「一人旅」と聞いて、あなたはどのようなイメージを思い浮かべますか?
さびしさと不安? 旅慣れたバックパッカーやYouTuber?
あなたご自身が既に一人旅のリピーターかもしれませんし、初挑戦を計画中かもしれません。
個人的な話で恐縮ですが、子育て終了とともにわたしはすっかり一人旅の虜になりました。誰にも気をつかわず、自分のタイミングとペースで行きたいところへ行き、食べたいものを食べ、見たいものを心置きなく見る。完全に自分ペースで時間をつかえる数日間。家族がいたり仕事をしていたりすると、「完全な自由」はほぼ不可能ですが、半ば強制的に「ひとり」の時空間をつくる一人旅ではこれが叶います。
実は今、一人旅が着実に広がっていることがデータを見るとわかります。
日本人は、世界一の「一人旅」民族だった
観光庁の旅行観光消費動向調査によると、国内外への観光・レクリエーション目的の一人旅行者合計はコロナ禍前の2019年は約3,513万人だったのに対し、コロナ禍で落ち込んだ時期を経て、2024年には3,766万人、2025年には関西万博効果もあり4,348万人と増加の一途です。
しかも、ユーロモニター・インターナショナルの2024年の調査では「一人で旅することが多い」との回答が、調査対象39カ国の平均では7.2%であるのに対し、日本は19.2%と「世界一の一人旅大国」として独壇場状態です。
確かに生涯未婚率も伸び、単身世帯が増加中の日本。しかも、ひとり焼肉からひとりアフタヌーンティーをはじめ、ソロ活やおひとり様向けのサービスには事欠かない充実ぶりです。気後れせずに楽しめるサービスも行き先も数多あり、治安の良さに加え、世界でも有数のおひとり様産業先進国であることがわかります。
■50代の一人旅デビュー
では、どのような人が一人旅をしているのでしょうか。
株式会社ヴァリューズの「Dockpit」(※)で「一人旅」検索者を見ると、未婚者では20代、30代に、既婚者では50代に、山があることがわかります。
※Dockpit(ドックピット):株式会社ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール。毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイトやアプリの分析やトレンド調査が行える
図:「一人旅」検索者の未既婚別の年代分布
調査対象:スマートフォン、PC
調査期間:2025年6月~2026年5月
既婚50代の一人旅。しかも未既婚いずれも女性が6割強を占めています。
図:「一人旅」検索者の性別
調査対象:スマートフォン、PC
調査期間:2025年6月~2026年5月
また、ソロトリ(株式会社ホーン)が2025年に実施した「一人旅経験者790名の実態調査」によると、一人旅デビューは20代と50代で二極化していることが明らかになっています。
20代が一人旅に踏み出すのは想像しやすいでしょう。就職前の自由な時間、新しい自分探し、今しかできない体験。それらを求めて旅に出る姿はあしたのシニア世代が学生の頃からお馴染みです。
では、50代は?
同調査で50代の一人旅の動機を見ると、「自由に行動できる」「自分のペースで旅できる」といった理由が上位に並びます。「ひとりになりたい」という理由ではなく、「自分のために行きたい場所へ、行きたいときに行く」という明確な意志がそこにはあります。
また、先の「Dockpit」のデータでも明らかなように、こうした50代の一人旅検索者は単身者ではなく、配偶者や子どもなど家族がいるという点もあしたのシニア世代を考える上では見逃せません。
「いつか」がある日突然失われた体験
また、元々おひとり様には寛容な日本ですが、コロナ禍による影響も強いのではないでしょうか。ある日突然にどこにも行けなくなり、家の中で過ごさざるを得なかった経験を得て、わたしたちは学びました。
「いつか」は待っていても来ない。行くなら今だ、と。
行けるときに行きたいところに行くこと。会いたい人に会っておくこと。そうした焦りが年齢を重ねた人ほど強いことは自明の理です。
さらに昨今の為替や旅費の動向が、少しでも(安いうちに)早く決めて行かなきゃ、と背中を押します。行きたい場所があり、「いつか時間ができたら行きたい、いや、行くなら今だ」という気持ち。その気持ちが強い人ほど、誰かと都合を調整し合うことを待てないのかもしれません。
■友達旅行の「賞味期限」と、一人旅のはじまり
