消費行動の「刹那化」とは?
消費行動を分析するセオリーの代表格であるAIDMAやAISAS。
「はたして本当に人はAIDMA通りに動いているのか?実は最近、そうではないのではないかという話があります。」と問題提起からセミナーはスタート。
株式会社ヴァリューズ 執行役員 子安 亜紀子(こやす・あきこ)
慶應義塾大学 環境情報学部卒。システムエンジニア・Webコンサルタントを経て、
株式会社マクロミルに入社。マクロミルのベンチャー時代から、商品開発、事業企画、営業企画などを手掛ける。2011年よりヴァリューズに参画。執行役員として、事業企画やマーケティング部門の統括などを担当。
子安:「検討行動は、例えば右のようなジグザグを描いていた途端、突然AIDMAが発生して購買につながることが、最近多く見受けられます。おそらくこの10年くらいの変化なのではないかと推測しています。」
SNSなどで日常的に多くの情報を受信し、気になるものがあれば自身のタイミングで自発的に検索する。商品を検討する時間の流れやプロセスというものが、左に描かれている従来の階段式なAIDMAの形状から変わってきているのではないか。消費行動がより瞬間的、刹那的になっているのではないか、と子安は続けます。
図:消費行動の刹那化
情報検索行動と「バタフライ・サーキット」
こういった行動の変化の背景としては、現代のデジタル化・スマホ化が大きく影響していると考えられるとのこと。
子安:「この10年程で、「フィルターバブル」のような、誰もが多くの情報に自由にリーチできているように見えて、実はその情報は個々にカスタマイズされ、自分に心地良い情報だけが届くような情報環境に変わってきているのではないかという仮説があります。そしてそのように操作された情報の中で、受動的に情報を受け取りながらも、時に気になった事を突如検索する。そういった検索行動が最近増えているのではないかと推測されます。」
そこで紹介されたのが「バタフライ・サーキット」。
子安:「Google社が毎年、検索行動を軸にした人の動きの変化について研究発表されるのですが、これは昨年秋にGoogle社、博報堂社とヴァリューズの三社で行った共同研究の結果です。ヴァリューズが保有するモニターパネルのパソコン、スマホでのネット行動を分析することで、購買行動のリアルな姿が見えてきました。」
図:バタフライ・サーキット
子安:「「バタフライ・サーキット」のイメージとしては、左側が新しい情報を検索する「さぐる」ための動き、右側が「これでいいのかな?」という「かためる」ための動き。
この「さぐる」と「かためる」がグルグルまわり描く円がちょうど蝶々のように見えることから、バタフライ型のサーキットを巡って購買を決めていく「バタフライ・サーキット」と名付けられました。」
「バタフライ・サーキット」における8つの動機とは?
図:情報検索の8つの動機
この「バタフライ・サーキット」での検索内容を分類すると、は8つの検索動機に分けられます。これらは大量のユーザーの購買行動データを読み込んだ結果、ほぼこの8個のどれかに検索行動が集約された裏付けから成り立っています。
この検索動機について、旅行検討の具体例を用い、ヴァリューズでデータアナリストを務める灰谷が購買者の心理変化を説明しました。
株式会社ヴァリューズ ソリューション局 アシスタントマネジャー データアナリスト 灰谷 圭史(はいたに・よしふみ)
京都大学教育学部卒業。ヴァリューズに入社後は、ネット行動ログ分析とアンケート調査を掛け合わせた独自のマーケティング分析手法を駆使し、大手日用品メーカーや新聞社、大手広告代理店など多様な業種のクライアントに施策提言をおこなう。2020年には、個人売上目標150%達成やGoogle社との共同プロジェクトを推進した実績を評価され、ヴァリューズMVPを受賞。現在はヴァリューズの国内案件を多数担当しながら、新たな分析パッケージの開発などにも取り組んでいる。
灰谷:「実際の旅行商品検討行動の一例ですが、一方に盛り上がるばかりではなく、「盛り上がる」・「落ち着く」と、グルグル両方に動いているのを繰り返して検討行動が進んでいくというところに「バタフライ・サーキット」の特徴が見えました。」
挙げられたサンプルの検索行動でも、初期検討から「海外旅行」といった漠然としたキーワード検索ではなく、「ニューヨーク 安い 時期」と具体的な検索行動が見られたそう。
子安:「行動とは、通常「抽象」から「具体」に移ってゆくのですが、この例を見ても最初から「ニューヨーク」と具体的検索を行っており、やはり実際の検索行動は段階的なAIDMAのような時間軸とは異なる、ということがわかります。」
