スピーカー紹介
天藤製薬株式会社
マーケティング部 ブランドコミュニケーショングループ マネジャー
仲田博貴氏
株式会社ヴァリューズ
データプロモーション局 ストラテジックプランニングG マーケティングコンサルタント
草本和也
株式会社ヴァリューズ
データマーケティング局 コンサルティングG マネジャー/
マーケティングコンサルタント/プランナー
小幡のぞみ
成果停滞の背景にあった課題
株式会社ヴァリューズ 小幡のぞみ(以下、小幡):今回のテーマは「ボラギノールが行ったメディア戦略改革」です。ヴァリューズでは、2020年からご支援をさせていただいております。
天藤製薬株式会社 仲田博貴氏(以下、仲田):弊社は痔の薬「ボラギノール」を製造販売している創業104年目の会社です。「安らぎと感動を提供する」ことをミッションとして、常に生活者様の期待を超えることを目指して活動を行っています。
ボラギノールと聞くと、関係が無いと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし生活必需品である薬の一つであり、ニッチながらもカテゴリートップの製品です。このように捉えていただいて、何かヒントに繋がれば嬉しく思います。
さて、事業会社もパートナー会社も、全員が成果のために努力しているのに結果が出ない、次第にやる気も低下するという悩みはないでしょうか。実際、私もそうでした。
起きている問題を整理すると、ターゲットへの理解不足が考えられました。そのため私がチームリーダーになった際、この構造から脱してチームの稼働、継続的な成果、何よりお客様への提供価値を最大化したいと思い、解決へと踏み出しました。
具体的なアプローチは、以下の4つのステップです。
1. ペルソナ設計
2. カスタマージャーニーマップ作成
3. 課題設定
4. プロモーション戦略策定
どれもプロモーション戦略の基本ですが、実 践する上で難しい面もあるかと思います。成果に繋げるためには3つの問いかけが大切だと考えました。
1.そのペルソナ/ジャーニーはチームが意思決定するために必要な客観的な根拠を有しているか?
2 .そのデータはターゲットの実行動に基づいているか?
3.そのファネルは自社サービスのターゲット固有のものになっているか?
これらを元に、ヴァリューズさんと一緒に次のような取り組みを行っていきました。
今回ヴァリューズと取り組んだこと
取り組みの起点であり、肝でもある「痔疾用薬購入者の行動調査」と「カスタマージャーニーの作成」について、小幡さんからお願いします。
調査で見えた特徴的なカスタマージャーニー
小幡:ヴァリューズでまず取り組んだことは、実際のターゲットがどんな行動をしているのかの調査と 、実行動に基づいたカスタマージャーニーの作成です。アンケート調査とWebの閲覧履歴データの2つをシングルソースで紐づけた、 調査パネルを活かしました。
VALUESでの調査をもとにマーケティング戦略を再設計
小幡:調査から明らかになったのは、非常に特徴的なカスタマージャーニーでした。痔疾用薬購入までのファネルは、発症→現状把握→商品検討→購入という4つの段階があります。
痔疾用薬購入におけるカスタマージャーニー
小幡:購入経路はオフラインが90%、オンラインが10%で、 4つのファネルをしっかりたどる方は合わせて約40%しかいませんでした。また次の特徴が分かりました。
・ほぼ情報収集せずに購入に至る方が、オフライン・オンライン合計で約60%
・情報収集するオフラインの購入者 でも、閲覧は1〜2PV程度
・約 70%の方が発症からわずか3日以内に購入
以下は他商材と比較したグラフです。縦軸は情報収集が長期的か瞬間的か、横軸はオンラインでの情報収集率を表しています。右上の象限が非常に多く、左下の象限にプロットされる商材は非常に少ないのですが、痔疾用薬はまさに左下にプロットされる商材でした。
他商材と比較した特徴
つまり身体の悩みに対する商材でありながら、Webであまり情報収集をせずに買いに行ってしまうというのが特徴の商材だといえます。
第一想起を軸にマーケティングファネルを設計