さらに、自我と妥協の落とし所はタイミングの問題だけにとどまりません。相手が家族であっても親しい友人であっても、日常ではないからこそ、つまり、時間とお金をかけた特別な機会だからこそ、自分の「~したい」を諦めたくないという気持ちが強くなっていきます。
タイミングの違い、経済感覚の違い、旅のこだわりの違い。こうした「違い」が積み重なっていくと「あの人とはホテルのランクが合わない」「歩くペースが違う」「食べたいものが全然違う」「見たいお店の好みが合わない」などなど。些細なことで気を使い続ける旅は、心身を疲弊させます。
食事の時間だけ決めて再集合する、という楽しみ方もありますが、いずれにしても一人時間を大切にしたい思いは共通です。
自分時間を満喫するために旅に出る。
人生100年時代といえども、健脚と丈夫な内臓、気力や体力、いつ始まるかわからない親の介護…。それらを考えると残された時間に追い立てられるように「今のうちに」と旅支度が始まるのです。
多彩さを増す「おひとり様」限定ツアー、強者も増加中
さて、増加する一人旅の外的要因のひとつが、旅行会社による「おひとり様限定」プランの充実です。日帰りバスツアー、国内旅行、海外旅行、いずれのカテゴリーでもこうしたプランは増える一方です。純粋な一人旅とはやや趣が異なるかもしれませんが、「おひとり様参加」専用のプランは、はじめから一人部屋が設定されているため、割増料金の悩みから解放され、効率的に見所や観光スポットを巡れる点も含め、コスパもタイパもあらゆる面で合理的といえます。
事実、「Dockpit」での50代60代の検索キーワードを見ても「一人旅ツアー」が「一人旅」に次いで2位に、また上位には「クラブツーリズム 一人旅」があがっています。
図:50代・60代の「一人旅」検索ワードランキング上位
調査対象:スマートフォン、PC
調査期間:2025年6月~2026年5月
実際にそうした総合旅行代理店のサイトへのアクセスも上位です。
図:50代・60代の「一人旅」検索者の流入サイト
調査対象:スマートフォン、PC
調査期間:2025年6月~2026年5月
ところで実際にあしたのシニア世代のおひとり様が多いツアーに参加すると、その賑やかさが際立っています。夫婦や家族で参加している方々は基本的に同伴者との会話が中心となりますが、おひとり様参加メンバーたちは縦横無尽に話し相手を変えながら、旅の情報交換に余念がありません。
「あのクルーズ船はこの部屋タイプが狙い目」「あの旅行会社なら添乗員は◎◎さんがお薦め」「□□会社のツアーは時間の使い方がうまい」など、旅慣れた強者揃いのひとり参加者たちは、時にメモをとりながら食事を楽しみ、今後の旅行のブラッシュアップに熱心です。
■ソロクルーズ、ついに「ひとり部屋」が飛鳥Ⅲに登場
さて、以前クルーズ旅行についても取り上げましたが、クルーズにおいても「一人旅」は存在感を増しています。
まず、一人旅テーマに直結する注目の動きがありました。2025年就航した飛鳥Ⅲでは、これまでの飛鳥クルーズにはなかった(そして通常のクルーズ船には珍しい)一人部屋として19.4㎡の「ソロバルコニー」が新たに設定されたのです。
クルーズ船に限らず、一般的なツアー旅行は二人部屋利用がデフォルト。1人利用希望時には割増料金が課せられるのが常識でした。「ひとりでクルーズに参加したい」という潜在需要に応える形で登場したこうした部屋タイプは、確かに新しいクルーズライフを生み出していきます。
【関連記事】クルーズ船に「ステータス」を期待する若年層、「地に足のついた贅沢」を求めるシニア|あしたのシニア
https://manamina.valuesccg.com/articles/4552クルーズ船人気が再燃しています。かつて定年後のご褒美だったクルーズ旅行は、いまやカジュアル化が進み客層も若返っています。この変化の背景には、令和のシニアが求める新しい贅沢のかたちがありました。データ分析から見えてきたシニアの「地に足のついた贅沢」とは何か、クルーズ旅行の魅力を通じて探ります。
■極上の「一人洋上ホカンス」
部屋にこもって本を読むのも、バルコニーで海を眺めながらルームサービスの食事を楽しむのも、ドレスアップしてダイニングやバーで非日常の一夜を過ごすのも、すべてひとりで、誰にも遠慮することなく自分のペース。しかも船が港から港へと運んでくれるため、移動のたびのパッキングの煩わしさや疲れもほぼゼロです。これはまさに海の上のホカンス!
