「旅行」「観光」検索は減少傾向
アフターコロナの中、年々旅行需要は上がっておりコロナ前の水準に少しずつ回復しつつあります。観光庁によると、2023年の日本人の国内旅行者数は前年比 19.1%増(コロナ前の2019年比では15.2%減)と言われています。(参考:https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001740851.pdf)
今回はそんな旅行需要に注目し、各航空会社の集客状況も併せて調査していきます。なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツールDockpitを用います。
まずは「旅行」「観光」のキーワードから、それぞれの検索者数推移を見ていきます。
最新2024年4月の月間検索者数は「旅行」が171万人、「観光」が286万人という結果でした。直近2年間の推移としては、全体的に下降傾向にあることが分かります。年間推移で見ると、特に5月や8月に検索者数が上昇し、12月頃に落ち込む傾向にあります。ゴールデンウィーク(GW)や夏休み(お盆休み)の時期に向けて旅行への関心が高まっていることが伝わってきます。また、2022年10月には全国旅行支援が開始されたことから「旅行」の検索者数が急増していました。
「旅行」「観光」検索者数推移
調査期間:2022年5月~2024年4月
デバイス:PC&スマートフォン
よく検討されている行き先は?近場が人気?
では、具体的にどのようなキーワードの検索が多かったのか、「旅行」「観光」それぞれのデータから見ていきます。
「旅行」検索キーワードランキング
調査期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PC&スマートフォン
まず、「旅行」の検索キーワードの1位には「全国旅行支援」がランクイン。3位「旅行支援」、8位「旅行支援クーポン」、13位「全国旅行支援延長」と続いており、2023年前半に大きな注目を集めていたことがうかがえます。全国旅行支援は2023年12月に終了したため、終了が近づくにつれて徐々に検索者数も減っています。
次に、2位「日本旅行」、6位「読売旅行」、10位「JTB 国内旅行」と、旅行会社名で検索するキーワードがランクインしています。まずは決まった旅行会社のサイトにアクセスして、その中から気になるツアーや宿泊プランを探す、といった流れで旅行を検討している人が一定数いることが考えられます。
旅行の行き先に関するキーワードとしては、7位「韓国旅行」、9位「台湾旅行」、11位「海外旅行」、12位「沖縄旅行」、14位「北海道旅行」と続いています。海外旅行先としては韓国と台湾への関心の高さがうかがえる結果となりました。円安も続く中で、近場で海外旅行を楽しみたいというニーズが高いのかもしれません。
「観光」検索キーワードランキング
調査期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PC&スマートフォン
「観光」の検索キーワードには、国内の旅行先がランクインしています。上位から順に、名古屋、淡路島、大阪、東京、京都、金沢と続いています。
2位にランクインした淡路島について詳しく見てみると、検索者に近畿地方の人の割合が高いことが分かりました。近場で楽しむ旅行先として関心を集めているようです。
「名古屋」「淡路島」「大阪」「東京」+「観光」検索者の居住地域
調査期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PC&スマートフォン
海外旅行は回復傾向。若者に検討されやすい?
次に、「海外旅行」と「国内旅行」というキーワードに注目して比較してみます。
円安の影響が懸念される海外旅行ではありますが、検索者数推移で見ると海外旅行への関心はやや上昇傾向にあるようです。一方、「国内旅行」に関しては、全国旅行支援が開始された2022年10月をピークに、やや下降傾向にあります。
「海外旅行」「国内旅行」検索者数推移
調査期間:2022年5月~2024年4月
デバイス:PC&スマートフォン
「海外旅行」の検索キーワードランキングから検索者の気になりごとを見てみると、「保険」や「持ち物」に関するものが上位にあがっていました。実際に海外旅行に行くことが決まっており、その準備段階として必要な情報が求められていることが分かります。
「海外旅行」検索キーワードランキング
調査期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PC&スマートフォン
次に年代別割合を見ると、「国内旅行」が40代・50代を中心に検索されている一方で、「海外旅行」は20代の割合が高くなっています。あくまで「海外旅行」と「国内旅行」の検索者数を比較した結果ではありますが、海外旅行は特に若年層から検討されやすいのかもしれません。その背景には、子供ができて身動きが取りづらくなる前に海外に行っておきたい、体力があるうちに行っておきたいという思いや、年配の方と比べて「円安で昔よりお金がかかるようになったなぁ」という経験上の感覚があまりなく、海外旅行に手が出しやすいという実態もあるのかもしれません。
「海外旅行」「国内旅行」検索者の年代別割合
