デジタル時代のコンシューマーを取り巻く2つのトレンドとは?
デジタル化、スマホシフト時代と言われ、気づけば4Gの世界が始まってもう10年弱。そして今春からの5Gのサービス開始も目前となっています。
このようなデジタル時代を背景にして、今、コンシューマーの行動にはどのような変化が起きているのでしょうか。
株式会社ヴァリューズ執行役員の子安が興味深い2つのトレンドとその対応事例を語りました。
株式会社ヴァリューズ 執行役員 子安亜紀子(こやすあきこ)
慶應義塾大学 環境情報学部卒。システムエンジニア・Webコンサルタントを経て、株式会社マクロミルに入社。マクロミルのベンチャー時代から、商品開発、事業企画、営業企画などを手掛ける。2011年より株式会社ヴァリューズに参画。現在は執行役員として、事業企画やマーケティング部門の統括などを担当している。
「filter bubble」からの「タコツボ化」
■「filter bubble(フィルターバブル)」って?
filter bubble(フィルターバブル)とは、まるで「泡」の中に包まれたように、自分が見たい情報しか見えなくなること。スマホデバイスが普及し、自分の閲覧行動がパーソナルデータとして色々なところに吸収されると、そこでターゲティングされ、自分にカスタマイズされた情報が送り込まれて、どんどん囲い込まれてゆく…といった、ちょっとネガティブなイメージにも使われるこのワード。しかし実際にこのような囲いの中に誰しもがいるのではと、指摘します。
さらに、アメリカの例についてスライドを用いて説明が進みます。
中央にある「あなた」を、Google、Yahoo、Netflix、Amazon、Huffington Post…が取り巻いています。本当は世の中多数の情報があるのに、このようなフィルターがかかった情報を、私たちは得ているかもしれないと言う例です。
「すごく情報過多になっているように見えて、本当はとても偏った情報に人は閉じ込められているのではないか、これが「タコツボ化」していると世の中でよく言われている現象ですね。」(子安)
図:スマホメディア普及による最適化の波
■データで見る「タコツボ化」
①サイト利用の二極化
はたしてそれは本当なのでしょうか。
ヴァリューズ社のデータで「サイト利用の二極化」の実態を見てみましょう。
図:データで見る「タコツボ化」サイトの二極化
デバイス:スマートフォン
期間:2016年1月〜2019年12月
2016年1月から2019年12月の約4年間の主なサイト接触量の変化を、2016年1月を1と起点として増減がわかるグラフです。
急上昇している赤色はYouTube、青色はGoogleです。堅調に伸びていますね。ECの楽天・Amazonは横ばい。これはアプリを使う人が増えた可能性が高いと考察します。
この推移状況に対して子安は「旧来、検索枠に漠然と一般ワードを打ち込んでいたものが、最近は買い物ならAmazon、動画ならYouTubeと、決め打ちで「あのインフラに行こう」といった風潮になっているのではないかと。先ほどのアメリカの例と同様、日本人も、Googleがいて、YouTubeがいて、Amazonがいて…、というサークルに入り込んでいるのかもしれないと思います。」と語りました。
②EC サイトも集約化?
次は、利用するECサイトのバリエーションから「タコツボ化」を探ります。2016年1月のメイン利用ECサイトの占有率のデータです。この折れ線の濃淡を見ると、EC利用時間のほとんどを一つのECサイトが占めている人の割合が増えていて、複数サイトを並行利用している方は少しずつ減少しています。
このデータでも、特定のインフラに寄りがちな「タコツボ化」に近い現象が起きていると言えそうです。
図:データで見る「タコツボ化」利用ECサイトの集約化
デバイス:スマートフォン
期間:2016年1月
③アプリ数の推移は?
ここまでのデータで、サイトの「タコツボ化」はほぼ実証されたかと思われましたが、「それでは使うアプリも減っているのかなという気がしませんか?」とさらに問いかけた子安。
このグラフを見ると、2016年1月の時点では一人あたり利用するアプリは12個だったものが、2019年1月では23個と実は増えているという結果に。
図:データで見る「タコツボ化」アプリ数の変化
デバイス:スマートフォン
期間:2016年1月〜2019年6月
これでは「タコツボ化」と相反する結果なのでは?と思われましたが、次に用いられた利用が伸びているアプリのデータをみてみると、やはりアプリでも「タコツボ化」を匂わせる結果となっていました。
図:データで見る「タコツボ化」利用頻度が伸びているアプリ
デバイス:スマートフォン
期間:2016年1月〜2019年6月
2016年1月を100%として、上昇率300%を超えてきたのはAmazon、メルカリ、スマートニュース、Instagram。皆さんも感じられる納得の数値かと思います。一方で上昇率が横ばいだったものはLINEとFacebookですが、これらは既に普及が飽和状態にあると思われます。
これらアプリのラインナップを見て、やはり「タコツボ化」が進んでいると子安が推測した理由としては、「様々なアプリを使われるようになっているけれども、スマートニュースは個人の嗜好に合わせてコンテンツがレコメンドされるニュースサイトであるし、Instagramも自分好みの情報の選択やコミュニティ作りがメインとなるアプリであることから、個人が受ける情報は集約化されやすい。要は「アプリでさえも囲い込み系のアプリ」の利用率が上昇している。」と、「タコツボ化」への繋がりを指摘しました。
また、「フィルターバブルに囲まれて、その中でレコメンドされる、その中で面白いと思う情報を自動的に見ている。受動的に見せられているとも言える。わざわざだらだら見る情報をGoogleに検索しにいく人は減っているのですが、なんだろう?と気になれば今度は能動的にGoogleに検索しに行って見たいものを見るという行動が、この3年ほどで増えてきているかと思います。」とまとめました。
「消費行動の刹那化」〜パルス消費って何?
