2025年1月20日に第47代アメリカ合衆国大統領として2期目の就任を果たしたドナルド・トランプ大統領は、発足から100日を経て、対外政策の方向性を明確に示しています。特に日本に対する姿勢は、貿易面での不満と、安全保障面でのパートナーシップへの期待という二つの側面で特徴づけられます。
この二面性は、トランプ政権の「アメリカ第一主義」を基盤としつつ、対中国戦略における日本の地政学的価値を重視する立場を反映しています。以下、これらの側面を分析し、トランプ政権の対日姿勢について解説します。
貿易面での不満と日米間の経済的課題
トランプ政権の対日姿勢の一つの柱は、貿易不均衡に対する強い不満です。
トランプ大統領は1期目(2017~2021年)から対日貿易赤字を問題視し、日本が自動車や電子機器の輸出でアメリカ市場を席巻していると批判してきました。
米国商務省の2024年データによると、対日貿易赤字は約680億ドルに達し、中国やメキシコに次ぐ規模となっています。トランプ大統領はこの赤字を「アメリカの労働者と産業への脅威」と捉え、就任直後から日本との貿易交渉を加速させています。
具体的には、2019年に締結された日米貿易協定の再交渉を視野に入れ、日本に対してさらなる市場開放を求めています。特に自動車産業への関税引き上げが議論の中心で、2025年4月には25%の追加関税を課すとの方針が発表されました。
為替政策の不満も焦点となっています。2025年初頭の円安傾向の中、トランプ大統領は日本の為替介入を「通貨安誘導」と批判し、アメリカの輸出競争力を損なうと主張しています。
米国財務省の2025年4月の為替報告書では、日本を「監視リスト」に指定し、引き続き注視する姿勢を示しています。このような貿易・為替を巡る不満は、日本を「経済的ライバル」とみなす側面を強調しています。
しかし、日本は米国産農産物やエネルギー資源の輸入拡大など、トランプ1期目の要求に応じてきた実績があります。それでもアメリカが強硬姿勢を崩さない背景には、国内の製造業労働者へのアピールと、対中貿易交渉での成功体験があります。
対日貿易不満は、トランプ政権の経済ナショナリズムを象徴する重要な要素となっています。

安全保障のパートナーとしての期待は対中国戦略の要
トランプ政権は日本を対中国戦略における重要な安全保障のパートナーとして高く評価しています。1期目と同様、2期目でも中国を「最大の戦略的競争相手」と位置づけているトランプ政権は、軍事・経済両面での対抗策を強化しています。
まず、日米間において軍事面での協力が深まっています。日米安全保障条約に基づく在日米軍の駐留は、対中抑止の要です。2025年4月の日米首脳会談で、トランプ大統領は日本の防衛費増額(2024年度でGDP比1.6%、2027年までに2%を目指す)と自衛隊の能力向上を「歴史的な進展」と称賛しました。日本は米国製F-35戦闘機やミサイル防衛システムの導入を加速し、米軍との統合演習を拡大しています。これにより、日本は「負担を分担する信頼できるパートナー」とみなされていると言えるでしょう。
二面性の背景と今後の展望
トランプ政権の対日姿勢における貿易不満と安全保障における期待の二面性は、政権の優先順位と戦略的計算の結果です。貿易不満は国内経済の保護と支持基盤への訴求を目的とした政治的ツールであり、安全保障期待は中国を中心とするグローバルなパワーバランスを維持する現実主義的なアプローチです。
この二面性は、トランプ大統領の「取引の芸術」思考を反映し、日本に対して「圧力をかけつつ協力を引き出す」戦略といえます。
今後、日米関係はこの二面性のバランスに左右されます。
貿易面では、日本が米国での投資拡大や市場開放で譲歩することで、関税引き上げの影響を軽減する可能性があります。安全保障面では、日米同盟のさらなる強化が予想され、台湾有事や北朝鮮問題での連携が焦点となるでしょう。ただし、トランプ大統領の予測不可能性を考慮すると、突発的な対日批判や政策変更のリスクも存在します。

グローバルマーケティングへの影響と対策
実際トランプ政権はグローバルマーケティングにはどのような影響があり、それに対して日本企業はどのような対策を講じるべきなのか、まずは影響される4点を挙げます。
