■スピーカー紹介
図:話者紹介
一般社団法人データサイエンティスト協会 事務局長/新生フィナンシャル株式会社 CMO 佐伯諭氏
株式会社ヴァリューズ 取締役副社長 後藤賢治、リサーチャー/マネジャー 海野秋生
ロイヤル顧客とは
株式会社ヴァリューズ 海野秋生(以下:海野):まずは株式会社ヴァリューズのリサーチャーである私から、Web行動ログによる調査結果をもとに、現在のロイヤル顧客の姿を明らかにしてまいります。
早速ですが、皆様は顧客ロイヤルティをどのように定義されているでしょうか。企業によって定義は様々ですが、多くの場合「購入金額」「購入頻度・継続期間」「愛着度」などの要素が扱われているかと思います。今回のセミナーでは、「購入頻度が高く、継続的にそのブランドの商品を利用してくれる顧客」をロイヤル顧客と定義付け、ヘビー顧客とは分けて議論を進めていきます。
図:本セッションにおける「ロイヤル顧客」の定義
Web行動ログデータから見えた、ロイヤル顧客のウソ/ホント
海野:ここからは、「ロイヤル顧客のウソ/ホント」と題して、ロイヤル顧客に対して抱きやすい4つのイメージが実態に沿っているのか検証します。
■ヘビー顧客はロイヤル顧客?
海野:一つ目の問いは、「ヘビー顧客はロイヤル顧客といえるのか?」です。頻度高く自社の商品を購入してくれるヘビー顧客は、ブランドロイヤルティが高い顧客だとみなしていい気がしますよね。
結論からいうと、これは「ウソ」といえそうな結果になりました。7つの商材ごとに、ヘビー顧客に対して「次もそのブランドを使い続けたいか」と聞いたところ、「絶対に使い続ける」と回答する人は4割もいませんでした。ヘビー顧客のうち、本セッションでのロイヤル顧客の定義に当てはまる人は、半数にも満たないのです。
図:ヘビー顧客はロイヤル顧客?
■ロイヤル顧客は浮気しない?
海野:続いて、「ロイヤル顧客は他社ブランドを一切利用しないのか」についても見ていきます。自社ブランドへの愛着が強いロイヤル顧客ならば、他のブランドは選ばないのでしょうか。
ところが、こちらも「ウソ」という結果になりました。調査結果によると、むしろロイヤル顧客の方が複数のブランドを使用している傾向にあることが分かりました。Web行動ログ上でも、各ブランドの利用頻度が高いほど、複数のブランドを使用する傾向が見られました。
図:ロイヤル顧客は浮気しない?
■ロイヤル顧客はブランドイメージを評価して買っている?
海野:3つ目の問いは、「ロイヤル顧客はブランドイメージを評価して買っているのか」です。ロイヤル顧客は自社ブランドに忠誠心を持っているため、ブランドの持つ情緒的価値を評価しているはずですよね。今回は購入理由を「ブランド要因(情緒価値の評価)」「積極要因(機能価値の評価)」「消極要因(商品価値以外の評価)」の3つに分類したうえで、ロイヤル顧客に購入理由のアンケートをしました。
本当にブランドイメージを評価しているのならば、購入理由のアンケートでも「ブランド要因」や「積極要因」の回答が多くなると予想されます。しかし実際は、「価格が安かったから」や「キャンペーンが実施されていたから」などの「消極要因」に当てはまる回答が多く見られました。商材によって違いはあるものの、ロイヤル顧客は必ずしもブランド愛があるとは限らないのかもしれません。今回の問いについても、「ウソ」といえそうです。
図:ロイヤル顧客はブランドイメージを評価して買っている?
■ロイヤル顧客は1回あたりの購入金額が高い?
海野:最後に、ロイヤル顧客の1回あたりの購入金額についても見ていきましょう。今回は購入頻度と購入の継続性でロイヤル顧客を定義していますが、ブランドロイヤルティが高いのであれば、「高価格帯の商品の購入」や「購入点数が多い」などの行動も期待されますよね。
実際に調査結果の数値を見ると、ロイヤル顧客の購入平均金額は他のカテゴリの顧客よりも相対的に高いことが分かりました。しかし、こちらのデータでは購入金額が高いごく一部の顧客が平均を吊り上げている可能性も考えられます。
図:ロイヤル顧客は1回あたりの購入金額が高いのはホント?
海野:そこで、高価格帯商品の購入者の割合という観点で追加検証をしました。これによると、高価格帯の購入者ボリュームは、ロイヤル顧客よりも他のカテゴリの顧客が多い場合もあるようです。また、「定額動画配信サービス」や「クレジットカード」など、ロイヤル顧客のボリュームが多い商材でも、ロイヤル顧客とヘビー顧客にそこまで大きな差がないことも分かります。「次回も必ず購入する」というロイヤルティと「購入金額」にはそこまで有意な相関はないのかもしれません。
図:ロイヤル顧客は1回あたりの購入金額が高いのはウソ?