調査期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PC&スマートフォン
ANA、JALは幅広い年代に、LCCは若年層を中心に検討されている
次に、航空会社のサイト分析を通じて、各航空会社がどのような客層から注目されているか特徴を見ていきたいと思います。今回は、大手航空会社のANA、JALに加えて、LCC(格安航空会社)の3社Peach、Jetstar、SPRING JAPANを対象にしています。
まずは各航空会社のサイト訪問者数推移を見ていきます。最新2024年4月の時点で、月間サイト訪問者数は「ANA」731万人、「JAL」611万人、「Peach」95.5万人、「Jetstar」90.1万人、「SPRING JAPAN」13.5万人でした。大手2社の人気が根強いことが数値からも明らかになりました。一方LCCに関しては、PeachとJetstarがSPRING JAPANの約6.5倍ほどの訪問者数で差をつけています。直近2年間の推移においては、2024年に入ってANAの訪問者数が伸びているものの、旅行需要の回復により、2年間で各航空会社サイトへの集客が大きく伸びた、ということはなさそうです。
「ANA」「JAL」「Peach」「Jetstar」「SPRING JAPAN」サイト訪問者数推移
調査期間:2022年5月~2024年4月
デバイス:PC&スマートフォン
次に、サイト訪問者の属性について見ていきます。まず男女比に関しては、利用者の約5〜6割を男性が占めています。
「ANA」「JAL」「Peach」「Jetstar」「SPRING JAPAN」サイト訪問者 男女比
調査期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PC&スマートフォン
年代に関しては、ANA、JALは40代〜60代を中心に幅広い年代からアクセスされている一方で、LCC3社は20代〜40代の割合が高く、若年層を中心にアクセスされていることが分かりました。大手2社とLCCの間で、検討者の年代ボリューム層の差が顕著に現れる結果となりました。
「ANA」「JAL」「Peach」「Jetstar」「SPRING JAPAN」サイト訪問者 年代別割合
調査期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PC&スマートフォン
世帯年収割合に関しては、どの航空会社においてもネット利用者全体と比べて400万円未満の層が少なく、600万円以上の割合が高くなっていることが分かります。年収が低めで、節約意識が高いからLCCを選ぶ、というわけではなさそうです。
「ANA」「JAL」「Peach」「Jetstar」「SPRING JAPAN」サイト訪問者 世帯年収割合
調査期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PC&スマートフォン
LCC検討者は、他社との比較検討が盛ん
各航空会社のサイト併用状況を見ていきます。
大手航空会社の利用を検討している人は、併用なしもしくは大手2社間で比較検討する層で大半を占めていることが分かりました。特にJALサイト訪問者は、ANAと比較する傾向にあるようです。一方で、LCC各社の併用は2割に満たない状況でした。併用なしが多い理由の1つとして、大手のどちらか1社に絞ってマイルを貯めているという利用が考えられます。
「ANA」(左)、「JAL」(右)から見たサイト併用状況
調査期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PC&スマートフォン
LCC各社のサイト訪問者から見た併用状況は、併用なしが約1~2割、ANAもしくはJALの併用が約6~7割、次にLCCの併用が約1〜5割と続きます。大手と比較すると、LCCのサイト訪問者は他の航空会社も比較検討している割合が高いと言えるでしょう。航空会社を問わず、より安い航空券を利用したいというニーズが比較検討の様子にも影響していると考えられます。
「Peach」(左上)、「Jetstar」(右上)、「SPRING JAPAN」(左下)から見たサイト併用状況
調査期間:2023年5月~2024年4月
デバイス:PC&スマートフォン
まとめ
今回は、旅行需要や航空会社の集客について調査しました。
検索者推移の結果から、直近2年間の「旅行」「観光」に対する人々の関心は下降傾向にありました。その大きな要因として、全国旅行支援が終了したことが挙げられるでしょう。一方で、「海外旅行」の検索者数は増加傾向にありました。また、近場の旅行先が検討されている傾向も見えてきました。
航空会社別のサイト訪問者推移では、ANAは上昇傾向にあるものの、直近2年間で各サイト訪問者が大きく拡大する傾向にあったわけではないことがわかりました。また、大手航空会社とLCCの集客層の差は、世帯年収よりも年齢層の違いが大きな要素と言えそうです。さらに、大手航空会社の検討者に比べて、LCCの検討者は他社と比較している傾向が強く現れていました。
旅行需要はコロナ禍以前の水準へ回復できるのか、今後の動きにも引き続き注目していきたいと思います。
大学ではポルトガル語と言語学を専攻していました。
趣味は、海外エンタメ情報の追っかけとおうちでラテアート修行をすることです。