1.探求マップとは
■●全体像イメージ
■●概要
探求マップとは、サービス価値の新規性(縦軸)とユーザー体験の新規性(横軸)から成るマップを、コンフォート・ストレッチ・リスク・ダークの4つのゾーンに区分して、その中に発話から得られた複数のアイデアを並べて活用法を吟味するアウトプットです。
本来は実験を経てプロトタイプを徐々に不確実性が高い外側へと離していくアプローチが正しいのですが、本稿ではインタビューで得られた代表的な発話をそのままプロットして、どのアイデアをどのレベル感で実現するのかを検討する分析モデルとして扱います。
※探求マップについて言及している情報源は国内ではあまり見かけませんが、以下の書籍では詳細な説明を見ることができます。本稿の探求マップはこうした本の翻訳内容を参考にしながら、リサーチのプロジェクトにフィットするよう独自の調整を行っています。
『デザインシンキング・ツールボックス 最強のイノベーション・メソッド48』(翔泳社)
『デザイン思考 マインドセット+スキルセット』(日経BP/日本経済新聞出版)
■●構成要素
探求マップの構成要素は以下のようになります。
○縦軸・横軸
❶縦軸
・サービス価値の新規性(既知の技術/機能←→未知の技術/機能)
❷横軸
・ユーザー体験の新規性(おなじみの行動←→変化を伴う行動)
※新規性:まったく新しい状態(ここでは「目新しい」程度のイメージ)
※図表内にある「新奇性」とは、珍しい・まれな状態を意味している
○ゾーニング
①コンフォートゾーン
・サービス機能の新規性(低)×ユーザー体験の新規性(低)
→現状に近い安全な世界線。対応することは易しいが成果もまた少ない。
②ストレッチゾーン
・サービス機能の新規性(中)×ユーザー体験の新規性(中)
→現状の延長にある世界線。小さな挑戦で小さな成果を確実に得られる。
③リスクゾーン
・サービス機能の新規性(高)×ユーザー体験の新規性(高)
→現状を超越できる世界線。大きな挑戦で計画的に大きな成果を目指す。
④ダークゾーン
・サービス機能の新規性(未知)×ユーザー体験の新規性(未知)
→未知の世界線。不確実性は高いが、大きな挑戦で新たな鉱脈を当てる。
○調査データ
・インタビュー調査のサマリ(例示はコンセプトテスト調査時のもの)
○キーワード
・探求マップと調査データの分析から導かれるキーワード(3点ほど)
■●よくある課題
「意見の発散が起きない、意見の収集がつかない…」
⇒この悩みに一枚で答えるためのアウトプット
①コストや実現性の観点からアイデアが全滅するケース
アイデアを討議する場面では、リサーチを経て得た企画のアイデアが、コストや実現性の観点から一挙に全滅することがあります。こうした既存の物差しに照らした状態が続くと、次第に利害関係のある部門最適化が進み、イノベーションは起きづらくなります。
また、トップダウンやウォーターフォール型のプロジェクトでは、最初からアイデアを絞り込みすぎて、MVP(Minimum Viable Product)が弱いケースも見受けます。施策や機能に広がりがなく、「何となく作って終わり」という状態を繰り返す懸念があります。
②HMW(How might we)の手法が行使できないケース
デザインリサーチのブレストの場面では、「HMW(How might we)/我々はどうすれば◯◯できるか」という問いの投げかけがよく使われます。ところが、組織にデザイン思考が浸透していないと、「あなたが答えを持ってきなさい」と言われてしまいます。
調査結果の活用法を見出すにあたり、ワークショップを設定して皆からの意見を募るのはだめ、ただし活用提案は分析者が決め込みすぎてもだめ、そしてステークホルダーとは連携して進めなければだめ、という非常に難しい舵取りをリサーチャーは迫られます。
2.作り方
①探求マップのモデル図を作成する
・大小の四角形を並べて4つの領域を作成する
・縦軸・横軸を記入する
②発話または意見をマッピングする
・インタビューで得られた発話をマッピングする(いったん分析者が初期状態を作る)
・発話の種類によって付箋カードを色分けする
<例>
・調査テーマについてのポジティブなイメージ→赤
・調査テーマについてのネガティブなイメージ→青
・同型企画の他社情報→黄
※必要に応じて、組織内にある既存のアイデアやブレストから得られた意見を足す
③調査データを貼付する
・元のインタビュー調査のまとめに相当するデータを掲載する
(図表はコンセプトテストの調査結果を貼付しているイメージ)
④キーワードを記入する
・初期状態のマップから読み取れるキーワードとその説明を書く
※組織文化や分析能力に応じてこの箇所は割愛してよい
(一切の私見を交えない場合や分析者に自信が無い場合など)
3.使い方
①初期アイデアに対して段階的な意思決定ができる
探求マップは、リサーチ結果から取り得る判断のオプションを一定範囲のマップに留めたうえで、それぞれのアイデアのレベル感を考えるモデルになっており、「どういう方法や条件だったらこのアイデアを活かせるか?」というマインドセットに持ち込めます。
発話をポジ・ネガ(≒ゲイン・ペイン)に分けて扱うこともポイントで、両方の観点からイノベーションにつながるアイデアを検討することができます。領域のグラデーションによってリスク管理をできていることがポイントで、大企業向きのモデルと言えます。
②調査報告会内での短時間のブレストが可能になる
本稿で示す探求マップの形式は、考える材料(インタビューで得た発話)、考えた先の着地(探索マップの各領域)、困った時のヒント(分析・示唆)が1ページに集まっているため、調査報告会内の短時間で多くの関係者を議論に呼び込むことができます。
インタビューで収集した発話をそのまま使えるところもポイントです。ワークショップの開催には事前の準備や、事後もKA法・KJ法などでまとめる時間を要しますが、探索マップは調査レポートに入れておいてブレストのみで進められるメリットがあります。





株式会社アイスリーデザイン
chapter UI/UXデザイングループ スペシャリスト
菅原大介
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、日系最大手のマーケティングリサーチ会社で月次500問以上を運用する定量調査のディレクター業務を経験。総合ECサイト・アプリを運営する大手事業会社でデジタルプロダクトの戦略企画を担当したのち、現在は株式会社アイスリーデザインでUI/UXデザインの支援・研究に携わる。
デザインリサーチとマーケティングリサーチのトレンドをウォッチするニュースレター「リサーチハック101」を個人で発行するほか、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして活動や記事の監修も行っている。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)、『リサーチからはじめる仮説ドリブン・マーケティング』(WAVE出版)
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