セミナー概要
■Agenda
1・マーケティングデータ利活用の取り組み
2・ネット行動ログで見る顧客理解のための行動データ分析
3・行動データ分析から得られたこととは?~消費者インサイトの理解と浸透~
■スピーカー紹介
図:スピーカー紹介
マーケティングデータ利活用の取り組み
株式会社ヴァリューズ 子安 亜紀子(以下、子安):「マーケティングデータ利活用の取り組み」というところで、パナソニックではどのような取り組みをされていたのかという点を、富岡さんからご紹介頂けますでしょうか。
パナソニック株式会社 富岡広通氏(以下、富岡):では、ここ2年位の我々の取り組みについて簡単にご説明させて頂きます。
大きなテーマである「顧客理解」。私たちの家電商品をどういったお客様が利用しようとしているのか、今現在どのように利用して頂けているのかといった、要は家電周辺でのお客様の行動がどの様な状態にあるのかを知ることが「顧客理解」だと考えます。
一例として、「Bistro(ビストロ)」というオーブンレンジの例でご説明しますと、この商品のターゲットとして、我々の会社の中では「30代女性、共働きで小学校のお子様がいる」といったいわゆるペルソナ、属性を仮定することが多くあります。
しかし、下記に挙げたこの属性に合う方3名のコメントを見て頂くと、雰囲気などそれぞれ違いますよね。当たり前ですが、この属性だけでは一括りで顧客像を表せないことは、皆さんも当然ご理解頂けると思います。
ではこのような中でどうするか。我々は、ターゲットや顧客の「ありたい姿・価値観」などからくる、自分はこうしたいのだけどまだちょっと足りてないといった「未充足ニーズ」の部分を紐解いていくことが、得なくてはいけない「顧客理解」と考えています。
こういった「価値観」や「未充足ニーズ」を紐解いていくと、この「Bistro」を訴求するにあたって、おそらくクリエイティブもメッセージも変わってくると思います。よって「価値観」に紐づいた情報を提供する、プロモーションの戦略やクリエイティブの戦略も同様に「価値観」に準ずるように構築するべきと考えています。
図:ありたい姿・未充足の把握
富岡:続いて手法についての話ですが、以前は勘や経験、インタビュー調査やアンケート調査などで紐解いていくのが伝統的な手段でした。しかし、これにデジタルデータを加えることで、もう少し深く細かく理解できないかということが、ここ2年ほどのテーマになっています。
もちろんアンケートやインタビューにも非常に有効なことは沢山ありますが、アンケートやインタビューの限界と感じさせられるのが、質問に対して合理的な答えを探してしまう、実際の真実の回答とちょっと変わってしまうというようなことです。
したがって、この意識と無意識の行動の隙間にある真実の部分をデジタルデータで補完することでより深い理解が可能になるのではないかというのが我々の仮説です。
図:お客さま理解のアップデート①
富岡:私がいつも念頭においているサイクル図をご紹介します。
ベースにあるのは一番下の「スコアリング/ID」です。ここから右図の縦、自社データであるとか、他社のデータエクスチェンジみたいなものを掛け合わせて、分析につなげていきます。ここをデジタル領域で見ていきます。
このようにしながらお客様の理解を深め、クリエイティブの開発やプロモーションの戦略を練っていきます。
この図式のように顧客理解を深めながらデータを蓄積し、さらに理解を深めていくというサイクルを実行しております。
図:お客さま理解のアップデート②
富岡:家電を人生の中で考えるタイミングというのは、多分ほぼ一瞬であると思われます。いわゆるモーメントですが、どういう時に未充足を家電で解決しようという思考になるのかという理解が極めて重要となります。
家電を検討し始めて、自社のオウンドメディアで接点ができれば、そこから追跡することもできるのですが、その前後がやはりわからないということが次の課題となってきました。
具体的には、商品サイトに訪れる前後、会員登録して頂く前後といったモーメントを理解する必要があるということです。
加えてその文脈ですね。定量データやビッグデータで、前述の「価値観」を紐解いていくのですが、その価値観に至る理解、すなわち「生活理解」とも言えますが、顧客行動に注目するともっと細かい背景が読み解けて、よりクリエイティブにも影響するのではないかとも考えています。
このようにして次のステップの仮説を持ち始め、この課題をどう深掘りするかと考えたタイミングに、ヴァリューズの子安さんよりGoogle社によるバタフライ・サーキットという分析結果を報告頂いて、そこにヒントがありそうだなと感じました。
ネット行動ログで見る顧客理解のための行動データ分析
子安:それでは私の方から、今回パナソニック様とご一緒させて頂いた取り組みとその背景を含めてご紹介させて頂きます。
Google社と一緒に研究させて頂いた中で、デジタル時代の消費活動は今までの理論では通用しないのではないかという話があり、その話を富岡さんにさせて頂いたところから、今回の事例に繋がりました。
その話というのが「パルス型消費とバタフライ・サーキット」です。
今やデジタルで物や情報を調べたり購入したりするようになってきた世界は、いわゆる従来の「AIDMA」といった時間を経て、徐々に検討プロセスが変わって購入するというよりも、瞬間的・刹那的に弾けるように購入するといった様式に変化してきているんじゃないかと言われています。いわゆる刹那消費。パルスが「パン」と跳ねるような様子から「パルス型消費」と呼んでいます。
さらに「パルス型消費」の背景には、人の考え方が移ろうような検索スタイルをとるようになっているんじゃないかと考えられています。資料右図にあるように、何か物を検索して、さぐって固めて購入するといった移ろいですね。この検索の動き方を「バタフライ・サーキット」と呼んでいます。
このような分析から、デジタル時代では「パルス消費とバタフライ・サーキット」がこれからのユーザー理解のキーワードになるのではないかと考えられています。
これらを背景に、今回ご一緒させて頂いた取り組みを詳しくご紹介いたします。
図:パルス型消費とバタフライ・サーキット
図:バタフライ・サーキット詳細
■パナソニックとの取り組み〜プロジェクト事例
「スティック掃除機」「オーブンレンジ」における購買プロセスを読み込む顧客理解ワークショップを実施
⚫︎ 家電において「バタフライ・サーキット」は発生しているのか?
