中国の若者が「自愛」に目覚める、そのトレンドは?

中国の若者が「自愛」に目覚める、そのトレンドは?

2025年11月、SNS上で発信された投稿に載せられた「愛你老己 (アイ・ニー・ラオ・ジー)」というフレーズが中国の若者たちの間に広がり始めました。自分自身へ大切にしているよと呼びかける、短いながらも現代の若者の価値観を反映したこの言葉は、彼らの生活や消費行動にどのような影響を与えているのでしょうか。この記事では 、「愛你老己」という言葉が生まれた背景やそれに伴い生まれた消費トレンドを紹介します。


「愛しているよ、自分」に集まる共感

若者たちの中で瞬く間に広がっていった「愛你老己(アイ・ニー・ラオ・ジー)」ですが、もとになったのはオンラインゲーム《League of Legends》内に登場する「愛你老媽,明天見(お母さん愛してるよ、また明日)」という台詞です。
この「お母さん」の部分を「自分」に置き換え「自分のために文旦の皮を剥いてあげた」というショートビデオと共に発信された投稿が、面倒くさがりつつも自分を甘やかすリアルさによって多くの人の共感を集めました。
その後「#愛你老己」というハッシュタグがREDでトレンド入りし、30日間でトピックの閲覧数は6億近くに達しました。

「愛你老己」の広がりは2025年の流行語Top10入りを果たすまでに至りましたが、この言葉の意味は《2025年度ネット流行語レポート》において以下のように紹介されています。

「若者は、親友を気に掛けるのと同じように自分のことも気に掛けることができると気づき始めた。……他者から関心を向けられるのを待つよりも自身の要望を積極的に満たす方が良い。……このネットミームは現代の若者の共感を的確に射抜き、抽象的な『自愛』を見て触れることができる日常的な実践に変化させた」。

つまり、この言葉によって人々が日々の生活の中で自分自身を労わる行動を促されるようになったと言えます。
また、とあるデータによれば「愛你老己」に関連するトピックの参加者のうち、24~30歳が45%を、18~23歳が23%を占めており、このフレーズが現代の若者たちの心理的な需要に合致していることが窺えます。

自分自身を大切にするというこの価値観は、彼らの生活や消費行動にどのように影響しているのでしょうか。以下では、トレンドの消費スタイルや「愛你老己」の実践例を紹介します。

感情的価値の高まりと「悦己経済」

自愛を促す「愛你老己」の広がりには、現代の若者が競争社会や孤独感に直面しているという背景があります。彼らは、現実社会のプレッシャーや予測不可能な未来の不確実さに向き合う中で「モノの所有」から「体験の享受」を重視するようになりました。
以前のようにむやみに高額な商品や機能性に特化した商品を購入するのではなく、自分自身の感情的なニーズをしっかり満たす目的での比較的低コストでリアルタイムに楽しむタイプの消費が主流になっています。

個人の感情を重視した消費が行われる感情経済は近年成長しており、iiMedia Researchのデータによるとその市場規模は2024年に23077億元に達し、2029年には4.5万億元に達することが予想されています。
消費者が自分の身の丈に合う範囲で感情的なニーズを満たす消費のスタイルは「悦己経済」と呼ばれ、《2025Z世代感情消費レポート》によると、感情的価値で購買する悦己消費を行う層は前年比16.2ポイント増加の56.3%に達しています。

このように成長を続ける「悦己経済」ですが、以下では彼らが楽しむ悦己消費の具体例を見ていきます。

悦己消費の一例として、ティードリンクブランド・HEYTEAではユーザー自身が創作した画像をラベルにできるキャンペーンが行われ、ドリンク消費に付加された創作体験の楽しさによって人気を集めた。
(画像はhttps://baijiahao.baidu.com/s?id=1853702691288707123&wfr=spider&for=pcより)

