グローバルサウスの台頭とマーケティングの新機軸。注目の新興国とは?

グローバルサウスの台頭とマーケティングの新機軸。注目の新興国とは?

日本企業にとって重要な存在となりつつあるグローバルサウスの国々。一体それぞれの国とのビジネスにはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。また、日本企業の強みとは。本稿では、国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が、グローバスサウス諸国の中からインド・インドネシア・ナイジェリアを取り上げ、各国を分析・解説します。


グローバルサウスとは、アジア・アフリカ・中南米などの新興国や途上国を指す総称で、その経済的・政治的影響力が近年大きく高まっています。これらの国々は豊富な人口や天然資源、急速な経済成長を背景に、国際社会での存在感を強めており、日本企業にとって魅力的な市場機会を提供しています。グローバルサウスの経済規模は今後さらに拡大し、特にインド・インドネシア・ナイジェリアなどが成長の牽引役として注目されています。調査によると、これらの国々では旺盛な内需が企業の業績を後押しし、事業拡大への意欲も高いことがわかっています。

日本企業にとって、グローバルサウスは新たな市場開拓やサプライチェーンの多様化の観点から重要な存在です。ただし、これらの国々は多様な政治・経済・文化的背景を持ち、インフラの未整備や政情不安といった課題も抱えています。それでも、人口増加による消費市場の拡大や技術導入の需要は、マーケティング戦略において大きな可能性を秘めています。

この記事では、日本企業にとってマーケティングの観点から特に有望なグローバルサウス諸国として、インド・インドネシア・ナイジェリアを取り上げ、それぞれの市場の特徴とビジネスチャンスを解説します。

インドの交通

インド〜急拡大する消費市場とデジタル化の推進

インドは、グローバルサウスの中でも特に注目される市場で、人口規模と経済成長のスピードが際立っています。旺盛な内需と急速なデジタル化が進むこの国は、日本企業にとって大きなビジネスチャンスを提供し、都市部ではグローバルなトレンドに敏感な消費者層が育ち、農村部でも可処分所得の増加により消費意欲が高まっています。さらに、多様な文化や言語が共存する市場特性を理解することで、ターゲット層に合わせた柔軟なアプローチが可能です。

マーケティングの可能性

巨大な消費市場

インドは若い労働力が多く、人口ボーナス期による消費市場の拡大が顕著です。スマートフォンの普及が進み、若年層を中心にオンラインショッピングが急成長しています。日本企業は、食品、化粧品、電化製品などの消費財をターゲットに、EコマースやSNSを活用したブランド展開が可能です。
例えば、健康志向の高まりに応じたオーガニック食品や、日本独自の美意識を反映したスキンケア商品は、都市部の富裕層や中間層に訴求力があります。さらに、インドの祭事や伝統に合わせた季節限定キャンペーンを展開することで、消費者との強い結びつきを築くことができます。

デジタルインフラの活用

政府のデジタル化推進政策により、デジタル決済やオンラインサービスの普及が進んでいます。モバイルバンキングや電子商取引プラットフォームは、農村部にも浸透しつつあり、広範な消費者層へのアクセスが容易になっています。
日本企業は、フィンテックやITソリューションを活用し、現地のスタートアップとの協業を通じて、決済システムやEコマースプラットフォームへの参入が可能です。例えば、日本発のアプリやサービスをローカライズし、現地の言語や文化に合わせたユーザー体験を提供することで、ブランドの浸透を図れます。

競争環境とブランド戦略

他国の競合企業に比べ、日本企業は品質や技術力を活かしたブランディングで差別化が可能です。高付加価値な製品、例えばエコフレンドリーな車や高性能家電を展開することで、市場での存在感を高められます。
さらに、インドの消費者は信頼性やストーリー性を重視する傾向があるため、日本ブランドの「職人技」や「持続可能性」を訴求したマーケティングは特に効果的です。
現地のインフルエンサーやボリウッドスターを起用したキャンペーンも、若年層へのリーチを強化する有効な手段です。

