中国EV市場 〜 爆発的成長の裏で進行する4つの課題

中国EV市場 〜 爆発的成長の裏で進行する4つの課題

中国の電気自動車(EV)市場は、販売台数で世界トップを誇り、街には新ブランドの車があふれています。価格競争も激しく、「誰でもEVを買える時代」が到来したかのように見えます。しかし、その華やかな表舞台の裏では、値下げ合戦による収益悪化、生産過剰による中小メーカーの淘汰、中古市場の急拡大、そしてバッテリー寿命という深刻な課題が同時進行しています。本記事では、この急成長市場を揺るがす4つの課題を整理し、今後の行方を探ります。


中国の電気自動車(EV)は、いま世界で最も注目されている市場です。販売台数は世界一で、街を歩けば至るところで目にすることができ、新しいブランドも次々に登場しています。さらに値下げ競争まで始まり、「誰でもEVを買える時代」が訪れたように見えます。

ところが、派手な数字やニュースの陰には、課題が潜んでいます。実際の中国EV市場では、価格競争、生産過剰、中古市場の急拡大、そしてバッテリー不安という4つの「暗流」が同時に進行しているのです。

値下げ競争で盛り上がる一方、企業は赤字に

中国ではEVが次々と値下げされています。2025年初めの中国乗用車市場情報連合会の統計によると、平均で 1台あたり3万元(約62.3万円)の値下げが見られています。これは前年の倍以上の下げ幅でした[1]。

例えば、BYDが発表した内容では、2024年に3度の値下げを実施し、最大で5.3万元(約110万円)も安くなった車種があるとされています[2]。消費者にとっては朗報ですが、メーカー側には大きな痛手です。

大手のBYDは依然として利益を確保していますが、一部中小企業では「売れば売るほど赤字」という状況に陥っています[3]。さらに、部品メーカーへの支払いが滞るケースも出始め、サプライチェーン全体に負担が広がっています[3]。

こうした“過熱した値下げ競争”に対し、国務院常務会議は「非理性的な競争をやめ、高品質な発展を目指すべきだ」と注意を呼びかけました[4]。

生産ラッシュのツケ?

もうひとつ深刻なのが生産能力の過剰傾向です。中国汽車工業協会(中汽協)の発表によると、2025年上半期の販売台数は約693.7万台で、前年同期比40.3%増となりました[5]。

数字だけ見れば依然として好調ですが、中国汽車工業協会のデータによると2021年には100%を超える成長率を記録しており、それと比べると鈍化は明らかです[5]。

その結果、一部では「ゼロキロ車」と呼ばれる現象も生まれています。これは、生産され登録まで済んでいるのに、実際には販売されず倉庫に眠っている車のことです。やがて大幅な値引きで市場に流れ込み、全体の価格を押し下げる要因となります[6]。

こうした状況は中小メーカーに直撃し、資金繰りに行き詰まる企業も出始めています。市場は今後、大手に集約され、淘汰が一段と進むとみられます。

中古EVは「お得」なのか「地雷」なのか

新車市場の加熱に呼応するように、中古EV市場も急速に拡大しています。中国自動車流通協会の発表によると、2025年1月から4月までの中古車累計取引台数は631万台となり、前年同期比0.5%の微増でした。その中で、中古EVの浸透率は引き続き上昇し、4月には9.1%に達しています[7]。

安さが魅力で、中古EVは若い世代を中心に人気が高まっています。たとえば、某中古車販売アカウントによれば、新車時に12万元(約240万円)のBYD「海豚」が、わずか1年後には5.5万元(約110万円)以下で取引される事例もあります。1年でほぼ半額という値下がり幅です。こうした急激な値下がりは、中古市場拡大の象徴的な現象といえます。

出典:SNSでの某中古車販売アカウント(2025年9月閲覧)

