CMOがおさえるべき消費者・ユーザー理解の核心|宣伝会議CMO CLUB FORUMレポート

CMOがおさえるべき消費者・ユーザー理解の核心|宣伝会議CMO CLUB FORUMレポート

「コロナによって売上が減少し顧客が離反した」という構図は果たして本当でしょうか。2020年、コロナショックにより消費者ニーズ、パーセプションの前提自体が変化している可能性がある中、これまでと同じブランド戦略や施策を続けていくべきか、疑問に感じる方も少なくないはずです。ソーシャルプレッシャーにより消費者の本音が届きにくい今、適切な消費者理解はどうあるべきか。11月11日に開催された「宣伝会議CMO CLUB FORUM」では、国内最大規模のWeb行動ログデータを保有し分析支援する株式会社ヴァリューズのゼネラルマネジャー 間宮浩平と、株式会社クー・マーケティング・カンパニーの代表取締役、音部大輔氏が登壇。活発な意見交換を繰り広げました。


セミナー概要

本日のagenda

1・はじめに ~インサイトとは何か~

2・コロナ禍における消費者理解の制約と難しさ

3・行動ログを用いた分析事例

スピーカー紹介

図:スピーカー紹介

図:スピーカー紹介

インサイトとは何か?

株式会社ヴァリューズ 間宮浩平(以下、間宮):
さて、まずは“インサイトとは何か?”という問いです。僕が個人的に大切にしている事として、小さな認識のズレが後々大きなズレとなって取り返しのつかない事態にならないよう、チーム内で言葉の定義や認識を揃えるようにしているのですが、このインサイトという言葉も、多用されるわりに人によって捉え方がバラバラで、抽象度が高い言葉だと思うんです。時にある種の危険性も持っている、僕は思考停止ワードとも呼んでいるのですが、このインサイトという概念を音部さんはどう捉えていらっしゃいますか?

株式会社クー・マーケティング・カンパニー 音部大輔氏(以下、音部):
インサイトについては、まず広義には「あまり明示的に認識したり表したりしないが、多くの人が共通して持つ傾向や本音、想念や認識のこと」だと考えています。ニーズを説明することもあれば、知覚したものからの連想や反射かもしれません。暮らしや経済活動において重要なものも、どうでもいいものもあります。小説やドラマを好きになるのは、日々の生活や人間関係にもとづくインサイトを示していることが多いと思っています。

次にマーケティングにおいての狭義では「現在の行動を促す、支配的な動機を言い表しているもの」と理解すると実践的だと思います。動機を表しているので、ニーズ的に聞こえることもあるでしょう。多くの人が同じインサイトを共有していることもあり、消費者の行動を理解したり、新しいベネフィットの開発の参考に使われたりします。また「言われてみればその通り」と思うので、認識を変化させたり、行動に影響を与える“きっかけ”としても使われますね。

間宮:なるほど。では早速ですが、ここに有名なマトリクスの図表を用意しました。よくエスノグラフィの価値を説明する際などに使う「ジョハリの窓」です。消費者が知っているのか、いないのか、企業側が知っているのか知っていないのか、という二軸でマトリクスを組んだものです。
消費者も企業も気づいていないところが「未知の窓」と定義されているものですね。

この辺りをどうやって消費者から吸い上げるのか、この「未知の窓」を開くために、どんなことを留意しなくてはならないかということも含めて次に話を進めていきたいと思います。

図:ジョハリの窓

図:ジョハリの窓

コロナ禍における消費者理解の制約と難しさ

間宮:コロナによって様々な変化が起こっています。個別の変化は色々なところで語られているものの、変数が複雑に絡み合い、企業としてはどのように対応すべきか悩ましい状況が続いています。音部さんはどのようにコロナによる変化を捉えていらっしゃいますか?

