技術革新による質的な豊かさが満たされるようになった現代においては、日常における様々な選択肢が生まれ、消費者・顧客の多様化が進んでいます。
以前「地方銀行のWebサイトランキングを調査!デジタルシフトが進んでいる地銀はどこか」でもお伝えしましたが金融機関やサービスの環境変化はめざましく、レガシーな市場である証券会社のビジネス領域でも、顧客のダイバーシティに応えられる柔軟なマーケティングが重要視されています。
今回は、そんな証券会社のWebサイトの集客規模をランキングにし、各証券会社がインターネットを通じてどのような集客戦略をとっているのかを分析します。ヴァリューズの市場調査ツール「Dockpit」を用いて、現代の市場で証券会社がどのように立ち回るべきか、デジタルシフトの方向性を探っていきます。
Webサイトセッション数が多い証券会社ランキング
はじめに、各証券会社の中でWeb集客が上手くいっている企業を調べます。Dockpitを使用して、証券会社のWebサイトのセッション数を抽出しランキング形式にまとめました。
(※企業名は一部のみ公開。全ランキングデータは記事下のフォームより無料でダウンロード頂けます)
「Dockpit」で抽出した「証券 企業」Webサイトのセッション数のデータを降順にランキング化
期間:2020年6月〜2021年5月
デバイス: PC・スマートフォン
※対象サイト:アセットマネジメントは直販を行うサイトのみ。FX専門サービスは除く。
本指定期間内で最もセッション数が多かったのは「楽天証券」のWebサイトで、1年で約12億セッションという数値でした。「楽天証券」は2000年代後半から普及した、実店舗を持たないネット証券に分類されます。
なお、年間のセッション数が10億を超えるWebサイトは「楽天証券」と「証券会社A」のみであり、業界内で大きな規模のWeb集客に成功していることがわかります。
続いて、4位には「SMBC日興証券」がランクインしています。「SMBC日興証券」は元々オフラインで市場シェアを確立しており、今回のランキング内において、オンライン/オフラインの両軸でサービスを提供している総合系の証券会社としては上位です。
また、22位の「三菱UFJ国際投信」のWebサイトが、アセットマネジメントを行う企業としては最上位となっています。
「楽天証券」「SMBC日興証券」「三菱UFJ国際投信」、それぞれ異なる形態でサービスを提供する証券関連の企業サイトですが、3社のWeb集客の状況についてさらに深掘りしてみましょう。
Web集客に成功している証券会社の集客指標を比較
前述の3企業に関して、Dockpitを用いてWebサイトの基本的な集客指標を比較してみました。
「Dockpit」で抽出した3つの証券会社Webサイトの集客指標データの比較
期間:2020年6月〜2021年5月
デバイス: PC・スマートフォン
上記データを見ると、セッション数で全体首位に立つ楽天証券は、新規ユーザー率では3社の中で最も低い22.3%となっています。「新規訪問が少なくセッションが多い」という構図は、同一ユーザーが繰り返しサイトを閲覧しているということを示唆します。これは、「1人あたりセッション数」や「平均滞在時間」の数値が大きいことからも窺い知ることができます。
また、SMBC日興証券のWebサイトの年間セッション数は約2.7億回と、楽天銀行に比べて5分の1ほどの数値となっていました。一方で、SMBC日興証券の「新規ユーザー率」は47.%と楽天銀行の2倍以上の数値となっています。このことから、SMBC日興証券は新規訪問者の呼び込みに優れ、かつ訪れたユーザーの興味を惹くようなコンテンツがサイト内に用意されている可能性があります。
これら各証券会社のWebサイトの集客指標を押さえつつ、各企業がどのようにマーケティング上の取り組みを行っているのか紹介していきます。
楽天証券|楽天経済圏の好循環が生む豊富なユーザー接点
楽天証券の強みは何と言っても、楽天の手掛ける物販、ネット銀行、決裁…といった巨大な経済圏が、それぞれ相互に顧客との接点を作り送客し合える点でしょう。
例えば、楽天証券と楽天銀行を併用すると楽天銀行の普通金利が5倍になり、株式配当を楽天銀行の口座で受け取れば現金がプレゼントされる、といった特典が付きます。
また、楽天証券では楽天のECで貯めたポイントを使って投資ができるなどの利点もあります。楽天プラットフォームの円環に組み込まれている点で、楽天証券は非常に強いアドバンテージを持つと言えるでしょう。
前項で述べた、楽天証券Webサイトに再訪問者が多いという図式も、楽天サービスを多重で利用するユーザーによって繰り返し訪問・利用がされているためであると推察されます。
SBMC日興証券|オウンドメディア上で見込み顧客とのコミュニケーションを強化
SMBC日興証券は「日興フロッギー」というオウンドメディアを運営し、投資初心者の見込み顧客とのタッチポイント作りと、幅広いコミュニケーションを図っています。
「日興フロッギー」はキャッチーなデザインが敷かれ、株に詳しくない人でもわかりやすく投資について勉強できるコンテンツが多数用意されています。投資や株、資産形成などに興味があり能動的に情報収集しているユーザーを待ち構え、少ないコストで集客に繋げられる、いわゆる"PULL型"の集客を行うことができる利点を持ちます。
顧客の情報収集が以前よりも圧倒的に多くなった現代において、様々な切り口で投資に対するフックを作れるオウンドメディアは、証券会社にとって集客上の重要なタッチポイントであると言えるでしょう。
なお、前項で触れたSMBC日興証券のWebサイトで「新規ユーザーが多く、かつ1人あたりの回遊率も高い」という状況は、このオウンドメディアによる本サイトへの誘導が上手くいっている裏付けになると思われます。
三菱UFJ国際投信|手軽に投資信託を始められる「mattoco」で若年層へリーチ
三菱UFJ国際投信は2019年3月に「mattoco(マットコ)」という新サービスを開始しています。「mattoco」では証券口座の開設、投信の購入や運用状況の確認などをスマホで完結することが可能です。
スマートフォン向け、かつ投資を始めるのにシームレスなサービスを提供することで、以前は年配層が中心だった投資界隈の顧客に、現役世代を積極的に集めていこうというビジネス上の意図が見て取れます。
まとめ|証券会社が生き残りをかけていくためのポイント
社会情勢や顧客ニーズの多様化によって証券会社の在り様も大きく変化を遂げています。今回調査・分析を行った3つの企業を見ると、デジタルシフトを図る証券会社の大きなポイントとなるのは以下の2点であるように感じました。
①自社・他社を問わずFintech領域との連携を増やす
楽天証券のモデルを見ると、やはりネットバンクやオンライン決済、ポイントサービスとの連携によって、顧客の繋ぎ込みを行う重要性に気づかされます。
加えて、証券購入の窓口がオンラインへ主軸を移している現状を踏まえると、Fintechと呼ばれるIT×金融の領域で連携を図り、顧客創出のシナジーを高めていく必要があります。
②初心者・若年層とのタッチポイント作りを強化していく
SMBC日興証券・三菱UFJ国際投信の例では、いかに「これまで投資に興味が無かった層を取り込んでいくか」ということがテーマであると思われます。そのために、これまで投資の中心であったシニア層だけでなく、投資に対する知識がない若年層ユーザーと積極的な接点を作る努力が必要です。
本調査が、皆さんのマーケティング業務や市場調査などに役立ちますと光栄です。
【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2020年6月〜2021年5月
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC・スマートフォンの両デバイス
※対象サイト:アセットマネジメントは直販を行うサイトのみ。FX専門サービスは除く。
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