主要キャッシュレスアプリのユーザー数推移
近年急速に普及し、現金、クレジットカードと並ぶ決済手段の一つとして浸透しつつあるキャッシュレスアプリ。拡大に火をつけた政府主導のキャッシュレス・ポイント還元事業(以下、ポイント還元事業)が実施されてから約1年が経ち、業界はどう変化したのか。キャッシュレスアプリのトレンドを読み解きます。
それではまず、主要キャッシュレスアプリ【PayPay、au PAY、d払い、楽天ペイ、LINE Pay】の過去2年のユーザー数推移を見てみましょう。
分析ツール:「eMark+」、分析期間:2018年12月〜2020年11月、対象デバイス:スマートフォン
(※「LINE Pay」は決済機専用アプリのログのみで、「LINE」アプリから「LINE Pay」機能を使用した分は含まない)
全体的に右肩上がりで成長していますが、特に2019年8月から10月にかけて、PayPay、d払い、楽天ペイの伸びが顕著です。2019年10月のポイント還元事業開始に向けて、業界への注目が高まったことが影響していると考えられます。さらに、還元事業と関連させたキャンペーンを各社が実施。その話題性や加盟店数、ポイントの利用の多様性などによって伸び率に差が表れたと推測できます。
2019年10月に他社と大きく差を付けたPayPayは、ポイント還元事業と関連したキャンペーンの他に、1周年感謝祭として「50回に1回全額戻ってくる」キャンペーンを開催。大胆なプロモーションはたちまちSNSで拡散され、メディアでも注目の的に。この話題がユーザー拡大に拍車をかけたと考えられます。
一方、d払いと楽天ペイは、グループが展開する事業領域の広さと、ポイントの使い道が多岐に渡る点が共通しています。どちらもECモールや旅行、エンタメなどの幅広い姉妹サービスを1つのアカウントで利用でき、貯まったポイントはグループ内はもちろん、コンビニや家電量販店、ホテルなどの提携施設で使用可能。同じ還元率でも、より利便性を感じたユーザーがいるのではないでしょうか。また、グループ内でのユーザーの回遊を促すプロモーションを仕掛け、それが成功したとも考えられます。
ポイント還元事業以降はいずれも緩やかな右肩上がりです。順位はPayPay、d払い、au PAYと続いており、楽天ペイも近差ではありますが、現状は4位。大手通信キャリアが展開・連携するサービスはスマホと連携させやすく、本体のユーザーを囲い込める点が強みと言えそうです。
PayPayの地域別傾向をチェック
それでは次に、地域・年代別の傾向を見ていきます。ここでは業界を代表してPayPayを対象に分析。まず下のグラフでは、PayPayユーザー数の前年同月比について、年間での平均値を地域別に調査しました。
分析ツール:「eMark+」、分析期間:2018年12月〜2020年11月、対象デバイス:スマートフォン
全国的に前年同月比平均が300%近く、日本全体で急速に普及していることが分かります。中でも顕著だったのは四国や北海道、東北エリアで、東京を含む関東地方よりも大きく伸びていました。
キャッシュレスアプリは人口やお店が多い都会で広がっているイメージがありますが、実はいまや地方にも広がっている現状が分かります。都心エリアでは駅やコンビニなどで手軽にATMが利用できますが、地方では現金を引き落とす場所が限られ、意外とキャッシュレスアプリの需要は高いのかもしれません。
また、QRコード表示だけで決済できるキャッシュレスアプリは、小規模の事業者でも取り入れやすい特長があります。特に観光地では、国内外のお客様の利用に備え、導入するお店も多かったのではないでしょうか。
さらに、PayPayでは、コロナで苦しむお店へを応援する支援策として、地方自治体と連携したキャンペーンを全国各地で実施しています。こうした施策も、成長の後押しになったと考えられます。
北海道厚真町と連携したPayPayキャンペーンページ
また、特に伸びていた北海道と東北エリアの年代別ユーザー増加率を見てみると、20代と50代以降の増加率が高く、全体を引き上げる要因になっていました。
分析ツール:「eMark+」、分析期間:2019年12月〜2020年11月、対象デバイス:スマートフォン
これらの年代での増加傾向は、全体にも見られるのでしょうか。
PayPayの年代別傾向をチェック
次に、年代別の利用状況を確認してみましょう。こちらは、PayPayの年代別ユーザー数推移です。
分析ツール:「eMark+」、分析期間:2018年12月〜2020年11月、対象デバイス:スマートフォン
サービス開始初期は40代、30代、20代と続き、高年代層は比較的少ない傾向でしたが、昨年夏ごろからグラフ青色の50代、緑色の60代以上が勢いよく伸びていることが分かります。
50代は2019年6月に20代を上回り、さらに今夏には30代を抜くという高水準。60代以上も2019年8月に20代を抜き、今も30代に迫る勢いで伸び続けています。
また、前年同月比の年間平均を見てみると、年代が上の層ほど伸び率も高い傾向でした。
分析ツール:「eMark+」、分析期間:2019年12月〜2020年11月、対象デバイス:スマートフォン
「デジタルツール、新しいサービス=都会や若い人」という先入観を持ってしまいがちですが、意外にも地方や高年代層での利用が顕著に伸びていることが分かりました。
年代を問わずスマホ利用が一般化していることや、インターネットの普及などにより都会に居なくても最先端のサービスが利用できる環境が整っていることなど、昨今の社会を映し出している印象を受けます。
キャッシュレスアプリの併用率は?