EVバッテリーの保証切れ

EV市場の最大の不安要素はバッテリー寿命です。

ニオ(NIO)のCEOであるリー・ビンは「車両寿命と電池寿命のミスマッチこそEV業界の最大課題だ」と警鐘を鳴らし、2025年から2032年にかけておよそ2,000万台のEVが保証切れバッテリー問題に直面すると予測しています[8]。中国では一般的にバッテリーに8年または十数万キロの保証が付いていますが、初期のEVはすでに保証期限を迎えつつあります。

こうした状況を受け、中国政府は2025年に新たな補助金政策を導入し、都市バスの更新や動力電池の交換に最大8万元を支給することを決定しました[9]。さらに2026年からは、より厳格な安全基準が施行される予定です[9]。これらの動きは公共交通の電動化を加速させる一方で、中古EV市場におけるバッテリー信頼性への注目も高めています。

まとめ

中国のEV市場は、今も世界一のスピードで拡大を続けています。しかし、その華やかさの裏では、値下げ競争でメーカーの利益が圧迫され、生産過剰の影響で多くの中小企業が市場から姿を消しています。
さらに、中古市場は急拡大する一方でリスクも大きく、バッテリーは安全性と寿命という最大の課題を抱えています。
こうした試練を乗り越えられるかどうかが、今後数年間、中国のEV市場が本当に「世界をリード」し続けられるかを決めるカギとなりそうです。

参考資料
[1] 第一财经.(2025). 乘联会:2025年汽车降价潮持续,新能源车平均降幅13%
「自動車市場連合会、2025年の値下げラッシュが継続 新エネルギー車の平均値下げ幅は13%」
https://www.yicai.com/news/102504525.html
[2] 中国网财经.(2025). 比亚迪降价带崩汽车股:两月调价三次,或引发行业新一轮价格战
「BYDの値下げで自動車株が急落 2か月で3度の値下げ、業界に新たな価格競争を引き起こす可能性」
https://finance.china.com/TMT/13004688/20250527/48387568.html
[3] 新浪财经.(2025). 小鹏汽车累亏427亿后“转正”在即,上半年账期缩短62天、三个月内应付款242亿
「シャオペン(小鵬汽車)、累積赤字427億元から黒字化目前 上半期の決済期間を62日短縮、3か月以内の買掛金242億元」
https://finance.sina.com.cn/stock/relnews/hk/2025-08-20/doc-infmrtfy0232138.shtml
[4] 新华网.(2025). 年中经济观察丨中国新能源汽车如何逐“新”提“智”——中国经济年中观察之二
「年央の経済動向分析|中国の新エネルギー車はいかに革新を推進し、スマート化を進めるのか― 中国経済年央の経済動向分析(第二部)」
http://www.news.cn/fortune/20250717/0429f9f0f286419182d188a516f8d798/c.html
[5] 新浪财经.(2022). 2021年电动汽车行业数据总结:电动化趋势明确,国内锂电龙头崛起
「2021年電気自動車業界データ総括 電動化トレンドが鮮明に、国内リチウム電池大手が台頭」
https://finance.sina.com.cn/stock/stockzmt/2022-03-27/doc-imcwipii0780808.shtml
[6] 新浪财经.(2025). “零公里二手车”的秘密 从哪里来又卖向何处?
「“ゼロキロ中古車”の秘密 どこから来てどこへ売られるのか?」
https://finance.sina.com.cn/tech/roll/2025-06-06/doc-inezachu1208006.shtml
[7] 中国汽车流通协会.(2025). 车市扫描(2025年6月1日-6月8日)
「自動車市場観測:2025年6月1日〜6月8日の市場概況」
https://www.cada.cn/Trends/info_91_10268.html
[8] 新浪科技.(2025). 蔚来李斌:电动车的电池寿命与车的寿命不匹配 亟需关注
「ニオ(NIO)・リー・ビン:電動車のバッテリー寿命と車体寿命のミスマッチ、迅速な対応が必要」
https://finance.sina.com.cn/tech/roll/2025-08-10/doc-infkniae9978370.shtml
[9] 交通运输部办公厅・国家发展改革委办公厅・财政部办公厅.(2025). 《2025年新能源城市公交车及动力电池更新补贴实施细则》通知
「2025年新エネルギー都市バスおよび動力電池更新補助金実施細則に関する通知」
https://xxgk.mot.gov.cn/jigou/ysfws/202503/t20250319_4165744.html

