健康志向の若者に広がる「ソフト・クラビング」~ アルコールフリーのクラブ体験がカフェやサウナにも進出 | 海外トレンドに見るビジネスの種(2025年11月)

健康志向の若者に広がる「ソフト・クラビング」~ アルコールフリーのクラブ体験がカフェやサウナにも進出 | 海外トレンドに見るビジネスの種(2025年11月)

海外からやってくるトレンドが多い中、現地メディアの記事に日々目を通すのはなかなか難しいもの。そこでマナミナでは、海外メディアの情報をもとに世界のトレンドをピックアップしてご紹介します。今回は、アルコールを飲まないライフスタイル「ソーバーキュリアス」の広がりを背景に、日中のカフェやサウナなどで開催されるイベント「ソフト・クラビング」の人気拡大に注目。従来の枠にとらわれない、ウェルネス要素を取り入れた新たなクラブ体験が、健康志向の高い層に受け入れられています。


ソフト・クラビング(Soft Clubbing)とは?

お酒を飲まない選択をする「ソーバーキュリアス」な若者が増える中、お酒を提供しないクラブイベントが世界各地で開催されています。そのような体験は「ソフト・クラビング(Soft Clubbing)」と呼ばれており、日中に音楽や人との繋がりを楽しめる場として注目を集めています。

建物の屋上でDJが音楽をかけているイベントの様子

ソフト・クラビングは、従来のクラブイベントの楽しみ方に加え、ウェルネスの要素をプラスしたものが多く見られます。ヨガやフィットネスを参加者全員で行うものや、サウナでDJが音楽をかけるスタイルのものなど、イベントによってテーマは様々です。

また、多くのソフト・クラビングのイベントではお酒を提供しない代わりにコーヒー、抹茶ラテ、スムージー、ノンアルコール飲料などを提供していることも特徴です。

従来のクラブイベントと違う点は開催時刻にも表れています。ソフト・クラビングのイベントは早朝もしくは日中に開催されることが多くなっています。十分な睡眠時間を確保することができるため、健康的な生活リズムを保ちながら無理せず楽しめることも、健康意識の高い層に受け入れられている理由の一つです。

このように、従来のクラブ体験では身体への負担となっていた要素をクリアしつつ、さらにウェルネス体験に特化した形に進化したイベントがソフト・クラビングと言えます。

お酒を飲まないことに価値を見出す「ソーバーキュリアス」が後押しに

ソフト・クラビングの人気の背景には、人々の健康意識の高まり、それに伴う飲酒人口の減少、そしてデジタル環境から距離を置いて人とのリアルな繋がりを感じられるようなイベントへの需要が挙げられます。

Gallupの2025年の調査(※1)によると、飲酒するアメリカ人の割合は54%という統計が出ており、同調査が始まった1939年から見ると最低の数値となっています。2023年に62%、2025年に54%だったことを踏まえると、ここ数年でアメリカの飲酒人口が減少している傾向が分かります。

アメリカ人の飲酒する人の割合(1939-2025年)

また、年齢別に見ると飲酒する人の割合が18〜34歳で50%、35歳以上で56%だったことから、若い世代において特にお酒を飲まない傾向が見られます。若い世代ほど「ソーバーキュリアス(Sober Curious)」の価値観が広まってきていることが分かります。

(※1)
U.S. Drinking Rate at New Low as Alcohol Concerns Surge
https://news.gallup.com/poll/693362/drinking-rate-new-low-alcohol-concerns-surge.aspx
2025年7月の調査。アメリカに住む1,002人が対象。

若者のアルコール離れが進む理由には、メンタルヘルスや身体に与えるお酒の悪影響を懸念することに加え、お酒購入による経済的な出費をなるべく抑えたいという節約志向があると考えられます。

「ドライ・ジャニュアリー(Dry January)」「ソーバー・オクトーバー(Sober October)」という断酒月間を示す言葉が英語圏では浸透しつつあり、実際に実践する人も多く存在しています。

2024年12月に行われたNCSolutionsの調査(※2)によると、アメリカ人回答者全体の30%が2025年1月にドライ・ジャニュアリーを実行する予定だと回答していました。

