NISA・新NISAとは
本稿の話題である新NISAについて触れる前に、まずはNISAについて説明を行っていきます。NISA(Nippon Individual Savings Account:日本版個人貯蓄口座)とは、少額からの投資を行う方のために2014年1月にスタートした「少額投資非課税制度」です。
NISAは、運用益に対して非課税であることが大きな特徴です。通常の金融資産投資では売却益や配当に対して税金がかかりますが、NISA口座という特別な口座内では、制限はあるものの売却益や配当に税金がかからず、利益を効率的に回収できます。

非課税であることがNISAの大きな特徴
出典:NISAを知る:NISA特設ウェブサイト:金融庁
■新NISA開始でもっと便利に
そんなNISAですが、2024年4月に大きな改正があり、より使いやすくなりました。これまでのNISAからの具体的な変更点は、「非課税保有期間が無期限になったこと」、「年間投資枠が拡大したこと(最大で年間360万円)」など。詳細は以下の図の通りです。

NISA改正の主な変更点
出典:NISAを知る:NISA特設ウェブサイト:金融庁
このように、改正によって扱える期間や金額が大きく増大し、より安定的な資産形成に取り組むことができるようになりました。
新NISA開始前後で大きな注目を集める
では、新NISAの開始にともなって人々の関心はどのように変化していったのでしょうか。まずは、NISA関連の検索者数から新NISAがどれほど注目を集めたのかを調べていきます。なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用います。
下のグラフは、「NISA」というワードを用いて検索した人数の推移を青色で、そのうち「新NISA」というワードを用いて検索した人数の推移をオレンジ色で示したものになります。

「NISA」「新NISA」検索者数の推移(部分一致)
期間:2023年3月~2025年2月
集計デバイス:PC、スマートフォン
グラフからは、新NISAが開始された2024年1月と、その前後の月において、検索者数が大きく増加していることが分かります。また、その期間においては、特に「新NISA」というワードが普段よりも多く検索されており、注目度の高さがうかがえます。
さらに、新NISAが開始されてから1年近く経った2024年9月以降に注目してみると、「NISA」検索者がある程度変動しているのに対して、「新NISA」検索者はほとんど変動していません。このあたりから「新NISA」ではなく普通の「NISA」として定着してきているのかもしれません。
新NISA移行期を振り返る|2023年11月~2025年2月
ここからは、新NISAが発表・施行されてからの1年強を、「Dockpit(ドックピット)」の「掛け合わせワード」やニュースとともに振り返っていきます。これから示す図はNISA・新NISA検索者が、検索の際に用いた「掛け合わせワード」のうち、ある期間において普段よりも多く用いられたものを表しています。
■開始直前は「予約」「設定」といった単語が多い|2023年11~12月
まずは、新NISAが始まる直前、2023年11月から12月の掛け合わせワードを見ていきましょう。青色の図が「NISA」の掛け合わせワード、オレンジ色の図が「新NISA」の掛け合わせワードを示していますが、どちらにおいても「新NISA設定」や「積立予約」などNISAの使用に絡むワードが多くなっています。この時期にNISAについて関心を持っていた人は、その関心度合いも比較的高かったのかもしれません。


(上)「NISA」、(下)「新NISA」掛け合わせワード 季節比較
期間:2023年11~12月
集計デバイス:PC、スマートフォン
■開始直後はメディアの影響が見られる|2024年1~4月
続いて、新NISAが始まった直後の掛け合わせワードを見ていきましょう。
はじめに、2024年の1月から2月です。どちらの図においても「総額500万円分!新NISAで笑門来福」という楽天証券の口座開設キャンペーンが特徴的に表れています。また、SBI証券が2月13日(NISAの日)に記念してオリジナル川柳を募集するキャンペーンを行ったこともあってか、「川柳」というワードも特徴として表れています。新NISA開始直後は、各証券会社・銀行が大々的にプロモーションを行っていたため、その効果が表れていそうです。


(上)「NISA」、(下)「新NISA」掛け合わせワード 季節比較 2024年1月・2月
期間:2024年1~2月
集計デバイス:PC、スマートフォン
2024年3月から4月についても見ていきます。グラフを見ると、「NISA」検索者と「新NISA」検索者で特徴的なワードが大きく異なっていることが分かります。「NISA」検索者には、正式名称を検索している人が多く、「新NISA」検索者については、厚切りジェイソンさんや森永卓郎さんなどの著名人、円安や利回りなど運用に関わるワードが多いという結果になりました。