そうした「洋上ホカンス」を満喫すべく、思い切って飛鳥Ⅲに初チャレンジしてきました。
プールデッキから寄港地の眺め
通常の一人旅とは段違いの気合いを入れてパッキングしたスーツケースを転がしながら乗船したものの、計画段階からはしゃぎすぎていたため、自分が船酔い体質であることをすっかり失念していました。シャンパンに酔う前に船に酔い、丸一日、丘に打ち上げられたマグロかアザラシの如くベッドの上で過ごすこととなり、悔しい思いだけが残りました。
一人旅が日常を律する軸になる
一人旅に限りませんが、旅を楽しみ尽くすためにもっとも必要なこと、それは頭もカラダも丈夫であること、そして柔軟であることです。さまざまな新しい刺激を楽しめるかどうかは、変化を受け入れる柔軟さにかかっています。
しかも、一人旅の魅力は旅の中にだけあるわけではありません。一人旅は日常生活における「マイルストーン」として機能しています。
「来年の春、初めてひとりでヨーロッパを回る」と決めた瞬間から、その人の日常は変わります。行くために体を整える(健康管理)、行くためにお金を用意する(貯蓄)、行く場所の情報を仕入れる(知識と情報力)、出発前から現地の過ごし方までの工程管理をする(スケジュール管理)。旅という非日常プロジェクトが、日常の過ごし方をあらゆる分野で変えていくのです。
海外であろうが国内日帰り旅行であろうが、基本は同じ。これは「いつか行きたい」という漠然とした夢とはまったく異なります。「行くために、今日から動く」。これがあしたのシニアの一人旅です。
実りの時期を一人、かみしめる。あしたのシニアの「誰かを想う」一人旅を
以前、「女の一生プロジェクト」と称して女性の一生におけるさまざまな変化の局面を研究したことがあります。身体変化、ライフステージ変化、意識変化等の重なりや影響をみていったものですが、その際、「女性の50代は自分のために時間をつかえる黄金期である」との気づきがありました。
昨今は生き方も当時より多様になり、育児と介護のダブルケアに携わる50代も増えています。一人旅どころではない50代60代も多いでしょう。しかしやはり、俯瞰してみれば50代60代は「実りの時期」として旅を、とりわけ一人旅を楽しめるラストチャンスの時期ではないでしょうか。
これまで仕事や家族の事情に合わせて動いてきた長い時間。そのなかで積み重ねてきた知識と経験、そして家族やさまざまな人たちとの思い出の数々。そうした土台があってこそ、旅という「出発した場所に帰ること」が前提の、限られた自分だけの贅沢な時間価値が実感できます。
日帰りだろうが、海外だろうが、旅の途中途中で誰かの顔を思い浮かべながらお土産を選べる幸運を一人かみしめる。あしたのシニア世代だからこその一人旅の醍醐味です。
【無料レポート】2026年旅行予約トレンド調査 ~ 東北は「地元志向」、四国は「都市圏志向」などエリア別ニーズが浮き彫りに
https://manamina.valuesccg.com/articles/4788WEB上で宿泊を伴う旅行予約を実施した人に対して、旅行先や予約と旅行出発日の日数差の分析を行いました。2026年は春(ゴールデンウイーク)・秋(シルバーウィーク)ともに5連休となる日並びのよさを背景に、数日間の滞在を伴う中期的な旅行ニーズが高くなると考えられます。旅行先のトレンドや旅行予約の実態を2025年の旅行予約データから明らかにします。※資料は記事内の入力フォームより、ダウンロードいただけます。
〈あしたのシニア 感情デザイン・チャレンジ〉
あなたが担当するあしたのシニア向け商品・サービスに「ひとり利用」のシーンはありますか?
「ひとりだからこそ」の体験価値を、10個書き出してみてください。
そこから見えてくるインサイトは何でしたか?








戦略コンサルタント。株式会社ウエーブプラネット代表取締役。
慶應義塾大学卒業後 、商業施設の企画開発会社にてターゲット戦略やコンセプト開発 、未来のくらし研究を担当。
1993年に株式会社ウエーブプラネットを設立。生活者研究、各種インサイト探索調査、コンセプト・ナビゲーション、コンサルティングなどを通して、トイレタリー ・飲料・食品・化粧品・住宅・家電・住設など、 さまざまな大手企業のマーケティング支援に携わっている 。時代と生活者の価値観やインサイト、企業理念等を言語化していくプロセスに定評がある。
近著『いちばんわかりやすい問題発見の授業』