音部:コロナが理由で単純に、ビジネスが落ちたとか何かが変わったという説明をされることがあるんですけど、実際コロナが認識や行動に、どういう影響があったのかという事の結果として、ビジネスが上がったとか下がったと語られないと、対応が難しいですよね。

コロナは直接影響を及ぼしにくい。間に消費者の変化を変数でとらえることで、ただの相関関係ではなく因果関係的に理解ができるので、そこで対応のしようも出てくるだろうと。だから消費者の変化をちゃんと捉える事がとても大事だと思います。

間宮:消費者をフィルターにして、コロナの変化を捉えに行くということですね。

図:コロナによって消費者が大きく変化している

図:コロナによって消費者が大きく変化している

間宮:変化を捉えたあと、どう対応すべきかと、企業側も大変悩ましい時期が続いているかと思います。例えば広告を打つべきか止めるべきかなどと言った問題を、確証を持てないまま判断を迫られるケースも少なくないのではないでしょうか。

個人的には、今、マーケターの力量が試されていると感じています。
ある意味コロナ禍で行った判断が、これから結果として明暗がはっきりわかれてくると思うので、マーケターとしてふるいにかけられている時期という危機感ですね。
反面、意思決定の不確実性が高い中で、どういう判断をしたのかという結果を後々見るのには面白い時期でもあるとも思っています。

そこで、僕がよく使う変化を類型化するフレームを用意しました。

まず一つ目は「波状型の変化」です。押しては返す景気のような変化。これは短期的にどうリソース調整するのかという観点で、その変化が一過性のものであるのかどうか判断するものです。

次に二つ目が「一方通行型の変化」。例えばガラケーからスマホみたいな感じで、中長期的に商品開発などを変化に対応させていく必要があるもの。

最後に三つ目ですが「パラダイムシフト」。これは新しい概念が生まれるものです。
例えば、AとかBではなく、赤から黄色へ変化する。しかも、もともと赤という概念すらなくて、今振り返ってみると昔は赤だったよねと気づくものですね。

これもよく言われることですが、日本の戦後間もない頃、需要に供給が追いつかない時の企業は生産志向だったのが、その後需給バランスが整うと、品質志向に変わったり差別化を推進するようにと変化する。そして、その後は行き過ぎた品質や、誇大広告、そういったものに対して消費者保護の観点が生まれたりと流れが変わっていきます。さらに近年では企業の社会的責任、環境保護やCSRなど、そういう新しい概念がどんどん生まれていますが、これも皆、今、過去を振り返ってみるとあの頃こうだったと語れる事ですよね。なかなか現時点で新しい将来を予測することは難しい

それでも個人的には、できるだけその変化が未来に何をもたらすのかという思考を回しながら、将来どんなことが競争条件になるのかを予見するように努めてはいます。
そこに対して今のリソースではなくて、どうアセットマネジメントしていくのかというところを思考するという形で、変化を大きくこの三つに分けて考えるようにしています。

音部さんはどのような変化に着目されていて、それをどのように情報分類されていらっしゃいますか?

音部:コロナ以前で言うと、デジタル。これは計測可能性が故にデータ化しやすいため、ビックデータとかAIを駆使するといった、計測可能性が重要と考えていました。

コロナ以降は、デジタルに加えて遠隔とか非接触とか、今まで必要性をあまり感じなかったことが重要に思えてきていますね。これらは10年前の「エコ」みたいなポジションの新概念のようなものかもしれないですね。例えば遠隔。今まではわざわざ遠隔じゃなくてもいいはずだったと思うのですが、だんだんそれがデフォルトになってきています。
もう一つ、遠隔で非接触が条件であるが故に重要なのは、マッチング能力、適合させる能力ですね。

そして昨今のタイミングで5Gという技術が普及し始めるというのは、ブーストがかかるだろうなという気はしますね。

間宮:そうですね。遠隔にしなければならないからこそ、その反作用としてデータもたまり、いわゆるOne to Oneマーケティングみたいなものが可能になっていく土壌も揃い始めてきていると言えそうですね。

さらに5Gみたいなテクノロジーの進化も相まって、そこはすごく加速していくだろうということですね。

図:その変化は対応すべきか?

