グロースサイクル(体験設計のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

グロースサイクル(体験設計のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

リサーチャーの菅原大介さんが、ユーザーリサーチの運営で成果を上げるアウトプットについて解説する「現場のユーザーリサーチ全集」。今回はグロースサイクル(体験設計のアウトプット)について寄稿いただきました。※本記事は菅原さんの書籍『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)と連動した内容を掲載しています。


1.グロースサイクルとは

●全体像イメージ

グロースサイクル

●概要

グロースサイクルとは

グロースサイクルとは、組織や事業がどのようなロジックで成長を目指しているのかを一枚絵で共有するアウトプットです。最大の特徴は循環型のモデルで、自社にとって論理の飛躍が無い状態で継続的・持続的な成長を目指します。

図では組織の主活動を1つのサイクルとして構成し、ユーザーのリピート、事業運営、マーケティング、プロモーションなどのサイクルを複合的に並べ、従業員がそれぞれの有機的なつながりを意識できるように可視化していきます。

組織方針はしばしば「○○戦略」のような形で各責任者から従業員に示されますが、それぞれの領域の個別性・専門性が高いと聞き手の中では情報が交わらなくなってしまいます。結果的に達成目標と目玉施策だけが印象に残ります。

グロースサイクルを使うと、個別の事業戦略・機能戦略を組織活動全体の中で誰もが捉えることができます。またリサーチ結果から提案を行う際に、このモデルを検討することで全体の意識を整えていく用途にも最適な成果物です。

このフレームワークは、note株式会社でCXOを務める深津貴之さんがnoteとしてのグロースモデルを提唱されて以降、よく認識されるようになりました。また私自身は作成や実践にあたり、以下の記事から学びをいただきました。

▼グロースサイクルの本質とは何か?
https://note.com/ku_ni_29/n/na5dcb441e8d4
(エクスペリエンスデザイナー・國光俊樹さんが書かれている、グロースサイクルの要点をまとめた記事)

▼デザインと開発の分断を乗り越え、チームでアウトカム検証を回すプロセス
https://note.com/ryosuke_magazine/n/nbda26c2c0e40
(株式会社Gaudiyのプロダクトマネージャー/UXデザイナー・Ryosukeさんが書かれている、グロースサイクルの模範例を含む記事)

●構成要素

グロースサイクルの作り方(構成要素)

グロースサイクルの構成要素は以下のようになります。
※構成要素に明確な定義が存在するわけではなく、以下はプロダクト運営に適したモデルとして筆者が選定したものです。

①リピートサイクル

・ユーザーがサービスをリピート利用する仕組み

②事業運営サイクル

・セールス活動やブランド浸透が成り立つ仕組み

③マーケティングサイクル

・ユーザーの集客や話題の拡散を増幅する仕組み

④プロモーションサイクル

・主要な施策や機能によって活用を促す仕組み

⑤データ分析サイクル

・ユーザーデータを分析して利活用する仕組み

●よくある課題

グロースサイクル よくある課題

「我が社の戦略・方針とは?」
⇒この質問に一枚で答えるためのアウトプット

①組織方針の中に「○○戦略」が乱立している

組織での期首方針や中期計画の共有の折、「○○戦略」が乱立して何が重要事項かわかりづらくなることがあります。経営戦略、営業戦略、マーケティング戦略、プロダクト戦略など、各部門が個別発表する形式で発生しやすくなります。

もちろん戦略が構造的に展開されている場合(経営戦略に基づく事業戦略・機能戦略という関係性など)は良いのですが、各部門がそれぞれを中心とした世界観で構想を示すと、従業員は概して別個の方針として認識してしまいます。

②戦略の中身が花形の単体策に依存している

戦略の発表では、「アドバルーン」があると手っ取り早く期待感を出せます。典型例は、大型宣伝、リブランディング、新商品開発などです。いずれも新しさや規模感を訴求するにはうってつけで、成果がわかりやすい取り組みです。

しかし、戦略の中身がこうした花形の単体策に依存していると、それを取り扱う主管部門(もしくは執行部)とそれ以外という構図になりがちです。そうすると一般従業員は部外者状態となり結果的に短命の取り組みに終わります。

2.作り方

グロースサイクルの作り方(作成手順)

①中央にリピートサイクルを作成する

・自社のサービスモデルで基本となる業務KPIの流れを整理する
・各オブジェクトにアウトカム(業務の達成成果)を記載する
・オブジェクト間をつなぐ矢印は実線で目立たせる

<オブジェクトの書き方>
・「○○が増える」→基本の表現
・「○○の成果が上がる」→付帯的な効果の表現

②周囲に主活動のサイクルを作成する

・プロダクト運営の主活動となるサイクルを記載する(前出の構成要素を参照)
・各サイクルのタイトルを囲うように矢印をつないで円を完成させる
・オブジェクト間をつなぐ矢印は点線だと囲みを認識しやすい

3.使い方

グロースサイクルの使い方

①横断的に組織の主活動の連続性を捉える

見本の図をご覧の通り、グロースサイクルでは横断的に組織の主活動を捉えることができます。各従業員はもちろん個別の施策や機能の動向を気にしていますが、全体方針共有の場面ではどのような成長モデルかを示す方がより大事です。

またこの成果物は、組織の方向性を決める類のリサーチ後に、執行部全員で共通認識を得るワークショップの最終成果物とする用途にも最適です。ベースの下絵は固定にしておき、アレンジだけミニワークを実施する進行がおすすめです。

②新しい方針を全体の枠組みの中で捉える

新しい方針をグロースサイクルに当てはめてみると、既存の取り組みにどうフィットするのかを可視化できます。この図は普遍的な組織活動を描いており、そこに新しいファンクションが追加されることの価値が認識されやすくなります。

もし図の中に当てはまる場所が無い場合、残念ながら健全な成長には貢献しない取り組みとして認識する機会になります。何らかの事情で推進せざるを得ない場合も、皆が過度な期待をかけることなく、ひたむきに業務を継続できます。

この記事のライター

株式会社アイスリーデザイン
chapter UI/UXデザイングループ スペシャリスト
菅原大介

リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、日系最大手のマーケティングリサーチ会社で月次500問以上を運用する定量調査のディレクター業務を経験。総合ECサイト・アプリを運営する大手事業会社でデジタルプロダクトの戦略企画を担当したのち、現在は株式会社アイスリーデザインでUI/UXデザインの支援・研究に携わる。

デザインリサーチとマーケティングリサーチのトレンドをウォッチするニュースレター「リサーチハック101」を個人で発行するほか、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして活動や記事の監修も行っている。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)、『リサーチからはじめる仮説ドリブン・マーケティング』(WAVE出版)

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