この記事のライター

WSK

文章を書くことと、人の気持ちや社会の動きに目を向けることが好きで、現在は日々のニュースを自分なりの視点で追いかけています。中国出身で、現在は日本で学びながら生活しています。ふとした日常や、見過ごされがちな出来事の中にも、誰かの心に残るストーリーがあると信じています。そんな想いを込めて、ひとつひとつの記事を綴っています。

関連する投稿


「スネイル・メール・クラブ」が再燃させるアナログの価値。デジタルネイティブが文通に惹かれる理由とは? | 海外トレンドに見るビジネスの種(2026年3月)

「スネイル・メール・クラブ」が再燃させるアナログの価値。デジタルネイティブが文通に惹かれる理由とは? | 海外トレンドに見るビジネスの種(2026年3月)

海外からやってくるトレンドが多い中、現地メディアの記事に日々目を通すのはなかなか難しいもの。そこでマナミナでは、海外メディアの情報をもとに世界のトレンドをピックアップしてご紹介します。今回は、アナログな趣味としてアメリカのZ世代やミレニアル世代を中心にブームとなっている文通コミュニティ「スネイル・メール・クラブ」について取り上げます。その楽しみ方はペンパル同士の手紙交換にとどまらず、クリエイターが毎月作品を届けるサブスクリプション型へと進化を遂げています。デジタル時代の今、なぜ「不便な郵便」が新たなビジネスの種となっているのかを紐解きます。


中国の若者が「自愛」に目覚める、そのトレンドは?

中国の若者が「自愛」に目覚める、そのトレンドは?

2025年11月、SNS上で発信された投稿に載せられた「愛你老己 (アイ・ニー・ラオ・ジー)」というフレーズが中国の若者たちの間に広がり始めました。自分自身へ大切にしているよと呼びかける、短いながらも現代の若者の価値観を反映したこの言葉は、彼らの生活や消費行動にどのような影響を与えているのでしょうか。この記事では 、「愛你老己」という言葉が生まれた背景やそれに伴い生まれた消費トレンドを紹介します。


中国で注目される新しい消費行動「理感共生」を読み解く

中国で注目される新しい消費行動「理感共生」を読み解く

昼食代には迷う一方で、推し活には即決します。中国の若者に広がる「理感共生」は、節約と熱狂が同時に成立する新しい消費合理性です。本稿はこの概念を手がかりに、なぜ日常支出には極端に慎重でありながら、体験や感情価値には大胆に投資するのかを分析。将来不安や長期志向、補償的コントロールといった社会や心理的背景を整理し、この行動が中国の消費市場とマーケティング競争の軸をいかに変えつつあるのかを探ります。


世界に広がる味噌人気 海外視点で見出される新たな価値とは? | 海外トレンドに見るビジネスの種

世界に広がる味噌人気 海外視点で見出される新たな価値とは? | 海外トレンドに見るビジネスの種

海外からやってくるトレンドが多い中、現地メディアの記事に日々目を通すのはなかなか難しいもの。そこでマナミナでは、海外メディアの情報をもとに世界のトレンドをピックアップしてご紹介します。今回は「味噌(Miso)の海外進出」について取り上げます。昨今の健康志向による発酵食品人気や、世界共通語となっている「うま味(Umami)」への関心の高まりが追い風となり、味噌の輸出量は年々増加しています。和食の調味料という位置付けにとどまらず、カフェドリンク、カクテル、スイーツなど、海外からの視点ならではのアレンジで新たな価値が見出される味噌の魅力に迫ります。