図:その変化は対応すべきか?

間宮:さて消費者の変化を捉えることは大切なのですが、実はそれがすごく難しいという実情について。一般的には消費者調査が代表的な手段だと思いますが、残念ながら様々な制約があります。

例えば調査パネルには色々なバイアスがかかっていますし、代表性、つまり登録制のパネルでは世の中を正確に反映しているのかという問題もあります。
今は10年前に比べて10人1色ではなく10人10色。特に最近は1人10色というか分散するケースが増えてきたと感じます。1と100の平均も、40と60の平均も「50」という事からもわかるように、リサーチ結果を単純平均的に処理してしまうと実態とずれることも増えてきました。

また今回感じているのは、過去を振り返るのがとても難しいという点ですね。コロナ禍にあって、過去と比較したいものの、過去データを蓄積していないという問題にぶつかるケースも多いです。

図:正確に消費者を理解するのは難しい

図:正確に消費者を理解するのは難しい

間宮:続いて、代表的なバイアスの一例です。

まず一つ目が「社会的な望ましさ」ですね。リサーチを回答する方々が、他の人から何か好意的に見られるような回答をしてしまう傾向です。

二つ目が「無意識行動」といいまして、意識と無意識の行動にどうしてもギャップが出てしまう。なかなかアスキングの調査だと無意識の行動が拾えないというところです。

三つ目は「忘却」。これは人間なので仕方がないところでしょうか。過去のことを聞いてもなかなか的確な回答は得られにくい。

四つ目が「回答環境による意識の相違」。例えば健康意識を聞いても、聞くタイミングによって大半の意識が変わったりすると思うんですね。定点調査を実施するクライアントさんも多いのですが、意外と回答時間まで気にされているケースが少ないのが実態と考えています。

このようにいくつかバイアスを挙げましたが、音部さんはコロナによってどんな事に気を付けたり、工夫されたりしていますか?

音部:文化的規範が変わったというのは結構大事ですよね。同時に三つ目の「忘却」にも注目しています。“消費者がすべてを知っている”というのは実は幻想だと忘れないことです。また、自分自身が何をしたいのかという自己の理解は哲学のテーマになるくらいの話ですし、なかなか行動の全てを言い切れるものではありませんしね。

そして、その消費者はどういった自我にもとづいて回答しているかという事にも十分気を付けています。例えば、社会人として選ぶものと、母として選ぶものと、妻として選ぶものは同じではないかもしれません。あなたは今自分の中のどんな人が答えていますかという事。これは多分大事な視点ですよね。人によってはいろいろ違う人格を持っているという事や、どういうアイデンティティで答えているのかによって結構回答が違いますから。

図:Asking調査バイアス

図:Asking調査バイアス

「コロナ禍における消費者理解の制約と難しさ」まとめ

1) 実態はできるだけ行動ログ(FACT)で。意識と行動のギャップにインサイトあり。

2) パネル調査はできるだけ実証実験型にし、メカニズム(消費者の反応)を読み解く。

3) 過去を振り返れるよう戦略的にデータを蓄積する。もしくは蓄積しているデータを活用し変化へ対応。

行動ログを用いた分析事例

間宮:先ほど「行動の実態はログで」というお話をしましたが、行動ログの有用性について、実際に弊社の行動データを用いて行った分析事例を2つ用意しました。

事例1.アプリのリピーター分析事例(→変化前のデータを活用し分析)

事例2.アーリーアダプターの分析事例(→ログから調査対象者を抽出し分析)

アプリのリピーター分析事例

間宮:まず、デリバリーアプリのリピーター分析になります。グレーのグラフは、Uber Eats、出前館、楽天デリバリーのデータを合算してみたデリバリー(宅配)アプリの利用者数の推移です。やはり緊急事態宣言後に大幅に伸びていますね。

