コンセプトテスト〜定量調査編(アイデア探索のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

コンセプトテスト〜定量調査編(アイデア探索のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

リサーチャーの菅原大介さんが、ユーザーリサーチの運営で成果を上げるアウトプットについて解説する「現場のユーザーリサーチ全集」。今回はコンセプトテスト〜定量調査編(アイデア探索のアウトプット)について寄稿いただきました。※本記事は菅原さんの書籍『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)と連動した内容を掲載しています。


1.コンセプトテストとは

●全体像イメージ

コンセプトテスト|定量調査(調査票)

コンセプトテスト|定量調査(レポート)

●概要

コンセプトテストとは

コンセプトテストとは、商品・広告をリリースしたり施策・機能をプロダクトに実装する前に、コンセプト(=提供価値の概念要件を言語化・可視化したもの)の段階でユーザーの受容性を確認するリサーチ方法です。

調査ではテスト対象となる企画や機能を文章や画像の形で提示し、単一の案または複数の案について点数や印象を尋ねます。評価の観点には受容性だけでなく、新奇性、独自性、購入意向、利用意向などもよく用いられています。

この手法は調査対象物が現時点では提供されていない段階や物理的に体験するのが難しい環境でも仮想実験できるのが特徴で、プロダクト運営業務では、新サービス開発、リブランディング、広告制作などのシーンで使用されます。

アンケート調査では5段階の尺度評価(例:大変魅力的〜全く魅力的ではない)で尋ね、ポジティブサイドの選択肢の合計スコア(TOP2BOX)を計測します。このスコアを各案同士で比較したり属性ごとの傾向を調べたりします。

テストの形式について、本来は一人の回答者(または1グループ)に1つのコンセプトだけ提示・評価する単一評価のテスト方法が理想的とされていますが、この実査環境を実現しようと思うとかなりの時間と費用がかかります。

そのため現実的には、一人の回答者(または1グループ)に複数のコンセプトを提示・評価してもらう方法がよく取られています。効率性の観点からこのやり方が普及していますが、提示物が3案以上になる時は注意しましょう。

※コンセプトテストの実施方法は、調査手法と提示物の組合せ方により様々なやり方があります。本項ではシンプルに単一案を絶対評価で尋ねる方法を中心に解説します(複数案で相対評価を行う時のポイントは適宜補います)

●種類

コンセプトテスト(レポート)の作り方(種類)

コンセプトテストの種類(調査手法別の特徴)は以下のようになります。

①定量調査

・サービスの構成要素を文章形式で組み上げ、ポイントとなる箇所ごとの魅力度+全体での利用意向を尋ねる方法
・商品開発からサービス設計、マーケティング・セールスまで貫く展開構想がある場合に理想的な形式
・サービスの構成要素別に評価を尋ねるため、特徴ごとの期待感や貢献度を見比べる用途で役立つ

②定性調査

※次回解説予定です。

●構成要素

コンセプトテスト(レポート)の作り方:定量調査(構成要素)

コンセプトテスト(レポート)の構成要素は以下のようになります。

①提示物

・コンセプト文(メッセージやスローガンの一文)
・テスト用画像(P案・Q案・R案など、3案までを上限の目安にする)

②スコア(属性別)

・全体、基本属性別、登録ステータス別、行動ステータス別のスコア
・尺度評価におけるポジティブ項目の合算値を記載(5段階評価の上位2項目など)

③スコア(要素別)

・コピーテキストの構成要素別のスコア

④評価理由

・ポジティブな意見(抜粋)
・ネガティブな意見(抜粋)

●よくある課題

コンセプトテスト  よくある課題

「このアイデアはどのような展開ならユーザーに受け容れられやすいだろうか?」
⇒この質問に一枚で答えるためのアウトプット

①着想したアイデアに対して誰も確信が無いケース

企画会議のシーンでは、「やりたいことの方向性は何となくあるが、ユーザーがどの程度反応してくれるか未知数」なことがほとんどです。それゆえに、制作活動も販促活動もどこに焦点を当てて作り込むべきか暗中模索になります。

この状況では上手くいかなかった時の責任をプロジェクトの推進担当者が負うリスクが高過ぎます。開発・実装までしてしまうと改修・撤退などの後戻りがしづらくなるため、アイデア段階で検証するリサーチ体制が重要になります。

②決裁者や制作者の主観で判断されてしまうケース

同じく企画会議のシーンでは、当然ながら決裁者や制作者の意見は重みを持ちます。一方で、「○○の方向性は違う、私自身は○○だから」という具合に、主観(自身の経験と見聞)に基づいて判断が下される場合もかなり見受けます。

決裁者や制作者の得意領域である場合は良いのですが、大抵は行き過ぎた意見になってしまいます。ですので、出たアイデアをいきなり叩き潰さずに、1つの案として残しながら議論を重ねられるようリサーチの環境設計が重要です。

2.作り方

コンセプトテスト(レポート)の作り方:定量調査(作成手順)

⚫︎定量調査

①コンセプトの構成要素を記載する

・コンセプトの構成要素を一行ごとに記載する
・スペースは取るものの、省くと結果を理解しづらくなるので記載しておく

②TOP2BOXのスコアを記載する

・スコアのデータはポジティブ項目の合算値のみ記載する
・上記の措置により、グラフほど場所を取らずに結果を一覧で表示できる

③数値を裏づける意見を記載する

・定量データを解釈するのに役立つ自由回答コメントを記載する

④質問文や補足を記載する

・元質問を含む調査概要情報を記載する

3.使い方

コンセプトテストの使い方

①アイデアを数値と意見の両面から俯瞰して検証できる

コンセプトテストを行うことで、各案ごとの評価(受容性)を数値と意見の両面から可視化できます。事業者・運営者の立場だと慣れすぎて気づかない箇所も含め、ユーザーの意見を踏まえて客観的にリスクを評価することができます。

また、対象者属性ごとに結果をブレークダウンして見ると、施策や機能に反応してくれている人の層とその傾向を分析することができます。こうすることで、業界で流行している物事や手法が自分たちにも当てはまるか検証ができます。

②アイデアに備わるポテンシャルを多面的に評価できる

構成要素ごとの評価をテストする方法では、サービス企画やメインの機能について構成要素単位でそのニーズを確認することができます。調査結果は、全体としての傾向、著しく低い項目、特定層に高い項目に注目して分析しましょう。

評価観点ごとの評価をテストする方法では、新奇性、独自性、購入意向や利用意向など、評価の観点を変えて聴取できます。このバリエーションは施策や機能のKPIやアウトカムにつながる、プロダクトの出来を占う指標を設定しましょう。

この記事のライター

株式会社アイスリーデザイン
chapter UI/UXデザイングループ スペシャリスト
菅原大介

リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、日系最大手のマーケティングリサーチ会社で月次500問以上を運用する定量調査のディレクター業務を経験。総合ECサイト・アプリを運営する大手事業会社でデジタルプロダクトの戦略企画を担当したのち、現在は株式会社アイスリーデザインでUI/UXデザインの支援・研究に携わる。

デザインリサーチとマーケティングリサーチのトレンドをウォッチするニュースレター「リサーチハック101」を個人で発行するほか、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして活動や記事の監修も行っている。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)、『リサーチからはじめる仮説ドリブン・マーケティング』(WAVE出版)

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