2022年2月に大きな料金改定を行ったスポーツ動画配信の「DAZN」。サービス開始から過去数年で大きな躍進を遂げた同サービスが、このタイミングで大幅値上げを行ったのにはどのような市場へのアプローチが秘められているのでしょうか。
今回は、スポーツ動画配信サービスの「DAZN」と「J SPORTS」を中心に、利用ユーザーや市場動向を調査します。毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」を用いて、スポーツ動画配信の現状を捉えていきましょう。
DAZNは「J SPORTS」より月額料金が高くなった
はじめに、取り上げる2サービスの概要を解説していきます。まずDAZNは、DAZNグループが運営するスポーツ専門のVOD(ビデオ・オンデマンド・サービス)です。2016年夏にサービスが開始され、日本でも同年同時期より展開されています。
DAZNは2019年3月から月額1,925円(税込)の利用料金でサービス提供されていましたが、2022年2月末から月額3,000円(税込)と大きく価格設定を上げ、各所で話題になっています。
一方、J SPORTSは株式会社ジェイ・スポーツが放送する、同じくスポーツ専門のVODです。90年代半ばより衛星放送「スカパー!」でサービス認知を広げ、2013年からネット配信も開始しています。月額料金は2022年4月現在、「総合パック」が2,640円(税込)、「U25割」が1,320円(税込)となっており、DAZN の2月の値上げでDAZNより料金が下回る図式となりました。
なお、両サイトに訪れるユーザー層をDockpitで比較したところ、性別や年齢といった点では大きな差異はない様子でした。
「DAZN」「J SPORTS」のユーザー属性(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2021年4月〜2022年3月
デバイス: PC・スマートフォン
上記グラフを見ると、両サイトともに男性ユーザーが7割で多くを占め、男女比はほぼ同じです。年代別のデータに関しても、20代~40代までの割合は両者ともほぼ同じ数字となっています。
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値上げの影響は?DAZNとJ SPORTSのサイトユーザー数を比較
前段のDAZNの値上げを受け、サイトに訪れるユーザー数に変化は生じたのでしょうか?
Dockpitを用いて、DAZNとJ SPORTSのユーザー数の推移を見てみましょう。
「DAZN」「J SPORTS」のユーザー数の推移(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2021年4月〜2022年3月
デバイス: PC・スマートフォン
DAZNが値上げをおこなったのが今年2月末ですが、3月の同サイトのユーザー数を見るとむしろサイトユーザー数が上昇しているのがわかります。値上げがあったことでユーザーから敬遠された、という状況は一見して読み取れない印象です。仮にDAZNが敬遠され始めた場合、J SPORTSなどの他サービスへ顧客が流れてもおかしくなさそうですが、J SPORTSのユーザーが2月から3月にかけて動いている様子も無さそうです。
この背景には、3月24日にDAZNが独占配信するサッカーW杯予選「日本VSオーストラリア戦」が配信されたことがありそうです。DAZNは2028年までアジアサッカー連盟と放映権契約を結んでおり、この試合の地上波を含む他メディアでの放映はなく、大勢が関心を寄せるコンテンツによって利用者数のブーストがかかった可能性があります。
参考:強気の設定!DAZNが突如「料金1000円アップ」した真の狙い
このことから、スポーツ動画配信サービスにおいて「サッカーW杯を独占配信している」というコンテンツの求心力のほうが、「月額でいくら払わなければいけないか」というコスト面の懸念よりも勝る図式があると推察できます。
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訪問者数が安定するJ SPORTSのコンテンツを分析
先ほどのユーザー数のグラフから、J SPORTSはDAZNほど訪問者の波が大きくないものの、安定してユーザーによるアクセスを維持していることが見て取れます。
このJ SPORTSへのユーザーアクセスの安定感は何に起因するのでしょうか。J SPORTSの各サイトコンテンツのユーザー数を、Dockpitで見てみます。
「J SPORTS」のユーザー数の多いコンテンツ(上位10URL,「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2021年4月〜2022年3月
デバイス: PC・スマートフォン
上記、コンテンツのユーザー数TOP10を見ると、2位と7位にMLB(メジャーリーグベースボール)がランクインしており、J SPORTSの目玉となっていそうです。なお、DAZNでは2020年シーズン以降のMLBの視聴ができないため、MLBを追いたいユーザーは必然的にJ SPORTSが囲い込むことになりそうです。
