「離婚おめでとう」の時代、マチアプであしたのシニアが見る“夢”|あしたのシニア

「離婚おめでとう」の時代、マチアプであしたのシニアが見る“夢”|あしたのシニア

中高年向けのマッチングアプリが活況を呈しています。しかし、シニア層の恋愛事情は若い世代とは少し異なります。長年仕事中心だった男性と、家事や介護から解放され自由を求める離婚経験のある女性とでは、結婚や同居への価値観にすれ違いも見られます。本記事では、データから見えてくる「あしたのシニア」のリアルな実態を紐解きながら、彼らがマチアプに求める「ちょうどいい親密さ」や、既存の枠に囚われない新しい人間関係の形について考察します。


突然の質問、失礼いたします。
あなたが最後に好きな人と手を繋いだのはいつですか。今朝?先週末?それとも数年前?

個人的な話で恐縮ですが、2011年、東日本大震災直後の統一地方選挙に立候補していたわたしは、ターミナル駅の改札と巨大モールを繋ぐ通路脇でマイクを握りながら演説をしていました。が、元来のマーケター魂も発動し、気がつくと目の前を通り過ぎていく人たちをもつぶさに観察していました。

そして、そのとき初めて気づいたのです。
「世間には手をつないで歩いている中年男女がこんなに多いのか!?」、と。

腕を組んでいる男女よりも、手を繋いでいる男女の方が圧倒的に多く、そして自然と目で追いたくなる何とも心地良い存在感を漂わせていました。恋人つなぎであったり、自然に手が触れている程度であったりと、そのつなぎ方はさまざまでしたが、肩を寄せ合ったり腕を組んだりするのとはまた違う、自然体で、べたべたとした湿度のない距離感。互いの存在を当たり前のように認め合い、静かに手を繋いで歩く夫婦とおぼしき姿(たぶん)に、私は演説をしながらも、なんとも言えない温かい癒やしを感じていました。

あの光景は15年近く経った今も、わたしの中に強烈に残っています。今回、あしたのシニアたちのマチアプ(マッチングアプリ)利用について書くに際して、真っ先に思い浮かんだのがあの手つなぎでした。

あの人たちが夫婦だったのか、恋人だったのか、友だちだったのかは確かめようありませんが、あの「ちょうどいい親密さ」こそ、「あしたのシニア」のマッチングアプリ利用者たちが探している「何か」の正体ではないか、と思ったのです。

「おひとりさま」が当たり前になった社会での男女の非対称性

これまでの本連載でも「あしたのシニア」たちに限らず、この国の「おひとりさま」優遇文化とそれを支える人口動態については示してきました。

内閣府『令和7年版高社会白書』によれば、2024年10月1日現在、日本の高齢化率(65歳以上)は29.3%です。65歳以上の一人暮らしも増え続けており、65歳以上人口に占める割合も2020年→2030年で、男性は15.0%→26.1%、女性は22.1%→29.3%と増加が見込まれています。

しかし、これらはあくまでも男女の合計。男女別で見ていくと、また違った風景が見えてきます。

現在の独身女性で離婚経験がある人は50代44.7%、60代では50.1%です。一方、同様の男性では50代24.3%、60代33.0%にとどまります。つまり、「シニアのシングル」とひとことで言っても、女性は"卒婚組"、男性は"未経験組"が多いわけです。

このような違いは、自ずと結婚や同居に対して思い描く風景も、時に残酷なほど異なってきます。

長年、会社という「職縁」を中心に生きてきた男性(未経験組)。一方で、離別を経験し、経済力や暮らしの基盤を自ら整え「自由と自立を手放したくない」と考える女性(卒婚組)。同じシニアのシングルといえど、両者はまったく異なるパーソナルヒストリーを背負った属性だといえます。

参考:データの時間「シニアの新常識「ラスパ」とは?——“最後のパートナー”探しが広がる背景と市場動向」
参考:みんジョブ「人生100年時代に増加するシニア結婚。孤独死のリスク軽減や認知症予防の効果も」
参考:内閣府男女共同参画局「令和4年版男女共同参画白書」第1部第1章第2節(50~60代の独身者の婚姻歴)

■離婚の捉え方にも新しい波が

実際、40代、50代の女友達の離婚報告を聞いたときの第一声は「おめでとう!」が多く、「たいへんだったね~」と労いの言葉がそれに続きます(自分も含め、経験多数)。わたし自身も離婚経験者かつ経営者として、自社の就業規則に結婚のお祝い同様に「離婚見舞金」を20年以上前に設定しました。結婚の4倍以上のエネルギーを要すると言われている離婚、新たな旅立ちであることには変わりありません。

