ペットと人が共に暮らす時代〜中国で広がる“ペット・フレンドリー”

ペットと人が共に暮らす時代〜中国で広がる“ペット・フレンドリー”

中国ではいま、「ペット・フレンドリー(宠物友好)」という考え方が急速に広がっています。カフェやホテル、交通機関からオンラインプラットフォームまで、人とペットが共に過ごすことを前提にしたサービスが次々と登場しています。この記事では、拡大を続ける中国のペット市場と、その背景にある価値観の変化を中心に、ペットと共に過ごす空間や新しいテクノロジーの動きをたどっていきます。


はじめに

近年、中国では「ペット・フレンドリー」という言葉が、店先の小さなステッカーを超え、社会全体のキーワードになりつつあります。オンラインでは、癒しや共感を呼ぶペット動画が安定した人気を集め、オフラインでは、人と動物が一緒に過ごせる空間づくりが進んでいます。

さらに、スマート機器を通じて“情緒的なつながり”をデータ化するなど、テクノロジーの面でも新たな動きが見られます。こうした変化は、一時的なブームではなく、社会の価値観や都市生活のあり方を映し出す大きな潮流といえるでしょう。

中国のペット市場の基盤〜暮らしに寄り添う存在へ

2025年中国ペット産業白書(消費者レポート)によりますと、2024年の時点で、中国の都市部では犬や猫の飼育数が1億2,000万匹を超えたといわれています[1]。朝の散歩道やカフェのテラスで、ペットと一緒に過ごす人の姿を見かけるのも、もう珍しい光景ではありません。

同じレポートによりますと、同年、犬や猫に関連する消費市場は3,002億元に達し、前年より7.5%増加しました[1]。数字だけを見ても、この国で「ペットと暮らすこと」がどれほど身近になったかがわかります。

かつてペットは“飼うもの”という存在でしたが、いまでは“家族と同じように過ごす相手”として寄り添うようになりました。その背景には、高齢化や少子化、単身世帯の増加といった社会の変化があります[2]。ひとりの時間を埋めるパートナーとして、また日々の癒しとして、ペットは人々の生活に静かに入り込んでいます。

こうして人と動物の関係が多様になるにつれ、市場も「数を増やす」段階から、「生活をより豊かにする」方向へと広がりを見せています。食品や医療、サービス、スマート機器など、さまざまな分野で“人とペットが心地よく共に暮らす”ための工夫が進んでいます[1]。ペットが暮らしの中に溶け込むようになると、人々の外出先にも変化が生まれています。

ペットと行ける場所が急速に広がっている

街に出ると、ペットを連れてカフェのテラスでくつろぐ人や、ホテルのロビーで犬と一緒にチェックインする姿を見かけることが増えました。中国ではここ数年、「ペットと一緒に利用できる」宿泊施設や飲食店、商業施設が急速に広がっています。

『2023〜2024年中国ペット産業白書』によりますと、ペットオーナーの38%が「ペットと一緒に出かけるのが難しい」と感じる一方で、約80%が出発前にペット同伴可能なホテルやレストラン、ショッピングモールなどを積極的に検索しているそうです[3]。

ロイヤルカナンは中国の口コミサイト「大衆点評」の「必ず泊まりたい宿リスト」と正式に提携し、「ペットフレンドリー・マップ」を発表しました[4]。このマップは北京・上海・深圳・成都・南京・蘇州の6都市をカバーし、厳選された865カ所以上のペット同伴可能なスポットを紹介しました[4]。「ペットとどこへ行けるのか」がひと目で分かるような環境づくりが進んでいます。

さらに最近では、移動の場にも“ペット・フレンドリー”の波が広がっています。中国のビジネスメディア「天下網商」によると、航空各社では「ペット客室サービス」が次々と導入されており、すでに中国東方航空や海南航空、吉祥航空など30社以上が対応しているとのこと[5]。料金は航空会社によって異なり、海南航空では大人運賃の50%に設定されています[5]。

