中国のスキンケア市場は急速に変化しています。従来の広告やスターの起用に依存するのではなく、消費者は科学的根拠や実証された効果を重視しつつ、効率性・簡便性・コストパフォーマンスに優れた製品を求める傾向が強まっています。
さらに、ライト医療美容(プチ整形やレーザー治療など、比較的手軽に受けられる美容医療)の浸透やEC・ライブ配信販売の拡大によって、市場競争は一段と激化し、新しい機会も次々に生まれています。
魔镜洞察調査会社の「2024年スキンケア成分総括と2025年トレンド洞察レポート」によりますと、直近1年間における中国のスキンケア市場規模は3,165億元人民元に(約6兆7000億円)に達しました[1]。このような巨大な消費市場でブランドが生き残るためには、「スキンケアの科学化」「医療美容の日常化」「スキンケアのシンプル化」という3つの動向がカギとなっています。
スキンケアの科学化:「成分重視」から「メカニズム重視」へ
ここ数年、中国のスキンケア市場では「成分ドリブン」での消費が主流となってきました。具体的には、ヒアルロン酸、ナイアシンアミド、レチノールといった成分名が流行し、消費者は配合成分を見ただけで購入を決める傾向が見られます。
しかし2025年の今、消費者の関心は「なぜ効果があるのか」という点に移りつつあります。その裏付けに、「2025年Tmallスキンサイエンス・ビューティートレンドインサイトレポート」によりますと、消費者の過半数が、購入の際にもっとも重視するのは成分と効果の関係であると回答しています[2][3]。
また、消費者の71%が自分の肌質に合わせて製品を選び、50%以上が成分の作用メカニズムや科学的な検証結果に注目していることがわかりました[2][3]。
この変化は、単に成分を並べるだけでは消費者を惹きつけられないことを意味します。化粧品メーカー、ブランド各社は科学データや作用機序の説明、臨床試験の結果を通じて市場を説得する必要があります。
実際に「アンチエイジング」関連製品の爆発的な成長はその典型です。魔镜洞察調査会社の「2024年スキンケア成分総括と2025年トレンド洞察レポート」によりますと、2024年の売上高は前年比で1000%以上増加しました[1]。その背景には「活性酸素と皮膚老化の関係」といった科学的知見の普及があります。
さらに、美容医療の発展もこの傾向を後押ししています。Worldpanelの調査によりますと、美容医療の利用者は一般消費者に比べてスキンケア支出が1.4倍多く、高機能な美容液やクリームに強い嗜好を示しています[4]。こうした流れから「科学的スキンケア」は新しいスタンダードとなりつつあります。
このような風潮の中だと、海外ブランド、例えば日本企業にとっては、中国市場に参入する際に「メイド・イン・ジャパン」というブランド力だけでは購買訴求面では不十分です。
研究開発の背景、技術力、そして科学的エビデンスを前面に打ち出すことが、中国市場での突破口となる可能性があると考えます。
医療美容との共生:新しいシーンと新しい需要
中国のライト医療美容市場は急速に成長しています。北京証券取引所研究院(2025)の報告によりますと、年平均成長率は25%以上で、2023年の中国における医療美容機器産業の市場規模は775億元人民元(約1.6兆円規模)に達しました[5]。主な消費層は20〜35歳の若い女性で、ニキビ治療、美肌、アンチエイジングといったニーズが高頻度で見られます[5]。
このトレンドは「医療美容と同源のスキンケア製品」の台頭を直接的に後押ししています。消費者は、もはやクリニックでの施術だけに満足せず、日常のスキンケアにおいても「施術後の修復」「色素沈着の予防」「創傷の早期回復」といった効果を求めています。
実際に、CBNDataの報告によりますと、リコンビナントコラーゲン配合製品の売上は前年比258%増加し、「創傷の早期回復」関連需要も前年比でほぼ100%伸びています[3]。また、抖音(中国版TikTok)ECの報告によりますと、「医療美容シーン」は「サイエンススキンケア」「パーツケア」「エモーショナルスキンケア」と並ぶ消費のホットスポットとなっています [6]。
海外ブランドにとっては、この「医療美容的なライフシーン」の広がりを捉えることが重要です。中国の大手ブランドと美白・保湿といった大衆市場で直接競うよりも、消費者の購買意識が向いている「医療美容延伸型」ともいえる領域にフォーカスし、「術後修復」、「バリア機能の補修」、「色素沈着の予防」など、「医療美容的なライフシーン」に特化した製品を展開するほうが、高い消費力を持つ層のニーズに合致しやすいと考えられます。
シンプルスキンケアへの回帰