この後、実に「バタフライ・サーキット」的だと灰谷が指摘したのは、「具体的な検索」から突然「海外旅行 一人旅」といった「抽象的な検索」に戻った動き。そして、「ニューヨーク旅行」の購入直前に、本来の目的とは全く違う「ヨーロッパ」という検索をしている動きだと言います。
灰谷:「これらは、あえて「抽象的な検索」や「ヨーロッパ」を検索することで、やはり自分には「ニューヨーク」に行く選択が正しいのではないかという、「ニューヨーク」行きを決定する自分を正当化するために裏付ける検索をしているという解釈に落ち着きました。
まさに「バタフライ・サーキット」にある「答え合わせさせて」という検索動機と一致した行動と推測します。」
図:検索モチベーションのグラフ
まずは今のユーザーの動きを理解する事が大切
「デジタル時代の購買行動はどうしても瞬間的に「パン!」と購入するような事象が起こりやすい。その背景には、デジタル社会ならではの検索行動の変化があります。このようなユーザーの動きが変化しているということをご理解頂くというのがまず1つ目のポイント。
2つ目は、自社のプロダクト購入プロセスにおける「バタフライ・サーキット」を理解することが重要です。」と子安はまとめました。
実際に自社の商品を購入する人が、「さぐる」プロセスで何を探っているのか、「かためる」プロセスで何を悩んでいるのかを理解していくと、購入の瞬間を予測出来たり、購買の可能性が上がるキーワードなどをきちんと掴む事が出来ると考えられると言います。
子安:「どうやって「バタフライ・サーキット」を解釈するのか、ヴァリューズ社のデータを使って頂くのもありますし、また、インタビューや仮説を立ててをやってみるというのも良いと思います。まずはこういったユーザーの行動理解を進めていくと、デジタルマーケティングやUXのデザインなどにもご活用頂けるのではないかと思っております。」
図:2つのポイント
消費者行動の変化をとらえる分析ツール「story bank」を開発
「バタフライ・サーキット」の有効性を説いてきましたが、同様にマーケティングにおいて、瞬間的なニーズの高まりを的確に捉える重要性が高まっている中で、ヴァリューズ社では、大量の行動ログデータから消費者ニーズや購買意識の移り変わりを捉え、モーメントの分析ができる「story bank」を開発しました。
ツール上では特定アクションを任意に設定し、前後のWeb行動を可視化することで、消費者ニーズの変化やトリガーとなった要因を分析することができます。
サービス名の「story」は、消費者がサービスを検討・購入する背景にはそれぞれ異なるきっかけやストーリーがあることを意味し、「bank」は、そうしたストーリーが詰まっているデータベースを表しています。これらのデータがさらに現代の行動動機への深いアプローチを可能にするのではないでしょうか。
子安:「検索行動とは、人の興味関心やストーリー、背景などが綺麗に現れます。「story bank」のようなツールを使って分析しながら、自社商品や自社テーマの背景でユーザーが何を思っているかなど、ユーザー理解にもおおいに役立てると思います。」
図:「story bank」のご紹介
■「story bank」の利用方法について
ご利用期間やアカウント数に応じて料金プランを各種用意しておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
■関連記事
データに基づきキャンペーンを最適化したり、パーソナライズしたりするデータマーケティング。従来の属性データに加え、ネットの購買行動などの行動データが取れるようになったことで企業が使えるデータ量は爆発的に増加しています。大量かつ複雑なデータ=ビッグデータを活用するデータマーケティングとその事例をご紹介します。
ネット行動からみるデジタル時代のコンシューマ変化とは…「戦略的ブランドコミュニケーションフォーラム2020」レポート
https://manamina.valuesccg.com/articles/783デジタル化・スマホシフト時代の今、言うまでもなくコンシューマーを取り巻く情報の波にも大きな変化があらわれています。そんな中、コンシューマーの行動にはどのような変化が起きているのでしょうか。2月20日に開催された「戦略的ブランドコミュニケーションフォーラム2020」にて、株式会社ヴァリューズは今までの分析実績をもとに、デジタル時代のコンシューマーを取り巻く2つのトレンドとアプローチ方法について紹介しました。
マナミナ 編集部 編集兼ライター。
金融・通信・メディア業界を経て現職。
趣味は食と旅行。