近年、中国の若者を中心に「微醺(ほろ酔い)経済」が注目を集める中、お茶の香りとビールの爽快感を融合させた“新中華スタイルお茶ビール”が急速に人気を広げています。従来の酒文化とは一線を画す、軽やかで健康志向な飲酒スタイルとして、茶ビールは単なる飲料ではなく、新たなライフスタイルの象徴になりつつあります。
「微醺(ほろ酔い)」新しいお酒の楽しみ方
“微醺”「ほろ酔い」とは、ほどよく酔って気分が和らぐが、意識ははっきりしている状態を意味します。ストレス社会に生きる中国の若者たちにとって、これは自分をねぎらう手段であり、心を癒す儀式でもあります[1][2]。かつての「飲み放題」「豪快に酔う」といった文化とは異なり、近年のトレンドは「適度な飲酒」「自分のための時間」「社交的かつ控えめな酔い」へとシフトしています[2]。
実際、2023年の中国における小規模酒場市場は約1488億元(約3兆円)に達し、2027年には1800億元を突破する見通しで、[3]1000人以上の中国の居酒屋消費者に対する調査では、「ほろ酔い」が理想的な状態とされ、約47.2%の消費者が「ちょっと酔うくらいがちょうどいい」と回答しています[3]。
新中華スタイルお茶ビールは、まさにこうした消費トレンドの中で急速に台頭してきたカテゴリーです。和仕コンサルティンググループのデータによると、2023年の中国における“養生茶飲料”市場規模は4116億元に達し、前年比27.3%の成長を記録しました。さらに、2025年には“新スタイルの茶飲料”市場が3749.3億元に達すると予測されています[4]。これらの数字は、消費者が新中華スタイルお茶ビールに強い関心を寄せていること、そして市場での高い受容度を裏付けています。和仕コンサルティンググループは、新中華スタイルお茶ビールや新しいタイプの茶系飲料が今後も大きな成長ポテンシャルを持ち、数年以内に市場規模が4000億元を突破する可能性が高いと見ており、飲料業界の新たな成長エンジンとなることが期待されています。
茶×ビール=味覚革命! Z世代の新定番に
一般的な工業系ビールは、コスト効率を重視した単一モルトの発酵製法が主流で、味わいに個性が乏しいとされてきました。一方、“茶ビール”は、クラフトビールの技術革新によって誕生した新ジャンルです。
クラフトビールはもともと、多様性や独自性を大切にする文化が根付き、繊細かつ複雑な素材である茶葉を活かすには絶好の土壌です。茶ビールは、東洋の茶文化がもつ爽やかな香りと、西洋ビールのコク深い味わいを融合させた飲料で、アルコール度数は3〜5%程度と控えめ。ちょうど「ほろ酔いでいたい」という若者の心理にフィットしています[5]。また、茶葉に含まれる茶カテキン(ポリフェノール)やカフェイン、アミノ酸成分と、ビールに欠かせないホップ由来のα酸・β酸が合わさることで、複層的なフレーバーと健康志向の両立を実現。茶ビールは、“パンク養生”や“ライトな社交”の象徴として、Z世代から熱い支持を集めています[5][6]。
現在市場には、緑茶やジャスミン茶を使用した製品をはじめ、信陽毛尖(シンヤンマオジェン)や西湖龍井(ロンジン)、普洱(プーアル)、大紅袍(ダーホンパオ)といった地域の銘茶を取り入れた高級志向・個性派の茶ビールが次々登場しています。たとえば中国の大手ECサイト「京東(JD.com)」で「茶ビール」と検索すれば、「龍井毛尖小麦ジャスミン茶クラフトビール」や「中華風クラフト毛尖ビール」など、地方色と文化的背景を活かした商品がずらりと並びます。
ブランド戦略の面でも、注目すべき事例が続々と現れています。たとえば、老舗白酒ブランド・瀘州老窖(ルージョウラオジャオ)は、伝統的な白酒に茶の要素を融合した「茗酿(ミンニャン)茶香型酒」をリリース。梅酒ブランド「梅見」は、茶ブランド「八馬茶業」と共同で大紅袍を使用した梅酒を開発。さらに、新式茶飲で知られる「茶颜悦色(チャーイエンユエセ)」は、小規模居酒屋「昼夜詩酒茶」を立ち上げ、ティーカクテルをメインに据えた新感覚の飲酒スタイルを提案しています[7]。
こうした製品群は、単なるフレーバーのバリエーションを超えた“文化体験”の提供にもつながっています。消費者にとって、茶を飲むことは味覚の楽しみであると同時に、文化への参加でもあり、またお酒を飲むことも、もはや“付き合い”や“泥酔”の象徴ではなく、「節度をもって、自分のスタイルで楽しむ」洗練された生活選択へと変化しています。
新中華スタイルお茶ビール戦国時代へ? 商標争奪も激化
急成長を遂げる新中華スタイルお茶ビール市場では、ブランド間の競争も激化しています。
2024年1月から11月の間に、「茶ビール」関連の商標出願件数は前年比230%増を記録[8]。そのうち60%以上がビール(第32類)と茶飲料(第30類)に集中しており、企業が商標を“ブランド防衛の砦”と捉えていることが明らかになっています[8]。