一人でも皆とでも楽しめる「ブラインドボックス」

日本と同様に中国でも「推し活」が流行しており、二次元キャラクターやアイドルなどに関連するグッズの購買が消費分野の大きな一角を占めています。その中でも感情的価値をもたらすグッズとして人気が高まっているのが「ブラインドボックス」です。
「ブラインドボックス」はその名の通り、購入して開封するまでラインナップのうちのどのグッズが入っているかがわからない商品です。このような販売の仕組みによってもたらされる期待感が多くの人々の購買意欲を多いに刺激しています。
推し活グッズのほかに、2025年後半に日本にまで人気が押し寄せた「ラブブ」といったトレンドトイの「ブラインドボックス」も人気が高まっており、《2025閑魚次元年度レポート》によるとトレンドトイの「ブラインドボックス」注文数は前年比250%の激増となりました。

とある愛好者は「毎回不思議なプレゼントを開けているような気分で、あの期待と興奮は言葉にできない」と語っており、「ブラインドボックス」は感情的な体験や満足感をもたらす消費となっています。
また「ブラインドボックス」には消費者によるコミュニティが形成されており、収集や開封の体験をシェアし合うことも社交的なニーズを満たす方法として楽しまれています。

REDに投稿された「ラブブ」ブラインドボックスの開封動画
(http://xhslink.com/o/2hpLXAQ2Wrc)

感情的共鳴を体験する老己旅行

「愛你老己」がもたらした価値観は旅行場面においても反映されています。
2026年に入ってから、「老己旅行」という自分を大切にして自分を喜ばせるための旅行スタイルがトレンドとなっており、特別感や感情的価値のある体験や密度の高い文化体験が好まれています。
携程による《2026元旦旅行レポート》によると、2026年始期間における中国全土の観光地の予約数は前年同期比4倍以上の増加となりました。
また旅行者層のうち2000年代生まれの若者が39%を占めており、若者が年末年始の老己旅行の主力となっています。

各地の観光スポットにおいても老己旅行のニーズに応えた催し物が行われています。
例えば新疆ウイグル自治区ブルチン県では、冬季ならではの雪や文化、民俗をテーマにした観光プランが用意されました。旅行客は吉克普林国際スキー場やスケートリンクでウィンタースポーツを楽しめるほか、「羊取り」「草原競馬」「姑娘追」といった伝統的な競技イベントに参加することができ、感情的価値の高い体験が人気となりました。

REDに投稿された新疆ウイグル自治区での老己旅行の様子
(左: http://xhslink.com/o/2BxkHGJQiXD  右: http://xhslink.com/o/3QaPVc2kPjw )

まとめ

この記事では「愛你老己」をキーワードとして、若者による自分自身を大切にするために感情的価値のある体験を重視した消費トレンドを紹介しました。
理性的な消費傾向においても、高額商品に劣らない満足感を得られる悦己消費はますます広がっていくでしょう。
今後もどのような分野に悦己消費の新たなトレンドが現れるのかが注目されます。

参考URL

爆火全网的 “爱你老己”是什么梗?起源、含义全解析
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1854351914779648137&wfr=spider&for=pc
“爱你老己” 千万级互动,小红书数据揭秘今年治愈流量
https://news.sohu.com/a/972991283_121967139
悦己经济成中国消费市场提质升级重要引擎
https://gr.cri.cn/2026-01-13/3d02019e-87f1-489a-86db-38adcf256984.html
何山海: “悦己经济”塑造消费新趋势
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1854244194827314825&wfr=spider&for=pc
盲盒热潮:在未知中探寻收藏的乐趣与文化价值
https://post.smzdm.com/p/avd7kgop/
从“爱你老己”看一杯奶茶背后的 “情绪经济”
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1853702691288707123&wfr=spider&for=pc
“老己游” 引爆布尔津文旅 2026 开年新热潮
https://m.thepaper.cn/newsDetail_forward_32414197
“老己游” 点燃中原文化新热潮!河南文旅热度跃居全国前列
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1853437352638579171&wfr=spider&for=pc

この記事のライター

早稲田大学在学中。

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