休み方と働き方 ~ 積極的な休養のすすめ

休み方と働き方 ~ 積極的な休養のすすめ

昨今、AIやDXの導入が進んでいますが、それが革新的な業務改善に結びつくまでには及ばないのか、依然として日本のビジネスパーソンは「休み下手」のようです。国内外からの批判を受けてもなお旧態然として残っている長時間労働は、どのように改善されていくべきでしょうか。そして、効率の良い働き方のための「休みの質」の改善とは。広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が解説します。


休養の極意

正月休みを間近に控え忙しい毎日をお過ごしと存じます。日本人の約8割が日常的に疲労しているというデータもあるように、休日になってもつい仕事のことを考えて、気分転換が下手な方も多いと思います。
休日になっても午前中は仕事が頭から離れ難く、仕事モードが続いてしまい、夕方になってやっと休みを実感する状態に陥り、出社する前日は夕方になると憂鬱になるといった心境の繰り返しだと思われます。

仕事を離れて自分勝手に使える休日の過ごし方は人それぞれですが、決まった趣味や推しがあり、休日が待ち遠しくて仕方ない友人には嫉妬してしまいます。熱中出来るものがあること自体が才能なのでしょうか。
積極的に休むことは精神面でも健康面でも大切で仕事を効率的に捌く一助となるはずですが、休日の予定を立てるのも不得手であれば何もしない出来ない休日を過ごしがちです。
しかし、仕事でトラブルを抱えていたり、出来れば出席したく無い会議があったり、面倒な人と交渉する必要があったりする休日明けの出社は甚だ辛いものです。

本当の意味での精神的な休息が求められるのです。心の底からリラックスし、休んで良かったと思える休日の過ごし方が大切なのです。疲労の対義語は活力です。自分なりのリフレッシュ法を見つけて活力を高める行動こそが攻めの休養の極意です。

休養の極意

年休(有給休暇)

国際的な有給休暇取得日数の比較データを見ると、欧州の人々は長期バカンスを楽しんでいるのに日本人は当然の権利である年休もろくに取得出来ていない状況です。私も含めて日本人は統計データから見ても休み下手です。
政府も年休の取得促進を長らく進めてきたはずですが、バブル崩壊後の失われた30年間に年休の取得率は決して高まることはありませんでした。

2018年改正労働基準法は年休を取得する時季を指定する権利を5日分だけ労働者から使用者に移すという「時季指定権」の変更を盛り込みました。いつ休暇するかを選ぶ権利を企業が所有するのは、労働者にとって不利益のように思えますが、職場に遠慮して休暇を取ることをためらう「休み控え」が多く、まわりが休まないから自分も休暇を取得しづらいという悪循環を防ぐためには有効な改訂です。最低5日間は労働者に休暇を取得させることを使用者の義務とした訳です。

また、有休の促進が進まない要因に急な病気や家族の用事などに備えて数日分の「のりしろ」を持つ必要も考えられます。
年休の労働債権の時効は2年で、2年を超える未消化の休暇はゼロとなってしまいます。本来は労働者が早めに年休を取得するインセンティブになるはずですが、未消化では2年で年休は消えてしまい企業が取得を促進する方向性とは一致しません。
有効な施策として未消化の年休の割り増し率を設定して、企業が買い上げるなどの措置を検討すべきです。
日本では企業に命じられたために休むといった強制も効果的に働くと予想されますし、このような施策を導入することで企業行動も大きく変化する可能性があると思われます。

休み方と働き方

休むと働くは対局にありますが、実際は休み方と働き方は切り離すのは難しく関連づけて考える必要があります。
つい最近まで日本人は国内外から批判を浴び続けていた長時間労働をモットーとし、休まず働くことが美徳であるという職場習慣が日常的でした。
改善は進んでいますが、中小企業は改善の途上ですし、ブラック企業が増加傾向にあるなど様々な点で残滓が見つかっています。

欧州との比較では、年間の休日取得日数はさほどの差は無いものの内訳が変わります。日本は国民の祝日が多い他、年末年始やお盆、ゴールデンウイークなどで一斉に休暇を取ります。それ以外にまとまった休暇を取る人はあまり見かけません。年休の使い残しも多く、その要因のひとつに病気休暇制度が普及していないことが注目されます。

また、欧州のようなバカンスを取る習慣が無いことも根本的な要因です。背景には日本特有の集団主義的な職場環境や働き方、マネジメントの特徴が日本人の休み方に制約を与えているのは間違いありません。
そのためもあり、役割が明確で成果を捕捉しやすいジョブ型雇用が注目されています。仕事と私生活を分離するワークライフバランスとの親和性も高く、導入する企業も増加傾向にあります。働き方の自律性が確保されていることなどを確認する必要はありますが、リモートワークを主体とする社員やリゾート地でレジャーを楽しみながら仕事をするワーケーションなど新しい働き方も増え、ワークライフバランスのあり方も今後変化する可能性が高いと予想出来ます。

休み方と働き方

労働生産性

長時間労働による生産性の低下は誰の目にも明らかです。日本の競争力の低下は欧米に比べて労働生産性の低さが原因とされています。生産性を高く持続できる労働はせいぜい8時間といわれています。
睡眠不足もしかりで、脳のリフレッシュには覚醒時よりも脳血流が増えるレム睡眠が必要です。レム睡眠が不足すると脳機能が低下して認知症や死亡のリスクが高まります。レム睡眠は睡眠に入ってから4~7時間で生じやすいので最低7時間の睡眠が求められます。
つまり、8時間以内の労働と最低7時間の睡眠が生産性を高めて働くためには重要なのです。

総務省統計局「社会生活基本調査」によると日本の正規雇用者やフルタイム労働者の平日の労働時間は、未だに1日平均10時間の長時間労働となっています。
日本の上場企業の調査データを分析すると、長時間労働の是正や睡眠の確保など「健康経営」を重視し実行すると2年後から利益率が高まる傾向が示されています。
2018年に成立した働き方改革関連法により、正規雇用男性の労働時間は減少傾向に転じました。この傾向はDXやAIの活用促進で2035年頃には8時間労働が実現すると予測されています。
それにより、日本も欧米並みの健康的で生産性を高めやすい労働環境が確立され、日本人の優れた能力を発揮出来るようになるはずです。

また、「休みの質」の改善も重要です。フレックスタイムや時間単位の有休、祝日やお盆・年末年始の代わりに別の日を選べる「フレックス休暇」などを導入し、年休の取得義務日数を増やす必要もあります。

脚光を浴びる政府や企業による休み方・働き方改革への期待が一段と高まっています

この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

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