「科学化」と並行して、中国市場ではスキンケアのシンプル化という新たな潮流も広がっています。複雑な多段階ケア(いわゆる「7ステップスキンケア」など)は徐々に敬遠され、消費者は1本で複数の効果を持つ製品を好むようになっています。
CBNDataの報告によりますと、美容液や日焼け止めといった主要カテゴリーでは、「日焼け止め+美白」「修復+エイジングケア」といった複合効果型の製品が一般的となっており、敏感肌ユーザーの間でも受け入れられつつあります[7]。
さらにメイク分野でも「メイクとスキンケアの融合」が注目されています。この傾向の背景には「効率性」と「コストパフォーマンス」の重視があります。モージンインサイトのデータによると、2024年のオンラインスキンケア売上規模は3165億元(約6.6兆円)に達しましたが、販売数量が増加する一方で平均単価は144元(約3024円)から135元(約2835円)へと低下しました [1]。これは、消費者が「量の拡大と価格の最適化」を同時に求めていることを示しています。
また、iiMedia Researchの調査では、消費者の約3分の1が「より手頃な価格の製品」を、同じく3分の1が「より多機能な製品」を求めていることが明らかになっています[8]。特に四級・五級都市においては、高いコストパフォーマンスを持つ多機能スキンケア製品が選好されています[6]。
今後の製品開発においては、「少なく、しかし的確」な多機能型ソリューションに注力し、「手軽・時短・効果的」を強調することが重要でしょう。
まとめ
全体としてみると、中国のスキンケア市場は“二本柱”で成長しています。一方では消費者が科学的エビデンスを求め、他方ではシンプルかつ効率的なケアを追求しています。
このような背景のもと、「科学」「シンプル」「効果」は業界のキーワードとなっています。中国市場への参入を目指す海外企業にとって、これは挑戦であると同時に大きなチャンスでもあります。製品開発とマーケティングの両面で、この二つの需要を同時に満たすことができる企業こそ、約6.3兆円規模の巨大市場で頭角を現すことができるでしょう。
参考資料
[1] 魔镜洞察.(2024). 2024年护肤成分总结与2025年趋势洞察报告.
「2024年スキンケア成分総括と2025年トレンド洞察レポート」
https://www.fxbaogao.com/detail/4761379
[2] 国信证券.(2022). 化妆品系列专题之十 从量变到质变,共启美妆产品大时代.
「化粧品シリーズ特集(10):量から質への転換、美容製品の新時代を共に開く」
https://pdf.dfcfw.com/pdf/H3_AP202206061570376595_1.pdf
[3] CBNData.(2025). 从成分功效到起效原理,护肤迈入皮肤科学美容时代.
「成分効能から作用原理へ、スキンケアは皮膚科学美容時代に突入」
https://www.cbndata.com/information/294340
[4] Worldpanel.(2025). 2025中国美妆市场五大关注点升级 | “FOCUS”消费新格局.
「2025年中国美容市場の5大注目点アップデート|FOCUS消費の新たな構図」
https://market.worldpanelbynumerator.com/cn/news/China-Beauty-2025-Outlook:-FOCUS
[5] 北交所研究院.(2025). 化妆品国产替代发展快,轻医美快速崛起抗老需求高 —— 行业主题报告.
「化粧品の国産代替が加速、ライト医美が急成長しアンチエイジング需要が高まる ―― 業界テーマ報告」
https://pdf.dfcfw.com/pdf/H3_AP202501161641957290_1.pdf?1737064055000.pdf
[6] CBNData.(2025). 《2025抖音电商护肤趋势白皮书》发布:解读四大趋势背后的赛道增长密码.
「2025年抖音ECスキンケアトレンド白書発表:4大トレンドの背後にある市場成長の鍵を解読」
https://www.sohu.com/a/914210996_414647
[7] CBNData.(2025). “一瓶多效”通吃美妆圈,真正的“精简护肤”来了?
「“ワンボトル多機能”が美容業界を席巻、本当の『シンプルスキンケア』が到来?」
https://www.cbndata.com/information/294097
[8] 艾媒咨询.(2025). 2025年中国化妆品消费者行为调查数据.
「2025年中国化粧品消費者行動調査データ」
https://report.iimedia.cn/repo205-0/46684.html









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