■デジタル時代はセオリー通りに動かない?
「マーケティングプロセスでAIDMAやAISASなどありますね。それはタイムラインに沿って徐々に検討行動が伸びて考えた末に購入するといった行動が一般のセオリーですが、実際のネット時代の人の行動はもう少し複雑なんじゃないか。」と子安。データを見ると昨今はそのようなセオリー通りの行動は少なくなっていると言います。
こういったセオリー外の行動について、Google社は「パルス消費」と名付けて研究を重ねているとのことです。とりわけ「パルス消費」を引き出す「消費行動の刹那化」や「検索行動」に関してはヴァリューズ社とGoogle社でデータを分析しながら共同研究し、今年1月にレポートを発表したとのこと。どのようなレポートでしょうか。
■「バタフライ・サーキット」とは?
一連の検索行動について、Google社とまとめた「バタフライ・サーキット」について子安は次のように説明しました。
「フィルターバブルの中に人が入っていて、日々自分に沿った情報を受けて気持ちよく過ごしています。その中で、ある時ちょっと気になる事を発見すると、検索して調べる行動が始まりますが、その時の検索行動は「さぐる」と「かためる」を行き来する、8の字の蝶のようなループをたどるのではないか、というのが、「バタフライ・サーキット」という概念になります。
パルス消費につながる情報探索とは? バタフライ・サーキットと 8 つの動機
https://www.thinkwithgoogle.com/intl/ja-jp/articles/search/butterflycircuit/パルス消費につながる情報探索とは? バタフライ・サーキットと 8 つの動機
「さぐる、かためる、さぐる、かためる、…やめる」といったループ、具体的に言うと「この商品ってどうなのかな」と思った時に確認する(さぐる)、「評判が悪いな」(かためる)、「もっと違うもの探そうかな」(さぐる)…といった風に、プラスマイナスの検索をしながら、諦めたり、探ったりといった行動が起こっている。そしてこのグルグル回った末に突発的に「買う」行動を起こす。まさに「パン!」と突然弾けるような事が起きる。これが「パルス消費」です。この検索行動について、私たちヴァリューズ社のデータを使いながら、レポートをまとめています。」
図:バタフライ・サーキット
さらに「バタフライ・サーキット」への理解を深めるために用意された8つの分類の図を見てみましょう。
人の検索行動をデータでつぶさに眺めていくと、検索キーワードの選び方や、検索動機は、8種類に分かれると推測できるそうです。
例えば、知らない知識を得たくて、調べる・学ぶといった「学ばせて」のようなタイプ。人が何を選んでいるのか何を思っているのか「みんなの教えて」と探す行動動機や、「納得させて」は、気持ちが盛り上がった後に固めてにいくための検索行動で、なるほどねと思いたいといった問題を解決したい検索動機となるそうです。
こうして一つずつ見ていくと、確かにいずれのタイプに何かしら当てはまりそうな分類となっています。
図:バタフライ・サーキット 8つの検索動機
■実際に起こっている「パルス消費」ってどんなこと?
