日比谷花壇の事例から学ぶ 顧客理解を深め、打ち手に繋げるための生成AI活用

日比谷花壇の事例から学ぶ 顧客理解を深め、打ち手に繋げるための生成AI活用

自社ECサイト「hibiyakadan.com」のロイヤル顧客数の増加に向けて、株式会社日比谷花壇はヴァリューズと共に顧客理解のためのアンケート調査を実施。「母の日」などの一時的な売上増加に留まらない、継続的な購入につながる要因を明らかにしました。「調査を実施して終わり」ではなく、成果につながる施策に落とし込むために重要なこととは?同社の横山氏にうかがいました。


ロイヤル顧客をどう増やすか。解決の糸口は”顧客理解”

――まず、現在どのような業務に携わっているか教えてください。

株式会社日比谷花壇  横山哲大氏(以下、横山):リテール第一事業部のオンラインセールスグループのリーダーとして、商品展開やCRMに関する業務など、主に自社ECサイトの運営に携わっています。ECサイトでは、季節やイベントにあわせたフラワーギフトを販売しています。

――今回ヴァリューズと共にアンケート調査を実施しようと思った背景や課題感、調査で知りたかったことを教えてください。

横山:ヴァリューズさんとのお取り組みは数年に渡っており、商品の進捗管理や顧客CRMのための基礎データ整理などのDX領域でサポートしていただいています。

当社のECサイトでは、お花を贈る方が主なお客様になります。DX施策で見える化したデータを分析した結果、お客様一人当たりの購入回数を増やすことに優先して着手すべきではないかとの結論に至りました。何度も購入してくださる方もいますが、多くのお客様は「母の日」や「誕生日」など、年1〜2回の購入に留まっています。

事業をもう一歩伸ばすためには、リピート購入してもらえるような、お客様とのロイヤリティを形成したい。ロイヤリティの形成要因を知るために、お客様の具体的なニーズやリアルな思いを把握するといった「顧客理解の取り組み」が必要ではないかとヴァリューズさんと話しました。

また、コロナ禍を経た市場環境の変化に伴い、お客様が本当に求めているものを改めて理解する必要性を感じていたことも、アンケート調査実施に踏み切った大きな要因のひとつです。

<b>横山哲大氏 株式会社日比谷花壇 リテール第一事業部オンラインセールスグループ リーダー</b> 神奈川県出身。2012年に株式会社日比谷花壇へ入社。 ショップ事業部にて店舗スタッフを経験後、2019年にリテール第一事業部に異動。 楽天市場、Yahooショッピング店などのモール運営担当を経て、自社ECサイトを現在担当。

横山哲大氏
株式会社日比谷花壇
リテール第一事業部オンラインセールスグループ リーダー

神奈川県出身。2012年に株式会社日比谷花壇へ入社。
ショップ事業部にて店舗スタッフを経験後、2019年にリテール第一事業部に異動。
楽天市場、日比谷花壇 ヤフー店などのモール運営担当を経て、自社ECサイトを現在担当。

「調査を実施して終わり」にしない設計

――どのように調査を実施したのでしょうか。施策開始からの流れを簡単に教えていただけますか?

横山:最初の話し合いは2024年夏頃に始まり、設問設計などの具体的な準備は9月から開始しました。アンケートは、9月末に1回目、10月に2回目(初回購入者と2年連続購入者対象)、11月に3回目(9、10月の2回購入者対象)を行いました。

質問案はまずヴァリューズさんから提案いただきました。そこから当社側でより深く掘り下げたい観点を追加しながら一緒に詰めていきました。

実はこれまでも自分たちでアンケート調査を実施してきたのですが、目的の設定が十分でない部分がありました。そのため質問内容に一貫性がなく、具体的な施策への落とし込みができないなど、単なるデータ収集に留まっていることが課題としてありました。そのため、今回は「F2転換(2回目のリピート購入)の背景を理解し、次の施策に活かせる情報を得る」という明確な目的に沿って必要な情報が得られるよう、設問を設計しました。

各回50名の方から回答をいただいたのですが、従来の選択式アンケートと異なり、今回は記述式で実施したことで、非常に濃密な情報を得ることができたと思います。

――それだけの対象者数の記述式のアンケートだと、聴取や分析に相当な工数が発生しそうですね。

横山:全てを内製で行うとすれば、膨大な時間と労力が必要になると思います。ただ今回はヴァリューズさんから「生成AIを活用したアンケート調査」をご提案をいただいたこともあり、スムーズに進めていただきました。

また、生成AIを活用したアンケートでは、深掘りしたい部分について自然に質問を展開することが可能です。従来の固定設問式アンケートの自由回答では、質問の回答が意図した範囲を外れることがあったので、この点も非常に嬉しいポイントでした。生成AIを活用することで、限られた時間内で意図した情報を効率的に収集することができたと実感しています。