下段にはコホート分析といってエントリータイミングを合わせて集計したグラフが重なっており、エントリーしてからの再利用率を表しています。ログ分析はこのように時系列をさかのぼって分析できるのが特徴です。

音部:ユーザー総数数が増えているにもかかわらず、リピート率が落ちていない。珍しいですね。

図:再利用状況の推移

図:再利用状況の推移

間宮:次は、継続した人、しなかった人は何で分かれるのかを、決定木分析という機械的に探索していく手法を用いて分析した例です。コロナ前の様々なアプリの利用状況を分析して、どんなアプリを使っているとデリバリーアプリを継続利用しやすいのかという事を分析しました。

結果的にはゲームアプリや出会い系アプリをよく使っていた方ほど、デリバリーアプリを継続利用しやすいという結果が出ています。

音部:なるほど。これはWeb行動ログでないと分かりにくいかもしれませんね。

間宮:発話からはなかなか出にくいデータだと思います。

図:継続・非継続ユーザーのアプリ利用実態

図:継続・非継続ユーザーのアプリ利用実態

アーリーアダプターの分析事例

間宮:続いてアーリーアダプターについての分析事例をご紹介します。

これは化粧品の例なのですが、スキンケア、メイクアップそれぞれで最近盛り上がりを見せた商品をピックアップして、盛り上がる以前からそれらを検索していた方を抽出して、プロファイルしています。

▼シカクリーム

韓国で人気に火が付き、日本でも人気を集めている。ニキビ跡の改善やしわ改善など様々な肌悩みに対応しているクリーム。韓国では「皮膚再生クリーム」と呼ばれている。

※「シカクリーム」は通称で、実際の商品名は若干異なることが多い。


▼ロムアンド

韓国発のブランドで、ティントリップが人気。プチプラでありながらオシャレなカラーが集まっており、色持ちも良いと好評。マスクに色がつきにくいと話題。

間宮:僕も従来型の調査会社にいた経験があるので、よくこのような調査もやっていました。その時には、情報感度が高いという事を自己申告で出してもらって、アンケートし、抽出をしてAI分析をしていたんですが、ヴァリューズではちょっと違うアプローチをしています。それがWeb行動ログ分析です。

このWeb検索クエリの波形を見ていただくと、途中で急激に伸びているんですね。そこで、赤枠で囲っているまだ伸びてない時期にすでに検索をしていた方をアーリーアダプターと定義して分析しています。

音部:アーリーアダプターって、過去はスクリーニングの調査でやることが多かったですよね。

間宮:一般的にはそうですね。意識が高い方を抽出して行いますね。

音部:その方法でも選ぶことができたのかもしれませんが、これはWeb行動でアーリーアダプターを抽出できるという事ですね。
実際の結果としては、スキンケアとメイクアップのアーリーアダプターは同じような方だったのですか?

間宮:実は全く違う傾向が出ていました。スキンケアはスキンケア難民とも言われる悩み発信からの回遊が多く、メイクアップはファッションや高級ブランドへの関心が高そうな層という傾向が出ました。

このような形でアーリーアダプターをWeb行動ログで抽出して、プロファイルするということも最近行っています。

図:アーリーアダプターの抽出

図:アーリーアダプターの抽出

まとめ

図:本セミナーのまとめ

図:本セミナーのまとめ

コロナ禍における消費者理解の制約と難しさについて、様々な要因を用い多角的視点から語られた今回のセミナー。

Web行動ログを用いた2つの具体的な分析事例を元に紹介されたことにより、終わりの見えないコロナ禍のマーケティング戦略において、消費者理解の新たな一手として、大きなヒントになったのではないでしょうか。

※詳細なセミナー資料は無料でダウンロードできます。下記フォームよりお申し込みください

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この記事のライター

マナミナ 編集部 編集兼ライター。
金融・通信・メディア業界を経てマーケティング・リサーチ業界へ。
趣味は食と旅行。

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