一棟のマンションを、一住戸ごとに分割して販売する形態である分譲マンション。
マンション内のコミュニティ形成や設備など、一戸建てにはない要素を持つ居住スタイルとして、人気のある購入形態です。また、新築マンションポータルサイトMAJOR7が2019年12月に実施した、新築分譲マンション購入に関する意識調査では、マンション購入の検討理由として「資産を持ちたい・資産として有利だと思ったから」が一位となるなど、資産形成の選択肢としても人気を得ています。
今回は、そんな分譲マンション市場でトップのシェアを誇る5社のデベロッパーについて、各社のユーザー層や特徴、強みを調査・分析していきたいと思います。なお以下の分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」を使用しています。
分譲マンション購入ユーザーの概観
まずは、分譲マンションを検討・購入したユーザーについて、概観を見ていきましょう。
■分譲マンション関心層には、2つの年齢グループが存在
こちらは、2021年12月から2022年11月に「分譲マンション」というキーワードを検索したユーザーの年代別割合を示したグラフです。
「分譲マンション」検索ユーザー年代別割合(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2021年12月〜2022年11月
デバイス: PC・スマートフォン
30代の割合が最も多く、次いで40代・50代の順に多くなっています。
また、国土交通省が実施した令和3年度住宅市場動向調査では、初めて取得する住宅として分譲マンションを購入した世帯主の年齢は30代が最も多く(50.5%)、2回目以上の取得住宅として分譲マンションを購入した世帯主の年齢は60代以上が最も多く(40.5%)なっています。
以上を踏まえると、分譲マンションの購入検討層としては、初めて住宅購入を検討する30代前後の若年層と、過去に住宅購入の経験がある60代前後の高年齢層の、大きく分けて2つのグループが存在すると推測できるのではないでしょうか。
その中で、ネットで「分譲マンション」というワードを検索して情報収集を行うのは、前者の若年層グループが中心です。その背景には、若年層は高年齢層と比較して、ネットでの情報収集や検討に馴染みがある点や、初めての住宅購入だからこそ、不動産会社に任せず自力でフラットな情報を集めたいというニーズが存在するのではないでしょうか。この点を踏まえると、ユーザーの検索結果に連動して表示されるリスティング広告などは、特に、初めての住宅購入を検討中の若年層に響きやすいと考えられます。
■分譲マンション購入者のニーズ
次に、分譲マンション購入者の、購入のきっかけや理由について調査してみます。
下のグラフは、2022年5月に三菱UFJ銀行が実施した調査において、住宅購入の理由を割合で示したグラフです。
出典:https://www.bk.mufg.jp/column/events/home/a0003.html
調査期間:2022年5月
対象:20代~50代の男女で、5年以内にローンを組んで住宅を購入したことがある400名
きっかけとして最も多く挙げられたのは、子供の成長に伴う節目や結婚といった大きなライフステージの変化でした。
またこちらは、国土交通省による令和3年度住宅市場動向調査における、分譲マンション購入者の購入理由を割合で示したグラフです。
出典:国土交通省 令和3年度住宅市場動向調査
調査期間:2021年9月1日~2021年11月30日
対象:3,548世帯
分譲マンション購入の理由として最も多く挙げられたのは「住宅の立地環境が良かったから」(69.6%)でした。他の理由と比較しても特徴的に高い割合となっており、分譲マンション購入の多くが、マンションの立地環境を重要視していることが推察できます。
先にご紹介した分譲マンション購入世帯主に関する調査結果も踏まえると、結婚や子供の誕生・成長・独立といった、30代または60代ごろに訪れる、自身や家族のライフステージの大きな変化をきっかけに、エリア等を基準に分譲マンションを購入するというユーザーの姿が見えてきそうです。
では次に、以上を踏まえて、分譲マンション市場において財閥系、鉄道系でトップのシェアを誇る5つの企業について、各社のユーザー層や特徴、強みを調査・分析していきたいと思います。
分譲マンション市場のシェアトップ5企業の特徴とは?