正直に言うと、初めてご提案いただいたときは「本当に生成AIがちゃんと質問してくれるのか?」と懐疑的に思っていました。しかし、私も試しに回答をさせていただいたのですが、驚くほど自然な応対で、実際に集まった回答品質も満足のいくものでした。

リピート購入には「初回体験」が鍵

――今回の調査で得られた気づきがありましたら、教えてください。

横山:例えば、初回購入における体験の質が、2回目の購入に大きく影響していることがわかっています。お届け先様からの「ありがとう」という言葉や反応があることで、贈り物としての体験が完結し、次回の購入へのハードルが下がる傾向が見られたほか、一度の良い体験が、別の方への贈り物にも波及する可能性も見えてきました。

これらの気づきを踏まえ、今後の施策としては、お届け先様から送り主様へ感謝の気持ちを伝えやすい仕組みの構築や、日比谷花壇の信頼性をさらに高めるための配送方法やお花選びに関する情報をより充実させることを検討しています。お客様にとってより良い体験を提供し、継続的なご利用につなげていきたいです。

ーー嬉しかったアンケートの声などはありましたか。

横山「毎年送って喜んでもらっているので来年も送ります」といったコメントですかね。今後も信頼できる企業と思っていただけるように、引き続き精進したいです。

部署を超えたワークショップで、調査結果を「共通認識」に

――調査後に毎回、結果についてディスカッションするワークショップを実施されたとのことですが、どのような効果がありましたか。

横山:ワークショップでは、部署を超えた共通認識の形成ができました。結果やデータをエクセルやメールで共有するだけでは、関係者が内容を十分に理解し、具体的なアクションにつなげることは難しいと思います。

ワークショップ形式で時間を確保し、データが得られた背景や施策への落とし込み方を参加者全員で考える機会を設けることで、より実効性の高い展開が可能になると実感しました。

特に有意義と感じた点は、部署を超えたメンバーで実施できたことです。事業部によっては、同じ方向性を目指しながらも具体的な認識の違いがあることが分かりました。ワークショップを通じて、お客様のリアルな声を共有できたことは、若手メンバーや普段お客様と接する機会が少ないメンバーにとっても、リアルなお客様像を理解する貴重な機会となりました。そして、お客様の声があることで、より説得力のある仮説検証、施策実行を実現できると思います。

また、OMO※の観点からも意義深い取り組みとなっていると感じます。営業企画のメンバーからは、店舗とECの両方で販売可能な商品開発に関して、今回のアンケート結果が有益だったという反応がありました。商品の調達や店舗のスペースの制約から、オンラインとオフラインで完全に品揃えを統一するのは難しい面があります。ただ、お客様にとって「ネットで見た商品が店舗にある」「店舗で見た商品を後日ECで購入できる」という体験の実現に向けて、今回の調査結果を活用していきたいと考えています。

このようにお客様のリアルな声や思いを組織全体で共有できたことは、今後の施策展開において重要な基盤になると考えています。 今まで漠然としていたものが、具体的な声として見えたので、自信を持って企画などを進めることができています。

※OMO:オンラインとオフラインの垣根をなくし、よりよい顧客体験を目指すマーケティングの考え方

花を贈る良さを、より多くの人に届ける

――今回の調査を踏まえた、今後の展望をお聞かせください。

横山:今回のようなアンケート調査は、今後も継続して実施していきたいと考えています。頻度や手法については、目的に応じて最適な方法を選択していく予定です。1対1の深い洞察が必要な場合は個別インタビュー形式を、また別の目的がある場合は異なる手法を選択するなど、状況に応じた使い分けを行っていきたいと思います。

近日、ECサイトのリニューアルを予定(※)しています。スマホ最適化を始め、お客様に一層使いやすいと感じていただけるサイトにするほか、今後ソーシャルギフト機能など、新しい選択肢を提供する予定です。お客様が商品と出会いやすい環境を整備するとともに、母の日をきっかけとした購入から、年間を通じた様々な用途での利用機会の創出を目指しています

そして、2月下旬からは母の日に向けた取り組みが始まります。商品が最も豊富にそろう時期となりますので、ぜひ注目していただければと思います。

※インタビュー時点。2025年2月17日現在リニューアル完了済み

リニューアル後のTOPページのイメージ画像

リニューアル後のTOPページのイメージ画像

ーー最後に花を贈ること、家に花があることの良さをお聞かせいただけますか。

横山:花を飾ることは、空間を華やかにするといった見た目の変化はもちろん、心がウキウキしたり、明るい気持ちになったりと、「心の豊かさ」を感じることができるのがよいポイントだと思っています。

