ひとりの時間をどう楽しむ?「おひとりさま」検索のデータから消費者ニーズを調査

ひとりの時間をどう楽しむ?「おひとりさま」検索のデータから消費者ニーズを調査

近年注目が集まる「おひとりさま」市場。「おひとりさま」というキーワードは、2000年代前半に男女雇用機会均等法の第一世代が牽引する第1次ブームが起こりました。次に、団塊ジュニア世代が主役となった2000年代後半の第2次ブームに次いで、現在はスマホとSNSの普及により第3次ブームを迎えていると言われています。コロナ禍で世の中が一変した今、おひとりさま市場の実態に迫ります。


独身でいることの意識、男女に違いは

「おひとりさま」というと従来ネガティブなイメージを持たれがちですが、2020年代になって変化はあったのでしょうか。

「おひとりさま」の定義をweblio辞書で調べると、以下のように書かれています(2021年3月18日時点)。

(1)飲食店などに一人で訪れる客を指す表現。主に店側が用いる言い方。
(2)婚期を逃した女性を指す言い方。いわゆる「行かず後家」のことであるが、独身を謳歌しているというニュアンスを込めて用いられることもある。

では、「おひとりさま」と検索するユーザーの属性はどのようなものなのでしょうか。まずは直近1年で性年代別の属性を見てみましょう。

対象期間:2020年3月~2021年2月 対象デバイス:PC&SP

対象期間:2020年3月~2021年2月 対象デバイス:PC&SP

40、50代の女性の検索者が多いことがわかります。

次に、下の画面キャプチャのように、「おひとりさま」検索者の流入ページランキングを見てみます。

対象期間:2020年3月~2021年2月 対象デバイス:PC&SP

上位にはブログサイトが複数見られました。このうち、1位の「おひとりさま人気ブログランキング」のサイトに含まれるブログサイトをチェックしたところ(2021年3月18日時点)、「アラフォー以上の独身(夫との死別含む)女性」ブロガーが運営するサイトが多くランクインしていました。

ブログの中には、節約に励む飾らない毎日をシェアしているものもあれば、親の介護疲れや親からの嫌味など独身でいる生きづらさ、将来病気をした時に看病してくれる人がいない恐怖、独身同士に交友関係が限定されてしまうことなどを赤裸々に綴るものが多く見られます。

「おひとりさま」を検索する人のなかには、「独身でいること」をより意識して老後を見据えつつ、同じような境遇にあるブロガーのストーリーを読んで共感を得る人が多いのかもしれません。また、20〜30代の検索者も一定数存在することから、結婚適齢期を過ぎていなくても将来的に独身を貫く可能性のある人々が、その実態を知るためにブログを見ているということもありそうです。

さらに、「おひとりさま」における男女の意識の差は、「おひとりさま」検索者が興味を持つキーワードを性別×年代でマッピングした下の図において、より具体的に見えてきます。

対象期間:2020年3月~2021年2月 対象デバイス:PC&SP

女性では「終活」や「住まい」「温泉」「ランチ」など、多様な検索ワードが多く並ぶ一方、男性に多く検索される掛け合わせワードには「炊飯器」程度しか見られません。

男性は「生涯現役」という意識が高く、女性よりも老後のことを心配する人が少ないのかもしれません。下のように実際にGoogleで「生涯現役」と検索してみると、候補に「男性」が出てきやすく、男性と結びつけて検索されることが多いと想像できます。パートナーがいる人でも、女性の方が平均寿命が長いため、将来的に「おひとりさま」になるイメージを持つ男性は少ないのではないでしょうか。

「生涯現役」検索時の画面キャプチャ(2021年3月18日時点)

ただし、「おひとりさま」は決してネガティブな意味合いを持つワードではありません。むしろ、積極的にひとりで過ごす時間を楽しもうとする動きとも考えられます。「おひとりさま」検索者の掛け合わせ検索ワードについて、関連性をネットワーク化した「ワードネットワーク」の図をご覧ください。

対象期間:2020年3月~2021年2月 対象デバイス:PC&SP

「老後」のテーマが大きく、「住まい」「貯蓄」「不安」といった現実的なワードもある一方で、「ホテル」「ランチ」「アフタヌーンティー」など、飲食等のサービスを一人で利用して楽しみたい人もいるようです。

次章ではこのニーズについて見ていきます。

「おひとりさま」は現代日本人の楽しみ方?