一方、同メディアによれば、4月には高速鉄道でペット輸送サービスの試験運行がスタート。当初の5駅・10列車から、現在では8路線・25駅・38列車へと拡大しました[5]。

ペットが「家族の一員」として扱われる時代の流れが、交通サービスにも確実に広がっているようです。

テクノロジーとサービス〜ペットが“見守られる”存在に変わる

ペットの世界にも、スマートデバイスの波が静かに広がっています。たとえば、最近は留守番中の様子を見守れるペットカメラが人気です。

中国の調査会社の洛图科技のレポートによりますと、2024年には、中国で「ペット識別機能付き家庭用カメラ」の販売台数が約140万台に達しました[6]。こうした機器では、ペットの飲水量や活動量、睡眠時間などを自動でモニタリングできます[6]。まるで“家族の健康を見守る”ように、テクノロジーがペットの生活にも寄り添い始めているのです。

また、最近では、擬態化デザインがじわじわと注目を集めています。ロボット犬のような見た目のペットカメラも登場し、まるで“もうひとりの家族”のような存在感を放っています[6]。こうしたデザインによって、機械に対するペットの警戒心が和らぎ、飼い主との距離もぐっと近づいているようです。

この流れは、ブランドや企業の役割にも変化をもたらしています。「モノを売る」だけでなく、「飼い主とペットの暮らしをともに設計し、支える」存在へ移り変わります。

まとめ

中国で広がる“ペット・フレンドリー経済”は、単なるペット用品のブームではありません。それは、人とペットが共に過ごす時間や空間に、どんな価値を見いだすのか。その問いかけから生まれた新しい消費のかたちです。

人と動物の距離が近づくことで、街のデザインも、デジタルの使い方も、少しずつ変わっていく“ペットと共に生きる社会”は、これからの都市生活を映す鏡のように、静かにその姿を見せ始めています。

参考資料

[1] 派读宠物行业大数据.(2025). 2025年中国宠物行业白皮书(消费报告). 「2025年中国ペット産業白書―消費者レポート―」https://www.zhihu.com/tardis/zm/art/21720323620?source_id=1003

[2]毕马威中国.(2025).2025年中国宠物行业市场报告. 「2025年中国ペット産業市場レポート」https://assets.kpmg.com/content/dam/kpmg/cn/pdf/zh/2025/06/2025-china-pet-industry-market-report.pdf

[3] 派读宠物行业大数据.(2024). 2023〜2024年中国宠物行业白皮书. 「2023〜2024年中国ペット産業白書」https://www.petdata.cn/infodetail_6815030695232512.html

[4] ROYAL CANIN® 皇家宠物食品.(2025). 携宠同行,乐享六城:皇家携手 大众点评“必住榜” 共绘宠物友好新蓝图. 「ロイヤルカナン、大衆点評の「必ず泊まりたい宿リスト」と提携し ペットと楽しめる6都市の新しい“ペットフレンドリー・マップ”を発表」https://www.royalcanin.com.cn/articles/2634

[5]天下网商.(2025). 年订单破10万、加价千元仍爆满,年轻人带“毛孩子”出游成风口. 「年間注文10万件を突破、値上げ後も満室続出―若者の“ペット連れ旅行”が新たなブームに―」https://www.chinaventure.com.cn/news/116-20251009-388291.html

[6] 洛图科技.(2025). “萌宠守护者”崛起:宠物摄像头销量涨幅超100%,场景化应用成为必然趋势. 「“ペット守護者”時代の到来:ペットカメラ販売が前年比100%超、利用シーン多様化が進む」https://zhuanlan.zhihu.com/p/26973066314

この記事のライター

WSK

文章を書くことと、人の気持ちや社会の動きに目を向けることが好きで、現在は日々のニュースを自分なりの視点で追いかけています。中国出身で、現在は日本で学びながら生活しています。ふとした日常や、見過ごされがちな出来事の中にも、誰かの心に残るストーリーがあると信じています。そんな想いを込めて、ひとつひとつの記事を綴っています。

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