新しいお洋服を買う気満々で出掛けたのに、結局何も買えずにしょんぼりしながら帰る。
「あしたのシニア」たちには少なくない経験です。
個人的な話で恐縮ですが、最近のわたしはまさにこの繰り返しです。
---ほしいものが、ほしいわ。
頭の中に浮かんだのは1988年の西武百貨店のコピー(糸井重里氏によるもの)。
当時から40年弱の歳月が流れ、社会環境も経済状況も、そして何より自分たち自身が変わりました。
欲しいものが欲しいのに、欲しいものがどこにもない、という「あしたのシニア」たちは多いのではないでしょうか。
ものあまりの時代と言われて久しく、やれコト消費だ、トキ消費だ、推し消費だと言われていますが、コトやトキや推しを楽しむためには、それに見合った装いがあってこそ。
買いたい気持ちはそれなりにある。
お買い物に費やせる時間も以前より増えた。
遣えるお金も少しはある。
しかし、肝心の「買いたいもの」がみつからない。
今回はそんなお買い物迷子になっている「あしたのシニア」に潜む事情と、そのインサイトを紐解いていきます。
【セミナー好評受付中】巨大シニア市場の勝ち筋とは?宝島社『素敵なあの人』に学ぶ"本当のシニア像"
https://www.valuesccg.com/seminar/20260316-11492/本セミナーでは、バブル景気や男女雇用機会均等法を経験し、多様化・アクティブ化した「これからの50代・60代」の本音(インサイト)を読み解く『5つの原則』をご紹介します。年齢というラベルに縛られず、彼らの「物語(変わらない気持ち)」と「身体的現実(リアルな変化)」の両方に寄り添い、商品企画やプロモーションを成功させる秘訣を具体的な事例とともに解説いたします。
試着室での絶望、「なんだか違う」問題
ファッション経験値の高さでいえば、いまどきの「あしたのシニア」たちはそれなりの強者揃いです。ファッション雑誌全盛期の学生時代に端を発し、20代をバブル景気と共に過ごし、ライフステージの変化ごとに新たなファッション誌も創刊されたほど。
流行に踊らされていた、という点では今以上でした。
当時はパーソナルカラー診断や骨格診断もありませんでしたが、だからこそトレンドの存在感と影響力は今以上。自分に似合うか似合わないかより、トレンドものを着ていれば安心、という気持ちがアパレル産業を支えていました。
そして今。
「あしたのシニア」たちを途方に暮れさせている要因は、「似合うか似合わないか」でも、「トレンドかどうか」でもありません。
なんとか期待できる服を見つけて、試着にまでたどり着いても、試着室の鏡の前で絶望的な気持ちになる、あの瞬間。
「…思っていたのと、違う」
■サイズの問題ではなく、体型の問題だった
ライフステージや目的別に着る服を変えても、基本的な好みは大きくは変化しません。20、30代に慣れ親しんだブランドに対する親近感は、40、50、60代を経ても尚、なんとなく足が向かうものです。いわば「親ブランド」「親ショップ」ともいえる存在です。
通い慣れたセレクトショップに足を踏み入れ、店内をめぐり、やっとの思いで着たい服を見つけて、選んだ数着を持って試着室へ。
そして、鏡の中の自分に絶望して、販売員さんに「想像と違っていました」と言いながらしおしおと手渡す際の落胆。
確かに服は自分の好みに合うものでした。
これなら今でも着られそうかな、との淡い期待とともに、サイズの不安もありました。
しかし、せっかくサイズが合っても、何かが違うのです。似合う/似合わないという問題でもありません。
そう、その正体こそ、体型の変化だったのです。
■体型が変わっても、好みは変わらない
日々測定しては一喜一憂している体重や体脂肪では測れない変化が「体型」です。
ワコールの人間科学研究所センターは、45年にも渡り人体測定した結果から、年齢と共に変化する女性の体型をわかりやすく(すなわち残酷に)示しています。
加齢が重力との戦いであることは誰もが知るところですが、筋肉や贅肉の位置変化、それに伴うラインの変化など、一切の感情を抜きに示されると目を背けたくなるほどです。
「そうか、わたしは他人からはこういうふうに見えているのか」
しかし、まあ、それは仕方のないことです。
還暦を迎えた小泉今日子さんが相変わらず素敵なのは、「小泉今日子」だから。