今回は次の5つの企業について、そのユーザー層や特徴、強みを調査していきます。
■住友不動産
「シティシリーズ」「グランドシリーズ」などのマンションブランドを手掛ける住友不動産。間取りを自由に選択できる「カスタムオーダーマンション」や、一か所で複数物件を比較検討出来る「総合マンションギャラリー」など、設計から販売まで特徴的なポイントを持っています。
■東急不動産
東急不動産は「BRANZ(ブランズ)」を中心にマンションブランドを展開しています。「環境先進マンション」をキーワードに、自然を積極的に取り入れたデザインと環境への配慮が特色のブランド設計となっています。
■野村不動産
「PROUD(プラウド)」と「OHANA(オハナ)」の2つのマンションブランドを展開する野村不動産。その中でも代表的なブランドが「PROUD(プラウド)」です。入居後の顧客アンケートやヒアリングの実施によりデータを蓄積し、商品改良や新たな企画設計へ活用しています。
■三菱地所レジデンス
三菱地所レジデンスは「ザ・パークハウス」を中心に、入居者のニーズやライフスタイルに合わせたエリアやコンセプトを設計するブランドを複数展開しています。標準的な価格帯から高級タイプまで、豊かなバリエーションが特徴の1つです。
■三井不動産レジデンシャル
三井不動産レジデンシャルが展開するのは「パークシリーズ」。ブランドごとに、ライフステージに合わせたエリアやコンセプトが設計されており、マルシェの開催といった入居者向けのコミュニティ運営も特徴的です。
今回は以上の5社について、ユーザー層にどんな違いがあるのか・各社の強みはどこにあるのかを分析していきたいと思います。
分譲マンション提供企業の3C分析
■ユーザー属性に見る5社のポジショニング
まずは、ユーザーの年代に着目してみます。
下のグラフは、5社のホームページを訪れたユーザーの年代別割合を示したものです。
分譲マンション物件掲載5サイトのユーザーの年代別割合(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2021年12月〜2022年11月
デバイス: PC・スマートフォン
黄色が住友不動産、緑色が東急不動産、紫色が野村不動産、赤色が三菱地所レジデンス、青色が三井不動産レジデンシャルの分譲マンションに関するホームページについて示したものです。
各社のホームページについて、ユーザー年代の特徴は異なるようです。三井不動産レジデンシャル(青色)、ならびに住友不動産(黄色)については、30代がボリュームゾーンとなっており、特に若年層から支持を得ていることが推測できます。他方で、東急不動産(緑色)、野村不動産(紫色)、三菱地所レジデンス(赤色)については、ボリュームゾーンは30-40代にあるものの、50-60年代のユーザー層も一定数存在しており、30-60代のユーザーを広く獲得している様子です。
次に、ユーザーの世帯年収に着目してみましょう。
こちらは、5社のホームページを訪れたユーザーの世帯年収別割合を示したグラフです。
分譲マンション物件掲載5サイトのユーザーの世帯年収別割合(「Dockpit」画面キャプチャ)
期間:2021年12月〜2022年11月
デバイス: PC・スマートフォン
5社とも、ネット利用者全体(点線)と比較して、全体的にユーザーの収入が高くなっていることが分かります。
野村不動産(紫色)ならびに東急不動産(緑色)については、他社と比較して、世帯年収が400-800万円のユーザーの割合が高くなっています。他方、住友不動産(黄色)と三井不動産レジデンシャル(青色)は、他社よりも、世帯年収が800-1500万円のユーザーの割合が高くなっています。また、三菱地所レジデンス(赤色)については、世帯年収が400-600万のユーザーと1000-1500万円のユーザーが同程度存在するようです。
以上を踏まえると、各社のユーザーの特徴は以下のように推測されるのではないでしょうか。
住友不動産・三井不動産レジデンシャル | 30代の若年層 世帯年収が800-1500万円の高所得層 |
東急不動産・野村不動産 | 30-60代の若年層から高年齢層まで幅広い年齢層 世帯年収が400-800万円である中所得層 |
三菱地所レジデンス | 30-60代の若年層から高年齢層 世帯年収が400-600万ならびに800-1500万円の中~高所得層 |
■集客施策に見る5社のポジショニング
次に、集客構造に着目してみます。
