新型コロナウイルスの国内における感染拡大が本格化してから、早1年が経過しようとしています。巣ごもり需要やリモート勤務といった生活様式の変化は、企業とビジネスパーソンの関係も一変させました。
特に、採用現場における「売り手」と「買い手」の主従逆転は非常に大きな変化です。リーマンショックで底をついて以降、有効求人倍率は年々回復し、2019年冬には1.6倍弱の高水準となっていましたが、コロナ拡大を迎えた2020年10月には1.04倍まで低下しています(出典:職業紹介-都道府県別有効求人倍率)。
自社の業績に対する注視を強め、人件費をカットし、採用計画の見直しを粛々と進めた企業も多いです。結果、求人数は減り、転職市場は完全に「買い手市場」へと変貌を遂げました。
今回は、そんな転換期を迎えている転職市場への新型コロナの影響について、ヴァリューズの提供する「Dockpit」より抽出したデータを見ながら分析をしていきます。
コロナ禍における大手求人メディアの集客状況
転職市場の現状を俯瞰するために、まずは求人メディアの集客状況を見ていきます。訪問者の多い求人メディア「Indeed」「doda」「リクナビNEXT」「タウンワーク」「マイナビ転職」の、直近1年のセッション数推移は以下の通りです。
「Dockpit」で抽出した求人メディア5サイトのセッション数の推移データ
期間:2019年12月〜2020年11月
デバイス: PC・スマートフォン
各グラフから、どの大手メディアもコロナ第一波や「緊急事態宣言」の発令があった3月~5月のタイミングで、セッション数が減少傾向だったと見受けられます。
厚生労働省によると、「有効求人倍率に新型コロナウイルスの影響が出始めた」としているのは1.45倍だった2020年2月からです。各求人メディアのセッション数の低下は、有効求人倍率の下落タイミングに重なっています。
この要因のひとつとしては、例えば企業の求人減によって採用担当者のメディアへの訪問機会が減った等の理由が考えられます。
その後、下がってしまった各サイトのセッションが夏季はほぼ横ばいで推移、年末にかけてやや右肩上がりにあるようです。1年間のコロナ禍を通して、少しずつ採用に対しての関心が回復してきていることの表れかもしれません。しかし2021年1月の緊急事態宣言の再発令により、再度状況が変わる可能性も考えられるでしょう。
資料出所:厚生労働省「一般職業紹介状況」より。2020年に入って有効求人倍率が減少している。転職メディアのMAU減は2020年4月と、有効求人倍率の動きからやや遅れていたか
注 2020年1月から求人票の記載項目が拡充され、一部に求人の提出を見送る動きがあったことから、求人数の減少を通じて有効求人倍率・新規求人倍率の低下に影響していることに留意が必要。
「転職」に対するユーザーの関心と心理はどう変化した?
次は、激動の2020年を通して、「転職」に対する求職者サイドの意識にどのような変化が起きていたのかを探っていきます。
下記の表には、2020年の6月〜11月の半年間を対象に、「転職」と掛け合わせて検索されたキーワードの検索ユーザー数前年同期比をまとめました。その増減から、マクロな視点で求職者の意識変化を考察してみましょう。
「Dockpit」で抽出した「転職」の掛け合わせキーワード検索ユーザー数の昨年同期比
対象期間:2020年6月~2020年11月
デバイス: PC・スマートフォン
※昨年同期比が0%以下のキーワードを除く
上記は、2020年に掛け合わせて検索されたキーワードが、昨年の検索ユーザー数と比べて「増えた」のか「減った」のかを表示した表です。
以下、特徴的に表れているワードに関して深掘りしていきます。
■「法務」に「医師」…専門職かつ即戦力の採用が活発化か
先の表を見ると、2019年から大きく伸びている掛け合わせキーワードには「法務」「医師」「薬剤師」といった専門的スキルが求められる職業が目立ちます。特に、「○○士」と名の付く士業については、上述したもの以外にも多数のワードが掛け合わせ検索で伸びている様子でした。
コロナ禍における企業の採用抑制は、裏を返せば、なるべく即戦力で働ける人材に絞って採用をしていきたい、という状況を作り上げます。専門的な知識や技術を持つ人材が、この状況下で市場価値を高めていることの表れかもしれません。
