性や検索性を活かして、リサーチに携わるメンバーが結果データや企画用の情報にアクセスすることを助けます。また、オンボーディング(教育研修)やリサーチ運営に関するQ&Aの機能を担う一面も担います。
リポジトリという言葉は日本であまり馴染みがない表現ですが、海外では大学など教育機関が研究論文をまとめるサイト(データベース)を指してよく使われています(日本でも近年、リサーチデータを有効活用する専用ツールが出てきました)
ニールセン・ノーマン・グループが2020年に公開したリサーチリポジトリの解説記事では以下のように定義されています。こちらも併せてご覧ください。
・UXリサーチに関連する情報共有のコレクションである
・UXの活動や意識を組織内で促進する効果がある
・UXリサーチ担当者を企画や分析の面から助ける
Research Repositories for Tracking UX Research and Growing Your ResearchOps
(https://www.nngroup.com/articles/research-repositories/)
※実際のところリポジトリのツールは、どのウェブツールを標準採用しているか、自社のセキュリティの基準に合致するか、といった組織要件に左右されやすく、リサーチに順応したシステムの導入・開発は難しいという方が多いことでしょう。そのため、本項は主にリポジトリのコンテンツを企画する観点からご覧ください。
■●構成要素
リサーチリポジトリの構成要素は以下のようになります。
①リスト
・案件を管理するマトリクス表
<列に配置する項目>(例)
・調査手法
・調査テーマ
・トピック
・調査対象者
・アウトプット
・関連KPI
・調査時期
・調査会社
・担当体制
・資料の表紙のプレビュー/案件トップへのリンク
※上記を目安に、リポジトリで保持する情報として妥当な項目に厳選する
<行に配置する項目>
・案件タイトルA
・案件タイトルB
・案件タイトルC
(以下、続く)
②タグ
・案件の目印となるキーワード
<タグの項目イメージ>
・プロダクト(事業、サービス、ブランド、主機能など)
・プロジェクト(UX要件、UI要件、CS要件、マーケティング施策など)
・カテゴリ(事業区分、商品種別など)
・調査対象者(自社、競合、会員/登録/所持ステータスに関するものなど)
・調査手法(インタビュー、アンケート、エキスパートレビュー、アクセス解析、販売データベース分析など)
※上記を目安に、リポジトリで保持する情報として妥当な項目に厳選する
③検索システム
・キーワード検索、カテゴリー検索など(組織で採用するデータベースの機能に準じる)
○補足
前出のニールセン・ノーマン・グループの記事の中によると、リサーチリポジトリの構成要素は以下のように紹介されています。
①Infrastructure/インフラ
a.リサーチチームのミッション・ビジョン
b.使用する調査手法の説明
c.調査の実行と分析のためのツールやテンプレート
②Research Planning/調査計画
a.戦略的リサーチプラン
b.スケジュール
c.詳細な実施概要
d.ユーザー要求
③Date and Insights/データとインサイト
a.報告書
b.インサイト
c.録画データ
d.メモなどの中間成果物
ご覧いただいているように、本来はリサーチのアウトプット(=調査結果・レポート)を伝えるだけでなく、リサーチのインプット(=計画や実行のための情報)も含めた広い情報を取り扱います(細かくなるので本項では紹介までとします)
■●よくある課題
「過去に似た調査は実施していないか?その時の結果はどうだったのか?」
⇒この質問に一枚で答えるためのアウトプット
①調査結果の保管場所が点在しているケース
調査結果のデータは、組織内で各部門がGoogleドライブ/社内イントラネット/グループDMなどを通じてめいめいに管理しているのが通例です。ただ、よくあるこの運用形態だと、従業員個人としてはどこに何があるのかわかりません。
この状況の怖いところは、実行中の事案は問題なくても、時間が経つにつれ一件一件の調査の企画や結果の特徴を覚えている人が減ることです。そのうちデータのありかが認知されなくなり、何も無かったのと同じ状況が訪れます。
情報が点在していることのデメリットは他にもあります。過去調査データにアクセスする機会が多いはずの事業企画・事業開発・プロダクトマネージャー・リサーチャーなどの読者は以下のような状況に直面していることでしょう。
②ファイル名からは中身がわからないケース
個々の調査結果を格納する社内データベースは存在していても、まるでトランプの神経衰弱ゲームのように、結果を参照したいフォルダ内にあるすべてのファイルを一つずつ開いていかないと調査概要がわからないケースもあります。
調査概要の情報の中でも、実施背景、実施時期、調査対象者などはプロジェクトの期間中は関係者にとって自明の情報であるため暗黙知的に省略されることもあり、これらの情報が議事録ドキュメントに埋まっていることもあります。
特にリサーチの従事者が過去調査にアクセスするにあたり、案件のタイトル情報が最有力の手がかりとなりますが、組織内でフォルダ名称・ファイル名称に規則性が無いと、以下のような事象に時間を費やしてしまうことでしょう。
2.作り方
①リサーチバックログの構造と同期を取る
・リサーチバックログ(案件管理リスト)の情報項目と同期を取る
・リサーチバックログの案件情報をリポジトリに追加していく
・リサーチバックログをそのまま看板シート(インデックス)として生かす
②タグの設定でデータの検索効率を高める
・タグ付けによってデータの検索精度を良くする
・タグで使用する項目は事業や業務の実態に合わせてコード化する
3.使い方
①全社共通の調査データの格納場所にする
リポジトリを全社共通の調査データの格納場所とすることで、従業員は調査データへ即座に・正確にアクセスすることができます。誰がどのようなデータをどこに保管しているのか個人が尋ねて回ることを繰り返さなくても済みます。
メンバーはそれぞれ、調査結果を共有したり、企画書内に引用したり、ブレストで使用したり、様々な業務で活用しますが、この時のアクセスの速さ・データの的確さは組織全体のリサーチ業務への信頼や評価につながっていきます。
②調査データ閲覧時の体験の一貫性を作る
調査データをリポジトリに集約していく過程で、ファイルの名称・種類・用語などの基本要素の平準化に取り組むことになります。ファイルが同じ構造・同じ形式に整うと、従業員が資料の仕様を理解する負荷を下げることができます。
このように調査データ閲覧時の体験の一貫性を作ることが、管轄部門や調査手法を超えて組織内で広く調査データが参照されるためのコツです。





株式会社アイスリーデザイン
chapter UI/UXデザイングループ スペシャリスト
菅原大介
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、日系最大手のマーケティングリサーチ会社で月次500問以上を運用する定量調査のディレクター業務を経験。総合ECサイト・アプリを運営する大手事業会社でデジタルプロダクトの戦略企画を担当したのち、現在は株式会社アイスリーデザインでUI/UXデザインの支援・研究に携わる。
デザインリサーチとマーケティングリサーチのトレンドをウォッチするニュースレター「リサーチハック101」を個人で発行するほか、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして活動や記事の監修も行っている。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)、『リサーチからはじめる仮説ドリブン・マーケティング』(WAVE出版)
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