また、アルコール摂取を控えようとする人の増加にともない、Sober Bar(=しらふバー)の登場ノンアルコール飲料の多様化が進んでいます。Sober Barとは、アルコール飲料を提供しないバーのことを指します。NCSolutionsによる同調査の回答者全体の22%、またZ世代の41%が、2025年にSober Barに行く予定だと答えました。アメリカでは特に若い世代において、アルコールフリーのバーへの関心が高いことがうかがえます。

(※2)
The Sober Curious Movement: 49% of Americans Trying to Drink Less Alcohol
https://www.circana.com/post/sober-curious-nation-alcohol-survey/
2024年12月の調査。21歳以上のアメリカ人1131人が対象。

このようにアルコールなしでも楽しめる場所や商品の拡大により、飲まない選択を取りやすい環境が整えられてきています。ソフト・クラビングも、ソーバーキュリアスな層が安心して楽しめる場を提供している一例となっています。

早朝ダンス、ヨガ、カフェ、サウナなど、ますます多様化するイベント

ではソフト・クラビングには実際どのようなイベントがあるか、具体的な事例をご紹介していきたいと思います。

まず、ソフト・クラビングの代表的なものとして早朝ダンスパーティーが挙げられます。

早朝ダンスパーティーを開催する有名なイベントに、ニューヨーク発祥のデイブレイカー(Daybreaker)やロンドン発祥のモーニンググローリーヴィル(Morning Gloryville)があります。どちらも2013年に誕生して以来、世界各国でグローバルにイベントを開催しています。

デイブレイカーのイベントの一般的な流れは、早朝に集合しヨガやフィットネスクラスを1時間行った後、2時間のダンスパーティーをするというものです。イベントによって時間は異なりますが、朝の6時開始で9時に終了するようなものもあり、仕事前に良い1日のスタートを切る朝活として利用することも可能な時間帯となっています。

現在では、サウナで音楽に合わせて踊るサウナレイブも世界各地で開催されています。

カフェで踊る4人の若者

また、カフェやベーカリーでDJが音楽をプレイするイベントも増加しています。イベントプラットフォームEventbrite上で、2025年上半期のコーヒー・クラビング(Coffee Clubing)関連のイベント数は前年同期比で478%上昇しています(※3)。

(※3)
The New Nightlife: Gen Z’s “Soft Clubbing” Proves the Party Isn’t Over, It’s Evolving
https://www.eventbrite.com/blog/press/newsroom/the-new-nightlife-gen-zs-soft-clubbing/
Eventbriteのプラットフォーム上でアメリカの主要16都市で開催されるイベント名、説明文からキーワードを分析した調査。2024年上半期と2025年上半期を比較。

元々クラブのためのスペースではなかった場所にDJを呼びイベントを開催するという新たな試みがソフト・クラビングにより広がっています。リアルでの交流を重要視する若い世代にとって、より地域社会に近い形で人との繋がりを感じられる体験となっています。

まとめ

メンタルヘルスや自身の健康状態を大事にしたい若い世代にとって、従来のクラブ体験はライフスタイルに合わないものとなってしまっているのかもしれません。

そんな中、ソフト・クラビングは提供する飲み物やイベントの時間帯、内容にヨガやサウナなどのウェルネス要素を取り入れるなど、多くの人が安心して参加できるクラブ体験に変容してきました。

リアルな体験としての楽しさはそのままに、形を変えながら進化するイベントのあり方に、今後も注目です。

【編集部考察】日本の「ソフト・クラビング」はどのように進化するか

日本においても、若者を中心とした飲酒離れは進んでおり、健康志向とコスパ意識の高まりは世界的なトレンドと共通しています。既に国内の市場では、アルコールメーカー主導で「お酒を飲む人も飲まない人も楽しめる」という「スマートドリンキング(スマドリ)」の概念が浸透し始めています。例えば、アサヒビールが2022年に渋谷にオープンした「スマドリバー」が話題になったように、アルコール有無の選択肢の多様化は加速しています。

ソフト・クラビングが国内で浸透するにあたり、以下の2つの方向性が予測されます。

1. 「朝活」としての定着と多様な空間への展開:
ニューヨーク発の「デイブレイカー」のような早朝イベントは、日本の「朝活」ブームと親和性が高いため、都心部を中心に広がるでしょう。イベントは、既存の温浴施設(サウナ)やカフェ、書店といった、ウェルネスや知的好奇心を満たす空間と融合し、体験価値重視型のソフト・クラビングが定着すると考えられます。