【無料レポート】2026年 訪日インバウンド観光客調査〜中国・台湾・タイ・韓国|ダウンロードページ

【無料レポート】2026年 訪日インバウンド観光客調査〜中国・台湾・タイ・韓国|ダウンロードページ

2025年の訪日外国人客数(インバウンド)は、前年比15.8%増の約4,268万人となり、過去最高を記録した2024年を大幅に上回って過去最多を更新しました。背景には、大阪・関西万博の開催や円安による消費拡大も理由として考えられます。そんなインバウンド観光客の中でも、本レポートでは中国・台湾・タイ・韓国の観光客にフォーカスし、彼らの観光実態をアンケート調査しました。※本レポートは記事内のフォームから無料でダウンロードいただけます。


最新の投稿


インフルエンサー広告サービス『Vooster』が新たにTikTok連携を開始

インフルエンサー広告サービス『Vooster』が新たにTikTok連携を開始

株式会社Voosterは、同社が提供するAIによる自動運用型のインフルエンサー広告サービス『Vooster(ブースター)』が、新たにTikTok対応を開始したことを発表しました。


「スネイル・メール・クラブ」が再燃させるアナログの価値。デジタルネイティブが文通に惹かれる理由とは? | 海外トレンドに見るビジネスの種(2026年3月)

「スネイル・メール・クラブ」が再燃させるアナログの価値。デジタルネイティブが文通に惹かれる理由とは? | 海外トレンドに見るビジネスの種(2026年3月)

海外からやってくるトレンドが多い中、現地メディアの記事に日々目を通すのはなかなか難しいもの。そこでマナミナでは、海外メディアの情報をもとに世界のトレンドをピックアップしてご紹介します。今回は、アナログな趣味としてアメリカのZ世代やミレニアル世代を中心にブームとなっている文通コミュニティ「スネイル・メール・クラブ」について取り上げます。その楽しみ方はペンパル同士の手紙交換にとどまらず、クリエイターが毎月作品を届けるサブスクリプション型へと進化を遂げています。デジタル時代の今、なぜ「不便な郵便」が新たなビジネスの種となっているのかを紐解きます。


アフォーダビリティ ~ 手ごろさと危機

アフォーダビリティ ~ 手ごろさと危機

昨今の欧米では「アフォーダビリティ危機」が広がりつつあります。日用品だけでなくサービスや住宅費の上昇が家計を圧迫、特にサービス分野は価格が上がりやすく不満が高まっており、欧州では価格規制により供給不足も発生している現状にあります。日本でも都市部の住宅価格上昇が問題化し、手の届く価格の住宅確保が重要な社会課題となっています。この「アフォーダビリティ」という捉えどころのない言葉が影響を与える事態について、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が解説します。


Z世代の81%がPR表記に警戒感!?商品選びはメガインフルエンサーより専門性・人柄重視【Z-SOZOKEN調査】

Z世代の81%がPR表記に警戒感!?商品選びはメガインフルエンサーより専門性・人柄重視【Z-SOZOKEN調査】

Fiom合同会社は、同社運営する、Z世代当事者が実態や価値観を分析するシンクタンク「Z-SOZOKEN(Z世代創造性研究所)」 にて、全国のZ世代(18歳〜24歳)を対象に「Z世代の情報信頼度についての実態調査」 を実施し、結果を公開しました。


ニュースを「ほぼ毎日」チェックする高校生・大学生は4~5割!内容が本当か?と感じたときは「情報源が何なのか/信頼できるか、調べる」が最多【LINEリサーチ調査】

ニュースを「ほぼ毎日」チェックする高校生・大学生は4~5割!内容が本当か?と感じたときは「情報源が何なのか/信頼できるか、調べる」が最多【LINEリサーチ調査】

LINEリサーチは、全国の15~25歳の学生(高校生、専門学生、短大生、大学生、大学院生)の男女を対象に、ニュースを見聞きしたり、チェックしたりする頻度・方法・場所・ジャンルや、気になるニュースをさらに調べる方法について調査を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

ページトップへ