任天堂の新作『はじめてゲームプログラミング』が予約殺到…一体なぜ?
任天堂が2021年6月に発売した『ナビつき!つくってわかる はじめてゲームプログラミング』(以下、はじめてゲームプログラミング)が人気を集めています。6月の家庭用ゲームソフトの売上ランキングでは首位を獲得しており(ゲーム総合情報メディア「ファミ通」調べ)、発売から1ヶ月が経った今でも、アマゾンのゲームソフトランキングで上位にランクインしています。
▼「はじめてゲームプログラミング」紹介映像
任天堂はこれまでに、『Nintendo Labo』や『マリオメーカー』といったプレイヤー自身がゲームを作るソフトを発売してきました。今作は、よりプログラミング教育にフォーカスしたゲームソフトになっています。
とはいえ、今作ではソースコードを書く必要はありません。ゲーム内には様々な役割を持つ「ノードン」というキャラクター達がいて、この「ノードン」の大きさを変えたり、配置したり、繋げたりすることで、だれでもプログラミングを楽しめる仕様になっています。
マリオメーカーと同様、自分が作ったゲームはインターネットで世界に公開できます。作れるゲームの幅が非常に広く、任天堂がこれまで発売してきたなかで最も「ユーザー参加型コンテンツ」要素の強いゲームソフトの一つとなっています。
発売に際しどれくらい注目されていたのか、公式サイトの訪問者数を見てみましょう。Web行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を使い、ユーザー数推移を調べました。
「はじめてゲームプログラミング」の訪問ユーザー数推移
期間:2021年1月~2021年6月
分析ツール:Dockpit
サイトをオープンした2021年5月以降、既に月間15万人程度の訪問者がいたことが分かりました。任天堂がテレビCM等の広告活動を開始したのが5月以降で、そのタイミングからユーザー数が急増しています。
■2025年の子ども向けプログラミング教育市場は約300億円規模に
任天堂がこのタイミングでプログラミングをゲームソフトにしたのは、国内でのプログラミング教育熱の高まりが関係しているでしょう。たとえば、文部科学省は現在“小中学生1人にPC1台”などを目標に掲げる取り組み「GIGAスクール構想」を進めています。
また、GMOメディアが運営するプログラミング教育ポータルサイト「コエテコ byGMO」と船井総合研究所の調査によると、子ども向けプログラミング教育市場は2025年には約300億円規模になるとされており、今後大きな拡大が見込まれる市場です。
コエテコ「2020年 子ども向けプログラミング教育市場調査」より引用
引用:https://coeteco.jp/articles/10823
2020年度からは小学校でプログラミング教育が必修化され、その後、中学校・高校でもプログラミング教育が拡充されてきています。任天堂の「はじめてゲームプログラミング」が注目を集めていることからも、子ども向けプログラミング教育市場が将来的に拡大する見込みは高いのではないでしょうか。
プログラミング教育スクール自体はまだ黎明期?
現在、子ども向けプログラミング教育を提供している主要サービスにはどのようなものがあるのでしょうか。「プログラミング教育」と検索し、上位表示された記事を見てみます。
記事内では子ども向けの主要なプログラミングスクールが紹介されています。そのなかで、過去半年間の訪問ユーザー数規模が比較的大きかった株式会社CA Tech Kidsの『Tech Kids School』(左図)と株式会社LITALICOの『プログラミング教室・ロボット教室LITALICOワンダー』(右図)をピックアップし、子ども向けプログラミング教育の業界プレイヤーの動向を調べてみましょう。
上記2サイトの訪問ユーザー数推移は以下のとおりとなっていました。
「Tech Kids School」と「プログラミング教室・ロボット教室LITALICOワンダー」の訪問ユーザー数推移
期間:2019年7月~2021年6月
分析ツール:Dockpit
2つのサービスの公式サイトの訪問ユーザー数をみてみると、双方とも一年を通して一定の集客ができています。しかし、子供向けプログラミング教育の市場規模が2020年から2025年までに2.1倍の拡大が予想されていることから考えれば、現時点で興味を持っているのはアーリーアダプターである印象。今後の伸びに要注目です。
プログラミング教育のポータルサイトは右肩上がりにユーザー増
子ども向けのプログラミングスクールを紹介していた先ほどの記事の運営元「コエテコ byGMO」は、GMOメディアが運営するプログラミング教育ポータルサイトです。このポータルサイトはどれくらい集客できているのでしょうか。訪問者数の推移と、そのユーザー属性をみてみます。
「コエテコ byGMO」の訪問ユーザー数推移
期間:2019年7月~2021年6月
分析ツール:Dockpit
2019年の7月から2021年の6月の過去2年間で、ユーザー数は3倍に増加していることが分かりました。特に新年度が始まる直前の2021年3月には月間訪問者数が約50万人ほどに跳ね上がっていて、ここ2年で子供向けプログラミング教育への関心が拡大している傾向が伺えます。
次に、コエテコ訪問者のユーザー属性も見てみましょう。
「コエテコ byGMO」の訪問ユーザーの性別属性
期間:2019年7月~2021年6月
分析ツール:Dockpit
「コエテコ byGMO」の訪問ユーザーの年代別属性
期間:2019年7月~2021年6月
分析ツール:Dockpit
まず、ユーザーの性別属性としては男性の割合の方がやや高いという結果でした。もしかすると、パパもプログラミング教育に熱心に取り組んでいるのかもしれません。
年代では、子どもの親世代と思われる20~40代のボリュームが大きく、50代以降になると途端にユーザーが減っていることが分かります。プログラミング教育に関心が高いのは、インターネットの影響力を肌で感じてきた40代前の方々が多いようです。
まとめ:教育に適した「ビジュアルプログラミング言語」
今回は、子供向けプログラミング教育市場の動向に着目し、分析を行いました。任天堂の「はじめてゲームプログラミング」の注目度が高まっていたり、プログラミング教育ポータルサイトの「コエテコbyGMO」が訪問ユーザー数を堅調に伸ばしていたりと、消費者の関心が集まってきている傾向が確認されました。
子供向けのプログラミング教育への関心が高まってきている背景としては、「学校教育で必修化されたこと」「ゲーム作りが身近になってきたこと」がありそうです。小学校では2020年度からプログラミング教育が必修化されました。ちなみに、授業で広く利用されているのは、『ビジュアルプログラミング言語』です。
Scrachのチュートリアル画面
引用:https://scratch.mit.edu/projects/editor/?tutorial=getStarted
ビジュアルプログラミング言語ではScrach等が有名ですが、『はじめてゲームプログラミング』と同様、ソースコードを書くのではなく、ドラッグ&ドロップなど簡単なマウス操作でプログラムを作成できます。文部科学省も「小学校プログラミング教育に関する研修教材」としてスクラッチを活用したプログラムを紹介しています。もしかすると、今後は『はじめてゲームプログラミング』が学校の授業で利用されることもあるかもしれませんね。
今後、より一層の拡大が予想される子供向けプログラミング市場ですが、任天堂をはじめとするゲームメーカーや、プログラミング教育業界のプレイヤーがどのような戦略をとっていくのか、注目です。
<分析概要>
ネット行動分析サービスを提供する株式会社ヴァリューズは、全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報を用いたマーケティング分析サービス「Dockpit」を使用し、2019年7月~2021年6月のネット行動ログデータを分析しました。※ユーザー数はヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測。
▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』は、競合サイト分析や消費者のトレンド調査に役立ちます。無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。
2022年4月に新卒としてヴァリューズに入社しました。それまでは大学院でダイヤモンド半導体について研究しつつ、ヴァリューズの内定者アルバイトとして働いていました。