昨年末の紅白歌合戦で大トリを務めた松田聖子さんが「青い珊瑚礁」を歌っても違和感がないのは「松田聖子」だから。
確かに、試着室でうなだれるわたしは、どこにでもいる普通の60代です。たとえ体型が変わっても、好みや嗜好まで重力で変わるわけではありません。気分が上がるような服を着たいと思う気持ちは、確かに存在しているのです。
「LIFE WEAR」というハードル
いまや日本の人口の過半数が50歳以上ですが、「あしたのシニア」たちはどこでお洋服を買っているのでしょうか。
誰もが真っ先に思い浮かべるのは、「LIFE WEAR」というコンセプトで国民服とまで言える存在になったユニクロでしょう。老若男女を問わず、誰もが着られる服が並んでいます。
実際に「Dockpit※」でユニクロのアプリユーザー像を見ると、「あしたのシニア」もユニクロをよく利用していることが分かります。日常的にユニクロを使うユーザーとして、週に1回程度アプリを起動しているユーザーの年代分布を見ると、40~60代がボリュームゾーンとなっています。
ユニクロアプリの利用者の年代分布
セグメント条件:ユニクロアプリの月平均起動日数が4日以上
集計期間:2025年3月~2026年2月
デバイス:スマートフォン
50,60代にも確かに選ばれているユニクロですが、シンプルゆえに「着こなし」が求められるリスクもあります。白Tとデニムが実はもっとも着る人を選ぶリトマス試験紙的アイテムであるのと同様です。
(むろん「だったら日頃から体型を絞る努力をするべきでは?」との内なる声にも耳を傾けてはいますが、何しろ地球の重力は手強すぎます)
シンプル=誰にでも似合う、ではありません。むしろ、加齢と共に手強くなります。
※Dockpit(ドックピット):株式会社ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール。毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイトやアプリの分析やトレンド調査が行える
■プリーツ プリーズという奇跡
ユニクロのように、若い子と同じ服を着たら、「若見え」どころかかえって年齢の違いが強調されて「老け見え」になる気がする(たぶん、割と真実)。
とはいえ、マダムブランドを着たら、いっきに老けそうな気がする(たぶん、本人の誤解)。
エイジフリーで、それなりにさまになるものって、いったいどこにあるのでしょうか。実は、その一つの解が、PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE(以下、プリーツ プリーズ)です。
実は長いこと、わたしは自分の不幸な思い込みにより、「これに手を出したら終わり」と勝手におばさんブランドの一つとして敬遠していました。
ところがある日、旅行に持って行く服で迷っていたわたしに、「これ、貸してあげようか」と母(86)が差し出したのが、まさにプリーツ プリーズだったのです。この期に及んでも心理的抵抗感と葛藤していたものの、「まあ、試すのはタダだし」と着てみたところ、アラ不思議。なるほど、これがプリーツ プリーズ・マジックか、と納得したのでした。
独自のプリーツ技術によって体型を誤魔化すのでもなく、隠すのでもなく、「活かす」という発想(たぶん)。誤魔化し感がないため、不要な負い目が生まれないのです(いわゆるチュニック的なアイテムは「おなかを隠す」ことが「おばさん」的に見える)。
それなりのお値段ではありますが、機能性と耐久性に優れた素材ゆえに安っぽく見えず、トレンドに左右されずに何年経っても古さを感じさせないデザイン。
多くの人に支持されているプリーツ プリーズ。
実際に袖を通したからこそわかったことでした。
実は、直近2年間に「プリーツプリーズ」を検索した人の訪問ページ上位に、雑誌「VERY」の2022年のものがいまだにあがっていました。
「PLEATS PLEASE」「プリーツプリーズ」検索者の流入ページ上位
集計期間:2024年3月~2026年2月
デバイス:スマートフォン、PC
タイトルは「実は万能オシャレ『プリーツプリーズ』の“脱マダム”なスタイルを総まとめ」。妊娠中&産後ママにもお薦めしたいアイテムとして紹介されています。