(上)「NISA」、(下)「新NISA」掛け合わせワード 季節比較
期間:2024年3~4月
集計デバイス:PC、スマートフォン
厚切りジェイソンさんは24年3月にMBS系「日曜日の初耳学」で、森永卓郎さんも同月にYoutube「NewsPicks/ニューズピックス」などで、新NISAについて取り上げており、大きな反響を呼びました。いずれにせよ、この時期においては、NISAについてより深く知りたい関心者が「新NISA」というワードを用いて検索を行っているようです。
■半年ほど経過すると、政治・社会情勢に左右された|2024年5月~9月
同様に、新NISA開始から半年ほど経過した、2024年5月から6月を見ていきます。「NISA」検索者においては社会保険料というワードが特徴的です。24年4月下旬に金融課税の検討が始まり、それがNISAにも影響するかどうかで話題にあがりました。「新NISA」検索者について見てみると、「オススメ」や「やり方」、「シミュレーション」など新NISAを実際に始めるにあたっての関連ワードが多く見られました。


(上)「NISA」、(下)「新NISA」掛け合わせワード 季節比較
期間:2024年5~6月
集計デバイス:PC、スマートフォン
続いて、2024年7月から8月です。8月の大暴落をはじめ、このあたりでは株価が不安定であったことも影響してか、「株価暴落」や「下落」といったワードが特徴的です。「NISA損切り民」などの言葉も話題となるなど、この時期の不安定さがうかがえます。


(上)「NISA」、(下)「新NISA」掛け合わせワード 季節比較
期間:2024年7~8月
集計デバイス:PC、スマートフォン
2024年9月から10月についても見ていきます。ゴールデンボンバーの樽美酒研二さんが24年9月に発表した楽曲『新NISA始めます。』が特徴的に検索されていました。他にも24年10月に上場した「東京メトロ」や東京海上証券が提供するNISAのWebメディア「NISAセンター」が話題となりました。


(下)「NISA」、(上)「新NISA」掛け合わせワード 季節比較
期間:2024年8~9月
集計デバイス:PC、スマートフォン
■年末は来年の動向を見据える人が多い|2024年11~2025年2月
最後に、新NISAが始まってから約1年が経った、年末年始の掛け合わせワードを調べていきます。
まずは、2024年11月から12月を見ていきましょう。特徴的だったもののほとんどは2025年というキーワードでした。新NISA初年度を終えたうえで、来年の動向が気になる人が多かったようです。


(上)「NISA」、(下)「新NISA」掛け合わせワード 季節比較 2024年11月・12月
期間:2023年3月~2025年2月
集計デバイス:PC、スマートフォン
続いて、2025年1月から2月です。「NISA」検索者では、この時期に交付される「(特定口座)年間取引報告書」への関心が高く表れていました。「新NISA」検索者のうちでは、1年を経たうえでの銘柄ランキングが注目を集めていました。


(上)「NISA」、(下)「新NISA」掛け合わせワード 季節比較 2025年1月・2月
期間:2023年3月~2025年2月
集計デバイス:PC、スマートフォン
まとめ
ここまで、新しく始まった新NISAについて、データとニュースを用いてこの1年を振り返ってきました。
検索者数としては新NISAが始まるタイミングがピークとなっており、そのあとはおおむね横ばい傾向となっていました。新NISAについて開始1年を通して検索されている状況はありつつ、能動的に情報収集をするユーザーは新NISA開始直前が多かったことがうかがえます。
新NISAが始まってからは、「キャンペーン」「税制変更」「株価」「メディアの特集」によって月ごとの関心が変わり、年末年始には新規の検討者、既存の見直し検討者の検索が増えていたと考えられます。
今回のデータを鑑みると、企業のコンテンツマーケティングとしては、「トレンド・ピークを踏まえたコンテンツ」「普遍的にニーズのあるコンテンツ」の2つの発信が重要になるかもしれません。

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2025年4月に入社予定の大学4年生です。大学では、経済学部で計量経済学を学んでいます。