実際に、金星ビールが「信陽毛尖中式精釀ビール」という商品名で発売した際、商標トラブルにより「金星毛尖」へと名称変更を余儀なくされ、市場での認知やプロモーションにも影響が出ました。この事例は、伝統的な酒造企業におけるブランド戦略の弱さを浮き彫りにしています[8]。
一方で、ミルクティーで有名な「蜜雪冰城(ミーシュエビンチョン)」、新小売ブランド「盒馬(フーマ)」、スナックメーカー「三只松鼠(三つ子のリス)」など、異業種からの参入プレイヤーも続々と“茶×酒”関連の商標を出願。将来の新商品ラインを見据えた先行投資として動き出しています[8]。
このような動きは、消費者の味覚の変化に対する積極的な反応であり、また現在の“味の内巻き(フレーバー競争)”が過熱する市場において、差別化を図る重要な戦略の一環とも言えます。
さらに、果実フレーバービールの成功事例からも、新中華スタイルお茶ビールが学ぶべきヒントは多く存在します。ライムやラズベリー、チェリーなどの複合フレーバーの人気、そしてDIYカクテルやコンビニでの“その場で飲む”スタイルの普及は、新中華スタイルお茶ビールが広がるための応用可能なモデルです[9]。
まとめ
今後、茶ビールは単なる飲み物としてだけでなく、“飲酒シーンのトータル提案”として進化し、バー、レストラン、コンビニ、ホームパーティーなど多様な消費シーンでの存在感を強めていく可能性があります。
中国発の“茶ビール現象”は、日本の居酒屋文化とも親和性が高いかもしれません。日本でも「ほろよい」や「お茶ハイ」など茶系アルコールが登場していますが、まだ主流ではありません。
“中華美学・地域性・健康・社交性”を融合した中国の茶ビールは、日本の飲酒文化に新しい刺激をもたらすかもしれません。
[1] 新京报.(2024).“微醺经济”进旺季. 「“微酔経済”が繁忙期に突入」
来源:https://m.bjnews.com.cn/detail/1717387016168619.html
[2] 北京商报.(2025). 锅圈跨界酒饮,“微醺经济”催生场景战. 「鍋料理業界、酒類業界とクロスオーバー――“微酔経済”がシーン戦を巻き起こす」
来源:https://xinwen.bjd.com.cn/content/s68009ccee4b068c68f127c4a.html
[3] 艾媒咨询(iiMedia Research).(2024–2025). 《中国小酒馆行业发展及典型企业研究报告》(报告编码 IM43649). 『中国居酒屋業界の発展および代表企業に関する研究報告(報告コード:IM43649)』
来源:https://report.iimedia.cn/repo7-0/43649.html
[4] 和仕咨询集团.(2024). 预计2025年,中国新式茶饮市场规模将达3749.3亿元. 「2025年には中国新しいスタイル茶飲市場の規模が3749.3億元に達する見込み」
来源:http://www.hers-group.com/N-Consumerretail/3124.html
[5] 新浪财经.(2025). 中式茶啤爆火,一场东方风味的味觉革命. 中国お茶ビールが大ブーム、東洋風の味の革命」
来源:https://finance.sina.com.cn/cj/2025-05-12/doc-inewhhpk3213867.shtml?froms=ggmp
[6] 东方财富网.(2024). 茶+酒打开想象空间 品类发展仍需定力. お茶+お酒の融合がもたらす想像力、カテゴリー成長には持続力が必要」
来源:https://finance.eastmoney.com/a/202411293255241169.html
[7] 新浪财经.(2025). 茶酒搭“火” “烧”出百亿元微醺生意?|茶酒新消费观察. 「お茶とお酒が“炎上”し、百億元規模のほろ酔いビジネスを生む|新しい茶酒消費観察」
来源:https://finance.sina.com.cn/roll/2025-01-24/doc-inehatrw2555271.shtml
[8] 搜狐新闻.(2024). 信阳毛尖、西湖龙井遭疯抢!茶啤商标战背后,地域茶IP价值几何?「信陽毛尖・西湖龍井が爆売れ!茶ビール商標戦の裏にある地域お茶のIPの価値」
来源:https://www.sohu.com/a/904112069_121899863
[9] 数英.(2025). 2024果啤趋势报告:精酿果啤2.0时代,如何抢占微醺经济新场景? 「2024年果実ビールトレンドレポート:クラフト果ビール2.0時代、ほろ酔い経済の新たなシーンをいかに攻略するか?」
来源:https://www.digitaling.com/articles/1347583.html









文章を書くことと、人の気持ちや社会の動きに目を向けることが好きで、現在は日々のニュースを自分なりの視点で追いかけています。中国出身で、現在は日本で学びながら生活しています。ふとした日常や、見過ごされがちな出来事の中にも、誰かの心に残るストーリーがあると信じています。そんな想いを込めて、ひとつひとつの記事を綴っています。