こうした事実からわかるとおり、マダム向けやシニア向けではないところも大きな魅力のひとつです。
実際にDockpitでサイト訪問者の年代分布を見ても、30代と60代に山ができているのです。
isseymiyake.com/collections/pleatsplease配下の訪問者の年代分布
集計期間:2025年3月~2026年2月
デバイス:スマートフォン、PC
それぞれの年代から支持され、実際に着用されているブランドであることがわかります。
「大人が輝く」は誰もが惹かれる
プリーツ プリーズがそもそもシニア向けではないブランドであることは、大きなヒントです。
年代訴求が功を奏す場合と、逆効果になる場合があります。
「それに手を出したら負け」と思わせてしまう場合がある一方、それが「高品質、高効果」を連想させると下の年代もなだれ込んできます。
スキンケア用品では、こうした例は枚挙に暇がありません。20代の、どう見たって貴女のお肌にはまだ不要ですよ、と伝えたくなるようなピカピカのお肌の女性たちが高価なスキンケアを求めて百貨店のカウンターに列を成して座っています。
また、メイク用品でも最近はSNSで「BBAの粉」とのレビューから欠品続出の大ヒットにつながったプチプラ化粧品の例もあります。確かに美容業界とは異なり、冬の時代が長く続くアパレル業界においてはそう簡単にいかないかもしれません。しかし、だからこそ今までとは異なる方策が必要なのです。
“夢”を少しだけ叶える、ファッションアイテムのお買い物
さて、試着室での絶望要因がサイズよりも体型であることは先述の通りですが、もうひとつ、とらえどころがない割に大きな絶望要因があります。
それが脳内セルフイメージが正しくアップデートされていないこと、です。脳内では-10歳、いえ-20歳くらいの自分が健在です。
試着室の絶望予防策として心掛けるようにしているのが、鏡を見る前に「わたしはおばさん、わたしはおばさん、還暦を過ぎたおばさんだから」と呪文のように念押しするのですが、やはり少しだけ「夢」を求めて試着室に入っては落胆するわけです。
ファッション系アイテムのお買い物は、野菜や魚の購入とは異なり、多少なりとも「夢」も込みで買います。
ラグジュアリーブランドの服は確かに「あしたのシニア」たちを豊かに美しく見せてくれますが、欲しいのは日常的に着たい服です。
ちょうどいい具合に「あしたのシニア」をキレイに見せてくれる服。
顔色を明るく見せ、体型の変化を逆手にとって活かしてくれるデザインの服。
少なくとも若い世代より人口も可処分所得も多い「あしたのシニア」です。
まだまだブルーオーシャンであると思うのですが、いかがでしょう。
〈あしたのシニア 感情デザイン〉
そのシニア向けの商品やブランド、彼女たちが密かに大切にしている「夢」を丁寧に反映していますか。
彼女たちの未来の「夢」をいくつ具体的に語れますか。
【セミナー好評受付中】巨大シニア市場の勝ち筋とは?宝島社『素敵なあの人』に学ぶ"本当のシニア像"
https://www.valuesccg.com/seminar/20260316-11492/本セミナーでは、バブル景気や男女雇用機会均等法を経験し、多様化・アクティブ化した「これからの50代・60代」の本音(インサイト)を読み解く『5つの原則』をご紹介します。年齢というラベルに縛られず、彼らの「物語(変わらない気持ち)」と「身体的現実(リアルな変化)」の両方に寄り添い、商品企画やプロモーションを成功させる秘訣を具体的な事例とともに解説いたします。






戦略コンサルタント。株式会社ウエーブプラネット代表取締役。
慶應義塾大学卒業後 、商業施設の企画開発会社にてターゲット戦略やコンセプト開発 、未来のくらし研究を担当。
1993年に株式会社ウエーブプラネットを設立。生活者研究、各種インサイト探索調査、コンセプト・ナビゲーション、コンサルティングなどを通して、トイレタリー ・飲料・食品・化粧品・住宅・家電・住設など、 さまざまな大手企業のマーケティング支援に携わっている 。時代と生活者の価値観やインサイト、企業理念等を言語化していくプロセスに定評がある。
近著『いちばんわかりやすい問題発見の授業』