急増する世界人口 〜 地政学から見る未来の魅力的なマーケティング市場

急増する世界人口 〜 地政学から見る未来の魅力的なマーケティング市場

世界人口80億人を超え、あらゆる地域でさまざまな経済活動が行われている今、日本企業としてのグローバルマーケティングはどのように考えていけばいいでしょうか。本稿では、地政学観点から魅力的なマーケティング市場になり得る可能性を秘めた地域を抜粋。国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が細かく分析・解説します。


世界の人口は急激に増加し80億人を超えた今、地球上のあらゆる地域が新たな可能性と課題を抱えています。この人口急増は、マーケティング市場としての各国の魅力を再評価する契機であり、特に新興国や若年層が多い地域が注目されています。しかし、経済的魅力だけでなく、地政学的な安定性や文化的特性もマーケティング戦略を考える上で欠かせません

本記事では、人口動態の変化を背景に、今後どの国がマーケティング市場として魅力的かを、地政学的観点を交えて考察します。

人口急増の背景とマーケティングへの影響

世界人口の増加は、主に新興国や途上国での出生率の高さと医療技術の進歩による寿命の延長によってもたらされています。特にアフリカや南アジアの国々では、若年層の人口が急速に増え、消費市場としてのポテンシャルが拡大しています。

一方で、先進国では少子高齢化が進み、購買力の中心がシニア層や特定のニッチ市場に移行しつつあります。この人口構造の違いは、マーケティング戦略を国ごとに大きく変える要因です。

人口が増える地域は、消費財やデジタルサービスの需要が急増します。スマートフォンやインターネットの普及により、若年層は新たなブランドやトレンドに敏感で、購買意欲も旺盛です。
しかし、これらの市場は単に人口が多いだけでなく、文化や経済状況、地政学的な安定性がマーケティングの成功を左右します。特に、グローバル企業が新市場に参入する際には、地政学的なリスクを慎重に評価する必要があります。

人口増加

マーケティング市場としての魅力的な地域とは

サブサハラ・アフリカ 〜 若さと成長のフロンティア

サブサハラ・アフリカ(アフリカのうちサハラ砂漠より南の地域)は、人口増加の最前線にあります。この地域は、若年層の比率が非常に高く、労働力人口が急速に拡大しています。ナイジェリアやケニアなどの国々では、都市化が進み、中間層が増加することで、消費財やテクノロジー関連の市場が急成長しています。特に、モバイル決済やeコマースの普及は、若者が新しい購買体験を求めていることを示しています。
 
しかし、地政学的には、政情不安やインフラの未整備が課題です。ナイジェリアでは、豊富な天然資源と人口の多さが魅力ですが、政治的な腐敗や治安の悪さが投資をためらわせます。

一方で、ケニアは比較的安定した政治環境とテクノロジーハブとしての地位を確立しつつあり、スタートアップ企業やグローバルブランドにとって魅力的な市場です。

マーケティング戦略としては、現地の文化や価値観に合わせたローカライズが不可欠です。例えば、若者に人気の音楽やインフルエンサーを活用したキャンペーンは、ブランドの浸透力を高めます。

南アジア 〜 人口大国とデジタル化の波

インドやパキスタン、バングラデシュといった南アジアの国々は、人口の規模とデジタル化の進展により、マーケティング市場として大きな可能性を秘めています。特にインドは、13億人を超える人口と急成長する中間層を背景に、消費市場が飛躍的に拡大しています。

スマートフォンの普及率は高く、eコマースやストリーミングサービスが若年層を中心に広がっています。

地政学的な観点では、インドは比較的安定した民主主義国家であり、外国企業にとって参入しやすい環境が整っています。しかし、近隣のパキスタンやバングラデシュでは、政治的な不安定さや宗教的な対立がリスク要因となり得ると言えるでしょう。

マーケティング戦略としては、インドの多様な文化や言語に対応したキャンペーンが重要です。
例えば、ヒンディー語やタミル語での広告、地方ごとの嗜好を反映した商品開発が効果的です。また、環境意識の高まりを背景に、サステナビリティを訴求するブランドは、特に都市部の若者に支持されやすいでしょう。

東南アジア 〜 多様性と成長の交差点

インドネシア、ベトナム、フィリピンなどの東南アジア諸国は、人口増加と経済成長が相まって、マーケティング市場として注目されています。この地域は、多様な文化や宗教が共存し、若年層の消費意欲が高い点が特徴です。

特にインドネシアは、2億人を超える人口とイスラム教徒が多数を占める市場として、ハラール製品やサービスの需要が拡大しています。

地政学的には、東南アジアは大国間の影響力競争の舞台でもありますが、ASEANの枠組みによる経済統合が進む中、安定性は比較的高く、外国企業にとって魅力的な投資先です。

マーケティングでは、SNSやインフルエンサーを活用したデジタル戦略が有効です。特に、TikTokやInstagramを活用したビジュアル重視のキャンペーンは、若年層の心を掴みます。

未来のマーケティング市場を切り開くために

今後のマーケティング市場を考える上で、人口動態の変化と地政学的な文脈を無視することはできません。
サブサハラ・アフリカ、南アジア、東南アジアといった地域は、若年層の増加と経済成長により、大きなマーケティング市場となり得る可能性を秘めています。

しかし、これらの市場に参入するには、文化的多様性への理解と地政学的なリスクへの備えが不可欠です。

成功の鍵は、ローカライズとデジタル化にあります。
現地の言語や価値観に合わせた商品開発、SNSを活用したターゲティング、インフルエンサーとの連携は、ブランドの浸透力を高めます。

また、地政学的なリスクを軽減するためには、現地のパートナー企業やコミュニティとの協力が重要です。人口急増は新たな市場のフロンティアを開くチャンスですが、その成功は戦略の緻密さと柔軟性にかかっています。

サブサハラ・アフリカ、南アジア、東南アジアは、若さと成長のエネルギーに満ちた市場として、今後ますます注目されるでしょう。

グローバル企業は、これらの地域の可能性を最大限に引き出すために、現地に根ざしたアプローチと長期的な視点を持つべきだと考えられますし、人口急増の波に乗る企業は、新たな消費者との絆を築き、未来の市場を牽引する存在となるでしょう。

未来の世界

この記事のライター

Strategic Intelligence Inc. CEO 代表取締役社長
専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障、地政学リスクなど。海外研究機関や国内の大学で特任教授や非常勤講師を兼務。また、国内外の企業に対して地政学リスク分野で情報提供を行うインテリジェンス会社の代表を務める。

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