2026年が幕を開けてわずか数日のうちに、世界は再び「予測不可能」という名の激流に飲み込まれました。トランプ政権が南米ベネズエラに対して断行した電撃的な軍事介入は、国際社会に動揺を与えています。
日本企業を含むグローバル経済のプレイヤーにとって、今年の最大の焦点は、もはや特定の紛争地域や経済指標ではなく、トランプ政権そのものが内包する不透明な政策決定プロセスと、その「経済の武器化」がどこまで加速するかと言えるでしょう。
米国第一主義がもたらす世界経済への影響は日々拡大
トランプ大統領は昨年、就任早々から「米国第一主義」を鮮明に打ち出し、諸外国を翻弄し続けています。その象徴が、大胆に繰り出されるトランプ関税です。関税はかつての自由貿易を支えるための調整手段ではなく、米国の政治的目的を達成するための直接的な外交手段へと変質しました。
2025年、トランプ大統領はロシア産原油や天然ガスの輸入を継続したことへの制裁として、インドからの輸入品に対して25%という巨額の追加関税を課す姿勢を示しました。
また、今年に入り、その圧力は一段と強まっています。トランプ政権は、米国がテロ支援国家と指定するイランと取引を行う国に対し、その国からの輸入品全体に25%の「二次関税」を課すと発表しました。これは、直接の当事国だけでなく、その国と経済的結びつきを持つあらゆる国家をターゲットにするものであり、世界経済を米国主導の陣営か、あるいはその敵対勢力かという二者択一の場へと追いやるようなものです。
このような「二次的制裁」としての関税発動は、国際貿易のルールを根底から揺るがすものであり、どの国がいつ、どのような理由で経済的報復の対象になるか予測できないという、極めて高い不確実性を生み出しています。
このようにトランプ政権の予測困難な政策は、世界を一つの巨大なリスクの渦に巻き込んでいます。自国の利益を最大化するために、関税を脅しの道具として使い、軍事力を躊躇なく行使する姿勢は、これまでの同盟関係や通商協定の信頼性を著しく毀損させています。
2026年、世界経済が直面しているのは、単なる景気循環の波ではなく、米国という大国の行動原理そのものが不安定化の源泉となるという、歴史的なパラドックスです。
かつて国際社会が前提としてきた「法の支配」や「自由貿易」という共通言語は、トランプ政権の行動によって、実利を求める交渉のカードへと置き換えられています。この「力の均衡」が崩れ、ルールが液状化していく世界において、2026年の地政学リスクを読み解くことは、トランプ大統領という一人の指導者の意志と、その背後にある米国第一主義の激動を注視することに他なりません。
世界は今、その不透明な決断の一つ一つが、明日の経済地図を塗り替えてしまうという、薄氷を踏むような時代を歩んでいます。
米国による「経済の武器化」に国際経済がとるべき施策は
同時に、経済の武器化はさらに精緻化され、同盟国に対しても容赦なく牙を剥いています。
トランプ政権による関税発動や二次的制裁などは、グローバルな供給網を網の目のように分断し、世界を経済的なブロック化へと加速させる動きです。トランプ政権がもたらすこの「常時有事」とも言える状況下では、地政学リスクはもはや一過性のニュースではなく、世界経済の構造そのものを規定する基底変数となっています。
2026年、世界は米国という巨大な不確実性を抱えながら動いていくことになるでしょう。
そして、2026年の幕開けとともに加速するトランプ政権による経済の武器化と軍事的な現状変更は、日本企業の海外マーケティングおよび海外市場戦略に対しても大きな変化を迫っています。
かつての海外マーケティングにおける主眼は、品質と価格のバランス、いわゆるコストパフォーマンスによる市場シェアの拡大にありました。
しかし、2026年の不透明な国際情勢下において、企業は政治リスクを製品価格や投資判断に直接織り込まざるを得ない状況に直面しています。インドやイランに関連する二次的制裁としての関税といった措置は、一企業の経営努力で解決できる限界を遥かに超えています。
これにより、マーケティング戦略は「どの市場に成長性があるか」という従来の視点に加え、「どの市場であれば米国の制裁リスクを回避し、持続的な供給が可能か」という、地政学リスクを前提とした経営判断が重要になってくるでしょう。
また、トランプ政権による世界経済を分断するような姿勢は、グローバルなサプライチェーンを「米国主導ブロック」と「それ以外」へと切り分けるような様相を示しています。北米市場においては、米国第一主義に適応するため、企業はさらなる現地生産の加速、すなわち地産地消の方向へ向かう可能性があります。
ここでのマーケティングは、単なる日本ブランドの訴求に留まらず、いかに米国国内の雇用や経済に貢献しているかという点がポイントになってくるかもしれません。一方で、米国と距離を置く国々においては、米国の制裁網を回避しつつ、現地の独自ニーズに応える「脱・米国依存型」の独立したマーケティング戦略が重要になってくるでしょう。
さらに、ベネズエラへの軍事介入に見られるような予測不可能な武力行使は、特定地域への投資を一夜にしてサンクコスト化させるリスクを内在しています。今後の海外事業において、企業はマーケティング計画の初期段階から、有事の際の撤退戦略といったものを想定しておく必要があります。
グローバルサウス諸国など、市場の成長性は極めて重要ですが、戦争や政情不安などに際していかに迅速に対応できるかは、今後の海外マーケティング戦略の成功を左右するかもしれません。
多くの人々の間には、経済のグローバル化、自由貿易や資本主義といった”企業は自由にグローバルビジネスが展開できる”という無意識の前提があります。しかし、そういったいわゆるグローバリゼーションを前提とした世界は後退しつつあり、トランプ政権に象徴されるように、世界は分断の時代へ突入しています。
海外マーケティングにおいても、そういった経済活動の前提となる国際秩序の変化を意識した経営判断が重要になってきています。





Strategic Intelligence Inc. CEO 代表取締役社長
専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障、地政学リスクなど。海外研究機関や国内の大学で特任教授や非常勤講師を兼務。また、国内外の企業に対して地政学リスク分野で情報提供を行うインテリジェンス会社の代表を務める。