農業体験
小学5年生の課外授業で経験した田植えを昨日のことのように思い出します。
通学していた小学校の近くにある幾つかの田んぼを農家からお借りして、クラスメイトと稲を植えました。履かなくなった靴下を履き、田んぼに入り、農家の方々や先生方に教えて頂いたように稲を植えるのですが、予想していた以上に簡単では無く一列に真っ直ぐ整えるのは至難の業でした。
数時間で終わったのですが、その日は疲れ切ってしまい自宅に戻り夕飯を食べるとバタンキューで眠ってしまいました。
実家が農家の友人はいつも手伝っているようで、テキパキと慣れた仕草で当日はヒーローでした。
流石に悪童だった私や仲間も農家の大変さを少しは理解出来たような気がします。
秋になると弱弱しかった稲が黄金色となり、稲穂が垂れ下がる時期になると稲刈りです。早く刈り過ぎると未熟粒が多くなり、収穫量が少なくなるので稲刈りのタイミングは見極めが大切です。
今はあまり見かけなくなったトンボが田んぼの上を飛び交い、皆が参加の稲刈りは楽しく小学生時代のよき想い出のひとつです。
その後、刈り取った稲穂から精米した米をおむすびにして食べたのですが、とても美味しく、この行事に毎年参加したくなりました。
先日、家庭菜園を始めた先輩にもぎたてのキュウリとなすを幾つか頂きました。
新鮮でみずみずしく、野菜作りを楽しそうに生き生きと話す先輩の笑顔に思わずこちらも微笑んでしまいました。
F1種(First Filial Generation)
気候温暖化により、種の産地でも天候不順が起こりやすく、野菜の生産地では種苗会社から入荷が遅れるという問題が生じています。種まきの時期が遅れると収穫も遅れ、出荷がずれ込み、深刻な生育不良にもつながります。前年の残りや近隣の農家との融通を効かせるなどの工夫はしても、この状況が続くと農業自体の継続が困難です。
また、円安や運賃上昇などで種の調達コストも上がり、価格指数は最高値をつけました。日本は調達する野菜の種子の9割を輸入に頼っていて、野菜の自給率は8割です。
日本の種苗会社は開発した品種を海外の採種農家に生産を委託しています。種は一代限りであるF1種が主流です。
F1種とは雑種第一世代(First Filial Generation)の略で、異なる品種を掛け合わせて作られ、その種は発芽時期や生育期間などが均一になります。種苗各社は収穫量が見込めて発芽率も高く、大きさや形など規格に合った野菜が出来る品種を開発しています。つまり、生産者にも消費者にも都合の良い品種を開発しているのです。
しかし、F1種の作物を育成しても、そこから同じ種の再生産は出来ません。結局、野菜農家は毎年種苗会社から種を買わなければなりません。種苗会社にとっては開発した品種を盗まれにくいというメリットがあります。
F1種が普及したことで自家採種する農家は激減、かつて農家が土地固有の品種を何世代にもわたって育て、種を取り次の栽培に使うことは珍しくなりました。作物の単一化や不作、飢饉を防ぐために多種多様な種を残していた日本の農業の劣化は深刻です。
消えゆく作物
人類が何千年もかけて品種改良し、古代から受け継がれてきた農作物の在来品種が、広大な農地が都市化され新種の栽培が増えたことなどもあり、地上から消えゆくタイムリミットが迫っています。
在来の有用な品種が消え去ると農作物の多様性が失われます。すなわち、病気や環境の変化に強い種があるなど多様な遺伝情報を持つ在来品種の種子は品種改良を進める上での「人類の共通財産」なのです。人類の繁栄に欠かせ無いといっても過言ではありません。
世界各国は食料を確保する安全保障の観点から競って種子の収集に力を入れています。
海外の在来種子を保管する流れは、①種子の収集、②現地での調査、③特徴を調べて分類、④貯蔵庫などで保管、⑤データの整理と公開、です。
確実に保管するためには繊細な温度設定や湿度管理が必要となり、資金もかなりの金額になる上、継続性も求められます。
日本が入手した種子数は2020年時点で世界6位とされ、上位にはアメリカや中国、ロシアなどが並びます。アジアを見廻しても、多様な農作物が育っていますが、中国など各国の種苗会社が販売する種子の普及もあり、この10年程で在来の有用な種子が急激に減少しました。
種の損失を避けるためには国際協力・協調を進めて、種子の遺伝情報を解読して蓄積するなど新しく適切な保管方法を探る必要があります。
食料安保再考
国産の種を増やすための対策が急務です。
日本の秋冬は日照時間が少なく花や実を育てにくく、湿度が高いため種の乾燥させる際にカビが生える心配があります。農地も狭小のため多品種との交雑を防ぐために格段の注意を払う必要もあります。そのためビニールハウスが不可欠ですが、燃料費や資材費の高騰が問題となっています。
国や自治体による補助金など財政援助は重要ですが、それだけでは十分とはいえません。病害虫対策や高い発芽率の確保などのノウハウが欠かせませんし、種づくりでは人の手でひとつひとつ受粉させる必要もあるなど野菜農家が片手間に出来るものではありません。
種子を海外から広く調達する体制は安定的でコスト面では合理的です。しかし、パンデミックや紛争、異常気象などこれまで通り安定的に海外から調達出来る保証はありません。種苗会社を中心に約1年分は国内に備蓄されてはいますが、新型コロナウイルス禍で供給が途絶する可能性が生じたことは記憶に新しいことです。
最近、輸入と国産のコストの差がかなり縮んできたという情報もあります。輸送の手間や時間を考えると必ずしも海外調達が割安とはいえなくなってきたためです。
農業強国の実現を目指す中国の習近平国家主席は、「種子こそがわが国の食料安全保障の鍵だ」との姿勢を国内外に示しています。
日本の食料安保は種子が中心では無く、2024年に改正された食料・農業・農村基本法によると、凶作や輸入途絶といった不測の事態にはカロリーを重視した食料の生産・配分を図る方針としていて、念頭にあるのは米やいも類などです。
食料安保はカロリーだけでなくビタミンなど野菜に由来した栄養面も重視する必要があります。野菜の種子の安定調達を長期的に考え、国産の種子を増やすのはもちろん、世界中の種子情報をこまめに収集する必要が求められます。







株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。