1.貿易不均衡と関税引き上げの圧力
トランプ政権は対日貿易赤字を問題視し、特に自動車産業への25%追加関税を検討しています。この関税リスクは、日本企業が米国市場での価格競争力を維持する上で重大な障壁となり、グローバルマーケティングでは、価格戦略の見直しやコスト構造の最適化が急務となります。
また、関税引き上げは消費者心理にも影響を及ぼし、高価格帯の日本車が「高コスト」と見なされるなど、米国内でのブランドポジショニングに影響を与え、購買意欲が低下するリスクがあります。
2.為替政策を巡る不確実性
トランプ大統領の円安批判や米国財務省の「監視リスト」指定は、為替レートの変動リスクを高めています。グローバルマーケティングでは、為替変動が輸出価格や利益率に直接影響するため、価格設定の柔軟性やリスクヘッジ戦略が求められます。特に、円安傾向が続く場合、米国での販売価格の上昇が予想され、消費者向けの価値提案が一層重要になります。
3.現地化とローカルマーケティングの必要性
トランプ政権の「アメリカでの生産比率拡大」要求は、日本企業に現地生産の強化を迫っています。これにより、グローバルマーケティング戦略は、米国内の消費者ニーズに合わせた製品開発やローカルブランド構築にシフトする必要があります。
4. 地政学的リスクとブランドイメージ
安全保障面での日米同盟強化は、日本を対中国戦略の要と位置づけますが、米国での「経済的ライバル」イメージが強まるリスクも伴います。グローバルマーケティングでは、米国消費者に対するポジティブなメッセージングが重要です。
例えば、日米のパートナーシップを強調したCSR活動や、米国の雇用創出への貢献をアピールするキャンペーンが有効です。
前掲の4つの影響に対し、日本企業が取るべき対策4点を考えます。
1.現地生産とサプライチェーンの最適化
関税リスクを軽減するため、米国での生産能力拡大が不可欠です。グローバルマーケティングでは、現地生産による「メイド・イン・USA」訴求を強化し、消費者との信頼関係を構築することが重要です。
また、サプライチェーンの現地化を進め、関税や物流コストの変動リスクを最小化する戦略が求められます。
2.消費者ニーズに基づく製品・マーケティング戦略
米国市場での競争力維持には、消費者ニーズに合わせた製品開発とローカルマーケティングが欠かせません。デジタルマーケティングを活用し、SNSやインフルエンサーを通じた地域密着型のブランドエンゲージメントを強化することで、若年層や多様な消費者層に訴求できます。
3.為替リスクへの柔軟な対応
為替変動リスクに対応するため、価格戦略の柔軟性を高めることが重要です。
また、価格上昇を補う価値提案として、製品のプレミアム性や技術優位性を強調したブランディングが有効です。
4.地政学的リスク管理とブランドコミュニケーション
トランプ政権の予測不可能性を考慮し、地政学的リスク管理を強化する必要があります。グローバルマーケティングチームは、政策変更や対日批判の動向をリアルタイムでモニタリングし、迅速な対応策を模索するべきでしょう。
また、米国でのブランドイメージを維持するため、「日米協力」をテーマにしたコミュニケーション戦略を展開する必要が求められます。
まとめ
トランプ政権の対日政策は、貿易面の圧力と安全保障面の協力という二面性を持ち、日本企業のグローバルマーケティングに複雑な影響を与えています。
関税や為替リスクへの対応、現地化戦略の強化、地政学的リスク管理を通じて、日本企業は米国市場での競争力を維持する必要があります。特に、消費者ニーズに基づく製品開発やローカルマーケティング、柔軟な価格戦略が成功の鍵となり、これらの対策を講じることで、日本企業はトランプ政権下の不確実性を乗り越え、持続的な成長を実現できると考えられます。
国際政治学者、一般社団法人カウンターインテリジェンス協会 理事/清和大学講師
セキュリティコンサルティング会社OSCアドバイザー、岐阜女子大学特別研究員を兼務。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障の研究や教育に従事する一方、実務家として海外進出企業へ地政学リスクのコンサルティングを行う。