海野:ここまで、ロイヤル顧客の実態を見てきましたが、想像されるロイヤル顧客像がかなり変わってきたのではないでしょうか。もともとは一心にブランドを愛するファンのようなロイヤル顧客をイメージされていた方も多いと思います。しかし実際のロイヤル顧客の中には、吟味するカテゴリーヘビーユーザーも多く含まれていることがデータから読み取れました。
図:調査結果から見えた顧客のリアル
ロイヤル顧客の姿を見誤る3つの罠
海野:ここで、なぜロイヤル顧客のイメージと実態に乖離が起きてしまうのかについても分析していきます。ヴァリューズでは、ロイヤル顧客分析には3つの罠が存在すると考えています。それが①観測の罠、②ブランド愛の罠、③生活者をとりまく環境の罠です。それぞれ簡単にご紹介します。
①観測の罠とは、観測可能なデータが限られていることにより分析を誤りやすくなることです。日々のマーケティング活動で、自社サイト訪問歴やアンケート回答などのデータを観測することは可能ですが、競合サイトの訪問歴や普段の行動などの不可視な範囲にも多くの情報が存在しています。
自社サービスを頻繁に利用してくれる顧客は、自社のデータのみを一見するとロイヤル顧客のように思えますが、実際は競合サービスも同様に利用している場合もあります。観測できていないデータの存在を無視してしまうと、顧客の真の姿を見誤る恐れがあります。
図:観測の罠
②ブランド愛の罠とは、ブランド愛の力を過信してしまうことによって分析を誤りやすくなることです。商材によっては、ブランド愛と購入頻度・購入金額が比例しない場合もあり、ブランド愛による大量購入には限界があります。また、いくらブランド愛があっても他のブランドを利用することもあります。「ブランド愛がある顧客であれば自社の商品だけをたくさん買ってくれるだろう」と思い込んでしまうと、実用的でない分析をしてしまうかもしれません。
③生活者をとりまく環境の罠とは、近年の生活者の環境変化を見逃すことによって分析を誤りやすくなることです。従来はマスメディアなどでじっくり顧客の購買意欲を高めて購入、リピートしてもらい、ロイヤル顧客化ができると考えられていました。しかし、スマホが普及したことで、広告最適化によって消費者が限定された情報の中に閉じこもるタコツボ化や、大量かつ早い情報で瞬間的に購買意欲が高まり購入に至る消費行動の刹那化といった変化が起きています。こうした変化は他のブランドに見向きもしない顧客を作り出すことを困難にしています。
図:タコツボ化とパルス消費による“生活者をとりまく環境の罠”
図:まとめ 7つの商材カテゴリで見る、ロイヤルと非ロイヤルの顧客像~ 3つの罠
私たちは今「ロイヤル顧客」をどう捉え、どうマーケティング活動に活かすべきか
海野:ここからは調査結果を踏まえて、「ロイヤル顧客をどう捉え、どうマーケティング活動に活かすべきか」についてディスカッションしていきます。
■テーマ1:情報過多の今、私たちは<ロイヤル顧客>をどう捉えるべきか?
一般社団法人データサイエンティスト協会/新生フィナンシャル株式会社 佐伯諭氏(以下、佐伯):ロイヤル層の話をするうえでは、9セグマップの考え方がフィットすると思います。
※9セグマップ:認知、購買経験、次回購買意向の観点から顧客を9つのセグメントに分類したもの。マップ上で右上に近づくほど、自社にとって優良顧客のセグメントになる。
図:9セグマップ
佐伯:今回はこのフレームワークをもとに皆さんと議論していきたいと思います。自社から見たロイヤル顧客には、①積極ロイヤル、②消極ロイヤルと2種類あるわけですね。それで先ほどの海野さんのお話からわかることは、扱うカテゴリによっては、①積極ロイヤルの中に実は当該カテゴリーや商材そのものに対してヘビーユーザーな人達が混ざっている、ということだと思います。そういうヘビーユーザーはAブランドとBブランドを目的や用途に応じて両方ともヘビーに使い分けている、というわけです。そのように積極層を捉えてみると、③や⑤のセグメントは自社商品に対してというわけではなく、当該カテゴリーに対してミドルあるいはローなユーザーで、購買意向もブランド愛も実は高く持っている大事なお客様である可能性があります。セグメントの上下の積極、消極を切り分けることも大事なのですが、当該カテゴリーに対する購買総量の見極めも必要かと思います。例えばシャンプーなどで考えると2世帯家族の購買者、1人暮らしの購買者、1人暮らしだけれどもまとめ買いが大好きな購買者など、色々な購買量×頻度のパターンがありそうですよね。で、さらに自社へのブランド愛や購入意向という変数もあります。こういうことを見極めていくには、自社の購買データ、サイト行動ログのみでは難しいため、前半での事例のように様々な購買データ×アンケートによるインサイトの把握なども上手く活用することが必要です。
海野:仮にセグメント分類ができたとして、セグメント上下の顧客それぞれに対して求められるアクションは変わってくるのでしょうか。