最後に併用率を見ていきます。こちらは、【PayPay、au PAY、d払い、楽天ペイ、LINE Pay】の主要キャッシュレス5アプリのユーザーが、併用している他のキャッシュレスアプリの比率を表したグラフです。
分析ツール:「eMark+」、分析期間:2020年6月〜2020年11月、対象デバイス:スマートフォン
※「サイト」の表記はアプリのことを指します
このグラフを見ると、約半分の人が複数(2つ以上)のキャッシュレスアプリを併用していることが分かります。メインで使うアプリを持ちつつ、キャンペーン開催時などお得なタイミングで使い分けたり、お店によって利用できるアプリが限られる場合に備え、併用する人が多いと推測します。
では続いて、サービスごとの併用状況を確認してみましょう。上から、PayPay、d払い、au PAY、楽天ペイ、LINE Payの併用状況となっています。また、下記では各グラフ内の一番下の棒グラフが「併用なし」となっており、当該アプリのみを利用するユーザーの数を示しています。
PayPay併用状況、分析ツール:「eMark+」、分析期間:2020年6月〜2020年11月、対象デバイス:スマートフォン
d払い併用状況、分析ツール:「eMark+」、分析期間:2020年6月〜2020年11月、対象デバイス:スマートフォン
au PAY併用状況、分析ツール:「eMark+」、分析期間:2020年6月〜2020年11月、対象デバイス:スマートフォン
楽天ペイ併用状況、分析ツール:「eMark+」、分析期間:2020年6月〜2020年11月、対象デバイス:スマートフォン
LINE Pay併用状況、分析ツール:「eMark+」、分析期間:2020年6月〜2020年11月、対象デバイス:スマートフォン
PayPayユーザーはまんべんなく他サービスを併用していますが、その他の4サービスの併用アプリは、圧倒的にPayPayが多いという結果でした。
日本中を驚かせた100億円規模の大型キャンペーンを機に、PayPayを使い始めた人は多いでしょう。その後、他社サービスが台頭してきたときに、自分のライフスタイルに合ったアプリを取り入れ、場所やタイミングによって使い分けるスタイルがイメージできます。
また、PayPayは加盟店に対し「初期費用&手数料0」を掲げており(期間限定などの条件あり)、この効果もあって小規模の事業者もPayPayだけは導入しているケースが多く見られます。「使えるお店の多さ」も、PayPayを併用するユーザーが多い背景にあるでしょう。
PayPay加盟店募集ページ
また、楽天ペイ、LINEPayのユーザーは併用率が高く、特にキャリア系決済アプリとの併用が多い傾向でした。自身のスマホキャリアが展開・提携するキャッシュレスアプリをメインで使いながら、クーポンやキャンペーン次第で楽天ペイやLINEPayと使い分ける人が多いのかもしれません。
また、楽天ペイは、冒頭のユーザー数での順位は4位でしたが、併用対象としては上位アプリよりも利用されている傾向です。3大キャリアとは競合せず併用がしやすいことと、楽天グループの強みが表れていると考えます。
楽天は、楽天銀行や楽天カード、ラクマからのチャージで還元率を上げるなどの仕掛けでユーザーの回遊を促進。この効果もあって、楽天ユーザーの大多数が楽天ペイを選択しているのでしょう。
楽天ペイキャンペーンページ
まとめ
キャッシュレスアプリの動向を深掘りすると、特に地方や高年層で勢いよく広がっていることが明らかになりました。
また、業界1位のPayPayは併用対象としても人気が高く、キャッシュレスアプリの王道的立ち位置を築きつつあります。約半分のユーザーが併用利用するキャッシュレスアプリは、特長を際立たせ、他と差別化することが今後重要になってくるかもしれません。
コロナも追い風となり、一層拡大するキャッシュレスアプリ。来年に控える東京オリンピックの頃には、インバウンド需要もあり一層勢いを増すことが予想されます。これから先どのように進展していくのか。今後の動向に注目です。
<分析概要>
ネット行動分析サービスを提供する株式会社ヴァリューズは、全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報を用いたマーケティング分析サービス「eMark+」を使用し、2018年12月~2020年11月のネット行動ログデータを分析しました。
※ユーザー数はヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測。
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フリーランスPRおよびライターとして活動中。二児の母。