そうした社会変化の中で起きているのが、中高年向けマッチングアプリの増加です。
ひとくちに「単身のシニアが増えたから」と片づけてしまうことがいかに乱暴であるかがおわかりいただけるでしょう。

マチアプは、「あしたのシニア」の「時間創造装置」のひとつ

定年制度も激変中ですが、長年、会社という「職縁」を中心に生きてきた男性にとって、「定年」は人間関係ともども時間の使い方がまるごと変わる節目です。人によっては何をしていいのか茫然自失状態になる人もいるかもしれません。そのような人にうってつけなのがマチアプなのです。

さまざまなプロフィールを眺め、自己紹介文を何度も書き直し、「いいね」を送ったり、反応を不安とともに待つ時間。とても小さな、しかし気持ちの上ではそれなりに大きい時間であるはずです。

「あしたのシニア」世代の単身増を反映して、身分証明を求めるまじめな中高年向けのマチアプ(マッチングアプリ)界も活況を呈しています。あしたのシニアのマチアプ利用者の数やユーザー像を掴むために、株式会社ヴァリューズのWebやアプリのユーザー数・ユーザー像が分かるツール「Dockpit」と「Perscope」のデータを見ていきます。

50代以上セグメントで、ユーザー数の多いマチアプは「ラス恋」で75万人。

50・60・70代以上セグメントで、ユーザー数の多いマチアプは「ラス恋」で75万人

図:各マッチングアプリ(ラス恋・with・marrish・アンジュ・Goens)の50代以上の利用者数・月平均アプリ起動日数
調査対象:スマートフォン
調査期間:2025年8月〜2026年7月

ラス恋は「恋愛・結婚に真剣な40代以上と出会える」マッチングアプリとして打ち出しており、公的証明による本人確認・独身証明の提出などを義務付けています。

参考:ラス恋 | 40代・50代・60代が安心して使える恋活・婚活・再婚活マッチングアプリ

また、「月平均アプリ起動日数」では30~50代を中心としたmarrish(マリッシュ)の10.2日がトップ、ラス恋が5.8日と、約3日1回~週1程度と、みなさん意外に冷静な取組姿勢となっています。
Goens(ゴエンズ)は起動日数5.3日ですが「同性の女子友も探せる」を謳っています。マチアプ自体もあしたのシニアたちの「気軽に眺める層」や「本気で動く層」、それ以外の多様化を映し出している様子がうかがえます。

さらにwith(ウィズ)における50代以上の利用者のペルソナ分析(Perscope)を見ると、平均像は「60.2歳・男性・未婚・子供あり・世帯年収452万円」。

withの50代以上の利用者のペルソナ像

図:withの50代以上の利用者のペルソナ像
調査対象:スマートフォン
調査期間:2025年8月〜2026年7月

興味を引くのが、検索キーワードに「知恵袋」「レビュー」が上位に来ており、年齢不問の恋愛を前にした慎重さや不安感、ドキドキ感が滲んでいます。

withの50代以上の利用者の特徴的な検索ワード

図:withの50代以上の利用者の特徴的な検索ワード
調査対象:スマートフォン
調査期間:2025年8月〜2026年7月

余暇の過ごし方も「テレビ視聴」「ペットとの触れ合い」「食べ歩き」。イベント感のある特別な時間ではなく、日常に溶け込む時間の相手を求めているのでは、と伝わってきます。

withの50代以上の利用者の「余暇の過ごし方」

図:withの50代以上の利用者の「余暇の過ごし方」
調査対象:スマートフォン
調査期間:2025年8月〜2026年7月

わたしも早速「ものは試し」と、某アプリに初登録してみました。それなりに真剣に取り組もうと思うと、わざとらしくない自己紹介文を考えたり、「いいね」にどう反応するのがお作法なのか悩んだり、無限に時間を要することがわかりました。なるほど、「知恵袋」に聞きたくもなります。

今回、40代以上限定のアプリで比較検討したのですが、女性は登録・利用料が無料というアプリが多くありました。なんだか一気に時代が逆戻りしたような懐かしい感覚が蘇ります。これだけ男女の機会公平が叫ばれ、しかも中年も終わりに差し掛かっている年代なのに、まずは女性に来てもらわなければ始まらない業界はここでも健在でした。