インドネシア〜ASEANの経済大国と中間層の成長

インドネシアは、ASEAN地域を代表する経済大国で、豊富な人口と天然資源を背景に国際的な注目を集めています。重要鉱物資源の供給地としても魅力があり、経済安全保障の観点からも重要です。都市化が進む大都市ジャカルタやスラバヤでは、グローバルなライフスタイルを求める消費者層が急増しており、地方でも中間層の消費力が拡大しています。
この多層的な市場構造は、日本企業にとって多様なマーケティング戦略を展開する機会を提供します。

マーケティングの可能性

中間層の消費力

インドネシアの中間層は急速に拡大しており、自動車、電化製品、ファッションなどの需要が増加しています。日本企業は、高品質な日本ブランドを活用したマーケティングで、消費者の信頼を獲得できます。
例えば、環境に配慮したハイブリッド車や省エネ家電は、環境意識の高まりとともに都市部の消費者層に訴求力があります。また、インドネシアの多様な宗教や文化を尊重した商品設計、例えばハラル認証を取得した食品やコスメの展開は、市場シェア拡大の鍵となります。

インフラ関連需要

インドネシアではインフラ整備が課題である一方、電力や交通網の需要が高まっています。
日本の建設・エネルギー企業は、スマートシティや再生可能エネルギー分野での技術提供を通じて市場参入の機会があります。
ITインフラ需要も拡大しており、データセンターやクラウドサービスの需要が急増しています。日本企業は、通信技術やサイバーセキュリティソリューションを提供することで、官民双方のニーズに応えられます。さらに、インフラ関連プロジェクトは現地での雇用創出にも寄与し、企業の社会的評価を高めるマーケティング素材となり得ます。

現地インドネシア企業との共創

日本企業は現地企業とのパートナーシップを通じて、サプライチェーン強化や環境に配慮したプロジェクトを推進できます。持続可能性を訴求したマーケティングは、環境意識の高い消費者層に響きます。
例えば、現地の伝統工芸や素材を活用したコラボレーション商品を展開することで、地域コミュニティとの結びつきを強化し、ブランドのローカルな魅力を高められます。また、若年層向けにSNSを活用したキャンペーンや、現地の人気イベントとのタイアップは、ブランド認知度向上に有効です。

ナイジェリア〜アフリカの経済ハブと若年層の可能性

ナイジェリアはアフリカ最大の人口と経済規模を誇り、グローバルサウスの新興市場として注目されています。若い人口構造と成長する消費市場が特徴で、特にラゴスやアブジャなどの都市部では、グローバルトレンドを取り入れた活気ある消費文化が育っています。ナイジェリアの市場は、文化的多様性や地域ごとのニーズの違いを理解することで、戦略的なマーケティング展開が可能です。

マーケティングの可能性

若年層向け市場

ナイジェリアは平均年齢が低く、デジタルネイティブな若年層が多いです。スマートフォンの普及が進む中、日本のエンターテインメント企業は、音楽やアニメをストリーミングサービスで展開し、若年層の関心を捉えることができます。
例えば、日本発のアニメやJ-POPを現地の音楽フェスティバルや動画プラットフォームと連携してプロモーションすることで、若者文化に深く浸透する機会があります。また、モバイルゲームやeスポーツの市場も急拡大しており、日本企業はゲームコンテンツや関連グッズで新たな収益源を確立できます。

農業・食品市場

食糧需要が増加しており、加工食品や健康食品の市場が拡大しています。日本企業は、現地の嗜好に合わせた商品開発で差別化を図り、インスタント食品や米・麺類などの展開が可能です。
例えば、日本風のインスタントラーメンやスナック菓子を現地のスパイスやフレーバーにアレンジすることで、幅広い消費者層に訴求できます。さらに、都市部の健康志向の高まりに応じた低カロリーやオーガニック食品の展開も有望で、現地の小売チェーンやEコマースとの提携を通じて市場浸透を図れます。

インフラと技術需要

電力不足や物流網の未整備が課題ですが、日本の技術力はこれらの解決に貢献できます。再生可能エネルギーや省エネ技術の提供を通じて、官民双方の需要に応えるマーケティングが有効です。
例えば、ソーラーパネルや小型発電機を地域コミュニティ向けに展開することで、社会的インパクトとブランド価値を同時に高められます。また、物流網の強化に向けたIoT技術やスマートロジスティクスソリューションは、ナイジェリアのEコマース成長を支える基盤として注目されています。
現地のスタートアップや政府との協業を通じて、これらの技術を地域のニーズに合わせた形で展開することで、長期的な信頼を築けます。