下のグラフは、5社のホームページを訪れたユーザーの流入経路を割合でそれぞれ示したものです。
分譲マンション物件掲載5サイトの集客構造(「Dockpit」画面キャプチャを基に作成)
期間:2021年12月〜2022年11月
デバイス: PC・スマートフォン
三井不動産レジデンシャルと住友不動産について、共に自然検索+リスティングの割合が最も大きくなっています。他方、三菱地所レジデンス・東急不動産・野村不動産については、ディスプレイ広告が圧倒的多数を占めており、東急不動産では53%にのぼっています。
Dockpitの広告クリエイティブ機能を用いて、2021年12月~2022年11月の各社のディスプレイ広告を調査したところ、後者の三菱地所レジデンス・東急不動産・野村不動産については、前者2社と比較して、出稿しているディスプレイ広告の種類が多い様子が伺えました。ディスプレイ広告は3社が特に力を入れている集客経路であり、実際に多くの流入を獲得していることがわかります。
また、三井不動産レジデンシャルと住友不動産の自然検索+リスティングによるユーザー流入割合の高さから、2社については、元々自身のニーズを自覚しており、自発的に情報収集を行うユーザーが多いと考えられます。
こちらは、上記2社のサイトへ流入したユーザーが、流入前に検索したキーワード上位5つです。
住友不動産・三井不動産レジデンシャルホームページ流入ユーザーの検索キーワード上位5つ
(「Dockpit」画面キャプチャを基に作成)
期間:2021年12月〜2022年11月
デバイス: PC・スマートフォン
両社共に、具体的なブランド名や地名、物件名が上位に挙がっていることが分かります。この点から、2社のユーザーは、事前に物件情報サイト等で情報収集を行い、詳細を調べたい具体的な物件名や地名が固まった段階で、不動産企業のホームページを訪れていると推測できるのではないでしょうか。
また、2社のユーザーについて、30代の若年層かつ高収入層の割合が多かった点も踏まえると、この層のユーザーは、ネットを利用した情報収集・検討を常日頃から行っている、つまりネットリテラシーが高い層とも考えられます。
まとめ
今回は、分譲マンション市場でトップのシェアを誇る5つのデベロッパー企業について、各社のユーザー層や特徴、強みを調査・分析しました。
ユーザーの年代・世帯年収、各社HPの集客構造の3つの観点から調査した結果、それぞれ以下のような特徴が見られました。
子供の成長・独立や自身の結婚など、ユーザーの大きなライフステージの変化に合わせて、各社が特徴的なブランド展開を行っている様子が伺える結果となりました。
参考資料
・分譲マンションとは?メリットや購入方法
(https://www.haseko-sumai.com/kurashi/archive/detail_061.html)
・マンショントレンド調査 第31回 新築分譲マンション購入に際しての意識調査 2019年
(https://www.major7.net/contents/trendlabo/research/vol031/)
・住まいサーフィン
(https://www.sumai-surfin.com/)
・マンションブランドそれぞれの特徴をチェック!ブランドは資産価値にも影響する?
(https://e-toco.jp/6149/)
・事業分野 分譲マンション事業 | 新卒採用情報 | 住友不動産
(https://www.sumitomo-rd.co.jp/recruit/shinsotsu/mansion/)
・シリーズラインナップ | 三菱地所レジデンスの住まいのギャラリー【ザ・パークハウス】
(https://www.mecsumai.com/brand/lineup/)
・Life-styling×経年優化の取り組み|ブランドを知る|新築マンション・分譲マンション・新築一戸建ての【三井の住まい:三井不動産レジデンシャル】
(https://www.31sumai.com/brand/life-styling/)
・環境先進マンション 3つの価値
(https://sumai.tokyu-land.co.jp/concept/values/#design)
・プラウドについて|野村不動産プラウド-PROUD-
(https://www.proud-web.jp/proud/)
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