一緒に住むのか、住まないのか——すれ違うゴールイメージ

男女差は登録・利用料だけではありません。再婚や同居、家事や介護に対してのスタンスも異なると考えられます。

男性は今と将来の家事や会話の支えとして同居や再婚を望み、女性は長年担ってきた家事や介護からの解放のうえでの恋愛を望む。未婚のままシニア期を向かえた男性、生活に対する価値観や役割に違和感を覚え、離婚を経験した女性がそれぞれ多いとすると、考えるまでもなく当たり前の話です。

さらに、再婚には遺族年金の喪失や相続などの制度上の現実的な課題があります。子どもにとっては親の再婚はそのまま自分たちの相続にも直結するので、子どもたちにとっても真剣です。

長く一緒にいた人だけが持てる「時間」

ところで、配偶者・パートナーとの関係満足度を見ると、実は60代が全世代でもっとも高く63.5%にのぼります。子育てや経済的基盤づくりというさまざまな「役割」からお互い解放され、結婚当初の子どもが生まれる前の「ふたり」として、それぞれが成長したひとりの人間として尊重し合える関係に至ったとしたら最高にしあわせなことです。それまでの何十年間もの時間を重ねた人たちだけが手にできる関係でしょう。

「銀婚式」「金婚式」のような「時間の蓄積必須イベント」は、仮にわたしがロト6で当てた何億円もの大金(当ててません)をつぎ込んだとしても、決して手に入れることができません。お互いに努力しながら築き上げてきた時間には、絶対に敵いません。

しかし、人生の残り時間が長くなり、「これから」をふと考えはじめたタイミングで出会いのツールが流通するようになった今、「時間の蓄積必須イベント」は手に入らずとも、「時間の瞬間彩りイベント」は簡単に手に入る世の中になりました。

ちょっとドキドキしたり、不安になったり、短いメッセージに何と返そうかと30分以上悩んだり。そんな気持ちが味わえる人は、間違いなくしあわせの中にいる人です。

参考:リクルートブライダル総研「パートナーシップ調査2024」

「名前のない関係」をデザインする時代へ

あしたのシニアがマチアプにみる夢は、介護でも相続でもなく、「なにげなくただ手をつなげる人」という関係性かもしれません。

子どもに迷惑をかけたくないと早々に自立した老後プランを設計する人もいれば、看取りまで覚悟するような深い結びつきを求める人もいる、現在のシニア世代。そうした上の世代を見つつ、「結婚(入籍)や同居はまっぴらだけど、休日に一緒に美味しいものを食べたり、手をつないで散歩したりする相手がいるのはいいかも」という、現実的な欲求に行き着きます。

あしたのシニアがマチアプに見ている夢とは、恋でも愛でも「老後の安心」でもなく、案外シンプルに——昔、駅前で演説中に見た「ちょうどいい親密さで手をつなぐ」時間そのものなのかもしれません。

結婚でもない、単なる友人でもない。重い法律上の契約や介護の義務で縛り合うのではなく、ただ互いの存在を尊び、ひととき手をつないで人生の歩調を合わせる関係。

マッチングアプリというデジタルな手段を使って、あしたのシニアたちが夢見ているのは、そうした既存の言葉や制度には収まりきらない人間関係なのかもしれません。酸いも甘いも噛み分けてきた大人だからこそ作れる、軽やかでぬくもりのある「手つなぎ関係」。それはこれからの時代、もっと増えていくのではないでしょうか。

〈感情のデザインワーク〉

あなたの周りにいる、まだ名前が付いていない「人と人の関係」に注目してみてください。
その人たちは何によってその関係をつないでいるか、3つ書き出してみましょう。

▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザでキーワード分析やトレンド調査を行えます。無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。

dockpit 無料版の登録はこちら
▼今回の分析には生活者理解のためのリサーチエンジン『Perscope』を使用しています。『Perscope』では国内最大規模のWeb行動×アンケートデータを活用し、誰でも いつでも 簡単に"生活者起点のマーケティング活動"を実現することができます。無料デモもありますので、興味のある方は下記よりぜひお申し込みください。

Perscope 詳細はこちら

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この記事のライター

戦略コンサルタント。株式会社ウエーブプラネット代表取締役。
慶應義塾大学卒業後 、商業施設の企画開発会社にてターゲット戦略やコンセプト開発 、未来のくらし研究を担当。
1993年に株式会社ウエーブプラネットを設立。生活者研究、各種インサイト探索調査、コンセプト・ナビゲーション、コンサルティングなどを通して、トイレタリー ・飲料・食品・化粧品・住宅・家電・住設など、 さまざまな大手企業のマーケティング支援に携わっている 。時代と生活者の価値観やインサイト、企業理念等を言語化していくプロセスに定評がある。

近著『いちばんわかりやすい問題発見の授業』

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