また、J SPOTRSは競技人口が比較的少ないスポーツのコンテンツ配信が充実していることでも知られています。実際に5位・10位に自転車競技のコンテンツが並ぶところを見ると、メジャースポーツ寄りのDAZNと、上手く利用ユーザー層の棲み分けもできている様子です。
前項のDAZNの値上げとユーザー数の構図を見ても、やはりVODにおける配信コンテンツの有する提供価値は大きそうですね。
VODの老舗「WOWOW」の底力はどうか
元々、衛星放送を主体に事業展開していた「WOWOW」のオンライン配信はどういう状況にあるのでしょうか。Dockpitによって、WOWOWのユーザー数をDAZNと比べてみます。
「WOWOW」「DAZN」のユーザー数の推移(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2021年4月〜2022年3月
デバイス: PC・スマートフォン
直近1年、DAZN(青色)のWebサイトは約200万の月間ユーザー数で推移しているのに対し、WOWOW(黄色)は月間350万ユーザーほどの訪問があります。WOWOWの方が月間のサイト訪問者数は多い状況ですが、DAZNと比べて桁違いというわけではありませんでした。DAZNが2016年にサービスを開始したことを考えると、同サービスは驚異的なスピードでユーザーを集めている状況が窺えます。
では、WOWOWはどういう層のユーザーにリーチしているのでしょうか。Dockpitにて、WOWOWのユーザー属性を見てみます。
「WOWOW」ユーザーの「年代」データ(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2021年4月〜2022年3月
デバイス: PC・スマートフォン
上記データを見ると、WOWOWユーザーの年代は高めな印象です。特に、ネット利用者全体と比べて50代以上のユーザーの割合が高く、シニアの利用が多いサービスだと見ることができます。
つづいて、訪問ユーザーの多いコンテンツのデータです。
「WOWOW」のユーザー数の多いコンテンツ(上位10URL,「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2021年4月〜2022年3月
デバイス: PC・スマートフォン
訪問ユーザーが最も多いWOWOWのサイト内ページは「お申し込みについて」です。同様に「はじめての方へ」のページも6位にランクインしており、WOWOWへの新規加入を検討するユーザーが一定数いそうです。
WOWOWは元々、90年代からサービスを継続しているためシニアにも認知度が高く、また、いまも継続してBS放送による動画配信を提供しているので、ネット利用にそこまで慣れ親しんでいない年配層からの支持を得ているのかもしれません。実際に、アクセスの多い「お申し込みについて」ページを見ても、盛んにBS放送の受信環境を用意できれば視聴を開始できる旨を伝えている印象でした。
DAZNとJ SPORTSの分析では「VODにおける配信コンテンツの有する提供価値」にスポットが当たりましたが、WOWOWのサービス継続力を見ると、視聴ユーザーのターゲティングとそれに即した提供形式にも市場での優位性が感じ取れます。
スポーツ動画配信サービスの分析まとめ
今回の調査を通じてわかったことのサマリは以下の通りです。
・DAZNは"戦略的な値上げ"でユーザー数を落とさずに収益拡大へ挑んでいる
・DAZN、J SPORTSともに独占配信や限定コンテンツによる提供価値が大きい
・WOWOWの例から視聴ユーザーの属性を考えたサービスのポジショニングも重要
DAZNの値上げによって話題騒然となったスポーツ動画配信サービスですが、TVゲームにおけるハードとソフトの関係性のように、ユーザーが「何を視聴したいのか」という点への事業のウェイトが非常に大きな業界であると感じました。
いくら利用料が安くても、自分の好むコンテンツが配信されていないVODへ鞍替えするユーザーは多くないでしょう。その構図を考えると今後、DAZNのように他VODにおいても、独占配信を行うための放映契約や、オリジナル番組を擁したうえでの強気の価格設定を行う戦略が取られるかもしれません。
また、VODに限った話ではありませんが、WOWOWのようなコア・コンピタンスがあることもやはり重要です。激しく視聴ユーザーの奪い合いが始まっている同業界で、配信コンテンツ以外の部分で、他者との差別化を図れる提供価値を模索するサービスも増えてくるのではないでしょうか。
本調査が、皆さんのマーケティング業務や市場調査などに役立ちますと光栄です。
【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2021年4月〜2022年3月
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC・スマートフォンの両デバイス
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▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えます。Dockpitには無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。
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