■「通過率」などの採用を意識したワードも検索増
その他、検索回数が増えている掛け合わせワードには「採用」「通過率」「2次面接」といった企業選考を意識していると思われるものも登場しています。
完全に「買い手市場」へと変わった転職マーケットおいて、いかにすれば定職につけるのか、という求職者の顕在的な不安が表れている語句だと言えるでしょう。
■「フェア」「イベント」の検索回数は激減
コロナ以前は各種マスメディアでも盛んに広告が打たれていた求職者向けのリアルイベントですが、感染対策の本格化に合わせ、検索ユーザーが大きく減っている様子です。
逆に増加したワードに「在宅」という語句が入っていることからも、企業選考のスタンダードは対面からリモートへ移行している様子です。また、オフィスに出社せずリモートによる就業が可能な求人を探したい、という多様性が生まれ始めていることにも、「在宅」というワードの検索増加が表れていると言えるでしょう。
キャリアアップ求人やスカウト型の転職が関心を呼ぶ
コロナ禍における求職者の心理をさらに分析するため、Dockpitの「ワードネットワーク」のデータも見ていきましょう。ワードネットワークを見ることで、「転職」と掛け合わせて検索されている語句どうしの繋がりを見ることができ、ユーザーのインサイトがより深く見えてくるはずです。
「Docpit」で抽出した「転職」のワードネットワークのデータ
期間:2020年6月~2020年11月
デバイス: PC・スマートフォン
「面接」「履歴書」といった転職市場においてありふれているワードを除き、「評判」というワードに注目してみましょう。「評判」と結びつく語句には「ワンキャリア」や「ビズリーチ」、「MS-JAPAN」といった人材サービスが並ぶのが見て取れます。
「ワンキャリア」はキャリアアップに特化した求人サービス、「ビズリーチ」は大きく伸びているスカウト型の人材サービスであり、自身のステップアップを図るツールとして、求職者が関心を寄せている傾向があるように見えます。
また、「MS-JAPAN」は管理部門や士業に特化した求人サイトで、こちらが登場していることからも、前項でお伝えした専門職の転職市場が盛り上がっていることが推察できます。
また、同「評判」には「チャットワーク」「バルミューダ」といった転職市場において人気の高い、具体的な企業名も散見されます。技能と経験を積んでいる人材に注目が企業からの集まる中、これを機にして、現状よりも良い就業環境を求めて動く求職者が増えているのかもしれません。
まとめ
直近1年を通して、新型コロナウイルスの拡大は企業の採用市場を縮小させ、転職のマーケットは全体感として間口が狭くなってしまった傾向にあります。ただし、各種データを見ていく中で、転職市場の方向性は「企業がいかにして選りすぐった人材を採用するか」という方向性にシフトしているのでは、という個人的な見方が強まりました。
手に職を持ち、実践的な経験を積んでいるような職種が関心を集めるのも、こういった社会全体の風潮による影響が及んでいるものと思われます。現状を踏まえ、加速する「買い手市場」で求職者が安定した職業に就くためには、大なり小なりの自己研鑽に励む必要があるでしょう。
加えて、商業活動の場はおおむね対面からネットへと移り変わっており、ビジネス上の理由でDX促進を掲げる企業も非常に多くなってきました。以前に増してネット関連の業種にも多数の目が集まっている最中なので、思い切ってITの現場へ自身を売り込む、というアクションを起こす求職者は好機を得られるかもしれません。
本調査が、皆さんのマーケティング業務や市場調査などに役立ちますと光栄です。
【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2020年6月〜2020年11月の検索流入データ
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC・スマートフォンの両デバイス
国内大手の採用メディア制作部を経てフリーライターとして独立。現在はWebマーケティング、就職・転職、エンタメ(ゲーム・アニメ・書籍)等の各種メディアにて記事制作を担当。「マナミナ」では一人でも多くの読者に楽しく読んでもらえるマーケティングコンテンツを提供していきます。