富裕層が注目の投資「個人向け国債」
1億円以上の資産を持つ富裕層は、以下のように金融関連についてWeb検索を行っています。分析にはWeb行動データとアンケートデータを用いた分析を行える、株式会社ヴァリューズの分析ツール「Perscope」を用いています。
図:資産1億円以上の人の検索キーワードランキングの上位5つ
期間:2024年8月~2025年7月
デバイス:パソコン・スマートフォン
Perscopeのカスタムセグメント機能を使い、富裕層のデータを見ると、富裕層の検索キーワードの特徴値(※)ランキング2位に、「個人向け国債」があります。
※特徴値:抽出条件に当てはまるユーザーの中でよく検索されており、かつ一般ユーザー全体ではあまり検索されていないキーワードが高くなるような指標。
今回は、富裕層に注目されている個人向け投資について実態を見ていきましょう。
マーケティングコンサルタント
横井
■富裕層の投資傾向
個人向け国債以外にも、上位のキーワードから、富裕層における複数の投資傾向が見て取れます。
1位の「オリックス銀行」は、不動産投資ローンに力を入れており、不動産投資に積極的な富裕層の関心を集めている可能性があります。
また、3位の「新生銀行(SBI新生銀行)」は、定期預金キャンペーンを頻度高く実施していて、堅実な資産運用を好む層に注目されていると考えられます。
現在の日本における富裕層の投資を理解する上でキーになるのが「流動性」と「相続」です。流動性は低くても相続対策の観点から「不動産投資」を検討される方や、流動性が高くて少し金利がつく「定期預金」や「個人向け国債」を選択される方がいらっしゃいます。このような方々は、過去から現在まで多くいらっしゃると言えます。
これは銀行員時代にも感じていたことですが、やはり高齢の方が多いとご自身というよりも次の世代にと考えられる方も多いため、このような行動になる方が多いのではないかと思います。
■横井のプロフィール
株式会社リクルートにてホットペッパーjpの立ち上げに関わり延べ1,500件以上の広告を製作。その後、プルデンシャル生命を経て三菱UFJ銀行に入行。個人資産運用ビジネスに従事したのち、株式会社ヴァリューズに入社。金融機関領域の担当マネージャーに従事。
【保有資格】:FP(1級ファイナンシャル・プランニング技能士)
個人向け国債とは
国債とは国が発行する債券のことで、国債の一つの形態に「個人向け国債」があります。財務省では、個人向け国債について以下のように説明されています。
「個人向け国債」は原則として個人の方だけが購入できる国債です。お近くの証券会社、銀行、郵便局などの金融機関で購入でき、見返りに得られる利子の受け取りは半年毎。
満期を迎えると最初に提供したお金(元本)が目減りすることなく戻ってきます。
また、個人向け国債の特徴について、以下の6つが紹介されています。
POINT01~03からは安心感、POINT04~06からは気軽に始めやすい要素を感じられます。
個人向け国債が注目を集める2つの魅力
いくつもの特徴を持つ個人向け国債ですが、実際には個人向け国債のどのような点が注目されているのでしょう。
■①金利の上昇
個人向け国債が注目されている理由として考えられる1つ目が金利の上昇です。2025年10月現在の個人向け国債の利率は以下の通りです。
3種類全ての商品で表面利率が1%を超えています。2024年10月時点の以下の適用利率(税引前)と比較しても、2025年10月現在の利率の高さがうかがえます。
変動10年 第174回債 0.61% ※
固定5年 第162回債 0.51%
固定3年 第172回債 0.38%
出典:発行条件「変動10年」 : 財務省
※初回適用利率(税引前)の値
ちなみに2015年10月の変動10年(第67回)の適用利率(税引前)を見ると、下限の0.05%が適用されている期間が半分と、ここ10年でも利率が高いことが分かります。
出典:変動10年(第67回)の発行条件 : 財務省
検索行動からも、金利上昇が注目の的となっていることが読み取れます。「個人向け国債」と検索した人の前後30日間の検索キーワードは以下の通りです。
図:「個人向け国債」検索者の検索キーワード(前後30日間)
期間:2024年9月~2025年8月
デバイス:パソコン・スマートフォン
「金利」「利回り」など、金利に関するキーワードが複数挙がっています。2025年10月現在の個人向け国債の利率の高さが魅力として感じられている可能性が高いです。
■②安全性
個人向け国債が注目されている理由として考えられる2つ目が安全性です。前述した個人向け国債の6つの特徴のうち、以下の3つから、安全性が感じられます。
・元本割れなし
・国が発行だから安心
・0.05%(年率)の最低金利保障
出典:知る|個人向け国債|財務省
「個人向け国債」検索者の価値観を見てみると、彼らが安全性に魅力を感じる理由がわかります。
「個人向け国債」検索者の感じていたい気持ちの1位は「安心して平穏に過ごしたい」という結果でした。
図:「個人向け国債」検索者の感じていたい気持ち
期間:2024年9月~2025年8月
デバイス:パソコン・スマートフォン
次に、ありたい自分像は、「刺激や感動のある生活をしたい」や「日々新しいことに挑戦している生活をしたい」などの価値観が低く、「地に足がついた生活をしたい」といった安定さを求める価値観のほうが高くなっています。
図:「個人向け国債」検索者のありたい自分像
期間:2024年9月~2025年8月
デバイス:パソコン・スマートフォン
「個人向け国債」検索者には、「安心」や「安定」を重んじる価値観の持ち主が多いのかもしれません。
マーケティングコンサルタント
横井
■現状から感じること
1%ときくと前職の銀行時代(10年ほど前ですが笑)にみていた感覚とだいぶ大きな違いを感じます。富裕層の方だけでなく金融商品に長期間ふれている方なら皆そう思うのではないでしょうか?
当時からそれでも定期預金よりはという理由で、個人向け国債を選択される方は特に高齢の富裕層に多くいらっしゃいましたが、1%という水準であればより注目が集まっていることも頷けます。
■富裕層の今後の投資動向
現在、私が富裕層の方々と直接お付き合いする機会は少なく、主に金融機関様のマーケティング支援を通じた間接的なお付き合いとなっています。その前提にはなりますが、富裕層の方々のデータを確認していくなかで、当時よりリスク許容度が上がってきているセグメント(マーケティングっぽい言い方ですが)がいることは事実です。
一方で、相続対策が最大の悩みである点は今も昔も変わりません。そうした前提のもとで資産運用を検討する人は引き続き多く、不動産を含む相続対策を軸にした資産全体への関心は依然として高いままです。
富裕層の方は高齢な方も多く、日経平均株価でみても1989年の4万円に届こうかという時代、2008年のリーマンショックで7千円を切った時代、そして今年2025年の5万円を超えるという移り変わりをご存じで、相場の予測が難しいということを深く理解されていると思います。
まとめ
今回は、富裕層が注目している個人向け国債の魅力を探りました。個人向け国債は、主に2つの魅力で以下のように注目を集めていることがわかりました。
①金利の上昇
「利上げ」や「利回り」といったワードを検索する層が個人向け国債の利率の高さに注目
②安全性
「安心して平穏に過ごしたい」「地に足がついた生活をしたい」といった価値観の持ち主が個人向け国債の安全性に注目
個人向け国債の金利上昇はこれからも続くのでしょうか。また、富裕層の投資活動の動向にも注目です。






2026年4月に入社予定の大学4年生です。法学部法律学科で、主に環境法について学んでいます。
趣味は旅行と日本舞踊です。