「バタフライ・サーキット」の中で、突然起きる「パルス消費」とは、どのように発生するのでしょうか。検討行動の移ろいと、最終購買に至る瞬間の「パルス」を、実際のユーザーデータで観察し、顧客の背景分析を行うプロジェクトを、ヴァリューズではよく実施しているとのこと。
例えば、通販化粧品の購入を行った女性がどんな検索をしていたのかをデータでまとめてみると、最初は化粧品のランキングを調べていましたが、次は特定の化粧品ブランド、さらにプロテインのおすすめを探したり、別ブランドへ…というように予想もつかない形で検索が進んでいったそうです。そして突然「パン」と弾けるように商品を購入。
この予想不可能な行動を子安は、
「AIDMAを追って検討しながら絞り込まれていくわけでもなさそうで、人の動きは支離滅裂に見える、ただ少なくともどこかでブランドを認知していたり、SNSとか友達からなどの情報を得ていて、ちょうど肌の悩みもあったところで急に“ニーズに刺さった”という例だと思うのですが、まさに一瞬の出来事。これが「刹那化」と呼んでいるところです。」と説明しました。
さらに、「こういった方をターゲットに自社の商品を買わせることは非常に難しいのですけど、まずはこういった構造もあるのだということを理解しておくのは大事ではないか」と付け加えました。
「刹那化」とは、確かになかなか本能的即時的な行動ではありますが、今のデジタル社会の恩恵を受けたコンシューマーだからこその、行動パターンとも言えそうです。
多様化するコンシューマーをどう捉えるか
■コンシューマーを検索データで捉える〜行動クラスタリング
「タコツボ化」と「刹那化」。なかなか掴みどころがない現代の消費者行動ですが、こういった人をどう捉えるの?と誰もが悩むところでしょう。そこで子安は、「本当に見たいものとは、実際すごく小さいマスが大量にある。その一つ一つにどのような塊がいるのかというのをデータで探してみるのは面白いのではないか」と、「ダイエット」に関する参考事例を紹介しました。
図:「ダイエット」にまつわる検索クエリ
ダイエット検索と言っても様々なクエリがありますね。右側の性年代別のプロット図を見ると、なおさらばらつきが見られます。若い男性で見ると、自転車、炭酸水、豆腐…と、運動して痩せようというイメージ。右下女性だと、ダイエットヴィレッジ、ダイエットアプリ、コルセット...アプリで情報を集めながら痩せたいといったところでしょうか。年配の女性になってくると、体幹リセットや酵素など。同じダイエットでも、性年代別だけで見ても興味関心が異なることがわかりました。
そこで子安は、さらに掘り下げるために、クラスタや検索クエリでコンシューマーの興味関心を探る手法も紹介しました。
■検索クエリからユーザーをセグメントしてみると?
検索クエリも有効に人の行動を映し出すとのこと。こちらは検索クエリで人のセグメント分けをしたという例です。
具体的にはダイエットにまつわる検索をした前後の検索ワードをログから収集し、その検索特徴からクラスタを分け、「マタニティダイエッター」「婚活・恋活ダイエッター」「万年ダイエッター」…など、5タイプのセグメント分類を生成。この中から、「マタニティダイエッター」と「婚活・恋活ダイエッター」に焦点を当てて比較しました。
図:クラスタ別ワードクラウド
まず「マタニティダイエッター」。ダイエットと一緒に検索していたワードクラウドを見てみると、体幹、産後、スープ...などが挙がっており、出産前後の悩みが多いのではと見て取れます。
次のクラスタの「婚活・恋活ダイエッター」は、体重、生理、お腹、二の腕や岩盤浴と、若い女性の姿が推測できますね。
このようにクラスタが分かれることで、何に役立てるかという点を「それぞれの方にどういう訴求をすればいいのかという作戦を立てる時に有効性を発揮する」と説明しました。
■クラスタ別のアプローチ方法をメディアから考える
例えば、このそれぞれのクラスタの人達がどれくらいPC、スマートフォンでネットを利用しているか、LINE、Facebook、Instagramなどを使っているかをデータ化された図を見てみましょう。
図:インターネット・SNS利用時間
デバイス:PC、スマートフォン
これをみると「婚活・恋活ダイエッター」はLINEの利用率がちょっと高めです。「マタニティ」はInstagramの利用が多いというのがわかりますね。
こうして検索行動からクラスタを分けていくと、興味を持っていそうなコンテンツも分かりますし、どのメディアで訴求すると比較的伝わりやすいのか、データから分析ができ、クラスタ別に戦略を立てるためのイメージがしやすく、確かに有効な手段と言えそうです。
まとめとして、前半での「人々は、受動的な情報収集をしながらも、関心事項を検索し気持ちが上がったら購買するという流れがこの数年で加速している」という事を重ねて語り、また、検索ワードは人の背景&心の移ろいを映し出す重要なキーになると添えました。
デジタル時代のコンシューマーを的確に捉えるのは、なかなか容易ではなさそうですが、「従来の手法に加え、このような検索ログを起点としたターゲットセグメント分析で、アンケート調査だけでは見えない顧客の束を発見できる」との提言から、新たな手法に期待が高まったセミナーとなりました。
まとめ
2007年から登場したiPhoneから始まり、通信環境も3G、4G、そしてこの春には5Gと、私たちのデジタル化は激変しています。膨大かつ多様なコンシューマーの行動やニーズをどう掴むのか、そのための考察や試行錯誤に加え、変わりゆくマーケティング手法も垣間見えました。今後も蓄積されるであろう事例や、リアルなビッグデータのさらなる活用にも注目です。
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マナミナは" まなべるみんなのデータマーケティング・マガジン "。
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