2. ノンアル市場の成長を背景とした「場」の再定義:
「スマドリ」に代表されるように、アルコールなしで楽しむための環境整備が進んでいます。ソフト・クラビングは、この環境を活かし、リアルな交流の場として進化するでしょう。地域産のノンアルコール飲料などを提供し、ローカルなウェルネスと結びつくことで、デジタル疲れからくる「リアルなつながり」への欲求を満たす、新しいサードプレイス(第三の居場所)として機能すると考えられます。

ソフト・クラビングは、既存のナイトカルチャーの代替ではなく、「飲まない時間」を豊かに過ごす新しい選択肢として、日本のウェルネス市場をさらに拡大させる鍵となるのではないでしょうか。

【無料レポート】デジタル・トレンド白書2025 – 食トレンド編|ダウンロードページ

https://manamina.valuesccg.com/articles/4663

「デジタル・トレンド白書2025 食トレンド編」は、2025年に注目を集めた食や飲料・お菓子などのヒット分析・トレンド解説が収録されたレポートです。物価が高騰しているなか、どのような商品が人気を博しているのか。消費者の食に対する好みや購買行動はどのように変化しているのかを分析しています。

【参考】
https://www.cbsnews.com/video/sober-communities-thriving-as-alcohol-use-drops/?intcid=CNM-00-10abd1h
https://www.eventbrite.com/blog/press/newsroom/the-new-nightlife-gen-zs-soft-clubbing/
https://sf.eater.com/dining-out-in-sf/204234/coffee-party-event-hi-nrg-san-francisco
https://theconversation.com/the-rise-of-sober-curiosity-why-gen-zers-are-reducing-their-alcohol-consumption-243775
https://yusufntahilaja.substack.com/p/2025-the-year-of-soft-clubbing
https://www.daybreaker.com/
https://morninggloryville.com/

この記事のライター

大学ではポルトガル語と言語学を学び、常に様々な外国文化や言語に興味がありました。
海外情報に関する記事を通じて、何かヒントに繋がる新たな視点や面白い発見をお届けできればと思います。

関連するキーワード


海外トレンド

関連する投稿


ペットと人が共に暮らす時代〜中国で広がる“ペット・フレンドリー”

ペットと人が共に暮らす時代〜中国で広がる“ペット・フレンドリー”

中国ではいま、「ペット・フレンドリー(宠物友好)」という考え方が急速に広がっています。カフェやホテル、交通機関からオンラインプラットフォームまで、人とペットが共に過ごすことを前提にしたサービスが次々と登場しています。この記事では、拡大を続ける中国のペット市場と、その背景にある価値観の変化を中心に、ペットと共に過ごす空間や新しいテクノロジーの動きをたどっていきます。


中国の若者の新たな社交方式「无料〜無料グッズ交換」とは?

中国の若者の新たな社交方式「无料〜無料グッズ交換」とは?

中国の若者の間で近年広がっている「无料(むりょう)」文化。日本語の「無料」という単語がもとになっているこの言葉は、コンサート、音楽フェス、映画祭、ミュージカルなどといったオフラインのリアルなイベントの場において、ファンたちが自作したグッズを無料で交換・配布する現象のことを指します。この記事ではこの独特な文化を深堀りし、その背景と共に人々がどんなグッズをどのように交換してこの体験から何を得ているのかを紹介します。


【最新トレンド調査】健康を考える飲食品〜中国、台湾、タイ、アメリカ、イギリス

【最新トレンド調査】健康を考える飲食品〜中国、台湾、タイ、アメリカ、イギリス

コロナ禍を経て、世界的な健康意識トレンドは一層の高まりを見せています。また、その傾向は国を超えて共通する点が多く見られます。本レポートでは、中国、台湾、タイ、アメリカ、イギリスにフォーカスし、各国ごとの健康×飲食品トレンドに対してデスクリサーチを基に調査。世界的に共通して見られる最新トレンドと、各国ごとの特徴を分析しました。海外消費者のニーズや価値観を把握し、インバウンド戦略にご活用頂ける内容となっています。※本レポートは記事末尾のフォームから無料でダウンロードいただけます。