近年「ソロ活」という言葉が聞かれるようになってきました。ソロ活とは「好きな時に、好きな場所でひとりでしか味わえない贅沢な時間を過ごすストレスからも解き放たれた体験」のこと。未既婚や年齢に関わらず、ひとりの時間を充実させるために「おひとりさま」の身分をポジティブに活用していこうという動きです。

このソロ活のひとつの例として、「ひとり飯」と「ひとりカラオケ」の検索者を調べてみます。まず、下記の年代別構成をご覧ください。

▼「ひとり飯」検索者の年代別構成

対象期間:2020年3月~2021年2月 対象デバイス:PC&SP

▼「ひとりカラオケ」検索者の年代別構成

対象期間:2020年3月~2021年2月 対象デバイス:PC&SP

「おひとりさま」の検索者に比べ若い年代が明らかに多く見られますね。一人っ子が増えている現代日本において、ひとりで外出することを苦に感じない人が増えているのかもしれません。スマホを一人一台持っていて、いつでもどこでもSNSを見たり動画を鑑賞したりできる現代では、一人で外食する際に話し相手がいなくて手持無沙汰になることもないでしょう。それに、たとえば飲食店でも、おひとりさま用のコンロや鍋を完備し、一席ずつ仕切りをしたカウンター席で料理を提供する店をよく見かけるようになりました。

また、ハフポスト日本版の記事『“おひとりさま”を許してもらえる日本が好き。 「ひとり」になるために嘘を重ねた日々からの気づき』では、集団の和を重んじ空気を読む日本人だからこそ、一緒に行動する人に気を遣わなくて良い「おひとりさま」の需要があると考察されています。

このように、「おひとりさま」は単に独身者を指すものではなく、現代日本人の新しい楽しみ方として広く受け入れられるようになってきています。

独身女性というイメージに対し、「おひとりさま向上委員会」の代表を務め、2005年に「おひとりさま」を流行語大賞ノミネートに導いた葉石かおりさんは、

"おひとりさま"とは、精神的に自立した大人の女性のことです。(中略)仕事を大切にしながら、自分だけの時間も楽しみ、なおかつ彼氏とか家族との時間も充実させることができる。ゆとりのある、柔らかでしなやかな女性を指しているのです。

と発言。従来の固定的なイメージを覆そうとする動きが伺えます。

他人の目が気になる人々のために、入店のハードルを下げたお店作りなどによって、おひとりさま需要はさらに拡大していきそうです。

「おひとりさま」検索者の推移は?

下のグラフからわかるように、「おひとりさま」検索者の数は2019年10月をピークとして顕著な盛り上がりを見せた後、2020年に入ってから減少し、4月に最低となってからは徐々に増加して、2019年前半の水準に戻ってくるという変動を見せています。

対象期間:2019年2月~2021年2月 対象デバイス:PC&SP

一方で、特に検索者数が最低になった4月は緊急事態宣言が発令されたタイミングであり、一人で外出してサービスを利用するという意味での「おひとりさま」検索がぐっと減ったと考えられます。

しかし後半から持ち直してきているのは、おうち時間が増えてひとりでいることに世間が慣れてきたからかもしれません。リモートワークの時代だからこそ、代り映えしない自宅から抜け出して非日常を味わおうという「ひとりおこもりステイ」も注目されています。自分にご褒美、という目的だけでなく、仕事がはかどることから積極的に宿泊施設を利用している人もいるようです。

たとえば、星野リゾートが展開する都市観光ホテル「OMO5東京大塚」は、2021年1月21日~4月28日の期間限定で「おこもりテレワークプラン」を提供しています。ニューノーマルの時代、「おひとりさま」という選択肢は人々の中でより確固としたものになっていくかもしれません。

まとめ

ネガティブなイメージを持たれがちだった「おひとりさま」。しかし近年ではそのイメージはほとんど払拭され、おひとりさまニーズも顕在化してきています。

ブログが人気なのはおひとりさま同士が繋がる場を求めているからでしょう。他にも、老後の不安が大きい独身女性たちにどう寄り添うのか、周囲の目を気にしないでもっとソロ活を楽しんでもらうためにはどうしたらよいのか、おうち時間で生まれた新たな需要はないか、など切り口は様々ありそうです。日本人の性質に合っているという点も、今後の市場成長の可能性を示唆するものかもしれません。

本調査が、皆様のお役に立ちますと幸いです。

【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2019年2月〜2021年2月の検索流入データ
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC&SP

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この記事のライター

1997年生まれ、大阪大学卒。データアナリストを経て、Webマーケティング・リサーチを軸に、コンテンツディレクション、SNS運用、デジタル広告運用などを担当。現在はフリーで活動しています。

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