オブジェクトマップ(体験設計のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

オブジェクトマップ(体験設計のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

リサーチャーの菅原大介さんが、ユーザーリサーチの運営で成果を上げるアウトプットについて解説する「現場のユーザーリサーチ全集」。今回はオブジェクトマップ(体験設計のアウトプット)について寄稿いただきました。※本記事は菅原さんの書籍『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)と連動した内容を掲載しています。


1.オブジェクトマップとは

●全体像イメージ

オブジェクトマップ

●概要

オブジェクトマップとは

オブジェクトマップとは、アプリ・ウェブの構成要素(オブジェクト)を整理して、プロダクトの情報構造をシンプルに可視化するアウトプットです。

このアウトプットではユーザーが見たり触れたりする対象となるページや主機能(施策・機能・情報)を「オブジェクト」としてカウントし、オブジェクト同士の関係性をツリー上にマッピングしていきます。

見た目や作成意義は「サイトマップ」ともかなり近い成果物ですが、既存のページや機能を細大漏らさずまとめるアプローチは取らず、ユーザーがやりたいことベースで簡潔にまとめるところが大きな違いです。

本図を作成することで刷新活動や中期計画で新しく構想している打ち手がプロダクト上ではどの範囲に影響するのかを指し示すことができ、特に改修実務に携わる開発メンバーへ概略を説明する時に役立ちます。

●構成要素

オブジェクトマップの作り方(構成要素)

オブジェクトマップの構成要素は以下のようになります。

①ユーザー

・ターゲットユーザーのペルソナイメージ(プライマリペルソナ)

②オブジェクト(既存)

・現行アプリ・ウェブにおけるページや主機能(施策・機能・情報)

③オブジェクト(新規)

・新企画を通じて構想しているページや主機能(施策・機能・情報)

●よくある課題

オブジェクトマップ  よくある課題

「この新企画の開発が既存プロダクトに与える影響範囲は?」
⇒この質問に一枚で答えるためのアウトプット

①新企画による開発・実装への影響範囲を知りたい

企画よりも運営の業務を志向している開発体制では、提示される新企画に対して、企画の中身よりも「開発・実装への影響範囲を知りたい」という気持ちが第一に働きます。安定した運営責任を担っているためこれは自然な心がけです。

とはいえ、企画を担っている部門でも、いきなりプロダクトへの落とし込み方を見積もることはスキル的にもマインド的にも難しく、かくして完全に企画が出来上がった状態でボールがやってきて開発体制が難儀することがあります。

②新企画を概念的な議論から具体的に先に進めたい

新企画を考えるプロジェクトでは、コンセプト・イメージ・アウトカムなどの概念が大事にされます。一方、関係者での議論の時間をそこに費やしてしまうと、成果物が概念情報を記したテキストだけ、という状態になってしまいます。

概念情報しかない状態では、「プロダクト上で言うと何なのか、どこなのか」がわからず、最悪、表現や実装のしようがなくて企画が消える懸念もあります。そのため、重要企画ほど並行して「具体的には何か」の議論が大事になります。

2.作り方

オブジェクトマップの作り方(作成手順)

①アプリ・ウェブの構成要素を抽出する

・ユーザーの閲覧・操作対象となるオブジェクトを抽出する
(※主だったサービス企画や利用促進機能を中心に構成する)

<自社プロダクトを参照する時のヒント>
・トップページの主要要素
・ヘッダーナビゲーションの項目
・ハンバーガーメニューの項目

<記入例>
・キャンペーン
・商品
・ランキング
・カート
・検索
・お気に入り
・アカウント

②オブジェクト同士の関係性を整理する

・オブジェクト間の階層構造をまとめる

<記入例>
・キャンペーン→キャンペーン、特集、セール
・商品→ブランド、レビュー、ブログ
・ランキング→デイリー、ウィークリー、カテゴリー
・カート→商品情報、購入管理、FAQ
・検索→検索結果、商品比較
・お気に入り→商品、ブランド、ブログ
・アカウント→購入履歴、ポイント、クーポン、会員管理

※整理方法はサイトマップと同じで、ここでは主要な要件のみ記載する

③マップ内に新施策・新機能を書き足す

・新しく追加する新施策・新機能を記入する

<新施策の記入例>
・初回診断ツール
・ショート動画

<新機能の記入例>
・AIコンシェルジュ
・商品リクエスト

※一つの企画が施策と機能を兼ねることも多いので無理に分類しなくてもよい

④新企画の影響範囲をカラーリングする

・新企画のオブジェクトはカラーを変えて目立たせる
・新企画個々の影響範囲をカラーで括って目立たせる

3.使い方

オブジェクトマップの使い方

①新企画のプロダクト全体への波及効果を可視化する

オブジェクトマップを作成すると、構想している新企画それ自体だけでなく、プロダクト全体に対する影響範囲を俯瞰で確認することができます。追加される施策や機能によって既存の運営業務の目標達成にプラスに働くこともあります。

これによりシステム的な面でプロダクト運営を担当する開発部門でもざっくりとどの辺りに影響がありそうかを理解し、メンバーやシステムへの対応負荷を想定するとともに、改修する意義(もしくは疑義)を実感することができます。

②新企画のプロダクトへの落とし込み方の討議が進む

オブジェクトマップによって、新企画が具体的にプロダクト上ではどこに属するものなのか、もしくは全くの新しい領域なのかを可視化でき、具体的な表現方法や実装箇所の討議を通じて現実的な開発計画につなげていくことができます。

ポイントは、新企画の構想段階から本図を並行して作っておくことです。定番キャンペーンの続編や既存機能の延長でもない限り、新企画は皆がイメージしづらいものなので、本図を用いてプロダクトへの落とし込み方に道筋をつけます。

この記事のライター

株式会社アイスリーデザイン
chapter UI/UXデザイングループ スペシャリスト
菅原大介

リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、日系最大手のマーケティングリサーチ会社で月次500問以上を運用する定量調査のディレクター業務を経験。総合ECサイト・アプリを運営する大手事業会社でデジタルプロダクトの戦略企画を担当したのち、現在は株式会社アイスリーデザインでUI/UXデザインの支援・研究に携わる。

デザインリサーチとマーケティングリサーチのトレンドをウォッチするニュースレター「リサーチハック101」を個人で発行するほか、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして活動や記事の監修も行っている。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)、『リサーチからはじめる仮説ドリブン・マーケティング』(WAVE出版)

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