仲田:調査結果を受けて、私たちは対処意欲が芽生えた瞬間から、購買までの期間が非常に短いことに注目しました。痔は発生箇所が見えづらく、患者様は「自分に合ったものを選択」することより「間違いない専門家に託したい」という気持ちが非常に強いのではと思います。そのため発症した際、最初に頭に浮かぶブランドが選ばれる。つまり痔疾用薬市場で勝ち続けるためには、第一想起を高水準で保つことがすべてだと結論づけました。
一方、当時よく提案を受けていたのが、デュアルファネルでした。ブランドスイッチを防ぐために「購買後もお客様と繋がりましょう」「比較検討のファネルを強化しましょう」というものです。
ただ痔が治った時、ボラギノールとSNSで繋がっていたいかといえば、答えは否でしょう。お客様のニーズに沿った戦略が大事だと考え、マーケティングファネルを次のように設定しました。
ボラギノールにおける痔疾用薬購入者のマーケティングファネル
仲田:発症時の想起を重視する設計にしたことで、この後の課題設定やプロモーション戦略の策定にも、大きな変化が生まれたと思います。
絞り込んだKPIとプロモーション戦略の再構築
仲田:次に取り組んだことは、プロモーション戦略上の課題とKPIの検討です。発症前と発症時が勝負と捉え、リーチ強化のため、KPIではシンプルに助成想起率と純粋想起率に絞りました。
プロモーション戦略では、すべてのファネルを通して「痔にはボラギノールを選べば間違いない」というマインドの醸成を目的としました。媒体、クリエイティブ、予算の面から戦略立案および施策を実行し、分かりやすいところでは、予算の80%を発症前・発症時のファネルにつぎ込んでいます。
ボラギノールのプロモーション戦略概要
小幡:課題が見えてKPIに落としていった流れを振り返ると、選択と集中がポイントだと思います。助成想起率と純粋想起率の2つに絞った際、難しさはありましたか。
仲田:絞ることは、それ以外に目を向けないことでもあるので、「本当に事業成長に繋がるのか」という社内外の方からの問いに答える必要がありました。その際、今回の客観的なデータとジャーニーが大きな力になったと思います。
株式会社ヴァリューズ 草本和也(以下、草本):次の段階であるデジタルのKPI設計と運用でも、ここまでの流れと連携して行いました。デジタルにおける配信戦略(メディアアロケーション)では、認知と行動を重視し、特に認知段階で勝負が決まるため、かなり厚めに予算を割り振っています。
デジタルにおける配信戦略(アロケーション)
草本:またWeb広告のKPIでは、認知はCPC、獲得はCPAやROASが一般的です。しかし今回は痔疾用薬ならではのカスタマージャーニーを踏まえて、発症段階での認知向上、購入段階での流出防止を広告出稿目的とし、逆算してKPIを設計しました。
具体的には、認知段階では効率よく「痔はボラギノール」というメッセージを届けるために、CPCではなくインプレッション単価を設定しました。また行動段階では、悩みが顕在化し検索行動をした層に対し、検索結果画面を占有するために、CPAではなくインプレッションシェアを設定しています。
最後の広告運用の段階では、ヴァリューズがWeb広告の実行支援に強いという特徴を活かしました。具体的な施策例では、インプレッション単価ではディスプレイ広告のクリエイティブ改善、インプレッションシェアでは広告文の入れ替えや入札調整を実施して、改善に取り組んでいきました。
販売シェア向上に加え、意思決定もスムーズに
仲田:一連の取り組みにより、助成想起率・純粋想起率は80%と60%という高い水準を維持しています。販売シェアも2020年度の50%から、2024年度には53%後半へと向上しました。何より社内外の意思決定がスムーズになり、お客様の方を向いた一気通貫した動きができています。
今回の最も重要なポイントは、ターゲットであるお客様の解像度をどれだけ引き上げられるかに尽きると思います。そして2つ目のポイントは、客観性をもった自社固有のジャーニーとファネルを設計したことでした。
本日の内容が、皆さまの活動に少しでも良い影響を与えることができれば嬉しく思います。





大学卒業後、損害保険会社を経て、通販雑誌・ECサイトのMD、編集、事業企画に従事。その後独立して、国家資格キャリアコンサルタントを取得。自身のキャリアを通じて、一人一人のポテンシャルを引き出すことが組織の可能性に繋がることを実感したことから、現在はマーケティングとキャリア・人材を軸に、人と組織の可能性を最大化できるよう支援をしています。