1.クリエイティブブリーフとは
■●全体像イメージ
■●概要
クリエイティブブリーフとは、クリエイティブ制作にあたり必要となるユーザーやビジネスの背景情報を一枚にまとめたアウトプットです。制作実務に入る前段階で関係者の意識をすり合わせる(=ブリーフィングを行う)ために使います。
もともとは広告の世界で発達した制作手法であり、プロダクトマネジメントの文脈ではユーザーが目にしたり手に取ったりするモノ(例:バナー・刊行物・カード)を扱う「コミュニケーションデザイン」領域を代表するドキュメントです。
特にマーケティング施策におけるターゲット像をすり合わせるには多くのユーザー情報を必要とするため、リサーチの貢献度が高い資料でもあります。それゆえ、ビジネス部門と相対する時にデザイナーが話を主導しやすい利点があります。
■●構成要素
クリエイティブブリーフの構成要素は以下のようになります。
①ターゲット
・当該施策のターゲット層(属性・ステータス)
<インプット>
・ユーザープロファイル
・ペルソナ
②インサイト
・ターゲットユーザーのインサイト(潜在的なニーズ・価値観・志向性)
<インプット>
・N1の分析
・キーインサイト一覧表
③ユーザーの現状
・ユーザーの現在の状態(Before)
<インプット>
・ユーザーペイン
・バリュープロポジションキャンバス
④ビジネス価値
・当該施策のビジネス面での価値(アウトカム・KPI)
<インプット>
・中計(経営方針)
・キックオフ資料(事業方針)
⑤ユーザー価値
・当該施策によるユーザーの価値(ゲイン・解消されるペイン)
<インプット>
・価値マップ
⑥プロポジション
・当該施策でねらうポジショニング(会社・サービス・プロダクト)
<インプット>
・リーンキャンバス
・バリュープロポジションキャンバス
⑦ユーザーの未来
・ユーザーの未来の状態(After)
<インプット>
・カスタマージャーニーマップ(TO-BE)
・ストーリーボード
⑧コンセプト
・商品・サービスのコンセプト
<インプット>
・コンセプトブック
⑨デザイン原則
・プロダクトのデザイン原則
<インプット>
・デザインガイドライン
⓾トーン・マナー
・色合い・情報量・画面構成などに関する基本方針
<インプット>
・デザインガイドライン
⑪ベンチマーク
・クリエイティブを制作するうえでの参考イメージ
<インプット>
・ターゲット層や提供価値が近しいサービスのクリエイティブ
※インスパイアを受ける以上に引きずられないように注意する
⑫掲出箇所・出稿媒体
・クリエイティブを掲出するウェブ・アプリ上の場所
・クリエイティブを出稿するメディア・チャネル名称
<インプット>
・PRD(機能開発の企画書)
・マーケティング施策の企画書
■●よくある課題
「デザイン制作物の方針を取りまとめるのが大変…」
⇒この悩みに一枚で答えるためのフレームワーク
①オリエンにデザインの手がかりが無いケース
デザインの制作依頼時のオリエンには、ぶ厚いキャンペーンの企画書や何種類も存在する戦略のドラフトなど、ビジネス部門で使用されているそのままの参考資料がしばしば用いられます。こうした資料は、デザイナーには読み込んで解釈する負荷が高いものです。
さらに依頼主の「こだわり」や「好み」がレビューの判断基準になると、デザイナーにはデザインの着地が見えず制作プロジェクトは難儀します。制作実務にあたっては、デザインを起こすための「ターゲット」や「メディア」に関する情報の方が有益だからです。
②制作の進行がリリース日ありきで進むケース
キャンペーンや大型宣伝など制作現場では、リリース日に間に合わせるために制作物を突貫で作成することがあります。たいていこのような大型案件では、施策のパッケージを固めることに討議時間が費やされてしまい、制作用の時間がほとんど取れないものです。
実際にこの状態でリリースにこぎつけても、制作物の情報設計やUI/UXの品質が課題となったり、修正対応が相次いだりしてあまり良いことはありません。そしてより難しいのは、確固たる依頼・相談フローが存在していても、こうなる時はなってしまうことです。
2.作り方
①各項目の大分類を行う
・Who/誰に
・What/何を
・How/どのように
・Where/どこで
②要件・定義を記載する
・ターゲット情報
・プロポジション
・ユーザーの変化
・ブランドのコア
・デザインの狙い
③課題・仮説を記載する
・各項目における、狙い、位置づけ、補足
④根拠・出典を記載する
・記入にあたり参照した資料・データの名称
3.使い方
①ビジネス要件・デザイン要件を整理する
クリエイティブブリーフは制作物のプランニングを戦略レベルから整理していくことが特徴です。もともと広告制作のシーンから広まったこともあり、上流工程のヒアリングに適しているのです。縦割りの組織だと方針すら十分に共有されないこともあるでしょう。
ブリーフの作成時にはフォーマットを作る立場を活かして、見本の図にあるように、ユーザー要件、デザイン原則などデザイン側の要件も盛り込んでいくようにします。こうすることで、情報をすり合わせるだけでなく、デザインの根拠を提示しやすくなります。
②事後リサーチによるギャップ分析を行う
クリエイティブブリーフを活用しようと思っても、実際には情報がきれいに揃わず、締切優先の制作進行になることもあるでしょう。そうした上手くいかないケースも含めて、事後リサーチを行って、今回のねらいがどこまで的確だったかを振り返るようにします。
そこで図表にあるような「検証レポート」を作成して、「誰に」「何が」「どのように届いたのか」を観測し、考察・仮説をまとめます。ブリーフとリサーチの大項目(Who・What・How)を一致させ、活動の一貫性を保てるようにしておくことがポイントです。





株式会社アイスリーデザイン
chapter UI/UXデザイングループ スペシャリスト
菅原大介
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、日系最大手のマーケティングリサーチ会社で月次500問以上を運用する定量調査のディレクター業務を経験。総合ECサイト・アプリを運営する大手事業会社でデジタルプロダクトの戦略企画を担当したのち、現在は株式会社アイスリーデザインでUI/UXデザインの支援・研究に携わる。
デザインリサーチとマーケティングリサーチのトレンドをウォッチするニュースレター「リサーチハック101」を個人で発行するほか、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして活動や記事の監修も行っている。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)、『リサーチからはじめる仮説ドリブン・マーケティング』(WAVE出版)
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