アメリカで多様化するプロテイン市場 ポップコーンやコーヒーなど、手軽に摂れる商品が拡大 | 海外トレンドに見るビジネスの種(2025年10月)

アメリカで多様化するプロテイン市場 ポップコーンやコーヒーなど、手軽に摂れる商品が拡大 | 海外トレンドに見るビジネスの種(2025年10月)

海外からやってくるトレンドが多い中、現地メディアの記事に日々目を通すのはなかなか難しいもの。そこでマナミナでは、海外メディアの情報をもとに世界のトレンドをピックアップしてご紹介します。今回は、アメリカにおけるプロテイン(タンパク質)人気について取り上げます。フィットネス界だけにとどまらず、一般の人々の間でも意識的に摂取されるようになっているプロテイン。自宅で作れる高タンパク質レシピがSNS上で話題になったり、様々なプロテイン配合商品が展開されたりと、流行は盛り上がりを見せています。


中国EV市場 〜 爆発的成長の裏で進行する4つの課題

中国EV市場 〜 爆発的成長の裏で進行する4つの課題

中国の電気自動車(EV)市場は、販売台数で世界トップを誇り、街には新ブランドの車があふれています。価格競争も激しく、「誰でもEVを買える時代」が到来したかのように見えます。しかし、その華やかな表舞台の裏では、値下げ合戦による収益悪化、生産過剰による中小メーカーの淘汰、中古市場の急拡大、そしてバッテリー寿命という深刻な課題が同時進行しています。本記事では、この急成長市場を揺るがす4つの課題を整理し、今後の行方を探ります。


最新の投稿


ペットと人が共に暮らす時代〜中国で広がる“ペット・フレンドリー”

ペットと人が共に暮らす時代〜中国で広がる“ペット・フレンドリー”

中国ではいま、「ペット・フレンドリー(宠物友好)」という考え方が急速に広がっています。カフェやホテル、交通機関からオンラインプラットフォームまで、人とペットが共に過ごすことを前提にしたサービスが次々と登場しています。この記事では、拡大を続ける中国のペット市場と、その背景にある価値観の変化を中心に、ペットと共に過ごす空間や新しいテクノロジーの動きをたどっていきます。


「1円スマホ」の購入経験者は約1割も、機会があれば利用したい人は約5割と利用に前向きな姿勢あり【イード調査】

「1円スマホ」の購入経験者は約1割も、機会があれば利用したい人は約5割と利用に前向きな姿勢あり【イード調査】

株式会社イードは、スマートフォンやデジタルライフについてユーザー目線で最新情報をお届けするメディア「LiPro(インターネット)」において、1円スマホに関心のあるユーザーを対象に「1円スマホ」に関する関心・意向についてアンケート調査を実施し、結果を公開しました。


新興テック企業「Nothing」。2年で7倍成長の理由を世代別に分析

新興テック企業「Nothing」。2年で7倍成長の理由を世代別に分析

ロンドン発、今注目のテクノロジーブランド「Nothing(ナッシング)」。2020年の設立以来、スマートフォンやオーディオ製品を中心に、透明感ある唯一無二のデザインと高い性能で、多くの大企業がひしめくテック業界で急速に存在感を高めています。そんな革新的なNothing製品は、どのような人々に支持されているのでしょうか。本記事では、Nothingのサイト訪問者データをもとにユーザー像を分析し、なぜNothingが注目を集めているのかを年代別に考察していきます。


電通デジタル、リテールメディアが生活者にもたらす購買行動とブランド指標への影響についての調査結果を公開

電通デジタル、リテールメディアが生活者にもたらす購買行動とブランド指標への影響についての調査結果を公開

株式会社電通デジタルは、生活者のリテールメディアへの接触が購買行動およびブランド認知に与える影響を明らかにするため、「2025年 リテールメディア調査」を実施し、結果を公開しました。


若年層の消費行動、2025年8月に増えたのは「外食/カフェの飲食やテイクアウト」が最多【LINEリサーチ調査】

若年層の消費行動、2025年8月に増えたのは「外食/カフェの飲食やテイクアウト」が最多【LINEリサーチ調査】

LINEリサーチは、全国の15~24歳を対象に「直近1か月で、ふだんより多くお金を使った項目」についての2025年9月期の調査を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

ページトップへ