ナイジェリアの若者たち

まとめ

インド・インドネシア・ナイジェリアは、グローバルサウスの成長市場として、日本企業に多様なマーケティング機会を提供します。インドはデジタル化と消費市場の拡大、インドネシアは中間層の成長とインフラ需要、ナイジェリアは若年人口と食糧・技術需要がそれぞれ強みです。
これらの国々では、文化的多様性や地域特有のニーズを理解し、現地企業やコミュニティとの協業を通じて市場に深く根ざす戦略が不可欠です。
ただし、政情不安やインフラの脆弱性といったリスクもあるため、現地のニーズを的確に捉えた戦略と現地企業との協業が成功の鍵となります。

日本の品質や技術力を活かしたブランディングと、支援事業を活用した戦略的なアプローチで、グローバルサウスでの競争力は大いに高められるでしょう。

この記事のライター

国際政治学者、一般社団法人カウンターインテリジェンス協会 理事/清和大学講師

セキュリティコンサルティング会社OSCアドバイザー、岐阜女子大学特別研究員を兼務。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障の研究や教育に従事する一方、実務家として海外進出企業へ地政学リスクのコンサルティングを行う。

関連するキーワード


地政学

関連する投稿


地政学的リアリズムが促す日本企業の対米投資 〜 同盟強化とリスクヘッジの戦略

地政学的リアリズムが促す日本企業の対米投資 〜 同盟強化とリスクヘッジの戦略

2019年以来、5年連続で世界最大の対米投資国となる日本。戦後からの「日米同盟」を基軸とした日本の対米政策により、この関係は更なる深化が求められています。しかしこの深化にはメリットもある一方で、懸念されるべきリスクも存在します。流動的に変化する国際情勢の中、世界を相手にビジネス展開を進める日本企業にとって留意すべき点は何なのか、国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が解説します。


急増する世界人口 〜 地政学から見る未来の魅力的なマーケティング市場

急増する世界人口 〜 地政学から見る未来の魅力的なマーケティング市場

世界人口80億人を超え、あらゆる地域でさまざまな経済活動が行われている今、日本企業としてのグローバルマーケティングはどのように考えていけばいいでしょうか。本稿では、地政学観点から魅力的なマーケティング市場になり得る可能性を秘めた地域を抜粋。国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が細かく分析・解説します。


トランプ政権発足100日〜日本に対する二面的な姿勢とは

トランプ政権発足100日〜日本に対する二面的な姿勢とは

ドナルド・トランプ アメリカ合衆国大統領が2期目の政権を発足し100日が過ぎました。連日の報道でも見聞きする、膨大に発布されている大統領令や世界を騒がせている「トランプ関税」など、いまだ目の離せない状況が続いています。このような中、100日という節目を迎え、対日政策として懸念すべき点は何なのか、そして、グローバルマーケティングを担うビジネスパーソンとして着目し熟知しておくべき情報は何か、国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が解説します。


トランプ相互関税の政治的背景と狙い、グローバルマーケティングへの影響は

トランプ相互関税の政治的背景と狙い、グローバルマーケティングへの影響は

世界に混乱を巻き起こしている「トランプ関税」。アメリカにとって、その政治的背景と狙いはどのようなものなのでしょうか。世界の秩序と平和維持への影響も問われるこの問題について、国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が多角的な視点より解説します。


トランプ政権下のASEANと日本企業

トランプ政権下のASEANと日本企業

トランプ関税のニュースが、もはや日常となりつつあります。しかし、関税だけがトランプ政権の注目すべき政策ではなく、その他多くの課題にも隈なく注視していく必要があります。本稿では、前バイデン政権時からも話題となっていたグローバルサウスとの関係に、どのようにトランプ政権は対峙するのか、トランプ政権下のASEANを意識した場合、日本企業はどのようなことを考えておくべきか、国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が解説します。


ページトップへ