佐伯:セグメントの上の積極層は使い続けて頂いているのでタッチポイントがあり、その際にブランドのことをもっと知ってもらうためのアクションは取れますね。やはり下の消極層が難しいと思います。消費財などでは強い継続意向はないが、何となくいつも同じものを買ったり、何となく違うものにしてみたり、移ろいゆくものかと思います。購買きっかけが「安さ」などの消極的な理由だとしても、顧客の購買体験、利用体験を通して「機能的価値」や「情緒的価値」を少しでも感じてもらう企業努力をし、上のセグメントにシフトしてもらうことが重要だと思います。
海野:たしかに使い始めるきっかけは安さでも、徐々に愛着が湧いてくることってありますよね。後藤さんは日々お客様と向き合われている中で、ロイヤル顧客の捉え方が変わってきたなどの実感はありますか。
株式会社ヴァリューズ 後藤賢治(以下:後藤):佐伯さんの仰る通り、上下を分けることに関するご相談は購買データを持っているお客様からも多く寄せられています。。具体的な内容としては、ロイヤル顧客が離反していることを懸念されています。しかし、話を聞いていると、ロイヤル顧客を決める基準が購入金額や購入頻度だけで設定されていることが多くあります。こうした企業では、ロイヤル顧客の定義が、9セグマップでいうところの縦ではなく横のみの観点で定義しているような印象を受けます。
そのため、弊社へのロイヤル顧客に関するご相談に関して、実態としてはそもそもカテゴリーヘビーのユーザーがロイヤル顧客の定義に含まれているように感じます。しかし、ロイヤル顧客がなぜ離反しているのかという課題には、購入頻度などの横の分け方だけでなく、縦の分け方も考えていく必要があります。
佐伯:9セグマップの縦の分け方は他者への推薦意向を問うNPSとは違い、自分自身が次に使いたいかどうか、なのでより現実的に考えやすくなったな、と思います。自分が使いたいから使い続けているだけで、他人にとやかく言われたくないし、とやかく言いたくもない、という人も増えていそうですよね。そういう意味で使いやすい指標だと思います。ただいずれにしても意向というのは心理状態なので、購買ログ・サイトログなどの行動データだけでは縦の見極めは難しく、お客様全員に心理状態を問うわけにもいかないので、こんな行動を取るお客様は積極層とする、などのある程度の割り切りは必要なのではないでしょうか。
海野:愛をどう育むのかというお話がありましたが、機能面や情緒面でブランドについてより理解してもらううえで、施策が上手くいくものとそうでないものの違いはどこから生まれているのでしょうか。
後藤:以前ECの運営をしていた時の話ですが、使い始めるきっかけは「ポイント」や「送料無料」などのお得感でも、使い続けていくうちに慣れてきて買い続ける場合もあるように感じました。「愛」というよりも「慣れ」という言葉がしっくりきます。人は機能価値よりも感覚的に選ぶことも多いのではないでしょうか。集客のきっかけとしてポイントなどを作るのは有効ですが、それを永遠に続けるのではなく、「慣れ」によるロイヤル化も意識してみるといいかもしれません。
佐伯:愛ほどではなくとも、親しみや慣れのように何となく認知している顧客に対しては、カスタマーサクセス理論を意識することも有効です。例えば、検討から利用開始など行動過程において、Web完結ではなく、どこかでヒューマンタッチの部分を作ることで信頼や好感を感じてもらえる関係設計ができるかもしれません。もちろん、コンプレックス商材など、商品によっては割り切ってテックタッチのみ、という場合も良いと思います。
■テーマ2:ロイヤル顧客マーケティングにデータをどう活用するべきか?
海野:こちらのテーマについては率直にどのようにお考えでしょうか。
後藤:先ほどの9セグマップの話しでいくと、横の分類は行動ログで押さえつつ、サンプリングデータを使えば上下も分けられるのではないかというご相談をよくいただきます。一定数のモニターの中だけで、ロイヤル顧客になってもらうためにどんな体験が必要かというデータを抽出し、それを全数で再現しようとする施策です。挑戦的な試みであり、有効かどうかはまだ不明ですが、このような動きは既に始まってきています。
佐伯:今までデータで見てきたように、カテゴリーヘビー層が混じっていることも考慮したうえで、顧客インサイトを理解しておいた方が良いと思います。行動ログだけでなく、リサーチパネルなども活用して客観的に検討していく必要があります。可能であれば、自社の行動ログと他のリサーチ結果を紐づけながら、自社の行動ログだけで判別できるような仕組みづくりが理想です。とはいえ、実際にはcookieの制約などもあるため難しい局面にあります。
極論になるかも知れませんが、私はCMOとしてチームのメンバーには、「データドリブンの山師であれ」という声かけをしています。ある程度まではデータをもとに論理思考しつつも、見えづらい部分はあります。過去データがいつも正しいとも限りません。現場の感性や経験で判断し、その成果をまたデータで検証するという手法でも十分に機能するのではないかと思います。
海野:以上でセミナーの内容は終了です。佐伯さん、後藤さん、本日はありがとうございました!
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大学では経済学部で主に会計学を学び、2024年に新卒でヴァリューズに入社しました。現在はデータプロモーション局にて、弊社プロモーション事業のフロントを担当しています。