⚫︎ オフラインも含め、家電を買う際に消費者はどのような検討プロセスを辿るのか?
子安:ではプロジェクトの流れをご説明いたします。
ヴァリューズ保有の約250万人のモニター会員に対して、直近の掃除機、オーブンレンジの購入有無、購入場所、購入機種など、実態と意識等を先にアンケートリサーチで確認しました。
次に実際に買われた方の行動ログデータを使って、実際に購入した前後でどういったネット行動しているのか、どんな検索をしているのかということを分析していきます。
こうしたユーザーの行動ログデータを読み込むワークショップを実施しました。
ワークショップは4時間を2回といったボリュームで行いました。そこでパナソニックのメンバーの皆さんとディスカッションしながら、どうしてこのお客様が最終的にこの掃除機、オーブンレンジを選んだのだろうか、どんな背景があったのだろうといった議論をして、実際に仮説を立てていきました。
図:分析プロジェクトのプロセス
行動データ分析から得られたこととは?~消費者インサイトの理解と浸透
子安:続いて行動データ分析ですね。色々な人の行動を細かく分析していく中で、どういうことが見えてきたのかということを富岡さんとお話したく思うのですが、その前に行動データ分析のメリットについてまとめてみました。
■行動データ分析のメリットのまとめ
⚫︎ 家電購買時のオンライン行動の実態が把握できる
⚫︎ 家電検討者の生活背景も含めたインサイトが見える
⚫︎ ワークショップによる消費者インサイトの社内浸透
■家電購買時のオンライン行動の実態が把握できる
子安:まず「家電購買時のオンライン行動の実態の把握」なのですが、先ほどのようなデータを実際ご覧になって、富岡さんが感じられたことや発見などがあればお話頂けますでしょうか。
富岡:何よりオンラインの行動が深くわかるというのが興味深かったですね。
あと、コロナになって、当然デジタルでの購入が増えているというのは知っていましたが、やはりこうした細かいデータを見てみないと実際の前後の行動がわからない。したがってこうしてデータを詳しく見ていってクリエイティブやメディア戦略を考えていかないと、なかなか差別化できないと思いましたし、想像以上に我々の戦略を考える上で重要なデータになったなと思っています。
子安:そして「さぐる」検索が想定より少なかったですよね。
富岡:少なかったですね。意外にもワクワクとした検索というよりも、故障などが原因なのか、必要性に迫られての検索が多かったですね。楽しんで購入しているというイメージが崩れてしまったので、ここは楽しんで買っていただくシーンを創出したいと思います。
■家電検討者の生活背景も含めたインサイトが見える
子安:購買プロセスだけでなく、「生活背景も含めたインサイトが見える」という点ですが、この辺りはいかがお考えですか。
富岡:これはやはり消費者の行動を見ていかないと出てこないデータだなと、非常にユニークに思いました。例えば「家電を同時並行で検討する人」の例など、こういった関連性のないものをまとめて検索する人もいるんだ、こういう想像をする人がいるんだとちょっと驚きましたし、価値あるデータだと思いましたね。
子安:行動データ分析ならではの細かい背景が見えたと思います。
図:家電検討者の生活背景も含めたインサイトが見える
■ワークショップによる消費者インサイトの社内浸透
子安:ワークショップでは、色々な部署の方に入って頂きましたね。
富岡:これは想定を超えるメリットとアウトプットがありました。実はこのワークショプの内容を踏まえて、今後社内の定期的な研修にすべきというプロジェクトを進めているくらい、非常に有効だったと感じています。
従来の調査やビッグデータでは、細かいユーザーの動き・感情というものまでは捉えきれないので、それをここまでリアルに見ることで感じることは沢山ありましたね。
そして自社の製品のことを知るだけでなく、ユーザーの生活背景も知ることで、メンバーの想像が広がっていくという現場を目の当たりにして、本当にワークショップをやってよかったと思いますし、実は一番印象に残ったところです。
子安:部署横断で、色々な方が同じデータを見ながらユーザーについて語り合うということで、次の商品展開やWebの施策などにもうまく繋がっていくのではないでしょうか。
図:ワークショップによる消費者インサイトの社内浸透
まとめ
子安:ここまで、消費者理解を深める上でのデジタルデータの利活用についてお話ししてきましたが、最後に富岡さんからもコメントあればお願いします。
富岡:今回のプロジェクトは実施前に想定していたよりも、遥かに有効なプロジェクトになったと実感しています。
データ、オンライン、オフライン含めて、データを見ながらユーザーの理解を深めていくということは際限のない取り組みだなと改めて感じたのと同時に、デジタルの活用というのは色々な側面を持っているとも感じました。
多種多様な解決方法やデータがあって、それをどう取捨選択しながら社内のメンバーの理解を深めて進めていくか。今回のプロジェクトは非常に良い一例として経験ができて、レベルアップにも繋がったと思っています。
マナミナ 編集部 編集兼ライター。
金融・通信・メディア業界を経て現職。
趣味は食と旅行。