また会社というより個人的な意見ですが、無機質になりがちな生活のなかで、生き物の大切さや、生活にとって何が必要なのかを気づかせてくれるというのが、花や植物を育てたり家に飾ることの良さだと考えています。

取材協力:株式会社日比谷花壇
hibiyakadan.com

【詳細資料】顧客の本音を生成AIが引き出す!日比谷花壇のAIインタビュー活用事例を資料で学ぶ

https://manamina.valuesccg.com/articles/4196

生成AIが聞き手となり、多数の生活者に自動でインタビューを行うことができるリサーチプラットフォーム「NautsHub(ノーツハブ)」。この「NautsHub」を導入し、成果を上げられた事例として、ECサイトのロイヤル顧客の増加に向けた取り組みの中で、AIインタビューとワークショップを実施した日比谷花壇様を紹介します。

【無料イベント】日比谷花壇、横山様も登壇する『VALUES Marketing Dive 2025』が7/2・7/15にオンライン開催!

https://manamina.valuesccg.com/articles/4245

パナソニック、大王製紙、日比谷花壇、岩谷産業、天藤製薬、 TimeTree、電通、イーエムネットジャパンら登壇 !「最前線マーケの実践知」をテーマとし、マーケティングやデータ分析の最前線に向き合うカンファレンス『VALUES Marketing Dive 2025』を、2025年7月2日(水)・15日(火)13:00~17:00にオンラインで無料開催します。両日同内容で開催し、申込時にご都合に合わせて視聴希望日をお選びいただけます。

この記事のライター

IT企業でコンテンツマーケティングに従事した後、独立。現在はフリーランスのライターとして、ビジネスパーソンに向けた情報を発信しています。読んでよかったと思っていただける記事を届けたいです。

関連する投稿


AIエージェントを導入している企業は35%!生成AIの導入スピードを上回る【BCG調査】

AIエージェントを導入している企業は35%!生成AIの導入スピードを上回る【BCG調査】

ボストン コンサルティング グループ(BCG)は、MITスローン・マネジメント・レビュー誌(MIT SMR)と共同で、AIによるビジネスへの影響に関するレポート「The Emerging Agentic Enterprise: How Leaders Must Navigate a New Age of AI」を発表しました。


アドウェイズ、AIを活用したマンガ広告特化型クリエイティブ最適化ソリューション「Agent MALOOK」を提供開始

アドウェイズ、AIを活用したマンガ広告特化型クリエイティブ最適化ソリューション「Agent MALOOK」を提供開始

株式会社アドウェイズは、マンガ広告におけるクリエイティブ制作の工程をAIが最適化し、従来属人的だった制作プロセスをデータドリブンに構築する、マンガ広告特化型クリエイティブ最適化ソリューション「Agent MALOOK」(エージェント マルック)の提供を開始したことを発表しました。


マーケティング業務に生成AIを活用している企業はすでに9割近くに!業務自動化レベルの高度なAI活用はまだ限定的【日本マーケティング協会調査】

マーケティング業務に生成AIを活用している企業はすでに9割近くに!業務自動化レベルの高度なAI活用はまだ限定的【日本マーケティング協会調査】

公益社団法人日本マーケティング協会は、日本の上場企業を対象に「マーケティングにおけるAI・デジタル活用に関する調査」を実施し、結果を公開しました。


老舗・今西酒造の決断と再生への軌跡。酒の聖地・三輪を「世界の聖地」へ

老舗・今西酒造の決断と再生への軌跡。酒の聖地・三輪を「世界の聖地」へ

奈良・三輪で360年以上の歴史を持つ今西酒造。全国トップクラスの評価を得る代表ブランド「みむろ杉」は、どのようにして生まれたのでしょうか。28歳、未経験から代表となった14代目蔵元・今西将之氏が目指したのは効率化とは真逆とも言える「清く、正しい、酒造り」。 Forbes JAPANの2025カルチャープレナー(文化起業家)30も受賞された今西氏に、酒の聖地である三輪に根差した改革の歩みとチームづくりについて、ヴァリューズ代表の辻本秀幸がうかがいました。


AIの嘘に騙された経験がある人は約半数!騙されない人の確認術は「Google検索での裏付け」と「AIへの出典要求」【AIスキルアカデミー調査】

AIの嘘に騙された経験がある人は約半数!騙されない人の確認術は「Google検索での裏付け」と「AIへの出典要求」【AIスキルアカデミー調査】

株式会社AIスキルは、同社が運営するAIスキルアカデミーにて、業務で生成AIを利用するビジネスパーソンを対象に、「AI情報の正確性に関する実態調査」を実施し、結果を公開しました。


ページトップへ